第7話 死神講座・2
「次ッ、武器と昇格試験について」
白棒をビシッとショウにつきつけたエル。
「はぁ? 俺に二つも長ぇやつ説明しろと?」
突然振られエルに訊き返すショウ。
「武器と昇格試験について」
「しっかしなぁ……」
「ぶ・き・と・しょ・う・か・く・し・け・ん・に・つ・い・て」
渋るショウにしつこく要求するエル。
結局、この押し問答に勝利したのはエルだった。
「だぁぁぁ~~~~っっっ!! 分かった、分かったよ。説明すりゃーいーんだろ!!」
「素直に折れればよろしい」
エルが要求しまくると、ショウはとうとう折れた。
なんか、このやり取り、歳の離れた兄妹みたいに見えるんだが。
白棒をエルからぶん取ったショウはソファーの後ろから動き、チョークをもう片方の手に持ち逆にレオがショウの元の位置に移った。
「死神の武器はだな、人間達の中では鎌オンリーになってるが、死神の中ではそりゃ一部の話でしかねぇんだよ。そこのエルは鎌使いだが、コイツは例外中の例外だ」
ショウはそう告げると、エルを一瞥した。ショウに習い俺もエルをまじまじと見ると、エルはにこっと笑って手をひらひらさせた。
「……なんせ鎌ってのは相手を斬るのには少し不都合なシロモノだし、1対1の戦闘ならまだしも集団戦となると途端不利になる得物なんだ。
更に、だ。それなら鎌の大きさを大きくして集団戦でも有利に働くようにしよーってなると、必然的に柄の部分も大きくなって、総重量がハンパなくかさんじまう。その重量を自由自在に動かすとなると力と技量、どちらも相当必要になる。
神界はどうか知る由もねぇが、俺の知る中では大鎌を自由自在に振り回せるのはエルくらいなもんだぜ」
そこで一回ショウは言葉を切った。
「……まぁ"死神の武器"とヒトクチにいっても、個人個人で大きく変わるんだが……」
「そこは使用している人が多いのを説明すればいいじゃない」
「……そうだな。
次に、魔術。これも鎌同様やめとけ。コイツはレオが専門家だが、一朝一夕に修得して使いこなせるような単純なもんじゃねぇ」
黒板に"鎌""魔術"と記した後振り返ってそういい、ショウがレオに目配せした。
「ええ。魔術は才能があってもそうスムーズに修得して自由に操ることはできないわ。私だって、母からの教えがなければ今でも使いこなせてはいなかったと思う。
魔術の原理はね、自分の体内に存在する魔力を体内で変換して"魔術"として体外に放出することで成り立つものなの。
正しく用いるにはその流れをしっかりとマスターして、更に魔術の膨大な種類・属性その他諸々勉強しなくちゃならないわ。
……ま、何にせよド素人にはオススメしないものね」
「……だそうだ。次は……楽器」
レオの指導――俺にはあまりよくわからなかったが――を引き継ぎ、ショウが言った。楽器?
「……おい、"あんなもんが武器になんのかぁ?"みてーなカオしてるがな、小僧。
甘く見てると痛い目みるぜ。……今はちょうど、ハープのプロが帰ってきてるはずなんだが……」
う゛っ、見透かされた。
言葉尻を濁すと、ショウは目線を俺から外して扉へとずらした。
「今来たよ」
エルが扉の方を指差すと同時、バンッとノックもなしに扉が開かれた。
「はぁっ……。任務、終わりましたぁ~……」
「……"死神翠聖蘭"様をお連れ致しました」
扉から入ってきたのは、女の人と俺と同じくらいの男だった。
様付けしているところから察するに、男の方が女の人よりも階級は低いのだろう。
「お、お疲れ、マリア。……あっ、そだ。アイル、ちょーっち用頼みたいんだけど」
うわ……ってかココ、美少女・美女揃いナノ?
レオは言わずもがな、エルも14歳くらいの外見の割に胸デカイし、可愛いし。
だが、この"マリア"と呼ばれた女の人――緑色の髪に黄緑のメッシュを前髪にいている美女は最早別次元の綺麗さだった。レオやエルは『綺麗』というより『可愛い』だし。
「あれぇ? この子は……?」
「新入りだ。俺同じくして"死神となりえる者"だから、死神講座開いて講習中なんだが……。
帰ってきて早々悪いんだが、自己紹介とハープ……ってか楽器全般の話をしてくれ」
ショウの言葉を受け、マリアさんはこくりと頷いて俺のほうを向きなおした。
「わかったわぁ。私、マリア・クライネージュ。よろしくねぇ~」
垂れ目や穏やかな雰囲気そのままにおっとりとした喋り方だ。
「俺……天音 光です。よろしく」
「光君……ねぇ~。階級の説明は受けているでしょう?」
「ああ」
短く答える。
「私、死神五聖蘭の死神翠聖蘭なのぉ~。レオやショウの同僚だから、二人と会うことが多いなら、顔を合わせることは多いと思うわぁ~」
一度言葉を切ると、マリアさんがハープについて説明し始めた。
「ハープはねぇ~、他の楽器型の武器と同じでぇ~、音色を奏でて相手の脳に直接作用させるか、内部から破壊する特殊な武器なのよぉ~。
使いこなすには技量と知識、あとは最低限の組み手の技術も必要になるわぁ~。
技=曲っていう式が成り立つ、ヴァイオリンや歌唱、ピアノとかと並ぶ数少ない楽器型の武器なのよぉ~」
……多分、つか絶対俺には無理だ。説明を聞くだけで「無理」と頭が判断してしまったのだ、実践なんて絶対ムリ、ムリ。
「……っつーコトだ。マリア、もーいーぞ」
「それじゃあ私、先にお風呂はいってくるわぁ~……」
「ん、いーよ。報告は説明の後ナ」
といって、エルが俺を顎でくい、と指し示した。
「じゃぁ、着替えたら戻ってくるわねぇ~」
マリアさんが部屋を出ると、ショウが解説を再開した。エルは先程の"アイル"という長い銀髪を腰のあたりで結っている男と何やらヒソヒソ喋っていたのだが。