第6話 死神講座・1
「ハイじゃあこれからまず、光の死神入りに伴う基礎講座に入りたいと思いまぁす! 最初は階級!」
どっからか取り出した眼鏡をかけて、一気に先生っぽくなったレオの第一声がコレだ。
俺の目の前にはレオ先生と、どこから取り出したといいたくなるほど大きな黒板。そしてソファーに着席している俺の後ろには、ソファーにもたれかかって後ろを向きタバコをふかしているショウ。エルは俺の左手、ソファーの肘置きのところに脚をプラプラさせながら座っている。しかもガム食ってるし……俺にもよこせ。
「まず一番下。死神の中で最もランクの低い、ほぼ雑用係なのは訓練生。訓練と雑用と勉強が主な仕事ね」
訓練と雑用と勉強が仕事って……ほぼ小学生のやることじゃねーか、と心の中で突っ込んだもののまた色々カマされては困ると考え不用意に口に出すことはしなかった。
「下から二番目が実習生。訓練生の中で四、五人のチームを組んで、監督係の階級の高い死神を混ぜて実際に任務に当たる人達ね。
三番目。第六級死神。この階位から"死神"を名乗ることを許されるわ。主に第六級任務をこなすの。任務のランクについては後ほどね。
四番目。第五級死神。第五級任務担当。
五番目。第四級死神。第四級任務担当。
六番目。第三級死神。第三級任務担当。
七番目。第二級死神。第二級任務担当。
八番目。第一級死神。第一級任務担当。
九番目。死神五聖蘭。私とショウがいる階級で、エル以外の死神は――本当は違うけど――ここまでしか上れないわ。その名の通り本来は五人いるはずなんだけど、その五聖蘭の筆頭は今、欠番なのよね。
十番目・・・・これが最高ランクの、死神創聖蘭。全世界全生物全秩序の主にして創始者、エリシエ・ミストリエが今までも、そしてこれからもいる座ね」
レオがここで言葉を切ると、ちょうど膨らんでいたらしいエルの風船ガムがパンッと割れた。
「全部で十個の階級を昇格していくには、年に一度の昇格試験に合格するしかないわね。後、例外としてはエルに直接任命されるか……いわゆる飛び級もありえるわね、それだと。
……あ、五聖蘭への昇格の時には、実力だけでなく功績・知能も試されるから、そこ、忘れないでね」
「……っつーことはだ。トップまで上り詰めるには、地道に行けば最低9年はかかるってことか?」
「計算上はね。でも、今までそこまで上った人は誰一人としていないらしいわ。エルが初代であり、現代だもの」
改めて俺は、俺に背を向けてガムを噛んでいる少女を見た。
背中を見ただけでは至極"普通の女の子"にしか見えないが、どうやら実力は物凄いらしい。
「次ぃ~、任務についてー。これはあたしから説明するよ」
座ったまま、肩越しに俺を一瞥すると、エルは指を「パチン」と鳴らした。その手によく先生が持ってる白い棒が現れた。
「まずは第六級任務からかナ。
第六級任務は、一番ランクの低い任務で、主にAランクの魔物が相手の任務だよ。ま、高位のヤツなら何匹いよーが大技使うまでもねぇって程度の雑魚さな。
五級はBクラス、四級はCクラス、三級はDクラス、二級はZクラス。もう二級三級くらいになってくると一筋縄じゃいかなくなるから、油断は禁物。
一級はSクラス。ボス格並みのヤツだから、希少であんま任務は回らなくなるけど、その分科学班の奴らにサンプルとってこいやら脚もぎとってこいやら脳味噌持ち帰ってこいやら五月蝿く言われるし、下級死神の指導など……任務以外のお仕事が山盛りだからヨロシクな。
五聖蘭はラスボス格……SSクラスの魔物担当だな。訓練生とか実習生の監督をたまにしてもらったりなど、割とお仕事はたくさんだ。ま、創聖蘭ほどじゃねぇけど」
エルはレオが黒板に書いた階級を一つずつ白棒で指しつつ説明していく。
「ラストォ~、死神創聖蘭の仕事は、ほぼ一億年単位で現れる大災厄・SSSクラスを倒す他、いつもは死神のサポートや報告書処理、雑務処理をすること。これがまたメンドクサいポジションなんだ、これが。
後、特殊なのが"魂管理"さね」
「し……質問、いいか?」
「どーぞ」
俺は一度口を挟み、口に溜まった唾を飲み込んだ後疑問を口に出した。
「SSSクラスって……どれくらい強ぇ魔物なんだ……?」
「んーっとね、大体あたしよりちょーっち弱いくらいかな。
……え、もっと具体的に、分かりやすい基準で説明しろって? そーさねぇ…………。
大体、"全死神を集めても到底太刀打ちできないような魔物"……って言えばいいかな?」
エルがあっけらんかんと放った答えに、俺は絶句した。
それを倒してしまうほどの力をその身に秘めた少女は、「他にもっと具体性のある表現ってないかな……」と小首を傾げて可愛く考えている。到底そんな強い娘には思えない仕草だ。
「……まぁいいや。多分、一生お目にかかんないだろうし。
全任務の対象に共通するのは、"魔物は人を見ると、見境なく襲う"ってコト。
魔物の大半はバカだからねー、人通りの多いところをヘーキで襲ったりするよ。ほぼ本能で動いてるようなもんだし……てか、そうだし、実際。
それに対する心得は……"殺される前に殺せ! 躊躇いは捨てるべし"……カナ?
ま、その二つ覚えて実行できれば生きて帰れるだろ。
……次、光に目指してもらいたい個人的な階級な。
あたし的には、"死神紅聖蘭"になってもらいたいな……って思ってるんだけど」
「「!!」」
絶句。俺とレオは、二人してエルのほうを見た。
「エル、そりゃー流石に高望みしすぎじゃねーか? ……いや、まだ見てねーのにコイツが無能だなんていうつもりはねーがな、いくら血縁だからってみんながみんなお前みてーに強くなれるわけじゃねーんだぜ」
ショウの冷静な指摘。……う゛、なんか少し傷つく。
「分かってるよ、そんなことくらい。ただ"目指してもらいたい"だけ。"絶対なれ"とは言ってない。
でもね、ショウ、あんただってたった三年でここまで上り詰めたろう? それなら、光にもできるんじゃないの? 長い年月を生きてきたからって、あたしは少ない"だけ"の可能性を捨てるほど頭カタくなったわけじゃない」
三年……?
その前に、俺は会って1時間くらいしか経っていない少女の言葉に、少し嬉しさを覚えたと共に重責を負ったような気分にもさせられた。
「それに、光ならマジでやりそーな気がする。ただの直感だけどね。ま、"目標"程度でいいからさ」
「俺が……か?」
「そ。再三ゆうけど、あくまでも"目標"だから。命あっての物種だ、功績をたてようということにばかり気をとられて、殉職すんじゃねーぞ。死にそうになったら戻って来い」
そういって、エルは二、三回うなずいた。