第2話 習うより慣れろ、習うより実戦!
『それでは、Cブロック第2回戦をはじめます。全選手共、準備はよろしいですね?』
司会者の声がスピーカーから聞こえる。
ここでルールを簡単に説明しておこう。
勝ち負けは片方が気絶もしくは戦闘不能となることで決まる。最後まで立っていた方が勝ちで、武器は何を使ってもよし。
ただし、相手を必要以上に攻撃する、または死亡させた場合は無条件負け、後者の場合は死神の資格をも剥奪される。
一応リタイアはありだが、無論俺にそんなことをするつもりは無い。
『――構え』
エルの落ち着いた声に、俺は至極構えらしい構えも取らず刀の柄に手をかけた。
彼女の声は、いつものちゃらけた感じとは打って変わった創聖蘭らしいものだった。そのせいか、俺の集中もいつもより高まる。俺の脚が次の動作へと移行するようにたわんだのを目ざとく見止めた魔術師の女は、額に汗を滲ませて口の中でぶつぶつ何か呟いている。おそらく魔術の詠唱呪文だろう。そして俺と女、双方の集中が極限まで達したその時、エルの鋭利な声が響いた。
『栄光を手にすべく、今前に立ちはだかるものを全力を持って潰せ――始』
始めの合図と同時に、俺は対戦相手である魔術師の女にむかって居合い斬りを放った。
普通の居合い斬りであればただ空振って終わりだっただろう。だが、俺がエルから直々に教わったこの居合い斬り――"炎帝・我龍走破"なら、女と俺の間、つまり10mもの距離をもものともせずに駈ける。そして、放たれた居合い斬りは衝撃波、更には龍の形と成り炎を纏わせて女を襲った。きゃあ、という女の悲鳴が炎の奥から聞こえる。……一応手加減はしたから、死んではいないはず。
悲鳴が上がったときには既に10mもの距離を走りきり女に肉薄していた俺は、彼女がかろうじて放ったのだろう雷を故意に刀身にブチ当てて更なる技を繰り出した。
「炎帝・炎降爆雷!!」
炎と雷、双方を纏った刀を横薙ぎに振るうと、女は背中から思い切りぶつかった。
「(少し、やりすぎたか……?)」
マジで死んでたらどうしよう、と懸念を抱えつつも俺は油断なく瓦礫のしたを見据える。ここからのカウンターも有り得る。
『おおっと! 実習生Cブロック第2回戦、決着がついたようです! 現在審判が見に行っておりますが――白の旗があがりました! 実習生Cブロック第2回戦勝者、期待の新人はヒカル・アマネッッッッ!!!!』
興奮冷めやらぬ司会者の声を受けると、俺はふうと詰めていた息を吐き、それ以上瓦礫をみることもなくくるりと背を向けて控え室へと戻った。
たった一ヶ月のうちに、俺はここまで強くなっていた。
エル曰く――『伊達に体育だけは5とってるわけじゃないねー。モトがいいよ、キミの場合。血もあるだろーけど、その実力は間違いなくキミのモノだよ』――だそうだ。
"モトがいい"俺は、そのおかげで短期間で体作りを終えることができた。その分技を磨くのに時間を使えたのだ。
そして今の"我龍走破"と"炎降爆雷"は、"炎帝"シリーズの後の攻撃へとつなぐ大事な技だ。エルが教えてくれた技で、剣技の中では最も攻撃的なシリーズらしい。
『ルビーは五聖蘭、紅聖蘭が頂く宝石。そのルビーが司るものは炎。君が継ぐには、これ以上相応しい技もないよね?』
とはエルの言葉だ。
控え室に入ると、レイがまず真っ先にこちらをみてきた。
「おー! 流石だな、速えーじゃん」
皮肉では、ないだろう。「まーな」満更でもない、答えると俺はレイの傍にどっかりと座り込んだ。そしてモニターを見やる。
『ぞくぞくと決着がついていきますッ! ――実習生Dブロック1回戦!』
「Dブロックは……ディナー・アリシエントとサクヤ・バンジョウインだな。……あり?」
サクヤ……バンジョウイン?
聞き覚えのある名前に俺はレイを見た。次いで彼もこちらを見る。もしかして、クラスメイトの万条院 咲夜か?
同じことを思ったらしく、俺たちはほぼ同じのタイミングでモニターに目をやった。するとそこには前髪をヘアピンで留めた黒のショートヘアの女が、ショートソードを振るい長い黒髪の女を壁際まで追い詰めていく絵が映っていた。に対し、クラスの"万条院"は前髪はおろし、授業中以外は本ばかりよんでいるという根暗なヤツ。何度比べても同一人物だとは思えない。
うーんうーん二人して唸っているうちに決着はついたらしく、司会者の張り上げる声で俺たちはこちらの世界へと戻ってきた。司会のテンションの高さに『うるせーよ』とエルが頭を殴っている。……あれは痛い。そんなエルは、一転してにっこり笑って
『……今回、実習生は実力者が多いね。名義だけの雑魚が少ない。コイツぁ期待できるじゃん、合格者にさ♪』と機嫌をよくした。
エルが笑う横のモニターの中で万条院(?)は俺以上の速さでこちらへと戻ってきた。
控え室に入ってきた彼女と俺の視線が、一瞬、交錯した。