『長者と速記の恨み』
掲載日:2026/06/04
甲斐国に、長者がいました。大きな屋敷に大勢の奉公人を抱え、知らない人から見れば、楽な暮らしをしているように見えましたが、実際には、ぜいたくなことは一つもせず、大勢の奉公人を抱えているのも、田畑を持たず、仕事もない村人に仕事を与えるためで、自分が楽をするためではないのでした。
あるとき、大雨で川が氾濫し、村が水浸しになったときも、堤を築く工事を行い、田んぼがだめになった村人たちを人足として雇い、人足料を米で支払うことで、足りないところに足りないものを配る、実にうまい采配を行うのでした。次の年には、長者の恩に報いるため、村人は野良仕事に精を出し、収穫がふえた分を、長者に納め、長者の蔵も、長い目で見ると、潤っていくのでした。
こんな長者でしたから、奉公人速記競技大会を開催するとき、ミス数の多い奉公人のミスが少なく、少ない奉公人のミスが多くなるように、問題文の内容や朗読の仕方を調整するため、本当に速記の実力が高い者からは、静かな恨みを買っていたのでした。
教訓:複数の練習者に練習させるとき、速記力の弱いほうに肩入れすることはある。大会でやってはいけない。




