◇第三十七話 昔話
◇師匠side
「師匠っ!!」
「あれは……!」
皇帝陛下が悪魔族の国へ軍を進行された。我々魔導士軍も例外はなく前衛で進んでいき、もう目前だという時、あの方が立ちはだかった。
【黒炎龍アグスティン】の背に、堂々と立つそのお姿。
まさに、私が探していた人物だ。
「……ご立派になられたな」
「はい?」
「いや、何でもない。気を抜くな。死ぬぞ」
「はいっ!」
本当なら、あの方に杖を向けたくなかったのだが、これはご命令であるから仕方ない。
「……これを防ぐとは、さすがアンリーク様のお孫様だ」
黒炎龍アグスティンにウンディーネ、そしてカーバンクルとなんとも化け物じみた精霊召喚だ。ほかの魔法はまだ使いこなせていないようだが、我々の命を狙うわけではないとすぐに気が付いた。
優しい青年にご成長されたという事は、異世界では苦労せず生活出来ていたという事。私の選択に間違いはなかったという事だ。
「なっ!! これは、【絶対領域】……!? 一体どれだけの魔力量を持ち合わせてるんだ……!」
「精霊3匹を召喚し続けているというのに……なっ!?」
今度は【超能力】ときた。我々を後退させる気だろう。
「師匠っ!! これではっ!!」
「そう騒ぐな。命があるだけマシだろう。このバカげた作戦も、これでは遂行は不可能だ。諦めてこのまま身を任せればいい」
「師匠……」
皇太子ルイシス・レア・エルシア・パラウェス殿下、そしてアンリーク様が行方不明となったあの事件。その犯人はご本人であるアンリーク様、そして今は亡きアンリーク様の娘であるセシリア女帝陛下と、この私だ。と言っても、私はただお二人の頼みを聞いたというだけだ。
殿下は小さい頃から、まぁわんぱくなところがあった。1歳になり、はいはいを覚えてからはもう目を離せないくらいに。
そして、とんでもない事件が起こった。殿下が魔法で妖精王を召喚してしまったのだ。なんとも恐ろしい話だ。
まぁ、その第一発見者は私であり、すぐに妖精王にお戻りになるよう説得したため目撃者は私のみとなったから騒ぎは起きなかった。だが、このままではまずいと悟った。
それは、祖父であるアンリーク様も、お母上であるセシリア様も感じていた事だ。その当時、この国では勢力が3つに分かれていた。皇帝派、貴族派、そして神殿だ。まだ1歳であるルイシス殿下が他の派閥に狙われる事は目に見えていた。
その中でこんな事を知られてみろ、手を出すのは見え見えだ。それに何より、それを喜び手を出す人物の中にルイシス様のお父上もいらっしゃった。あの方は貴族派で政略結婚として皇族に入られたお方。何かを企んでいた事を私は知っていた。
だから、頼まれた。アンリーク様とセシリア様に。ルイシス様をどこか安全な場所に逃がしてくれと。
私は、アンリーク様と恐れ多くも大戦争で共に戦った関係。だいぶ嫌われてはいたが、最後に頭を下げられてはその頼みを受け入れるしかない。
そして、アンリーク様はルイシス様を抱え、私が研究していた古代魔法の秘術により、こことは違う惑星、異世界に逃げることが出来たのだ。
「何をしているっ!!」
お父上に見つかったのは、ちょうどアンリーク様達が異世界へ飛ぶ直前。セシリア様が見つからないよう止めるはずだったが、難しかったようだ。
その後、お父上に問い詰められたがセシリア陛下によりそのまま収まった。
「あんなにご立派になられたあの姿を直接見ることが出来たのだ。もう思い残す事はない」
御年128歳のおいぼれだ。寿命などあとわずか。だが、あれから15年、ルイシス殿下がその後安全な場所で健やかに成長出来たのか、ただそれだけが気がかりだった。それが叶ったのだからもう肩の荷が下りたようなものだ。
だが、感じた。この匂いは……
これは……陛下のいらっしゃる方向だっっ!!
「お前達は兵を集めて国に帰る準備をしろ」
「かしこまりました」
「私は陛下のところに戻る」
何もなければいいのだが、嫌な予感がする。




