上からの手紙
朝、いつも通り目が覚めた。
薄暗い部屋で、窓から入る光は弱い。
階段を降りると、母が魚を焼いていた。
黙って座り、焼いた魚を食べる。
しばらくして、母が言った。
「帰りに肉、買ってきて」
私は頷いた。
着替えて家を出る。
外は横から光が差しているけれど、頭上は葉で覆われている。
島の中央には、大きな木が立っている。
どれだけ高いのかは分からない。上は見えない。
道を歩きながら、ぼんやり考える。
ここで生きるのに困ることはない。
ただ、少しだけ息苦しい。
肉屋で鳥の肉を買い、帰り道を歩いていた。
途中、道の端に白いものが落ちているのが見えた。
紙だった。
こんなところに紙が落ちているのは珍しい。
拾い上げると、短い文が書いてあった。
「今日は風が強い」
それだけ。
裏返すと、もう一行あった。
「空がよく見える」
しばらく、その言葉を見ていた。
ここでは、空は見えない。
海に行けば見えるけれど、日常の中にはない。
誰が書いたのかは分からない。
名前も、印もない。
私は紙を畳んで、ポケットに入れた。
捨てる理由もなかった。
家に帰り、母に肉を渡す。
それで用事は終わりだ。
自分の部屋に戻り、床に座る。
天井は低く、相変わらず暗い。
さっき拾った紙を、もう一度広げる。
文字は丁寧で、少し丸い。
同じ年くらいの人が書いた気がした。
根拠はない。
ただ、なぜかそう思った。
空が見える場所で、
風の強さを気にしている誰かがいる。
それだけのことなのに、
胸の奥が少しだけざわついた。
紙を引き出しにしまい、灯りを消す。
明日も、同じ一日が始まる。
肉を買い、家に帰る。
それでも、
頭上の葉の向こうに何もないとは、
もう思えなくなっていた。




