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(元)走り屋の私が婚活した結果。  作者: あじ


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第4話:突撃!リーマン!!

1.美香の準備


休日の朝、藤原美香(32歳、アパレル会社事務)のマンションの一室。カーテン越しに差し込む朝日が、部屋を明るく照らしている。


美香は髪を後ろで束ね、エプロン姿で掃除機を握りしめ、部屋中を走り回っている。


美香(心の声)「今日は涼真さんが初めて部屋に来る日! 絶対に『白銀の稲妻』の痕跡は残さない! 完璧な清楚女子の部屋を見せるんだから!」


棚に飾られていた京商の1/12スケールモデルカーを慌てて押し入れに押し込む。テーブルに散らばっていた車のエンブレムキーホルダーも次々と隠していく。


美香「モデルカー、押し入れ! キーホルダー、押し入れ! 峠ステッカー……押し入れ! アオシマのZ33プラモ……押し入れ!」


押し入れの奥には、予備で買ったMOMOのステアリングホイールや水中花シフトノブまで押し込まれていく。


美香「ふぅ、これで『白銀の稲妻』の影は一切ナシ! 完璧!」


胸を張って部屋を見渡す美香。インテリアは清潔感のあるシンプルなデザインで統一され、カフェ巡りの雑誌がテーブルに置かれている。


美香「今日は『普通の女子』の部屋! よし、涼真さん、いつでも来て!」


だが、ベランダに目をやると……そこには相変わらず、ヨコハマの新品タイヤ4本セットが黒光りしている。


美香「……あ」


一瞬固まるが、すぐに首を振る。


美香(心の声)「大丈夫、大丈夫! カーテン閉めとけば見えないし! それに、涼真さんがベランダなんて見るわけない!」


そう自分に言い聞かせ、カーテンをしっかり閉める。時計を見ると、約束の時間まであと30分。美香は慌てて着替えに向かう。



2.涼真来訪


ピンポーン。


インターホンが鳴り、美香は心臓が跳ねる。鏡の前で最終チェック。淡いピンクのニットに白のロングスカート、ナチュラルメイクで清楚感を演出している。


美香(深呼吸)「落ち着いて……。清楚な女子、清楚な女子……」


玄関を開けると、高橋涼真(34歳、IT会社勤務)が爽やかな笑顔で立っている。手には菓子折りを持っている。


涼真「美香さん、お邪魔します。これ、ちょっとしたお土産です」


美香「わぁ、ありがとうございます! どうぞ、上がってください!」


涼真が部屋に入ると、きれいに整理された室内に目を丸くする。


涼真「すごいですね。すごく整理されてて清潔感ある。美香さんって、すごくマメなんですね」


美香「えへへ……ありがとうございます!(よし、演技成功!)」


美香はキッチンでお茶を淹れながら、心の声で安堵のため息。


美香(心の声)「これなら絶対に走り屋だなんて思われない……! 完璧な清楚女子の部屋! 涼真さんも喜んでくれてる!」


涼真はソファに座り、部屋を見渡す。棚には観葉植物と小さなフォトフレーム、テーブルにはカフェ巡りの雑誌。まさに「普通の女子」の部屋そのもの。


涼真(心の声)「やっぱり美香さんって、落ち着いてて素敵だな。こういう生活感のある部屋、なんだかホッとする」



3.運命のカーテン


お茶を飲みながら、和やかに会話が続く二人。涼真は菓子折りのどら焼きを頬張りながら、美香の話に耳を傾ける。


涼真「そういえば、この前の箱根ドライブ、楽しかったですね。また一緒に行きたいです」


美香「私も楽しかったです! 次はどこに行きますか?」


涼真「うーん、江ノ島とかどうですか? 海沿いのドライブ、気持ちよさそうじゃないですか?」


美香「いいですね! 湘南の海、大好きです!」


会話が弾む中、涼真がふと窓の方を見る。部屋が少し暗いことに気づき、何気なく立ち上がる。


涼真「あ、ちょっと暗いですね。カーテン開けてもいいですか?」


美香(心の声)「え……!?」


涼真の手がカーテンに伸びる。美香の心臓が一瞬止まる。


美香「あ、あの……!」


シャッ……。


カーテンが勢いよく開かれ、ベランダに太陽の光が差し込む。


そこには、黒光りするヨコハマの新品タイヤ4本セット。まるでスポットライトを浴びたかのように、堂々と鎮座している。


涼真「……え?」


美香(心の声)「しまったああああ!! 」



4.タイヤの弁明


涼真、目を丸くしてベランダを見つめる。タイヤのトレッドパターンまでくっきり見える距離。


涼真「タイヤ……?」


美香は顔を真っ赤にして、慌てて立ち上がる。


美香「ち、違うんです! 安かったから! 別に必要じゃないけど……つい!」


涼真「へ、へぇ……。ちなみにどれくらい安かったんですか?」


美香「うーん……12万くらい?」


涼真「高っ!!」


美香、口を押さえる。涼真はベランダに近づき、タイヤを興味深そうに見る。


涼真「これ、結構ゴツいですね。なんていうタイヤなんですか?」


美香(心の声)「やばい……完全に車オタクだってバレる……!」


美香は焦りながらも、つい専門用語が口をついて出そうになる。


美香「ヨコハマのアドバンで……って、あの! 詳しくないです! ただ、友達が『いいやつだよ』って言ってたから……!」


涼真「友達、車に詳しいんですね。でも、12万円のタイヤを『安かったから』って買っちゃう美香さん、なんか面白いな(笑)」


美香(心の声)「面白い……? 呆れられてる……?」



5.涼真の反応


しかし涼真は、意外な表情を見せる。驚きつつも、少し笑っている。温かい笑顔だ。


涼真「いや……でも、それだけ好きってことですよね。なんか美香さんらしくて、いいな」


美香は赤面。心臓がドクンと跳ねる。


美香(心の声)「バ、バレてる!? ……完全にバレてるぅぅ!!」


涼真は再びソファに座り、お茶を飲みながら穏やかに微笑む。


涼真「僕、車に詳しくないけど……美香さんが話すとちょっと楽しそうに見えるんですよね。箱根のドライブの時も、なんか足と手が動いてたし(笑)」


美香(心の声)「やっぱり気づいてた!?」


涼真「なんていうか……美香さんって、車が好きなんじゃないですか?」


美香は言葉に詰まる。走り屋時代の記憶がフラッシュバック。赤城山の峠、Z33のエンジン音、仲間たちとの笑顔……。


美香(困惑)「……っ」


そして、3年前の元カレ・健司の言葉。「車オタクとか、女としてないわ〜」。


美香(心の声)「どうしよう……。もしここで認めたら、健司の時みたいに……」



6.揺れる気持ち


しばし沈黙。美香は「嫌われたかも」と不安になり、俯く。だが、涼真はお茶を飲みながら穏やかに微笑んでいる。


涼真「……美香さん、隠さなくていいですよ」


美香「……え?」


涼真「僕、最初から少し気づいてました。婚活パーティーのキーホルダーとか、『トミマキ』がどうとかって言ってたこととか。箱根のドライブの時の足の動きとか……」


美香(心の声)「全部バレてた!?」


涼真「でも、それが悪いことだとは思ってないです。むしろ……美香さんが何か好きなものを持ってるのって、素敵だなって」


美香は顔を上げ、涼真を見つめる。涼真の瞳は真っ直ぐで、温かい。


涼真「僕、車のことは全然わからないけど……美香さんが楽しそうに話してくれたら、僕も嬉しいです」


美香(赤面)「……っ」


涼真「それに、『清楚な女子』の美香さんも好きだけど、車が好きな美香さんも見てみたいな」


その言葉に、美香の目に涙が浮かぶ。


美香(心の声)「……この人、受け入れてくれるの……? 私の『白銀の稲妻』を……?」


部屋に気まずさはなく、むしろ以前より自然な空気に包まれている。涼真はどら焼きを頬張りながら、美香に微笑みかける。


涼真「今度、美香さんが好きな車の話、聞かせてくださいよ。僕、勉強しますから」


美香「……本当に、いいんですか?」


涼真「もちろんです。美香さんのこと、もっと知りたいですから」


美香は頬を赤らめ、小さく微笑む。


美香「……ありがとうございます、涼真さん」


ベランダのタイヤを横目に見て、美香は小さくため息をつく。


美香(心の声)「隠しても、いつかはバレちゃうんだよね……。でも、もしかして……」


涼真の笑顔を見ながら、美香も小さく微笑む。


美香(心の声)「涼真さんとなら……もしかしたら、『白銀の稲妻』を封印しなくても、幸せになれるのかも……」


窓の外、遠くで首都高を走るスポーツカーのエキゾースト音が響く。美香の耳が一瞬反応するが、今はその音に心を奪われることはない。


涼真と二人、穏やかな時間が流れていく。(つづく)



用語解説


・MOMOのステアリング…イタリアのミラノに本社を置くパーツメーカーが製造する、後付け用のハンドル。ランサーエボリューションなどメーカー純正で採用される車種もあるほど信頼性が高い。「モモステ」と呼ばれることも。


・水中花シフトノブ…カー用品メーカー・星光産業が1975年ごろに発売し流行した、透明なアクリル樹脂の中に造花を仕込んだマニュアル用のシフトノブ。現在も人気チューニングブランド「GReddy」が現代風の水中花シフトノブを販売するなど、人気を呼んでいる。

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