第7話 9月だけどまだクリアイス食べる気にならないよねって話
中原が、コンビニのゴミ箱に捨てられたゴミをまとめている。
「じゃあ、ゴミステーションに持ってくわー」
「おー」
店の外に行った中原が、しばらくして帰ってくる。
「あぢー、あぢーよー佐々木―」
「アイス食うんなら休憩時間な」
「てか、8月が終わったら、商品入れ替えだろー。もう季節限定のクリアイスとか入っているけど、商品は秋なのに、まだ真夏じゃん。どうなってんの」
「今年は異常気象だからなー」
「今、クリアイスって食べる気にならないよー。むしろスイカだよ。スイカのアイスだよー」
「そういや、お客さんも、あんまり秋限定の商品買わないよな」
「そりゃそうでしょ。やっぱり食べ物は季節感が大切なんだよ」
「でもさ、福井県って真冬に水ようかん食べるんだってよ」
「は、何それ正気なの?」
「だから季節感って人それぞれなんじゃね?」
「いやいや佐々木、そんなことないって。だって真夏におでんとか食べる気にならないじゃん」
「そうか? 酔っぱらったサラリーマンとか、真夏でもおでん屋に入ってるじゃん」
「ぐぬぬ、それじゃあ、真冬にスイカって食べないでしょ」
「そりゃ、そうだけどさ」
「どうよ!」
「でも、あたしの弟、真冬でもスイカアイスは食べてるけど」
「アイスは別よ」
「でもさ中原、知らないかもだけど、真冬にアイス食べるのも、北海道の人くらいらしいぞ」
「えっ、マジ」
「マジ」
「衝撃の新事実なんだが」
「やっぱり、人それぞれ? 地域性? なんじゃね」
「ぐぬぬ、いいんだよ。北海道は家の中乾燥するんだから、アイスを欲するんだよ。アイスは加工品だからいいんだよ」
「どういう理屈だよ」
「加工していないものは季節を守る。加工したものは季節感がない、ってことよ」
中原が一人で鼻を高くしている。
「じゃあ言うけど、イズシはどうよ? あんまり夏に食べないんじゃね? 加工品だけど」
「うっ、イズシは、いいんだよ。だって秋鮭を使うじゃん。春でもなく夏でもなく、秋鮭を使うじゃん」
「今は保存技術が優れているから、年中食べられるじゃん。現に、スーパーなら、探せば夏でもイズシ売ってるじゃん。だけど、だいたい食べるのは冬じゃん。これはどう説明するんだよ」
「ぐぬぬ」
「ふっ」
佐々木は勝ち誇った顔をしている。
「負けたよ、佐々木」
「どうよ」
「ところで、わたしの家、昔はイズシ、家で作ってたみたいだけど、今は作ってないんだよな」
「あたしの家は、おふくろが作ってるぞ」
「マジ」
「うん、おふくろ、そういう料理得意だから」
「いいなー」
「忘れなければ、おすそ分けしてあげるけど」
「いいの!」
「割と近所に配ってるから」
「食べる食べる! わたしイズシ大好き!」
「イズシ大好きなお嬢様学校の女子高生ってなんだよ」
「えー、イズシはみんな好きじゃん」
そこへ、客が入ってきた。
ワンカップの日本酒と、クリアイスを買って行った。
「クリアイス、あたし、今年初めて売った」
「まあ、季節感は人それぞれだよ」
「中原、さっきまで季節感にこだわってたじゃん」
「ううん。イズシのこと考えたら、もう今すぐにでも食べたいなーって」
「大人になったら、日本酒と一緒に食べたら、いいものなのかもな」
「うんうん。その時、一緒に食べられたらいいよな」
「はは、あたしたち、週に一度しか会わない、ただのコンビニバイト仲間じゃねーか」
「そうだけどさ、なんか佐々木とは、長い付き合いになりそうな気がするんだ」
「なんだよそれ」
「お嬢様学校の女子高生の勘というやつだよ」
「そうか。大人になって、中原と酒を飲みながらイズシか。悪くないな」
「だろ」
また客が入ってきた。
まだまだ暑い外気が店の中に流れてきた。