第6話 推し活
雑誌コーナーで、長々と経済誌を立ち読みしていたおじさんが、ようやく帰っていった。
「あの人、何も買わないのな」
佐々木がレジから雑誌コーナーに向かう。
中原も、一緒に向かう。
「やっぱり、戻す場所間違ってるし」
佐々木が、はあ、とため息をもらして、雑誌を元の棚に戻す。
「ポスト石破は誰か、か」
佐々木が、おじさんの持っていた週刊誌の表紙を読み上げる。
「ねえ佐々木、聞いてよ聞いてよ」
「今日はなんだよ」
「うちの学校でさあ、次の総理大臣は誰かって話しで盛り上がってるんだけどさ」
「さすがお嬢様学校じゃん」
「それが、話しを聞いてると、誰が推しか~みたいな話しになってさ」
「政治に推しかよ」
「小泉さんがかっこいい~とか、高市さんが凜々しい~とかって抜かしてやがるのよ」
「アイドルの総選挙みたいだよな」
「そう、まさにそうなのよ。だけど、推しって、そういうのと違くね?」
「でも、政治家が好きな人は好きだからいいんじゃね」
「全然よくないよ。推しってさ、頑張っていて、勇気を与えてくれる人に対してのものじゃん。だけど、政治家って、私腹を肥やして偉ぶってるだけじゃん」
「言い切るのな」
「あんな、人を蹴落として権力を握って、税金で生活してるのに国会では寝ているのを、推せって言われても推せないじゃん」
「まあ、あんまり推したくはないよな」
「それだけならまだいいんだけど、結局、パパの会社がこの人が総理大臣になったら遊離だ~とかって抜かしてやがるのね。どうかしてるよ」
「でも、推しが勇気を与えてくれるって意味じゃ、それも推し活なんじゃね」
「えー、そんなの推し活じゃないよー。結局私利私欲だよー」
「でも、推しって、結局その人の、この人がもっとテレビに出ればいいとか、人気が出たらもっと目に触れる機会が増えるっていう、結局その人の欲望じゃね」
「えー、佐々木、許すの? 誰になっても増税だよ、お金取られるんだよ」
「増税されることによって、儲かるひともいるわけだし、それはそれで、推し活になるんだよ」
「むぅぅ、佐々木ってそういうところ、冷めてるよね」
「まあ、そうは言っても、結局、誰が総理大臣になっても、あたしの家計は困ることになりそうだけどさ」
「そうそう、それなー」
「中原の家の仏壇屋はどうなのよ」
「どうなるのかなー。外国の木材が高くなってるし、関税交渉も期待薄だし、ダメかなー」
「たいへんじゃん」
「とにかく、わたしはそんな政治家を推したくないのだよ! 政治家の推し活はんたーい!!」
「なかなか溜まってんな」
「お嬢様学校だとさ、誰を推す、みたいに、もうそれぞれ決まっちゃってるの。そんな話しに付き合うの、もう疲れたんだよ」
「で、結局中原は誰推しなの?」
「…………ノーコメントで」
「マジか~」
「それにしても、推されてる政治家の方は、結局どういう心境なのかな」
「気持ちいいんじゃね? ああいう人、自己承認欲求の塊みたいな人たちみたいだし」
「そうかー、一度でいいから、人に推される気持ちって、体験してみたいよね」
そこへ、頭にハチマキを巻いて、大きなリュックを背負った、眼鏡をかけた二人組のやせた男と太った男がコンビニに入ってきた。二人は、リュックからはみ出る、巨大なポスターを入れている。
二人ははあはあ息を切らせて、冷蔵コーナーのチーズを手に取り、ホット食品コーナーの牛丼を、甘口が良いか辛口が良いかで話し合っている。しばらくして、中原と佐々木の方をチラチラ見るようになった。
やせた方は、
「俺、あっちの不良っぽい子がいいっすムフフ」
太った方は、
「オイラは、こっちの、清楚ロングっ娘ごいいですなムフフ」
と言っている。
二人は、それぞれ、推しのレジへと向かった。
会計を済ませ、二人は店を後にした。
「佐々木、なんかあのデブ、手がべちょべちょしてた……」
「デブって言うなよ。それに、ご要望の推してもらうのを体験できたろ?」
「わたしは、もういいや」
「ああ。あたしも」