第5話 イメージ
コンビニのマークをつけた配送トラックが、コンビニの前に停まった。
「おう、佐々木ちゃん」
「あっ、五郎さん、おつかれっす」
トラックから台車にたくさんの荷物を載せた、目つきが鋭い、初老のドライバーに佐々木が親しそうに応じる。
「今日はめんこい女の子二人組かい。いいねぇ。よし、荷物置いてくぞ」
「手伝います」
佐々木は荷下ろしの手伝いをはじめる。
「わ、わたしも」
中原も、つられて荷物を下ろそうとするが、
「お、おもっ!」
「はっはっは、そっちの清楚な子には堪えるべ」
五郎さんは初老とは思えない身のこなしで、素早く荷物を荷物置き場に置いていく。
「五郎さん、腰の具合よくなったんすか?」
「ああ、まだ湿布ははってるけどな。佐々木ちゃんだけだよ、わしの心配をしてくれるの」
「体が資本なんですから気をつけるんですよ」
「ああ。まだまだ稼がないといけないからな。今は佐々木ちゃんに会う楽しみも増えたし、がんばるべ」
「またまた。事故起こさないように気をつけてくださいよ」
「まったくだな。高齢ドライバーの事故ってニュースにならないように気をつけるべさ。したっけな」
五郎さんは颯爽とトラックに帰り、去っていった。
「えっ、ねえねえ佐々木、なに、今の人?」
中原がびっくりしたように答える。
「中原、会ったことねーのか?」
「いや、わたしもシフトの日に何回か見たことあるけど、なんで名前まで知ってるの?」
「あー、なんか、バイト始めてから、腰痛そうにしてた時手伝ったら、今時の若いのにしては、他人を手伝うなんて珍しいなって言われてさ。話してたら、妙に気が合ってさ」
「佐々木って、コミュ力高いんだな」
「そうでもないぞ。高校では、あんまりつるんでるヤツいねーし。それ言うなら、中原の方がコミュ力高いじゃん。コンビニのバイト仲間も、中原のこと、清楚でおとなしいって、みんな褒めてるし」
「ふっふっふー、そうだろそうだろ」
「中原おまえ、あたしの前ではしゃべりまくってるけど、他の人の前じゃ猫かぶってるよな」
「そうそう、この人間関係希薄化の時代、コミュ力は必要スキルなのだよ」
「まあ、あたしは、そういうのいいけど」
「わたしは、佐々木のそういうサバサバしたところ、いいんだよなー。オアシスっていうかさ」
「人を勝手に水くみ場にするなよ」
「でも、佐々木みたいに、ちゃんと仲良くなれる人としか付き合わないっていうのもいいよね」
「そうか?」
「そうそう。わたし、一応、お嬢様学校って言われてるところに通ってるじゃん。もう、格差がすごいの。ヒエラルキーがさ。トップオブトップに目をつけられたら超やばいの」
「なんか想像つくな」
「だからさ、わたしは猫かぶって、話しを合わせるスキルをカンストさせるべく、日々経験値を上げているのだよ」
「あー、裏口入学は基礎スキルがなくてたいへんだよなー」
「裏口言うな!」
「それにしても、あたしの前では、猫かぶらないんだな」
「おー、このこのー、特別感にひたっちゃったか~? この中原ちゃんに惚れちゃったかー」
「やめろ。でも、最初からグイグイきたよな」
「まあ、佐々木には、親近感、みたいなのをなんとなく感じたんだよ」
「なんだよ、それ」
「あんまり他人に興味ないっていうかさ」
「そうかー、中原も大変なんだな」
「でも、さっきの、五郎さん? ちょいで、訳ありそうな感じだよな。網走帰りって言われても、うなずけるな」
「なんだよ、それ」
「イメージだよ」
「あんまり人をイメージで語るなよ」
そこへ、清楚な大人の女性二人組の客がやってきた。しばらく店内を物色して、佐々木のレジにやってくる。
「おにぎり温めてよ! 早く! あと、コーヒー」
「あなた顔つきちょっと日本人と違うわね。外国人? 日本語分かる? ちゃんとおにぎり温めてよね! コーヒーの紙コップちゃんと出せる?」
佐々木は、営業スマイルで対応する。
「あの子、日本語分かったのかしら?」
「コンビニなんて、誰でもできるのよね!」
女性二人組はそう言って帰っていった。
「なんなんだあいつら!!」
「いや、中原、いいんだよ。外国人っぽい顔しているのは事実なんだから」
「でもさ、佐々木、悔しくないの?」
「昔からこういうことあるし、もう慣れたよ」
「まったくアイツら、センスないよな。外見ばかり取り繕って。佐々木はこんなに可愛くていいやつなのに」
「ちょ、中原、かわいいって」
「だって、かわいいだろ……って」
佐々木は顔を赤くしている。
「なんだ佐々木? 恥ずかしかった」
「ちょっと、はずい……中原、お前、そういうこと、平気で言うよな」
「うん、わたしは言うことは言うからな。佐々木を外見で判断するなんて、人生の何割も損しているぞ」
また佐々木は恥ずかしそうにした。