第25話 人気者?(佐々木)
「ねえ佐々木」
「どうした……中原……」
「バズったね」
「うっ」
バイトが始まって、いの一番、中原に指摘される。
「先週、万引き犯捕まえた動画、好評じゃん」
「はずかしいから、やめてもらいたいんだけどな……」
「えー、いいじゃん」
先週、あたしは万引き犯を追いかけて、捕まえた。
その様子が、誰かに撮られていて、動画にアップロード。これが、バズってしまったのだ。
「まったく、プライバシーも何もあったもんじゃないな」
「コンビニ娘 アルバイターの佐々木たぁ あたしのこと~だぁ~、とか。プププー」
「その口ねじきるぞ」
「なんだか、歌舞伎の有名なセリフらしいね」
「いや、中原から歌舞伎のチケットもらった直後だったから、つい……」
「でも、正直、わたしもうれしいなー」
「何がだよ」
「だって、おおむね好評価じゃん。この店員かっこいいってさ」
「それで、どうして中原が喜ぶんだよ」
「だって、佐々木、今までいろんな人に怖いって言われてたじゃん。ようやく、佐々木の本来のポテンシャルが評価されたんだよ。そりゃ、嬉しくなるよ。あっ、ホラホラ」
あたしのレジに、どこかの学校の制服を着た女子生徒が商品をもってくる。
レジで商品をスキャンして、お金を受け取り、お釣りを渡す。
女子生徒はしばらくモジモジしていたが、
「あっ、あの、動画見ました! かっこよかったです!」
と言って、走ってコンビニを出て行った。
コンビニの外では、待っていた数人の女子生徒と合流して、キャーっと騒いでいる。
「ほらほら~、持てる女はつらいですな~佐々木さん~」
中原が肘で小突いてくる。
「はあ」
あたしは、ため息をつく。今週はずっとこんな感じで、何人か女子がやってくる。
「なんか、変な感じだな。今まで、色んな人に距離取られてたのにさ」
「まあ、実際良かったじゃん。変にこわがられるよりもさ」
「そりゃ、そうだけど。正直、高校では何人かに告られたし」
「えっ!」
中原が、商品棚に思い切り手をつく。
「いや、みんな断ったよ」
「そっか~」
「まあ、みんな女だったしさ」
「そっ、そっか~……」
なんだか、中原が寂しそうな顔をする。
「やっぱり、女の子同士って、変だよね」
「いや、今の時代は、どうなんだろうなー、アリかもしれないぞ……」
「そっ、そうだよね。アハハ~」
今度は、中原はなんだか嬉しそうだ。
「それにしてもさ、やっぱりあたしは、一時的なのって、嫌いだな」
「一時的?」
「うん。だって、その人のことを、たまたま成功した情報だけで決めつけるんだろ。良いにしても悪いにしても、あたしはそういうの、嫌だな」
「まあ、そうだよね。うんうん。佐々木の良さは、この中原ちゃんがよく知っているよ。そういう意味では、わたしが佐々木ファンクラブ第一号だからね」
「何言ってんだ」
よく分からないことを言う中原をよそに、黙々と仕事をするが、急に中原が「ゲッ!」と大声を出す。
中原の視線の方に目を向けると、コンビニの外から、お局の渡辺さんがこちらの様子をうかがっている。
「佐々木、渡辺のババアだよ」
「中原、聞こえるぞ……」
渡辺さんはコンビニに入ってきた。
「お疲れ様~、佐々木さん~」
いつもはキツイのに、今日は猫撫で声だ。
「ど、ども」
「見たわよ~SNS。大変だったわね~。わたし見直しちゃった~。あっ、これ差し入れのお菓子ね~。中原ちゃんと一緒に休憩時間にでも食べて~。いや~わたしも鼻が高いのよ。この動画に映ってるのって、わたしの働いているコンビニよね~ってご近所さんに言われたの。この子、とってもたくましくて、今時の若い子にしては、肝が座っているって評判なのよ。ほら、わたし世代って、歌舞伎好きが一定層いるでしょ。佐々木さんの啖呵も好評なのよ~。この子、わたしよく知ってるのよ~ってついうっかり言ったらね、サインほしいわ~とか言われてね。どう、佐々木さん、ちょっとサインしてくれるかしら」
「えっ、えっ」
突然のことに戸惑ってしまう。渡辺さんは、そんなあたしの戸惑いなどお構いなしに、お菓子が入っているという紙袋を強引に押し付けて、サインペンと色紙をレジの台の上に置いた。
「えっとね~、サイン欲しいって人、何人かいるのよ~。ちょっと名前崩して書いてもらえると助かるわ~。芸能人みたいにね~」
そこへ、中原が横から加わる。
「ちょっと! いまわたし達、仕事中なんですけど!」
渡辺さんは、キョロキョロと目を泳がせている。
お嬢様学校で市内有数の進学校に通う中原は、渡辺さんのお気に入りだ。そんな中原に注意されたのだ。
「あー、そうねそうね。確かにね。中原ちゃんはマジメねー。さすが円山女子高の生徒ねー。おばさん、すぐに帰るからねー。でも、今ちょうどお客さんいないじゃない。ねえ佐々木さん、ちゃちゃっと書いちゃって~」
中原は憤慨した顔で、横で圧をかけている。
あたしは、どう書いていいのか分からないが、とりあえず、佐々木の文字の書き順を、つなげるようにして書いて、渡辺さんにわたした。
「ありがとうね~。じゃあね~」
嵐のように渡辺さんは帰っていった。
「まったく、あの渡辺のババア。今まであんなに佐々木にキツク当たってたのに、手のひら返してさー」
中原は、カンカンに怒っている。
「中原、ありがと」
「まったく、佐々木も、文句の一つくらい言ってやんなよ」
「まあまあ、いいんだよ。確かに、うわべだけしか見なかったり、コロコロ態度かえる人は嫌いだけど、人間ってそういうものだし」
「むーっ」
中原は、プクっと頬を膨らませている。
「そろそろ休憩時間だな。中原、先に休憩しろよ。渡辺さんのお菓子でも食べてさ」
中原は、まだ怒りがおさまらないような顔で、渡辺さんが持ってきたお菓子の紙袋を持って、事務室に入っていった。
でも、なんだか嬉しい。こうして、中原があたしのことを考えて、怒ってくれる。ぶっきらぼうだし、顔はキツメのこんなあたしだけど、いつも想いやってくれる。中原といると、心が温かくなる。
事務室から、力づくで、お菓子が梱包された模造紙を破く音が聞こえる。
(なんだよ、まだ怒っているのか)
しばらくして静かになった。
事務室から、中原が、お菓子の入った箱を持って、目を輝かせて飛び出してくる。
「佐々木佐々木ぃ! 見て見て! これ、あの柳花庵の個数限定の幻のお菓子だよぉ~!! かみぃ~!!」
「中原、怒るぞ……」




