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週一度コンビニバイトで逢う二人  作者: おとさらおろち
25/27

第25話 人気者?(佐々木)

「ねえ佐々木」


「どうした……中原……」


「バズったね」


「うっ」


 バイトが始まって、いの一番、中原に指摘される。


「先週、万引き犯捕まえた動画、好評じゃん」


「はずかしいから、やめてもらいたいんだけどな……」


「えー、いいじゃん」


 先週、あたしは万引き犯を追いかけて、捕まえた。


 その様子が、誰かに撮られていて、動画にアップロード。これが、バズってしまったのだ。


「まったく、プライバシーも何もあったもんじゃないな」


「コンビニ娘 アルバイターの佐々木たぁ あたしのこと~だぁ~、とか。プププー」


「その口ねじきるぞ」


「なんだか、歌舞伎の有名なセリフらしいね」


「いや、中原から歌舞伎のチケットもらった直後だったから、つい……」


「でも、正直、わたしもうれしいなー」


「何がだよ」


「だって、おおむね好評価じゃん。この店員かっこいいってさ」


「それで、どうして中原が喜ぶんだよ」


「だって、佐々木、今までいろんな人に怖いって言われてたじゃん。ようやく、佐々木の本来のポテンシャルが評価されたんだよ。そりゃ、嬉しくなるよ。あっ、ホラホラ」


 あたしのレジに、どこかの学校の制服を着た女子生徒が商品をもってくる。


 レジで商品をスキャンして、お金を受け取り、お釣りを渡す。


 女子生徒はしばらくモジモジしていたが、


「あっ、あの、動画見ました! かっこよかったです!」


 と言って、走ってコンビニを出て行った。


 コンビニの外では、待っていた数人の女子生徒と合流して、キャーっと騒いでいる。


「ほらほら~、持てる女はつらいですな~佐々木さん~」


 中原が肘で小突いてくる。


「はあ」


 あたしは、ため息をつく。今週はずっとこんな感じで、何人か女子がやってくる。


「なんか、変な感じだな。今まで、色んな人に距離取られてたのにさ」


「まあ、実際良かったじゃん。変にこわがられるよりもさ」


「そりゃ、そうだけど。正直、高校では何人かに告られたし」


「えっ!」


 中原が、商品棚に思い切り手をつく。


「いや、みんな断ったよ」


「そっか~」


「まあ、みんな女だったしさ」


「そっ、そっか~……」


 なんだか、中原が寂しそうな顔をする。


「やっぱり、女の子同士って、変だよね」


「いや、今の時代は、どうなんだろうなー、アリかもしれないぞ……」


「そっ、そうだよね。アハハ~」


 今度は、中原はなんだか嬉しそうだ。


「それにしてもさ、やっぱりあたしは、一時的なのって、嫌いだな」


「一時的?」


「うん。だって、その人のことを、たまたま成功した情報だけで決めつけるんだろ。良いにしても悪いにしても、あたしはそういうの、嫌だな」


「まあ、そうだよね。うんうん。佐々木の良さは、この中原ちゃんがよく知っているよ。そういう意味では、わたしが佐々木ファンクラブ第一号だからね」


「何言ってんだ」


 よく分からないことを言う中原をよそに、黙々と仕事をするが、急に中原が「ゲッ!」と大声を出す。


 中原の視線の方に目を向けると、コンビニの外から、お局の渡辺さんがこちらの様子をうかがっている。


「佐々木、渡辺のババアだよ」


「中原、聞こえるぞ……」


 渡辺さんはコンビニに入ってきた。


「お疲れ様~、佐々木さん~」


 いつもはキツイのに、今日は猫撫で声だ。


「ど、ども」


「見たわよ~SNS。大変だったわね~。わたし見直しちゃった~。あっ、これ差し入れのお菓子ね~。中原ちゃんと一緒に休憩時間にでも食べて~。いや~わたしも鼻が高いのよ。この動画に映ってるのって、わたしの働いているコンビニよね~ってご近所さんに言われたの。この子、とってもたくましくて、今時の若い子にしては、肝が座っているって評判なのよ。ほら、わたし世代って、歌舞伎好きが一定層いるでしょ。佐々木さんの啖呵(たんか)も好評なのよ~。この子、わたしよく知ってるのよ~ってついうっかり言ったらね、サインほしいわ~とか言われてね。どう、佐々木さん、ちょっとサインしてくれるかしら」


「えっ、えっ」


 突然のことに戸惑ってしまう。渡辺さんは、そんなあたしの戸惑いなどお構いなしに、お菓子が入っているという紙袋を強引に押し付けて、サインペンと色紙をレジの台の上に置いた。


「えっとね~、サイン欲しいって人、何人かいるのよ~。ちょっと名前崩して書いてもらえると助かるわ~。芸能人みたいにね~」


 そこへ、中原が横から加わる。


「ちょっと! いまわたし達、仕事中なんですけど!」


 渡辺さんは、キョロキョロと目を泳がせている。


 お嬢様学校で市内有数の進学校に通う中原は、渡辺さんのお気に入りだ。そんな中原に注意されたのだ。


「あー、そうねそうね。確かにね。中原ちゃんはマジメねー。さすが円山女子高の生徒ねー。おばさん、すぐに帰るからねー。でも、今ちょうどお客さんいないじゃない。ねえ佐々木さん、ちゃちゃっと書いちゃって~」


 中原は憤慨した顔で、横で圧をかけている。


 あたしは、どう書いていいのか分からないが、とりあえず、佐々木の文字の書き順を、つなげるようにして書いて、渡辺さんにわたした。


「ありがとうね~。じゃあね~」


 嵐のように渡辺さんは帰っていった。


「まったく、あの渡辺のババア。今まであんなに佐々木にキツク当たってたのに、手のひら返してさー」


 中原は、カンカンに怒っている。


「中原、ありがと」


「まったく、佐々木も、文句の一つくらい言ってやんなよ」


「まあまあ、いいんだよ。確かに、うわべだけしか見なかったり、コロコロ態度かえる人は嫌いだけど、人間ってそういうものだし」


「むーっ」


 中原は、プクっと頬を膨らませている。


「そろそろ休憩時間だな。中原、先に休憩しろよ。渡辺さんのお菓子でも食べてさ」


 中原は、まだ怒りがおさまらないような顔で、渡辺さんが持ってきたお菓子の紙袋を持って、事務室に入っていった。


 でも、なんだか嬉しい。こうして、中原があたしのことを考えて、怒ってくれる。ぶっきらぼうだし、顔はキツメのこんなあたしだけど、いつも想いやってくれる。中原といると、心が温かくなる。


 事務室から、力づくで、お菓子が梱包された模造紙を破く音が聞こえる。


(なんだよ、まだ怒っているのか)


 しばらくして静かになった。


 事務室から、中原が、お菓子の入った箱を持って、目を輝かせて飛び出してくる。


「佐々木佐々木ぃ! 見て見て! これ、あの柳花庵の個数限定の幻のお菓子だよぉ~!! かみぃ~!!」


「中原、怒るぞ……」

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