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週一度コンビニバイトで逢う二人  作者: おとさらおろち
22/27

第22話 年末年始のバイトと神社(中原)

 大晦日のコンビニ。しかし、実はコンビニバイトの大晦日は大忙しだ。


「年賀状まだある? えっ、インクジェット売り切れなの!?」


「サイバー攻撃受けた会社のビールある?」


「テレビ情報誌乗ってる雑誌どこ?」


「お年玉入れある?」


「えーっ、なんで1万円を両替してくれないのよー。それくらいサービスでしょーがー!!」


 げっそりしてしまう。


 唯一の救いは、今日は佐々木と一緒だということだ。


「ねえ佐々木」


「なんだよ中原」


「これが師走ってやつなのかな?」


「いや、師じゃねーだろ。でも、確かに忙しいな」


 また客がきた。


「鏡餅ある? えっ、みかんはないの!? なんで売ってないのよ。年末年始にみかんくらい置いておきなさいよー!!」


 もう、年末年始のシフトは入れないでおこうと思う。


 ようやく、客足が途切れてきた。


「はあ、働いて、働いて、働いてしまったよー」


「日経平均上がったんだから文句いうなー」


「上がったって言ったって、わたしたちの給料に反映されないじゃん! 一部の投資家が儲かってるだけじゃん!」


「じゃあ中原も投資やれって、うざいインフルエンサーに文句言われるぞー」


「種銭がないんですよー」


「そうだよなー、金がないからバイトなんてしないとだもんなー」


「うっ」


 わたしは、先週佐々木の家に行った。たしかに、お金に苦労しているような印象は受けた。


「ごめん……」


「あっ、いや、別にそんな気でいったんじゃないから」


 みんな、紅白歌合戦視聴だの、年越しに向けて忙しいのだろう。


「ようやく、シフトも終わりだな。もう少しで2026年か」


「佐々木、家族と過ごすの?」


「いや、今日はお母さん仕事なんだ。ニューイヤーは、書き入れ時らしいから、今日は帰ってこないよ。弟も、親戚の家に行ってる」


「佐々木、一人なの?」


「うん。こんな年越しははじめてだよ」


 クリスマスも、佐々木は一人だった。そして、年末年始もとは、なんだかかわいそうだ。


「ねえ佐々木、このまま、初詣行かない?」


「初詣?」


「うん。北海道神宮。そこからうちまで、歩いていけるし」


「いや、悪いよ。年末年始は、家族と過ごすもんだろ?」


「ううん。この前、佐々木に泊めてもらったら、ぜひうちにも連れてきなさいって、お母さんもお父さんも言ってたし」


「いやいや、それは何もない時の話だろ。さすがに年末年始は」


「気にしない気にしない。もう決定だよ!」


「決定って……」


「それとも、なにかやることあった?」


「いや、特に帰って年明け見届けたら寝るだけだったけど」


「なら、やっぱり一緒に初詣からの、わたしの家にお泊りだ!」


 わたしは強引に決めてしまった。ちょっと、迷惑だったかな、とも思ったけれど、やっぱり、年末年始に一人は、さみしいと思う。


 佐々木は一度家に着替えを取りに戻った。


 年末年始の地下鉄は、東豊線はガラガラだが、東西線に乗り換えると、それなりに人がいる。


「東西線って、体育大会の日に乗ったくらいだな」


「住宅街路線だからね。あんまり乗らないよね」


 地下鉄は、円山公園駅に近づくにつれ、人が多くなっていく。円山公園駅に着くころには、満員だ。


「なんだよ。朝の通学ラッシュとおんなじじゃん」


「文句言うなよ。でも、年末の北海道神宮ってはじめて……どころか、そもそもあたし、北海道神宮って、ずっと昔にきて以来だな」


「そうなの。わたしは割とよくくるよ」


「そりゃ、中原は近場だからだろ」


 円山公園駅の改札を出ると、すでに北海道神宮までの案内や、通路規制がはじまっていた。


「でも、地味にわたしも、日付がかわる時に初詣するのなんて、はじめてだよ」


「そうなんだ。なんか、ワクワクするな」


「そうだろー。家で一人で年越しなんて、するもんじゃないぞー」


「なんだよ。でも、ありがと、中原」


 佐々木は、満面の笑顔だ。かわいい。不意をつかれて、ドキッとしてしまった。


 地上に出て、北海道神宮の敷地に入った頃から、列はなかなか進まなくなった。


 ときおり雪がちらつく。周囲の雪が、電灯の光を反射してまぶしい。氷点下なのだろうが、大勢の人ゴミで、むしろあっついくらいだ。神社の敷地の出店から、からあげだの、スイーツだののにおいがただよう。そして、出店の電力を賄うエンジンの音と排気ガスのにおい。普段はあまり体感しないものだ。これをハレの空間というのだろうか。


 大勢の人が移動する。あたしと佐々木の間も、人が通る時がある。なんだか、はぐれてしまいそうな気がする。


 ふと、佐々木の手にわたしの手が触れた。やわらかい、毛糸の手袋の感触が分かる。


「あれ、中原、もしかして手袋してなかった?」


「あっ、うん。今日は家に忘れて」


「なんだよ、それ」


「まあ、手袋なんて、コンビニと地下鉄の駅の間くらいの予定だったからさ」


「うそ、早く言えよ。さすがに、出店で手袋なんて売ってないよな……」


「大丈夫大丈夫。何時間かくらい」


「だめだよ。風邪ひくよ。でも、この人ゴミじゃ、もう戻れないし……」


 すっと、佐々木がわたしの手を握る。


「もう片方の手は、ポケットに突っ込んどけよ……」


「うん……」


 手袋越しに、佐々木の手の温かさが伝わる。実は、手の感覚が寒さでほとんどなくなっていた。徐々に、手に血液が通り、感覚が戻っていく。手袋越しでも、佐々木のやわらかい手の感覚が分かる。正直、うれしい。


 0時、年が明けるとともに、人が本殿に向けて進む。わたし達の番は、まだ後のようだ。


「なんか、高い像があるな」


「佐々木、知らない、島義武って?」


「知らないな」


「北海道を開拓した人なんだよ。九州に帰って、最後は、処刑されて晒し首になったんだよ」


「なんか、新年早々縁起悪いな……」


「悪くないよ。北海道開拓の恩人だよ!」


 ようやく境内に入る。本殿までやってくる。


 財布を取り出そうとすると、まだ佐々木と手をつないでいたことに気が付いた。


「佐々木、ありがとう。あったかかった」


「うん」


 ちょっと、手を離すのがもったいなかった。


 お金を投げる。


(今年も健康に暮らせますように。勉強にうまくいきますように。そして……)


 チラッと、隣でお祈りしている佐々木を覗き見る。


(佐々木と、楽しくコンビニバイトができますように……)


 北海道神宮から琴似までの道のり。車どおりは少ないが、この時間とは思えないくらいに、人が歩いている。


 あちこちのお寺から、除夜の鐘が聞こえてくる。


「ここだよ、わたしの家」


「へー、本当に仏壇屋なんだ」


 佐々木を家に案内する。


「まあ、いらっしゃい。あなたが、佐々木ちゃんね」


「やあ、よくきてくれた。どうぞどうぞ」


 お母さんとお父さんが、過度な歓迎をする。


 佐々木は、恐縮しきってしまっている。


「もうおせち、食べ始めているぞ」


「寒かったから、お雑煮の方がいいかしら」


「ちょっと、お母さんもお父さんも。佐々木も疲れてるだろうから」


「いえ、おいしそうです。いただきます」


 佐々木は、ちゃぶ台の前に正座して、行儀よく箸でお重をつついている。


「まあ、佐々木ちゃん、お行儀いいわね。どこかで習ってたの?」


「いえ、でも母が割とうるさくて」


「うん。いいなあ、大和なでしこって感じだ」


「本当、こんな子がお嫁にきてくれないかしら」


 お母さんがそう言うと、わたしと佐々木は一緒にむせてしまった。


「ちょっとお母さん!!」


「あら、冗談よ~」


 でも、佐々木となら、こんなふうに家族みたいに過ごしてもいいかな、なんて思ってしまう。  そうして、大晦日の夜は明けていった。

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