第20話 年賀状はコンビニでも買えるよ(中原)
コンビニに入店した客が、商品もろくに見ずに、わたしのレジにやってくる。
「年賀状ください。無地のインクジェット五十枚」
「はい、少々お待ちください」
客は年賀状を受け取り、コンビニの中も見ずに帰っていった。
「ねえ佐々木」
「なんだよ中原」
「今年も年賀状作りの年がきたよね」
「どうしたー急に」
「いやあね、学校で、色んな人に聞かれるんだよ。年賀状出したいから住所教えてーって」
「へー。あたしも、小学校の時は結構やったけど、中学の時は、あんまり出さなくなったけど」
「わたしもそうだよ。高校から急に、年賀状ラッシュだよ」
「マジかー。あたしは、高校では誰にも年賀状出したいって言われてないな」
「そっかー。佐々木、友達いないの?」
「殴るぞ。いや、別にメールでいいって、みんな思ってるんじゃね」
「そうだよねー、そうなるよねー。だけど、わたしの高校ってお嬢様学校じゃん。やっぱり、つながりを求める人が集まるからかなー」
「それはあるかもなー。そういう人たちこそ、手の込んだ年賀状作りそうだよなー」
「やっぱり、手の込んだやつきちゃうかな」
「そりゃー、社長令嬢とか多いんだろ。宣伝や広報の重要性をよく分かった人たちが作るなら、そうなるだろ」
「アワワ、どうしようー」
「頑張って作れー」
そこへ、またコンビニに客がやってきた。
客はわたしのレジの前まで来て、年賀状の印刷済みはがきを見ている。
「この絵柄のを二十枚ちょうだいな」
客はポップな馬がおせちを食べている年賀状を買って帰っていった。
「佐々木、これだよ!」
「なんだよ」
「できあがり済みの年賀状だよ!!」
「いいんじゃないかー」
「そうだそうだ。なんで考え付かなかったんだろ。これなら楽できる」
「楽言うな。まあでも、イラストもプロが作っているんだろうから、いいんじゃね」
「えーと……」
絵柄を見ながらわたしは気づいてしまった。
「ねえ佐々木」
「なんだよ中原」
「これって、宛名は自分で書くんだよね」
「まあ、そうだな」
「それに、自分の住所も、書かないといけないんだよね」
「そうだなー」
「めっちゃめんどくさいじゃん」
「めんどう言うなよ、一年に一回なんだから」
「まあ、それくらい我慢するかー。ん?」
あたしのスマホが鳴る。
「おい中原、仕事中だぞー」
「うん。ちょっと見るだけー」
高校の友達からだ。
「友達が年賀状作ってるみたいなんだけど、イラスト困ってるってきたよー」
「やっぱり、みんな悩む部分なんだな」
「コンビニでも買えるよっと」
「仕事中にスマホいじるなー」
「まあまあ、これでコンビニの売り上げも上がるんだからさー」
「でもさ」
「ん?」
「コンビニでも売っていること広めたら、そのうちかぶって、手抜きしたってバレるんじゃね?」
「…………あっ!」
なんてことだ。佐々木の言う通りだ!
「どうしよう佐々木ー」
「あたしに聞くなよ」
佐々木は、ヤレヤレという顔をする。
そういえば、佐々木はどんな年賀状を作るのだろう。佐々木はどんなイラストを使うんだろう。ふと思った。
「ねえ、佐々木」
「なんだよ中原」
「佐々木は、年賀状何枚くらいだすの?」
「全部スマホでいいかなーって思ってた」
「マジっ!? 一枚も出さないの!?」
「出さないなー」
「そっかー……」
わたしが佐々木に出すと言うと、当然佐々木も年賀状を出さないといけなくなるだろう。一枚だけのために、佐々木に時間を使わせるのも、なんだか気が引ける。
「あっ、でも、スマホで年賀状のかわりにメッセージ送るんだよね」
「ああ。そうだけど」
「えーと、佐々木」
「うん?」
「わたしたち、ただのバイト仲間じゃん」
「そうだな……」
「佐々木、あんまり人と深く付き合いたくないかもだけどさ」
「うん……」
「連絡先とか、聞いていい?」
「ううっ」
佐々木が驚いたように唸った。
「あっ、いやいや、嫌ならいいんだよ嫌なら。ごめんごめん。そうだよね、わたしたち、ただのバイトつながりだもんねー」
「ううん! ぜひ!!」
おどろくほど、佐々木は前のめりだ。
「てゆーか、わたしたちの関係って、微妙だよね」
「そっ、そうだな……」
佐々木は、顔をあからめている。
なんだか、嬉しい。佐々木とまた、距離が縮まったような気がする。
これで佐々木と、連絡を取り合える。なにか気づいたこと、些細なことを。
年賀状はメッセージでのやりとりになるだろうが、そんな挨拶も悪くない。
「ねえ佐々木!」
「なっ、なんだよ中原」
「うれしいねっ!」
「あっ、ああ」
佐々木も嬉しいのなら、何よりだ。
「それにしても、どんなメッセージで新年のあいさつをしよう。かわいい系かな。それともかっこいい系のメッセージにしようかな」
「中原……」
「うん?」
「紙の年賀状も頑張れよ?」
「うん。大問題だよ……」




