第19話 後発地震注意情報(佐々木)
「ねえ佐々木」
「なんだ中原」
「月曜日、夜にバイトにきたって本当?」
「ああ、そのことか」
「なんでわざわざきたの?」
「だって、揺れ、結構大きかったじゃん。店が気になって」
「うわっ」
中原が、ドン引きするしぐさをした。
「なんだよ、悪いのかよ」
「悪いってわけじゃないけど。マジメかよ」
「だから、気になっただけだよ。ちょうど弟も、小学校の友達の家でお泊まり会やるんだっていって、いなかったし。母さんは、職場のお酒が割れたとかで帰れないっていうし」
でも、実はあたしがバイト先に行ったのには、理由があった。この理由は、中原には言えるわけがない……。
「つーか、あたしがバイトにきたって、誰にきいたんだよ」
「渡辺のババアだよ」
「ババア言うなよ」
「あの日、渡辺のババアが出てたんでしょ?」
「ああ。オロオロしてたし、液体の入ったビンが割れてたから、片付けを手伝ったよ」
「佐々木、偉いよな。なんか文句言われなかった?」
「いや、特に無言だったけど。中原のおかげかな」
「そっか。でも、昨日わたしと渡辺のババアが同じシフトだったでしょ。渡辺のババアなんてさ、佐々木さんが怖がってコンビニにきたーとか、佐々木さんはここでポイント稼ぎしようとしているーとか言ってんの。もう頭にきたよ」
「そうかー」
「でもさ」
中原がニコリと笑ってあたしを見る。
「佐々木って、ほんといいやつだよな」
中原は、ニッと白い歯を見せる。
そんな中原の顔から目が離せなくなる。
「べ、別に……」
続く言葉が出てこない。急に言われると、なんだか恥ずかしくなって、顔まで赤くなりそうだ。
あたしは、中原の顔を見られなくなるのは残念だが、赤らめた顔を見られるのが嫌でうつむいた。
「まあ、渡辺のババアのことは気にしなくてもいいよ。あんな人間もこの世界にはいるんだよ。しっかし、佐々木のこと理解できないなんて、人生損しているよなーあのババア」
「あの、中原がいるかなって思って……」
つい、言ってしまう。
「わたし……?」
「えーと、今週のシフト、あんまり確認してなくてさ……。もしかしたら、中原に逢えるんじゃないかなって思って……」
「それで、バイトに出て来たの?」
「うん……」
あたし、何を言っているのだろう。
「そっかそっかー、わたしが心配だったかー……」
中原が冗談を言うが、しばらく沈黙が流れた。あたしが妙なことを言ってしまったので、中原も困っているのだろうか。
あたしは顔を上げて、中原の顔を見る。
中原がじっとあたしを見ている。
「もし本当にそうだったら、ありがと」
照れながら、中原が言ってくれる。
ドキッとした。
「本当は!」
急に大声を出してしまう。
またコンビニに沈黙が流れる。
中原は、続く言葉をじっと待っている。
「本当は……、不安で……。中原に逢えたら、少しは落ち着くかなって……」
言ってしまった。恥ずかしいことを。
顔が真っ赤になる。どうして、こんなことを言ってしまったのだろう。後悔が立つ。
もう、中原の顔をまともに見られない。
「そっかそっかー!!」
中原が大声を出す。
「さっすが佐々木ー! かわいいやつだなー! いいぞーいいぞー、いつでもこの中原ちゃんを頼ってくれたまえー」
中原が浮かれた声を出す。
はあ、とあたしはため息をする。
恥ずかしいことを言ったのに、中原の受け止め方の軽いこと。
ちょっとイラっともきた。
顔のほてりがみるみる消えていく。
「そうだよー、あたしは臆病なんだよー。普段は頼りない中原でも、一緒にいれば少しはマシかなーって思ってさ」
そうしてあたしは顔を上げる。
すると、そこには意に反して、真剣そうな中原の顔があった。
「ありがと、佐々木」
「ううっ」
声にまで出てしまった。
そういうところだ。中原の。
忘れた頃にドカンとくる。
「地震みたいなやつだな」
「なにそれ?」
中原が顔を近づける。
「後発地震注意情報発令中!!」
「だから、なんだよ、それー」
今日のバイトは、中原を意識して、もう仕事にならなそうだ。




