第15話 餡まんと嫉妬?
「餡まん、さっき大量に買っていった人がいたから、補充しておいてね。それじゃあまた今度! 二人とも、頑張れ!」
引き継ぎを受けた中原が、手を振って前のバイトの涼風さんに手を振っている。あたしも、横で小さく手を振った。
ポニーテールの、クールビューティーともいおうか、同じ高校一年生の涼風さんがコンビニの制服から、高校の制服に着替える。赤いスカートをなびかせながら、颯爽と帰って行く。
涼風さんは、ソフトボール部と掛け持ちでコンビニのバイトにもきている。
「時間の使い方うまいよな、涼風さん」
「なに、佐々木?」
「いや、涼風さん、ソフトボール部で、一年生ながらもうレギャラーになったっていうし、すごいじゃん」
「たしかにね」
「涼風さんとシフト組んだ時もさ、手際がすごくいいんだよ」
「それわかりみー。涼風さんとシフト組むと、楽できるからねー」
「おい。でも、お客さんに変な要求された時も、嫌な顔一つせずにさ。なんか憧れるなー」
「憧れる……」
「ああ。きれいな人だしな」
「きれい、ねえ……」
「うん。なんだか惚れちゃいそうだよなー」
「ふーん」
なぜか、中原がプイと顔を向こうへ向こうへそらす。
なんだか、嫌な感じだ。ようやく涼風さんが帰って、中原と二人だけになれたのに。
学校であったこと。この前遭遇した面白い話し。一週間溜まった話しをできると思ったのに……。
なんだか今日はぎこちない。何を話しかけても、中原は一言二言しか返事をしない。あたしのしたかった話しも、途中で途切れてしまった。
今日は、無言の時間が長い。
お客がやってきた。
レジ横の肉まん、フランクフルトを無愛想に注文する。こう冷え込んでくると、温かいものをすぐに食べたいようだ。
「中原、肉まん頼む」
中原はそれに「ん」とだけ答え、無言で肉まんの入った商品ケースを開けて、トングを入れる。
あたしはフランクフルトを紙で包み、肉まん一つとフランクフルトをレジに打ち込む。
「あー。餡まんも」
客が追加の注文をする。
「中原、頼む」
あたしは、レジに追加で餡まんも打ち込んだ、その時、
「うあっ」
中原の悲鳴とともに、ぐちゃ、という音がした。
中原が餡まんを落としてしまった。
「あの、失礼しました」
中原の方を見ると、手が止まっている。
すぐに状況が理解できた。
商品ケースの中に、もう餡まんは無かった。
「す、すみません」
中原が客に謝る。
「あん?」
無愛想の客が、今度は怒りの表情に顔を変え、あからさまに不快だという相槌を返す。
「すみません。餡まんはもう売り切れで」
「おいおいおまえよー。こっちは客だぞ。売り切れなんてことがあっていいのか?」
「たいへん申し訳ありません」
「申し訳も何もないだろまったく。俺だってコンビニでバイトしたことあるんだ。普通補充するから、ないなんてことはないだろ。どうなってんだよここのコンビニはよぉ!」
客は大声を上げる。
そういえば、さっき涼風さんが帰る際、中原に餡まんを補充するよう言っていた。
その後、どうも変な空気になってしまい、忘れてしまっていたのだ。
「どうしてくれるんだよ俺の餡まん」
「あの、ほんとうに、すみません……」
「言い訳はいいんだよ。餡まん出せよ! できねーのかよ!」
中原は、顔を青ざめさせ、どうしていいのか分からないという表情で、目を泳がせている。
こんな中原の顔を見るのは、嫌だ。このままじゃいけない。
「おい、聞いてるのかこのアマ!」
「お客さん!」
あたしは大声を上げていた。
「なんだてめー」
「さすがに言い過ぎじゃないですか」
「言い過ぎ? こっちは客だぞ」
「客でも、言葉の暴言です。このままだと警察を呼びますよ」
「警察? おまえらが悪いのに警察かよ」
客はあたしの顔をまじまじとみる。
「日本のルールが分からない外国人がっ」
客がそう言い捨てると、さっきあたしがレジに打ち込んだ商品も買わずに帰って行った。
あとには、あたしと中原がレジの中に残される。
「中原? 大丈夫?」
中原の顔をのぞく。中原は、顔を伏せている。なんとなく分かる。涙をこらえているのだ。
「あの、佐々木……。ありがとう。ごめん……」
そう言われて、なんだかほっとした。ちゃんと答えてくれる。
「別にいいよ。珍しいじゃん。中原、なんだかんだ、いつもそつなくこなしてるのに」
「ううん。今日のわたし、どうかしてた……。そのせいで、佐々木が外国人なんて言われちゃうし。ほんとうに、ごめんね……」
「別に、そういう奴に言われたってなんとも思わないよ。それよりも、どうしたんだよ?」
「嫉妬……」
「えっ?」
「嫉妬だよ……。佐々木、涼風さんのこと褒めてたから。憧れるとか、惚れちゃいそうとか」
嫉妬という言葉を聞いて驚いた。
「それ、言葉のあやだよ」
「それでも……ちょっと、嫌だった……」
中原は、恥ずかしそうな顔をしている。ただ、嫉妬心を頂いてくれたことが、なぜか嬉しくなってしまう。それに、中原の、こういう素直に気持ちを伝えてくるところ、結構気に入っている。
「ううん。ごめん。本当に。わたし、馬鹿だよね。こんなこと気にしちゃって。それで、餡まんの補充忘れるし、落とちゃうし」
「確かに、馬鹿だな」
「ううっ」
あたしも、今の気持ちを、少しだけ素直に伝えてみよう、と思った。
「あたしは、中原とバイト組むの、とっても楽しみにしてんだ。それを分かってくれてないなんてさ。今更馬鹿馬鹿しくなるわー」
「えっ?」
「そりゃ、涼風さんとバイト組むと、色々楽しいことがあるけど。あたしは、週一度しかできない中原とのバイトを楽しみにしてるわけ」
「佐々木?」
「話したいこと、たくさんあるんだぞ。それをこうして止めるなんて、馬鹿としか言い様がないな」
「…………」
「中原、楽しいこと、話さない?」
「うん……」
中原は、うつむいたまま返事を返した。その耳は、赤くなっていた。
あたしは、話したかったことを一方的に話しかける。
次第に中原の表情もゆるむ。
ようやく、いつものバイトの時間になった。
中原の笑顔がまぶしい。
なんだよ、かわいいやつだな、と思った。




