第10話 雪の妖精?
誰もいないコンビニ。今日は暇だ。
とそこへ、誰もお客さんがいないのに、勝手に自動ドアが開いた。
「えっ、佐々木、なんかやった? うわっ、こわっ」
「なんもしてねーぞ中原。なんだー、幽霊でも入ってきたか-」
勝手に空いた自動ドアは、静かに閉まった。
と、そこへ、白くてフワフワ浮いた小さなものがある。
「なんだこれ! 魂か! 人魂かぁー!!」
「落ち着けよ中原。雪虫じゃん」
「雪虫?」
中原は目を凝らす。
「本当だ。今年はじめて見た」
「最近冷え込んできたからな」
「雪虫っていいよね、わたし好き」
「でた、ぶりっこアピール」
「ぶりっこじゃないよ。だって、風情あるじゃん。あの白い綿」
「あれ、分泌物だからな」
「そうなの?」
「ああ。自分から出ているものだぞ」
「ううっ。でも、名前もいいじゃん。なんか、雪虫って響きがさ」
「あれは通称で、実際にはアブラムシだからな」
「そうなの?」
「知らなかったのか?」
「ううっ。なんだよ佐々木、否定ばっかりして! 雪虫は雪虫でいいの! アブラムシって名前はとうの昔に捨てられてるんだよ!」
「何言ってるのさ。。イヤじゃん。体にくっつくし、家の中に入ってくるし。実際、コンビニにも入ってきてるし」
「それは佐々木が悪いやつだから懲らしめにきてるんですー!」
「なんだよ、それ」
「いい子にしているところには、やさしい雪虫がやってくるんですー!」
「今日はうざいな」
「きっとこの雪虫は、わたしを美しい雪原の世界に誘ってくれる使者なんだよ」
「おい中原」
「うん?」
「さっきの雪虫、唐揚げにとまったぞ」
「……売れなくなったじゃん」
「いい子のところには、やさしい雪虫がくるんじゃなかったのかよ」
「ま、まあ、からあげはみんな好きじゃん。雪虫も食べに来たんだよ」
「なに言い訳してるんだよ」
「ああ、死んじゃった」
「そもそも雪虫って、一週間しか生きられないらしいぞ」
「えっ、セミじゃん」
「それに、一度服にくっつくと、もう自力で飛べなくなるんだって」
「なにそれ、メッチャ低スペックじゃん」
「だからこそ、数多く生まれるんだろうけどさ。やだなー、また雪虫で空が暗くなるの」
「むむむ。いいんだよ。とにかく、雪虫が出ると、すぐに雪が降り出すっていうでしょ」
「確かに言うな。まあ、そういう気候が、雪虫に適しているだけってことだけどな」
「そういうこと言わない! 雪虫さんが、雪を運んでくるんだよ。北海道は一面の銀世界。これからはスキーやスノボ、そして温かい鍋やジンギスカンが私を待っている!」
「話しが飛躍したな。めっちゃポジティブじゃん」
「そう、雪虫は雪の妖精さんなんだよ! 楽しいことをいっぱい運んでくるんだよっ!」
「冬って、あたしは悪いイメージしかないな。寒いし、滑って転ぶし、雪かきしないといけないし」
「まったく佐々木は風情がないやつだな。もういいよ、じゃあわたし、ゴミ出してくる」
中原は、ゴミをまとめて、コンビニを出て行った。
しばらくして、中原が顔をしかめて帰ってきた。
「どうした、中原?」
「雪虫、口の中に飛び込んできて、食べちゃった……」