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第5話 ざまぁ鉄仮面、かつてのお見合い相手に窮地に立たされる


 クラウドやアランに『ざまぁ』を下した翌日の午後──。


 マルティナは王居庭園のガゼボで、義姉あねたちとお茶を飲んでいた。


「そういえば昨日、またざまぁ鉄仮面が出たんですって」


「ええ。聞きましたわ」


「本当に神出鬼没ですわね」


「ざまぁ鉄仮面の正体は誰なのかしら? 気になりますわ」


 第1王子から第4王子の夫人たちが談笑している。

 マルティナがざまぁ鉄仮面だとはやはり誰も気付いていない。


「昨日『ざまぁ』な目に遭わされたのは、クラウド様?」


「アラン様もだそうですわ」


「評判の良くない方々でしたものね」


「当然の報いですわ」


 ざまぁ鉄仮面の話をするとき義姉たちはいつも楽しそうだ。

 女性を傷つける悪辣な王族の男たちが『ざまぁ』な罰を受けるのは因果応報だと思ってくれている。

 それはマルティナの密かな自信になっていた。


「ざまぁ鉄仮面が次に狙う王族の殿方は、もしかしたら──」


「かもしれませんわね。他にも候補として──」


 ざまぁ鉄仮面の次の標的は誰かという話が始まった。

 愛妻家である夫の王子、それに優しい義父の王が標的になるとは考えてもいないようだ。

 マルティナもそのつもりで、『ざまぁ』を下すべき王族男性が身内にいないことは幸いだった。


(リュカだけは別だけれど──)


 浮気の証拠を掴んだら、いずれ『ざまぁ』を下すことになるだろう。

 そして離縁を突き付ける。

 だけどその日が来るのがやはり恐い。


「マルティナ様? どうかなさいまして?」


「い、いえ。なんでもありませんわ」


 上の空だったことを義姉の一人に心配されてしまった。


(いけない。ちゃんと聞いていないと)


 ざまぁ鉄仮面として活動するためにも、このお茶会で得られる王族男性の情報は重要だ。


 マルティナは耳を傾けた。


「ひょっとすると、現王家からは遠縁のあの方が次の標的かもしれませんわ」


「ガウリッツ様ですわね。充分ありえると思いますわ」


 聞き覚えのある名前だった。

 それもそのはずで、3年前にマルティナがお見合いをした人物だ。


『ククク。本当にデカい女だな。可愛くない。お前などと結婚はごめんだ』


 そう言ったときの嫌味な薄ら笑いはよく覚えている。


 ガウリッツは現在28歳。

 一応は未婚の王族ということで、結婚を申し込まれることはちょくちょくあるらしい。


 だがマルティナと同じように、気に入らない女性に対しては辛辣な言葉を浴びせて平気で傷つけることを繰り返しているそうだ。


 逆に気に入った女性には結婚をちらつかせて関係を持ち、飽きたら捨てるなどといういうとんでもないことをしているのだという。


(次に『ざまぁ』の下すべきはガウリッツかもしれないわね)


 マルティナ密かにそう思った。


「そうそう。いくつかの王族が、ざまぁ鉄仮面に賞金を懸けたそうですわ」


「無理もありませんわね。ざまぁ鉄仮面に恨みを持つ王族の殿方も増えていることでしょうし」


 この王居で暮らしている現王室ではなく、これまで『ざまぁ』を下してきた他の王族たちが賞金を懸けたということらしい。


「ガウリッツ様も賞金を出した王族の一人とか」


「いずれ自分が『ざまぁ』されることを見越して、その前にざまぁ鉄仮面をなんとかしたいと思っておられるのかもしれませんわね」


 少し気になる噂を聞いたところでお茶会は終わった。


 王宮の自室に戻ると、違和感があった。


(鉄仮面や衣装を入れたバスケットかごが無いわ!)


 引き出しに入れてあった数え歌を書いた用紙もなくなっている。


「誰か、わたくしの部屋に入りましたの?」


 メイドの一人に訊ねてみた。

 掃除などは自分でするから部屋には入らないでと言ってある。


「いいえ。メイドは誰も入っておりません。ただ──」


「ただ?」


「リュカ王子がマルティナ奥様の部屋から出てくるのを見たような──」


「なんですって!? リュカ様はどこ?」


「お出掛けになったみたいです。お忍びの格好をされていたようでしたので」


(リュカがざまぁ鉄仮面の仮面や衣装、数え歌を書いた用紙を持って王居の外に出掛けたということ!? どうして!?)


 訳が分からなかったが、マルティナも急いでお忍び用の婦人服とハットに着替えて王居を出た。


(リュカがどういうつもりなのかは分からないわ。でもわたくしに内緒で出掛けたのなら、行先はもしかすると──)


 マルティナは夕日に染まり始めた市街地を早足で歩いた。


 そしてあのカフェへとやってきた。

 半年前、リュカが浮気相手の美しい女性と会っていた場所だ。

 店の前の通りから窓を順々に見て行く。


 すると──。


 チェニック姿の男性の上半身が見えた。

 お忍びの格好をしたリュカだ。

 窓際のテーブル席についている。

 テーブルには、マルティナのバスケットかごが乗せられていた。


 さらに──。


 リュカの向かいの席には、あの美しい女性が座っていた。

 ここからでは声は聞こえないが、二人は笑顔で会話を交わしている。


 悲痛な思いに胸が締め付けられた。


(リュカがどういうつもりでバスケットかごを持ってきたのかわからないけれど、ついに浮気の現場を押さえたわ)


 店に踏み込んで離縁を突き付ける。

 そうしなければならないのに、足が動かなかった。


 マルティナは夕暮れの通りに立ちすくんだまま、リュカと浮気相手の女性を茫然ぼうぜんと見つめていた。


 どのくらいそうしていたのだろう。

 分からないが、近づいてくる馬の足音で我に返った。


「マルティナ夫人。いや、ざまぁ鉄仮面と言ったほうがよろしいか。ククク」


 ゾクリとすることを言われて、声の方向に振り向いた。


 そこには馬に乗った男の姿があった。

 赤い派手なジュストコールをまとって腰に細剣レイピアを差している。

 頭の両側でカールした珍妙な髪型。


 そしてうすわらった嫌な表情は、三年前のお見合いの時と同じだ。


「──あなたは、ガウリッツ様」


「三年前に一度だっただけなのに、覚えていただけて光栄ですな」


 ガウリッツが馬上からマルティナを見下ろしながら言った。


「……こちらこそ」


「ククク。あなたほどのデカい女、もとい上背のあるご婦人はザラにはいない。お忍び用の服装でも一目で分かりますよ」


 王子の夫人になったマルティナに対して言葉遣いは丁寧なものに変わってはいるが、嫌味なところは変わっていない。


「……ところで、わたくしのことをざまぁ鉄仮面と言ったように聞こえたのですが?」


「いかにも」


「……あら。寝ぼけていらっしゃるの?」


「言ったでしょう。あなたほど上背のあるご婦人はザラにはいない。噂のざまぁ鉄仮面の特徴と一致する。その並外れた強さもね」


「上背のことはともかく、わたくしは強くなどありませんわ」


 白を切った。

 マルティナが身体能力強化魔法で常人離れした強さを発揮できることは隠し続けてきた。

 知る者はほどんどいないはずだ。


「ククク。往生際が悪い。ならば証人を出しましょうか。おい!」


 ガウリッツが呼び掛けると、通りの建物の陰から10人ほどの男が現れた。


「また会ったな。デカい姉ちゃん」


「あなたたちは──」


 三年前、リュカを誘拐しようとしていたごろつきたちだ。

 ガウリッツとの見合いのことで抜群に機嫌が悪かったマルティナは、身体能力強化魔法を使って全員を秒殺した。


「ざまぁ鉄仮面の情報を集めていたところ、この者たちから有力な情報が持ち込まれたのです。三年前、デカくてとんでもなく強い女に倒された。その女はリュカ殿から求婚されていたとね」


「そうです。この女に間違いありません」


(抜かったわ)


 マルティナは唇を噛んだ。


「この者たちの風体では王居に近づきすぎるとすぐに怪しまれてしまう。だから王居に近い位置の市街地でマルティナ夫人を見張るよう命じておきました。こうも早くあなたが現れてくれるとはね」


「わたくしがお忍びで市街地を歩いていたからどうだと? それにわたくしがその者たちを叩きのめしたのだとしても、それだけではざまぁ鉄仮面だという証拠にはなりませんわ」


「物証の鉄仮面が出てくればそれで決まりです。あなたは所持していないようだが、先行していたリュカ王子が持っていたバスケットかごが怪しい」


 リュカも見張られていたということか。

 そしてあのバスケットかごには鉄仮面が入っているはずだ。


(……これは、まずいかもしれないわ)


「そしてざまぁ鉄仮面である妻をリュカ王子が幇助ほうじょしていたとすれば好都合。王子といえど、何人もの王族に狼藉を働いた人間を手助けしていたとなれば罪は免れませんからな。ククク」


 ガウリッツが含み笑いした。


「父である現国王に対する格好の攻撃材料にもなる。王族の傍流ぼうりゅうに置かれている我々が中枢に取って代わることも、あながち不可能ではないかもしれませんな」


(なんてこと)


 そこまでの事態に発展する可能性は考えていなかった。


「クーックックック」


 ガウリッツの高笑いに、マルティナは身震みぶるいした。

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