第四話:守護騎士の導き
戦いの後に残されたのは、焼けた村と心に芽生えた疑問。
“強さ”とはなにか。その答えを探す導きが、静かに始まる。
戦いが終わったあと、村人たちはイーヴァに感謝を伝えながらも、どこか神聖な存在を見るかのような距離を取っていた。
イーヴァは村の倒壊した家屋や物資庫の修復に加勢していた。
風を使って倒れた柱を持ち上げ、水を引いて消火に当たり、何よりも人々の話に耳を傾けていた。
その姿を見ながら、セロもまた村の修復を手伝っていた。
だが、イーヴァの手際の良さや落ち着いた対応を見るたびに、内心は穏やかではなかった。
(同い年くらいなのに……なんであんなに強いんだ)
セロは、自分の無力さと彼女の力の差に、言いようのない感情を覚えた。
それは憧れにも似た嫉妬。そして悔しさ。
ある時、倒れた井戸の補修にあたっていたイーヴァがふと口を開いた。
「この村の北に、“カルナの渓谷”ってあるわよね」
セロは驚いた顔で頷く。
「ああ……あそこには近づくなって言われてる」
「風の流れが乱れていて、創界の外縁から吹き込む“未定風”が流れ込む場所。私も訓練の一環で、そこを訪れたことがあるの」
セロは少し警戒しながらも問いかけた。
「それが……俺に関係あるのか?」
イーヴァは倒れかけた屋根を支えながら、ふとセロのほうを見た。
「ええ。あなたが“自分を知りたい”なら、あそこへ行く価値はあると思う」
「……あんたみたいになるには、どうすればいいんだ……!」
セロは一歩前に出た。震える足を押し出しながら、イーヴァのもとへ向かう。
イーヴァは、驚いたようにセロを見たあと、ちらりと遠くに立つセロの母親のほうへ目をやり、何かを感じ取ったように静かにうなずいた。
そして再びセロに目を向けると、ゆっくりと微笑を浮かべた。
「まずは、自分を知ることから始めなさい」
その一言が、セロの中で何かを動かした。
“自分を知る”という旅路が、セロに与えられた最初の試練。
それは強くなるためではなく、「なぜ強くなりたいのか」を問い直すためだった。