第一話:夕暮れの講義
創界の片隅──平和とは言えないが、確かに日常はあった。少年セロとその母の何気ないやりとりが、やがて世界の運命を動かす小さな一歩になることを、まだ誰も知らない。
村の小さな広場に、子供たちの笑い声が響いていた。茜色の空の下、セロの母・ミレナは、半円状に集まった子供たちに向かって話をしている。
「いい? 創界には“層”というものがあるの。外側は自然と共に生きる場所。真ん中に近づくほど、より多くの魔法と知識が蓄積された文明があるのよ」
子供たちは目を輝かせて聞き入っているが、セロは木陰に座って腕を組み、どこか不満げだった。
「じゃあ、なんで俺たちはこんな辺境に住んでるんだよ。魔法の勉強だって満足にできない」
「それはね、セロ。自然と共に生きることも、魔法と同じくらい大事なことなのよ」
「言い訳だ。強くなければ、何も守れない」
ミレナは一瞬悲しげな目をしたが、すぐに柔らかく微笑む。
「……創界には“創造階層”と“調和階層”、そして“理力階層”と呼ばれる区域があるの。 その中心にある核……そこに近づくほど、秩序光に触れられる可能性が高まる。でもね、光が強くなれば、影もまた濃くなるのよ」
その言葉に、セロは何かを感じたように眉をひそめたが、やがてそっぽを向く。
「俺は創界の中心に行く。そのためには……力が要る」
ミレナはその背中を見送りながら、小さくつぶやいた。
「……セロ。きっといつか気づくわ。光を超えるために必要なのは、力じゃなく――心のあり方だと思うわ」
第一話では、セロと母ミレナの価値観のすれ違い、そして創界の構造が描かれました。ここから、彼が何を信じ、何を選ぶかの物語が動き出します。次回はいよいよ、村の外での気配が動き出します──。