それじゃ、カフェ行こ!
朝練頑張ってるなー。いつも走ってるけど、疲れないの?
登校する際に通る校庭を、フェンスの外側から何気なく見ながら、西条遥は校門に向かって歩いていく。
遥が見ていたのは、同じクラスの男子、鏑木将人である。サッカー部の体育会系男子だ。
硬派な感じが、ちょっとかっこいいかも。
「遥、おはよ!」
「おはよー凛。今日の髪型可愛いね」
校門前で友人に声をかけられ、遥は振り向きながら返事をする。
長い髪をお団子にしてたり、三つ編みにしてるのも可愛いいけど、自然なゆるふわパーマ、可愛いなぁ。
「え、そう? 遥すきー!」
凛に抱きつかれながら、下駄箱まで歩く。
◆◆◆
「今度カラオケ行きたいー」
「何歌いたいの?」
「それよりカフェ行きたい」
「じゃ、カフェ行ってからカラオケ」
昼休み、凛含めた友人たちと机を囲んで、取り留めのない会話をする。
「いつ行く?」
昼休みでも走ってる。そんなにサッカーが好きなの?
友人との会話に交ざりながらも、遥は窓から校庭を覗き見て、疑問に思う。
授業中は真剣にノート取ってるし、勉強と部活、両立できるとこ好感持てるなー。
「はーるか! 何見てるの?」
「外に誰かいる?」
「遊んでる男子多数はっけーん」
「もしかしてー。気になってる男子でもいるのー?」
うわ。みんな鋭いな。ちょっと見てただけなのに、そんな分かりやすかった?
「気になるっていうか、自然と目が行く感じ」
そう、なぜか目で追ってしまう。彼が何事にも真面目に取り組んでるからかな?
自分でも分かんないや。
「ええ!? それって誰のこと? 遥が取られちゃう!」
凛が「嫌だー!」と叫びながら、腕に飛び込んできた。
大げさだよ。それに私は物じゃないぞー。
「……鏑木君」
好きな人ってわけじゃないから、言ってもいいか。
「か、鏑木!」
「男子としか連まない、あの」
「難易度たっかい!」
「無愛想な対応に、何人の女子が玉砕してったのか分からない、あの男子か」
鏑木君のこと、気になる女子多いんだ……。知らなかった。いやでも私、彼のこと好きってわけじゃないし。目が追っちゃうだけだから。
「真正面から行っても当たって砕ける」
「将を射んと欲すれば、まず馬を射よだったっけ」
「周りの男子を含めて遊びに誘うべし!」
「てなわけでー。今日の放課後、黒崎君に声掛けておいでー」
みんな私のことでなんでこんな必死なの!? 鏑木君のこと好きだって言ってないのに! と言うか、黒崎君って、放課後よく花壇の手入れしてる、物静かな男子のこと?
「なんで黒崎君なの?」
鏑木君と黒崎君、友人同士らしいのは見てれば分かるけど、鏑木君、大抵の男子と仲良いからなぁ。
黒崎君に確定してるのはなぜ?
「あの二人は幼なじみらしいから!」
「黒崎君を誘えば絶対、鏑木君もくる」
いやそれ、黒崎君に失礼だよね……。本命のための足がかりにするってことでしょ? なんだか気が乗らないなあ。
凛たちの視線が痛い……。どうしよ。あ、そうだ。
「じゃあ、誘ってみるよ」
黒崎君の手伝いをして、そのときに詳細を話せばいいのかも。
「わー。頑張って!」
「成功したら教えてねー」
遥は友人に曖昧に微笑み、内心ため息をついた。
私ってなんでこんな流されやすい性格してるんだろ。
嫌んなるなー。
◆◆◆
放課後、下駄箱のそばにある花壇で黒崎君は、花の世話をしていた。
いつも横目で見て、素通りするだけだから、いきなり声かけても、断られるかも。
それならそれで、失敗の報告ができるかな。
「黒崎君、急に話しかけてごめんね。花壇の手入れ、気になってて! つきあう?」
「ありがとう。よろしくお願いします」
黒崎君は少し考えたみたいで、しばらく沈黙した後、そう返事をしてくれた。
許可してくれるんだ。これなら、手伝いながら話ができる!
「黒崎君って、鏑木君の幼なじみなの?」
「そうだけど。もしかして、将人に用事でもある?」
おっと、これは、慣れた反応! 鏑木君目当てで、黒崎君に話しかける人、多いんだな。
「ごめん、失礼だったよね。でも! 手伝おうって考えたのは嘘じゃないから」
「将人にどんな用事?」
あ、スルーされた。怒らせちゃったかなあ。
「友達と話してて、みんなで今度遊びに行かない?」
「将人だけじゃなく?」
「そう! クラスのみんなで! 男子を誘ってくれると嬉しいんだけど、どうかな?」
どうせ遊ぶなら、スマホでクラスの女子、みんな誘ってみよう。
黒崎君には男子を誘って貰えばいいよね。
「分かった。誘ってみるけど、いつ遊ぶの?」
◆◆◆
クラスのみんなで遊ぶ予定の休日。待ち合わせ場所に指定した駅前の広場には、遥と鏑木君の姿しかなかった。
集合場所に、鏑木君しかきてないってどういうこと……?
時間とっくに過ぎてるよ!? 気まずいんだけど!
図られた? でも誰に?
ポニーテールにした髪を弄りながら、チラリと鏑木君を見る。
彼は遥の隣に立ちながら、どこか遠くのほうを眺めてるようだった。
何見てるんだろ?
視線を辿ると、スポーツ用品店が目に入る。
サッカーシューズとか欲しいのかな。
どうせ誰もこないみたいだし、みんなを待ってても仕方ない。
「鏑木君。あそこのお店、一緒に行こ?」
「あそこの店って?」
「スポーツ用品店だよ。行きたいんじゃないの?」
「西条さんって、人のこと、よく見てんだな」
感心されても……。結局、行きたいの? それとも行かなくていいのかな。
「鏑木君がそう思うなら、そうなのかもね」
私、目に入る人のことしか見てないし。
「俺、そういうとこ、いいと思う」
そういうとこって、どういうとこ!? ……鏑木君って、思ってたより、天然なのかな。
「分かんないけど、ありがとう」
「……西条さんって、天然なんだな」
はいっ? 天然って自然体ってことだよね? 私、結構頑張って考えてるんだけど。
鏑木君って謎だなー。
「スポーツ用品店行くよね?」
「いや、西条さんが行きたい場所に行こう」
やばい、鏑木君の考えが読めな過ぎて、笑えてきた。
「それじゃ、カフェ行こ!」
「分かった」
彼が頷いてくれたので、思う存分、カフェで話してみよう。
お読みいただきありがとうございました。