第1章: 1ミリも許されない世界
目を覚ました瞬間、ユウキは自分が見知らぬ場所にいることに気づいた。周囲は、何とも言えない異質な雰囲気を漂わせていた。いつもの部屋とはまったく違う空間、天井が異常に高く、壁が無機質な金属でできている。ユウキは目をこすり、立ち上がろうとしたが、すぐに強い頭痛が襲ってきた。
「う…うっ!」
息を呑んで頭を押さえたその時、周囲の様子が一変した。異様な音が鳴り響き、目の前に現れたのは一人の兵士だった。彼の胸に輝くバッジには、英語で書かれた文字が並んでいる。
「ユニタリア単位取締隊、計量法違反者。お前は即刻逮捕する。」
ユウキは状況を把握する暇もなく、その言葉を聞いた。
「計量法…?」
何のことだろうと頭をひねる間もなく、その兵士が放った一言が彼を冷や汗で満たした。
「ヤードポンド法を使わない者は、この世界では生きていけない。」
その言葉に驚愕するユウキ。
「ヤードポンド法…?」
思わず呟いたその瞬間、ユウキは自分が転生してしまったことを自覚した。この世界では、どうやらヤードポンド法という単位が絶対的な支配を持っているらしい。メートル、センチメートル、キログラム、摂氏、そしてミリ…すべての単位が違法とされている世界で、ユウキはまさに**“単位法違反者”**という扱いを受けているのだ。
「お前、メートルを使ったな? それが命取りだ。」
ユウキの記憶が掻き乱される。確かに、彼は日常的にメートル単位を使っていた。自分がどれほどメートルに依存していたか、そこで初めて実感する。その一歩踏み外すだけで、命が危険に晒されるというのだ。
兵士がユウキに歩み寄り、その手が迫る。
「待ってくれ!」
ユウキは思わず叫んだ。だが兵士の反応は冷たかった。
「反抗する者には、もっと厳罰が下るだけだ。」
その瞬間、ユウキの脳裏に疑問が浮かぶ。
「でも、どうしてそんなにも…計量法にこだわるんだ?」
その疑問に兵士は、少し意外そうな顔をして答えた。
「単位が違うということは、すべてが無秩序で、バランスを欠いてしまうからだ。ヤードポンド法こそが、世界を正しく保つ唯一の方法だ。」
ユウキの目が見開かれた。この世界では、単位の使い方がすべての基準となり、社会の秩序が保たれているというのだ。ヤードポンド法を守らなければ、秩序を乱すものと見なされ、捕まるか、最悪の場合は命を失うのだ。
「でも、それじゃ俺は…」
ユウキは困惑する。自分がどんなに努力しても、常にメートルやキログラムを使っていたことが、すでに違法行為だった。そんな世界で、どうやって生き抜けばいいのだろうか?
そのとき、兵士がユウキを捕まえる直前に、一人の人物が現れた。その人物は、兵士の前に立ちふさがり、低い声で言った。
「やめなさい。こいつはまだ分かっていないだけだ。」
兵士はその人物に対して不満げに言った。
「でも、この者は明らかに計量法違反者です。」
「それでも、この場で裁くことはない。彼には他に選択肢がある。」
その言葉に、ユウキは驚きと疑念の入り混じった表情を浮かべる。
「選択肢? いったい…?」
その人物はユウキに近づき、ひときわ厳しい目で彼を見つめた。
「お前がここで出会うべき者だ。来い。」
そのままユウキは、兵士の制止を振り切ってその人物と共に歩き出すことになる。この時、ユウキはその人物が示す「選択肢」が、単位法を破る方法を教えてくれるのだろうと、直感的に感じ取っていた。
こうして、ユウキの新たな冒険が始まるのだった。