イベント好きな幼馴染
「さようなら」
彼女は寂しそうな表情でそう言うとどこかに歩いていこうとしてしまう。
待ってくれ、さよならってどういうことだ、僕は叫びながら僕は手を伸ばすのだが、声は出ず体は動かない。そうして彼女は僕の前から完全に姿を消してしまった。
そこで僕は目を覚ましていままでのことが夢であることを悟った。
「なんだってこんな日にあんな夢を……」
僕は頭を振るとそう呟く。今日は4月1日。高校の入学式の日だった。
先ほど夢に出てきた幼馴染の佐伯ハルと同じ学校に受かり、今日から通うことになっている。そんな日になんだってあんな夢を見たのだか。
両親と一緒に高校へと向かう道すがら、僕はハルのことを考えていた。彼女はイベントごとが大好きで、どのようなものでも全力で乗っかるタイプである。ということは、今日この日、つまり4月1日にもなにかしらを仕掛けてくるはずだ。
そう考えていたのだが、高校に着くまで彼女からはなんのアクションもなく少し意外に思っていた。
入学式でクラス分けを確認し、そこで僕はハルと同じクラスであることを確認した。これで小学校から数えて10年近く同じクラスである。
これに関してもハルはなにかを言うんだろうな、と思いながら教室に向かう。教室には既に半分ほど人が座っており、少しざわついている。そのまま周りの人と話をしながらハルを待っていたが、なかなか姿を現さない。
どうしたのだろうと心配していると、ついに入学式が始まる時間の直前になってしまう。一つだけ不自然に空いている席に胸騒ぎを覚えていると、入学式が始まる時間になってしまった。
どうしたのだろう。
そんな僕の気持ちは関係なく入学式は滞りなく終わり、もはや帰宅するだけとなってしまった。
今朝見た夢と入学式に姿を現さなかったハルとを合わせて僕は嫌な想像が止まず、両親に頼んで帰りにハルの家へと寄ってもらうことにした。
しかしハルの家には誰もおらず、散歩をしていた近所の人に話を聞いてみると今朝早くになにか事故があったらしい、ということだけが分かった。
嫌な予感がピークに達した僕は居ても立ってもいられず、ハルの両親に電話をかける。するとすぐに出てくれて、そして疲れたような悲しげな声でいまいる病院を教えてくれた。
嫌な想像と今朝夢で見た「さようなら」が頭の中でぐるぐると回り、何時間にも思えるような移動を終えて病院に着いた僕を出迎えたのは……。
「えっ、わざわざ来たの?」
挫いた足を松葉杖で庇って歩いている驚いた顔のハルだった。ハルの両親は僕の顔を見るとため息を吐いて言った。
「娘はね、わざわざ今朝早くに君にエイプリルフールの嘘を吐きに行こうとして自転車に乗ったけど転んでしまってね。入学式の日になにをやっているんだと叱っていたところなんだ」
その言葉を聞いて照れたような、恥ずかしそうな表情でハルは頭を掻くと「お恥ずかしい」と呟いた。
そして僕の顔を見るとこう言った。
「エイプリルフールなんて一大イベントを外すなんて、イベント好きの名折れだよね」
まだそんなことを言ってるのか、と彼女の両親に頭をぺしりと叩かれているハルに、僕はこう答える。
「いいや、エイプリルフールは大成功だよ」
僕以外の全員がよくわからないという表情をしていたのがなんだかおかしかった。
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