93.最後の宝具
『翌朝』
ジャブジャブ ベチャ
盗賊「おお濡れた濡れた…こりゃ乾かすのに時間掛かっちまう」ヌギヌギ
女ハンター「…」ジロリ
盗賊「なんだ置いてかれてヘソ曲げてんのかぁ?」
女ハンター「別に…」シラー
盗賊「小降りになって来たからお前も外出歩けるぞ?」
女ハンター「雨が止んでからにするわ」
盗賊「そうか…ちっと横になりたいんだが…」
女ハンター「そっち側が空いてるでしょう?」
盗賊「そうツンケンすんな…城ん中の事情を聞けて来たぜ?」
女ハンター「じゃぁ早く言って」
盗賊「予想した通りお姫さんは捕らわれだ…どうやら衝突回避すんのに自分で捕らわれになった様だ」
女ハンター「その人はルイーダ?」
盗賊「名前で呼んで無いから分からんのだが多分そうなんだろう…他に居る姫ってのが何処にも居ないとか騒いでたな」
女ハンター「魔導士達の要求とか目的は何なの?」
盗賊「城門前で揉めてた通り魔法を返還しろとゴネてる…折り合い付かんもんだからお姫さんが捕らわれになってなだめてる感じだな?」
女ハンター「なだめてるって…」
盗賊「どうやらな?魔導士達はその昔のルーシェ王がやろうとしてた理想郷を作るのが目的みたいだ…」
その理想郷ってのをシン・リーンの地下に有る古代遺跡で模してるらしい
そこにフィン・イッシュ沖でサルベージした黄金を運んでた訳だ…
ほんでその黄金の量が半端ないんだとよ…黄金郷ってのをもう一回作ってた訳だ
だが完成させる為には黄金をサルベージするのに魔法が必要なんだ
盗賊「それがゴネてる主な理由って訳だ」
女ハンター「そこまでして理想郷を作ろうとする目的が分からない」
盗賊「それは話に出て来て無いから分からん…まぁ兎に角魔導士達はその理想郷ってのに執着してる」
女ハンター「でももう魔法はこの世に存在しない…だから折り合いが付かない訳ね」
盗賊「そういう事だ…ほんで話には続きが有ってな?」
時の王と呼ばれたルーシェ王は大昔にメデューサの生き血を飲んで永遠の命と魔力を手に入れたそうだ
そしてその時に瞳が赤く染まった…これが紅玉の眼をもつ由来だ
結論を言ってしまうとルイーダも紅玉の瞳を持ってる…魔力を受け継いでるって事らしい
そんで魔導士はルイーダの生き血を飲んで魔力を手に入れようしてんのよ
盗賊「てかもう既に生き血は飲まれた様だな…その条件をルイーダが了承したって事だ」
女ハンター「じゃぁルイーダは既に亡くなった?」
盗賊「それじゃ死んだ血になっちまう…ギリギリ死なん様に生かされとる様だ」
女ハンター「この国の姫に対してそんな扱いが許されると思えない…そもそもそれで魔法が使える様になるとも思えない…」
盗賊「当然魔術師は反発してる…だがルイーダの行いを理解してる様で従ってるんだ…魔術師にとってルイーダは既に神扱いだな」
女ハンター「それでルイーダは今何処に?」
盗賊「そら聞けて無え…でもな?魔術師もただ黙ってる訳でも無さそうだぜ?」
女ハンター「姫を人質にされて何か出来る事でも?」
盗賊「地下の古代遺跡で作ってる理想郷ごと魔導士を封じ込めるのを画策してる…開かずの扉を閉じちまうんだとよ」
女ハンター「彼らの夢を手土産に…」
盗賊「俺等はやっぱ何も出来る事が無えな…国の内部事情にわざわざ関わる事も無い」
女ハンター「シン・リーンのお宝は?幻惑の杖は何処に?」
盗賊「そういうのをどうこうする話をしてないもんだから聞けて無い…まぁ今は内部抗争の話ばっかりだな」
女ハンター「情報収集は引き続き必要な様ね…次は私が聞き込みに行って来る」
盗賊「何処に行く気よ?城は俺じゃ無いと入れんぞ?」
女ハンター「この国の衛兵隊長には話が出来るかも知れない」
盗賊「お?リカオンの知り合いだった奴か…ほんじゃ一応ミルクも連れて行け」
女ハンター「そのつもり…アランより危険な真似はしないから心配しないで」
『小雨』
シトシト パラパラ
狼女「ラス!ライフルは持って行かなくて良かったか?」シュタタ
女ハンター「戦いに行く訳では無いから…下手に持ち歩いて怪しまれない方が良い」
狼女「ミルクはプラズマ銃を持って来ちゃったぞ」
女ハンター「それは小さいから見えない様にしっかり隠せる…ライフルは砲身がはみ出して隠せないから持ち歩けない」
狼女「そうか…じゃぁもしもの時はミルクが頑張らないとな」
女ハンター「大丈夫よ…ライフルは無いけれどリボルバーなら持ち歩いてるから」---弾丸はあと20発程度---
狼女「雨は止みそうに無いな?遠くの匂いが分からん」キョロ
女ハンター「耳の方は?」
狼女「耳は大丈夫だけど水の音がやっぱりうるさいな」
女ハンター「野党に襲われるかも知れないから気を付けておいて」
狼女「ミルクを襲うと思うか?」
女ハンター「襲われるとしたら…私の方か…」キョロ
狼女「やっぱり雨で出歩いてる兵隊が少ないから危ないかも知れんな…」
女ハンター「人の多い場所へ急ぎましょう」スタスタ
『シン・リーン城門』
止まられーい!!
門番「城門は閉門中だ…何用で参ったか?」ジロリ
女ハンター「これを衛兵隊長に渡して貰いたく…」パサ
門番「ムム!書簡の内容を確認させて貰うが?」
女ハンター「構いません…では…」
門番「待てい!!顔を確認するからフードを下ろすのだ」
女ハンター「…」ファサ
門番「ムムムム!!その鼻…噂に聞く傭兵団の者か?」
女ハンター「だとしたら何?」ギロリ
狼女「ラス!なんかマズい事にならないか?」ヒョコ
門番「ムムムムムム!!子連れ…」
女ハンター「悪いけど…ロストノーズとは関係無いとだけ言っておくわ…」
門番「ムムムムムムムム!!その名を知って居てますます怪しい…」
女ハンター「こっちも間違えられて迷惑してる…顔を隠す理由なのだけれど理解出来る?」
門番「ううむ…しかし子連れと来たか…」
狼女「ラス!面倒が起きる前に退散した方が良いぞ」グイ
女ハンター「その書簡には待って居る場所を記しているから逃げる訳では無いわ?行っても?」
門番「マテマテ…内容を確認させて貰う」パサ ヨミヨミ
女ハンター「納得した?」
門番「白狼の遣い…だ…と?」
狼女「おいラス!行くぞ!!」グイグイ
女ハンター「その書簡が衛兵隊長の手に渡らなかった場合は相応の対応が有るとだけ警告するわ…では失礼」スタ
門番「…」---まさかここに来て勇者が現れるのか?---
『街道』
スタスタ
狼女「ラス!さっきのはマズいぞ…城門の上から弓で狙われてた」
女ハンター「知ってた…でも避ける自信もあった」
狼女「ラスもアランみたいに消える技とかあるのか?」
女ハンター「他の人より先に動ける事に気付いただけ…あの距離なら撃たれるの察知してからでも避けるのは間に合う」
狼女「意味が分からん」
女ハンター「矢は飛んで来るのが遅いから見て避けられると言う事よ」
狼女「おお!それはスゴイな」
女ハンター「アランには内緒…勝てなくなってしまうから」
狼女「分かった…それで今から何処行く?」
女ハンター「冒険者ギルド…ルイーダの酒場と言う場所よ」
狼女「おお知ってるぞ!ハハが大暴れした酒場だと聞いてる」
女ハンター「今ミルクちゃんに暴れられては困るから大人しくしておいて」
狼女「それは分かってるが…悪口が聞こえたらガマン出来ん事もある」
女ハンター「フフ…」---多分リカオンさんが色々問題を起こすのは耳が良かったせいね---
『ルイーダの酒場』
ワイワイ ガヤガヤ
ルイーダの酒場へようこそ~!ここは出会いと別れの酒場です~!クエストの受注は受付の方で~!
狼女「ふむふむ…ここでハハが暴れたのか…ふむふむ」キョロ
女ハンター「待ち合わせはそこの窓際にしてあるから酒場から出ない範囲で自由にしてて良いわ」
狼女「ちょっとランカー冒険者の装備品を見て来るぞ」シュタタ
女ハンター「揉め事はダメよ?」
ザワザワ ザワザワ
ムン・バイに行ってた奴らが気球で逃げ帰って来たんだが散々だったらしいぞ
結局クエスト失敗?
人数分の給金は出るみたいなんだが戻って来た奴もゾンビみたいに干からびててな?
それじゃ治療代でまたお金使っちゃうね
兎に角エルドリッチ討伐はダメだ!手に追えん
女ハンター「…」---エルドリッチ---
---完全に頭から抜けてた---
---魔術師が魔法を使えなくなったとしたら封印も出来ない筈---
---ルーデウスの髑髏の杖で操られてしまっては大変な事になる---
ズズーン!! ドドドドドーン
女ハンター「え!!?」---この振動は榴弾の炸裂音---
ザワザワ ザワザワ
おお!?昼間から魔導士が何処かに隕石降らしてる様だな?
ねぇどうして魔導士だけ魔法を制限されて居ないのか知ってる?
知らんなぁ?俺達冒険者が勝手に使ってる魔法が邪魔だったりするんじゃ無いのか?
女ハンター「ちょっとどいて!!邪魔!!」グイ
冒険者「おい押すな!!誰だお前は!?」
『外壁の上』
タッタッタ
女ハンター「はぁはぁ…」ダダ
兵隊「おいお前!!一般人は此処に上がって来るな!戻れ!!」
女ハンター「さっきの爆発音は何処!!?」キョロ
兵隊「聞いて居るのか?外壁の上は立ち入りが禁じられている!下に降りるんだ!!」グイ
女ハンター「見つけた!向こうの森で煙…あの数は焼夷弾を使われてる…」アゼン
兵隊「お前…この攻撃の事情を知って居るな?」
女ハンター「町を燃やしに来てる…あの砲弾が町の方に落ちてしまったら火災を消す事が出来ない!」
兵隊「雨が降って居るのにか?あの攻撃は何処から撃たれている?」
タッタッタ
兵隊「おい待て!そっちは射手の邪魔になる!下に降りるんだ!!」
女ハンター「はぁはぁ…」タッタッタ
---定点砲撃で当たらないから有視界に切り替えた---
---湿度が高いせいで火薬の燃焼が悪い…だから手前で落ちる---
---次の砲撃で修正してくる筈---
---雨をもっと降らせられれば被害は最小限---
---早く!!---
タッタッタ
『小屋』
ふごーーーーー んがががが
盗賊「ふごーーーー」zzz
女ハンター「有った…この杖を使えば…」フリフリ
ドーン!
女ハンター「4発目…今度は不発…」---やっぱり湿度が高くてうまく着火してない---
女ハンター「…」---このまま無駄撃ちを誘って居れば砲弾も無くなる筈---
女ハンター「…」---雨が強くなって引いてくれるか---
女ハンター「…」---それとも強行でもっと接近してくるか---
女ハンター「ちょっとアラン!起きて!!」ゲシゲシ
盗賊「ふが?」パチ
女ハンター「緊急事態…戦車からの砲撃が始まったの」
盗賊「なんだとぅ!?」ゴシゴシ
女ハンター「砲弾の種類が分かったわ…榴弾では無く焼夷弾…延焼を狙ってるみたい」
盗賊「どっから撃ってるか確認出来るか?」
女ハンター「森の中だから分からない…でも定点から切り替えて有視界で撃って来てると思う…だから山手側」
盗賊「ほんな足場の悪い所から満足に当たらんのじゃ無いのか?」
女ハンター「そんなの知らないわ…兎に角直に異形の魔物が攻めて来ると思うから準備して」ゴソゴソ
盗賊「準備つってもな…」
女ハンター「私は後方から援護射撃…アランはバヨネッタを使って中距離…手榴弾は周囲に被害が出るから使わないで」
盗賊「なんだそんな状況になろうってのか…」
女ハンター「西の外壁よ…焼夷弾撃たれて煙が出てるから直ぐに分かる…先導して」
盗賊「ポーション忘れんな?行くぞ!!」ダダ
『街道』
ぎゃぁぁぁ 魔物がぁぁ 助けてくれぇぇ
盗賊「外門から内側に入り込まれてんじゃ無えか…」タッタ
女ハンター「異形の魔物3体目視…屋根に上がってる」チャキリ
盗賊「こりゃ全部で10体ぐらい居そうだ…」
女ハンター「負傷させれば下がって行くからバヨネッタしっかり当てて行って」
ターン!!
女ハンター「ヒット!!」ガチャリ
盗賊「援護頼むな?」ダダ
シュタタ シュタタ
狼女「ラス!!何処行ってたんだ!?大変な事になってるぞ!」
女ハンター「無事だったみたいね…ミルクちゃんは私から離れないで周囲を警戒して」
狼女「それどころじゃ無い…敵もプラズマを使うぞ!」
女ハンター「ええ!!?」
狼女「門の外だ…壁を壊すつもりなんだ」
女ハンター「しまった…異形の魔物に銃器が渡って居る可能性を忘れてた…」
チュドーーーーン!! パラパラ
狼女「また始まった…中に入って来てるのは囮だ!外に要る奴を倒さんとダメだぞ」
女ハンター「急いでアランにそれを伝えて来て」
狼女「分かった!!」シュタタタ
『乱戦』
シュンシュン! カンカン! バキィ!!
アーチャーを盾で守れぇ!!魔法どうした魔法!!
もう魔石が無い!!
ええいクソ!!屋根の上じゃ接近出来ない
弓に切り替えろぉ!!
ターン!
異形の魔物「ぐぁ…」ゴロゴロ ピュー ドサ
冒険者「落ちてきた奴を切り刻めぇぇ!!」ドドド
負傷した奴を建屋の中に引きずって行けぇ!!
ドドーン ズドドドドドドドドーーン
冒険者「クソう…あの隕石は誰が降らして居るのか…」
煙を吸い込むなぁ!!アレは毒だ!!げふっげふっ!!
魔術師は何処行った!!?何故戦わない!!?
『ハイディング』
スゥ…
盗賊「くたばりやがれ…」タタタターン
異形の魔物「ぐはぁ…だ…誰だ…」タジ
盗賊「至近距離から食らって弾が貫通せんか…こいつはどうだ?」ダン!!
ブシュ!! ボタボタ
異形の魔物「おのれぇ!!」ブン
盗賊「おっと危無え…」ヒラリ
異形の魔物「このぉ!!」チャキリ
スパッ!! ボトリ
盗賊「悪いがお見通しだ…こいつは頂くな?」チャキリ
異形の魔物「ゲフゲフ…さてはお前…機動隊の者だ…な?」
盗賊「そんな時代も有ったが…お前等外道は知らんでもいい…精々苦しめ」
スゥ…
異形の魔物「消え…」ガクリ
異形の魔物「うおぉぉぉぉ!!ルーデウス!!早く…輪廻を…復活さ…せろ」ドタリ
『土砂降り』
ザザーーー ガガーン! ゴロゴロゴロ
狼女「敵が引いて行ったな…爆弾もしばらく振って来てない」
女ハンター「ちょっと被害が大きかった様ね…倒せたのは5体くらい…」
狼女「こっちも多分もっと死んでるぞ…怪我してるのは数え切れんな」
女ハンター「アランは何処へ?」
狼女「分からん…外に出て行ったとは思う」
女ハンター「プラズマの爆発音が無くなったという事は無事に防いだと言う事ね…」
狼女「でも外壁の一部が崩れてて異形の魔物ならまた入って来るかも知れん」
女ハンター「壁を崩す目的はゾンビを一気に侵入させる為だからまだギリギリセーフ」
狼女「次はゾンビが来るか…」
女ハンター「数万とか…もしかしたら数十万とか…そんな数が攻めて来たら防げると思う?」
狼女「ん?両手と両足の指よりも多いのか?」
女ハンター「フフ…考えるだけムダね」
狼女「そうだ面白い噂話が聞けたぞ?」
女ハンター「面白い?」
狼女「雷が落ちた跡に大きなキノコが生えたらしい…家よりも大きいみたいだ」
女ハンター「キノコ…」
狼女「キノコが食べ放題になるぞ…もっと言うとそこら中にキノコが生えて来てる」
女ハンター「そういえばカゲミがキノコについて熱く語ってた…」
狼女「何の話だ?」
女ハンター「キノコが輪廻の仕組みになるとかそういう話…もしかしてゾンビをキノコに変える事が出来るかも知れない…」
狼女「お?ゾンビじゃないけどお墓に入る人は口からキノコが良く生えるらしい…チチが言ってた」
女ハンター「キノコに生まれ変わった?」
狼女「それは分からん…でもお墓の周りに生えるキノコは大きくてウマイみたいだ」
女ハンター「やっぱり…カゲミの言ってることが理解出来た…アーカイブと同じ仕組みが既に有ると言う事ね…」
狼女「キノコがか?」
女ハンター「アランが持ってる雨雲の杖をもう少し試さないといけない…」
狼女「もうすぐ戻ってくるぞ…とりあえず雨でビチャビチャだから何処かの建屋に入らないか?」
女ハンター「あ…酒場で待ち合わせてるんだった…行かないと…」
『ルイーダの酒場』
ザワザワ
痛てぇぇ…矢尻が残ってて動く度に痛む…
何処かに手術できる医者は居ないかぁ!?
うるせぇそれどころじゃ無え!!ウチの僧侶ちゃんが直撃食らって…死ぬなぁぁ!!
狼女「足の踏み場も無いな…」ピョン シュタ
女ハンター「避難所になってしまった…待ち合わせの意味が…あ!!」
スタスタ
衛兵隊長「やはり君だったか…連れの子はリカオンの?」
女ハンター「良かった話が出来て…」
狼女「この爺ぃがハハの仲間か?」
衛兵隊長「確かにリカオンにそっくりだ…アランクリードだったか…彼は一緒では無いのか?」
女ハンター「一緒だけどさっきの襲撃で外に出てしまった」
衛兵隊長「まぁ仕方ない…取り急ぎ君達に託したい物がある」
女ハンター「託す?」
衛兵隊長「話せば長い…まずコレを」スチャ
狼女「お!?これは破壊の剣だ…」
衛兵隊長「これは今シン・リーンに残って居る最後の宝具だ…俺達ではどうしてもこれを破壊する事が出来ない」
女ハンター「託すと言うのはどういう理由で?」
衛兵隊長「ルイーダからすべての宝具を破壊せよと命じられて最後にその剣が残った…魔王に奪われる前に必要な人へ託したい」
女ハンター「必要な人と言うのはアランの事?」
衛兵隊長「次の世代の勇者達…ルイーダはそう予言して居る」
女ハンター「ルイーダは無事?」
衛兵隊長「君達は事情を既に知って居ると思って良いのだろうか?」
女ハンター「内輪でゴタゴタしているのも含めて一通りは知って居ると思う」
衛兵隊長「ふむ…無事かと言われると…無事では無い」
女ハンター「生き血を飲まれて居るのだとか…」
衛兵隊長「それだけでは済まない…直に眼をくり抜かれ…その身をサクリファイスで食われる」
女ハンター「ええ!?そんな生贄みたいな扱いされて放って居るの?」
衛兵隊長「悪魔に身を捧げるとはそういう事なのだ…魔術師が持つ業をルイーダ一人で背負って居る…魔王と戦って居るのだ」
女ハンター「戦って居る?魔王は何処に?」
衛兵隊長「すべての人間の心の中に潜む…魔導士達が猜疑心に支配されたのも魔王のせいだ」
衛兵隊長「ルイーダは潔白を示す事で魔導士を支配した猜疑心を祓おうとしている…そうやって魔王と戦う」
女ハンター「死んでしまっては意味が無いし…アーカイブの存在を知って居るルイーダならすべて意味が無いと分かる筈」
衛兵隊長「少なくとも俺を含め魔術師達はルイーダのその姿勢を見て魔王とは何なのか理解した…これはルイーダからの教えだ」
女ハンター「開かずの扉を閉めてしまうと言う話は?」
衛兵隊長「フフそこまで知って居るか…そうとも…ルイーダの命令に反して彼女を守ろうとする動きもある」
衛兵隊長「ただこれは魔導士達が納得する形で終わらないと意味の無い物になってしまう…再び魔王の一部になってしまうから…」
女ハンター「なんだか事態が収拾しそうにない…」
衛兵隊長「その通り…内部でゴタゴタしている間に異形の魔物に攻め入られる始末…だから君達に託したいのだ」
女ハンター「託す託すって…何をすれば良いのか分からない」
衛兵隊長「簡単に言うと敵を退けて欲しい…ルイーダ無しのシン・リーンは既に国として体を保てない所まで来ている」
女ハンター「だったら尚の事ルイーダを守らなければ…」
衛兵隊長「ルイーダが戦って居る相手は人間の心の中に住む魔王だ…逃げ出さずに立ち向かう事に意味がある…分かるか?」
女ハンター「進む道を示す光になろうと…」
衛兵隊長「そういう事だ…魔に屈するなという強いメッセージなのだ…」
女ハンター「そう…最後に一つだけ質問」
衛兵隊長「俺が知って居る事なら何でも答える」
女ハンター「幻惑の杖…最後に持って居たのはルイーダの筈…これは破壊出来た?」
衛兵隊長「俺が破壊の剣を用いてすべての杖は処分した…幻惑の杖がどれに当たるのかは分からないが…」
女ハンター「それを聞いて安心した…もう幻惑されて居る人は居ないと見て良いのね?」
衛兵隊長「いや…幻惑は普通の魔法と違って暗示の一種…目を覚ますのは別の手段が必要だ」
女ハンター「ちょっと…それって破壊した意味が無いと言ってる?」
衛兵隊長「くすぐれば目を覚ますと聞いた事があるな」
女ハンター「そんな方法で…」
衛兵隊長「ともあれこれ以上幻惑される様な事も起こらない筈…後はルーデウスが持つと言われる髑髏の杖を破壊出来れば…」
女ハンター「そのルーデウスが目の前まで迫って来てる事を分かってる?」
衛兵隊長「うむ…しかし今はルイーダの件が優先…理解して貰いたい」
女ハンター「とりあえずもう…ルーデウスに奪われて危険な宝具は一つも残って居ないと言う事ね」
衛兵隊長「無い…」
女ハンター「宝具がもう無い事を悟られない様にしないとダメね…」
衛兵隊長「済まないが俺はもう戻らなければならない…襲撃があって尚俺が居ないのは色々マズイ」
女ハンター「わざわざ来て貰ってありがとう」
衛兵隊長「ルイーダの件は出来るだけ善処するから君達にはどうか魔物の進撃を食い止めて欲しい…よろしく頼む」
『夕方_小屋』
カクカク シカジカ
盗賊「…ほんじゃ俺等だけでルーデウスの進撃を防げってか」
女ハンター「今日の感じからすると戦車や銃器に対応できる人が他に居ない…やられる一方よ」
盗賊「くっそ!やっぱ戦車動かしとくんだったな…」
女ハンター「ここから北の港町へは気球で2日?3日?」
盗賊「行ってみにゃ分からんが山越えだ…戦車で戻って来てどんだけ掛かるんだかも分からん」
女ハンター「じゃぁ10日掛かると見込んで持ちこたえられると思う?」
盗賊「向こうの砲弾がどんくらい残ってるか次第には思うが…てかどういう想定してる?」
女ハンター「ミルクちゃん一人だけ気球に乗って港町に飛ぶ」
盗賊「おいミルク!一人で行けるか?」
狼女「任せろ…ミライの気球は動かすの簡単だ」
盗賊「怪我人治療の為にゲスを連れて来た方が良い…戦車の操作はバレンだ」
狼女「気球は置いて来て良いんだな?」
盗賊「そらカゲミ達に判断させてくれ…向こうでも入用になるかも知れん」
女ハンター「決まりね…今晩も砲撃が有るかも知れないから早めに移動を!」
盗賊「外門が閉まっちまう前に行くぞ!濡れるのはガマンしろな?」ダダ
『牛車』
ガタゴト ガタゴト
盗賊「魔物が攻めて来るもんだから近隣の村に出て行く奴も結構いるのな?」キョロ
女ハンター「兵隊達が手も足も出て居なかったからみんな危機感感じてると思う」
盗賊「まぁしゃぁ無えか…守備の要だった魔法が使えんくなっちまったし…」
狼女「魔法が使えなくなったのは皆噂してるぞ」
女ハンター「どういう風に?」
狼女「魔王が魔法を封じてるみたいな噂だ」
盗賊「なるほど?それで逃げ出してる奴が出てんのな…」
女ハンター「この状況って…野党にとって格好のエサね」
盗賊「うむ…一気に治安悪くなっちまう」
女ハンター「ねぇ…そういう噂も魔王が扇動している様に思わない?」
盗賊「んあ?アーカイブ通じて噂を流布してるってか?」
女ハンター「そう…そうやって守備に回る人を減らしてる」
盗賊「そんな事言い出したら常に魔王の思い通りだわな…逆に良い噂が出て来ん方が不思議だわ」
女ハンター「ふむ…ルイーダがやってる戦いはそういう事なのかも知れない…だから彼女を救おうと言う人が出て来てる…」
盗賊「おっと?それなら主戦場にももっと人を回して欲しいがな?」
女ハンター「ミルクちゃんはまだ子供なのに一人で行くと言ってる…ミルクちゃんを動かしてる誰かの判断なのでは?」
狼女「多分チチとハハだ」
盗賊「ほう…その理屈で言うと粘ってりゃ正義の味方が現れるって事か…」
女ハンター「そういう事…今はまだ不利…でもきっと仲間が現れる」
盗賊「ようし!そこに賭けてみるか」
女ハンター「ルイーダが魔術師に説いてるのは希望の力…それが本当の魔法なのよ」
盗賊「ヌハハ今俺が言おうとした事を先に言われたわ…お前を操ってるのは誰なんだろうな?」
女ハンター「私を操って居るのは…」---誰?---
『気球』
フワフワ
盗賊「雨が降ってる時はあんま高度上げ過ぎると氷で球皮が傷む…雨が止むまで雲の上には出るな」
狼女「知ってる!大丈夫だ」
盗賊「それから風は蛇行してるから上手く計算しながら行け」
狼女「それもなんとかなる…もう行くぞ!」
シュゴーーーー フワフワ
盗賊「おいおい…あんなちびっ子が一人で行くとかやっぱ心配なんだが…」
女ハンター「随分成長したと思わない?」
盗賊「まぁ…いろいろ在ったしな?」
女ハンター「次の世代の主役になって行く…そんな気がするわ」
盗賊「ふむ…」---悪いがまだ俺の時代だ---
---まだやる事があんのよ---
---親父を超えにゃならん---
『徘徊』
ガタゴト ガタゴト
盗賊「もうこの時間は外門閉まってるから今日は中に入れんな…」
女ハンター「気球が無くなって荷車に空きが出来たのは良いけれど濡れっぱなしじゃ休めないわ」
盗賊「どっか雨だけでも凌げる場所が有ればなぁ…」キョロ
女ハンター「大きな木の影なら少しはマシ?」
盗賊「いや変わらんぞ…索敵が楽な分開けた場所の方が安全だ」
女ハンター「相手がスナイパーライフルを持ってたとしたら?」
盗賊「そんな奴見たか?」
女ハンター「見ては居ないけれど…可能性はあるかなと…」
盗賊「有るならもう使ってるぞ…プラズマの銃がやつらの隠し玉だったんだ…弾丸の補充要らんからな」
女ハンター「まだ他に持ってる可能性は?」
盗賊「だから持ってたら壁壊すのにもう使ってる筈だ…銃器は多分もう持って無え」
盗賊「加えて言うとルーデウスに付き従ってる異形の魔物も残りわずかだと思う」
女ハンター「どうしてそう言えるの?」
盗賊「俺がプラズマの銃を奪ったのを見て退却したからだ…向こうも損耗したく無い訳よ」
女ハンター「そういう事ね…じゃぁ戦車は不用意に近付いて来ない」
盗賊「だろうな?まぁ遠方から砲撃されるのはこっちからすりゃ脅威なんだが…」
女ハンター「アランなら次どうやって攻める?」
盗賊「ううむ…やっぱ壁を壊すのが第一なんだが砲弾が残り少ないとしたらどうするだろうなぁ…」
女ハンター「私なら破壊工作…それから暗殺…」
盗賊「内側に敵を送り込んで来るってか…ルーデウスにそんな事が出来る仲間が居ると思えんのだが…」
女ハンター「ルーデウスじゃなくてルーデウスを操って居る誰か…」
盗賊「おっと…アーカイブ経由で誰かを操るのか…ほんじゃ俺らは町に戻らん方が良さそうだ」
女ハンター「破壊の剣を入手しているからそれを使って塹壕を掘るとか出来ない?」
盗賊「塹壕はちっと厳しいな…木材の切り出しは簡単だから荷車をもうちょいマシにするのは出来そうだ」
女ハンター「先ずそれをやって!今のままでは何処から撃たれるのかも不安」
盗賊「分かった…ちっと大き目の切り株探すか」ガタゴト ガタゴト
『木箱の様な荷車』
ゴソゴソ ギシ
盗賊「ちっと斜め向いちまったが…雨除けと矢避けには十分だろう」
女ハンター「これがあなたの言う木箱の安心感?」
盗賊「ヌハハなんで安心になるのか謎だ」
女ハンター「これで火を起こせれば濡れた装備も乾かせるのに…」
盗賊「そんな事も有ろうかと…」ゴソゴソ
女ハンター「もしかして太陽の石を持って来てる?」
盗賊「こりゃ俺が手に入れたお宝だ…手放す訳が無え」ポカポカ
女ハンター「ふぅ…これで移動して場所を移しながら狙撃が出来そう」
盗賊「異形の魔物だけピンポイントで狙撃出来りゃかなり良い…その作戦で行くか」
女ハンター「壊れた外壁周辺をキルゾーン想定で1キロの範囲…良いアンブッシュポイント探して」
盗賊「分かってる…少しづつ陣地構築しながら行くな?」
女ハンター「陣地?」
盗賊「軽く木を切り倒して遮蔽物作って行くんだ…逃げる時に必要になる」
女ハンター「それならこの荷車の偽装もついでに…」
盗賊「そっちは任せるわ…上手い事枝使ってカモフラージュしてくれ」
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