8.英雄の一人
『キャラック船_荷室』
ユラ~リ ギシ
盗賊「んぁぁ…」パチ
中年の女「…」ジロリ
盗賊「こ…ここは…」キョロ
中年の女「船の荷室だ…」
盗賊「誰だ?お前…ぐぁぁ痛てぇ…」
中年の女「動かないで…傷が広がるわ」
盗賊「ちぃぃ記憶が飛んでんな…」
中年の女「このダガーと銃をどうした?」スッ
盗賊「そりゃ俺の物だ…返せ!」ガバ
中年の女「動かないでと言って居るでしょう?」
盗賊「返してくれ…親の形見なん…だ…うぐぐ痛てぇ…!!」バタバタ
中年の女「ファルクリード…」
盗賊「何!?なんでその名を…」
中年の女「フフ…やっぱり似ている…」
盗賊「俺の親父を知って居るのか?」
中年の女「アランと言うそうね?」
盗賊「おい!俺の質問に答えろ!」
中年の女「同じギルドだったのよ…盗賊ギルド」
盗賊「そうだったのか…お前は盗賊ギルドの者だな?」
中年の女「フフ…だったら?」
盗賊「ガキンチョの使いしか見て無ぇからな…やっと話の分かる奴に会えたわけだ」
盗賊「俺はアランクリード…泥棒だ…自己紹介したぞ?お前は誰だ?」
中年の女「なかなか良い腕をしている様ね…例の書簡頂いたわ…それからコレも」スッ
盗賊「んん?おい!!そりゃ電脳化のデバイス…そんなもん持ち歩いて全部会話筒抜けだろうが」
中年の女「大丈夫…発信機は処理してあるから」コロン
盗賊「ホッ…心臓に悪い事すんない」
中年の女「それであなた…この書簡の事をどこまで知って?」
盗賊「何も知ら無ぇよ!読めもし無ぇ!何だそりゃ?」
中年の女「ニーナから何か聞かされて居ないの?」
盗賊「半年前から殆ど会話して無ぇんだ…今回の件もそいつが取り引きの物だと知らなかった」
中年の女「そう…結果的に手に入ったのは運が良かったわ」
盗賊「おい!まだお前俺の質問に答えて無いぞ?俺は名乗ったんだ…名前ぐらい教えろ」
中年の女「そうね…まぁ良いわ…私はリカオン…白狼の一党と言えば通じて?」
盗賊「やっぱりそうか…あのガキンチョもその手の者か」
中年の女「秘密を知ったからには分かっているでしょうね?」ジロリ
盗賊「俺は何にも縛られない…だが裏切る様な事はしない…その辺はわきまえてる」
中年の女「フフ…リコルが気に入る訳ね」
盗賊「ちっと血が足りんらしい…何か食い物を持って来て貰いたいんだがよ」
中年の女「分かったわ…少し待って居なさい」スタ
--------------
『数分後』
ドタドタ
学者「兄貴ぃーー!!やっと目を覚ましやしたね?」
剣士「アランさん!!良かったぁ…」
学者「兄貴!ミライ君とリッカさんに感謝っす…兄貴が死ななかったのは2人のお陰っス」
盗賊「なぬ?」
学者「銃で撃たれて内臓やられてたんすよ…リッカさんの血とミライ君の謎の治癒でなんとか助かったんす」
盗賊「そんなに酷かったんか…」
剣士「もう一週間寝たきりだったんだよ?」
盗賊「なんだと!?俺はさっきやられたと思って…あだだだ」
学者「傷むのは俺っちの縫合痕っすね…ちっと筋肉ぶった切っちゃったもんで…」
盗賊「まぁ良い…兎に角腹減って動けん様だ…何か食わせろ」
学者「いきなり食うのは良く無いっす…今リッカさんに流動食作って貰ってるんでもうちょい待って下せぇ」
盗賊「飲み物で良いから何か腹に入れさせろ」
剣士「持ってきたよ…ワインなら良いんだよね?ゲスさん?」
学者「少しだけっすよ?」
盗賊「おぉよこせ!!」キュポン グビ
盗賊「ロボは何処行った?」キョロ
学者「兄貴の代わりに船の操舵っすよ」
盗賊「あんな重い舵をロボが動かせる訳無いだろう」
剣士「僕が舵輪に改造したよ…グルグル回す奴」
盗賊「なるほど…ロボに任せて大丈夫なんか?」
学者「先導する他の船に付いて行くだけなんで大丈夫っすね」
盗賊「船隊組んで航海してんのか…」
剣士「他の商船と合わせて6隻くらいかな?」
盗賊「なるほど…そりゃ安全そうだ」
学者「ところで兄貴がやった奴から装備剥ぎ取りやしたぜ?」
盗賊「んん?何か持ってたか?」
学者「火薬使う2連装デリンジャーっすね…あと防弾ベストとか色々持っていやした」
盗賊「デリンジャーか…隠し持つにゃ丁度良いが…弾込めに時間掛かり過ぎて使えんな」
学者「兄貴は使わんのですか?弾丸は20発くらいありやしたぜ?」
盗賊「俺は要らん…護身用でミライ辺りが持ってりゃ良いんじゃ無ぇか?」
剣士「お!?だったら分解して仕組みが知りたいな」
盗賊「使って良いぞ…防弾ベストは欲しいが俺にはサイズが合わんだろうな」
剣士「それは僕が直せるかも」
盗賊「あぁ任せる…悪い!ちっとワイン飲んで気分が悪くなって来た…横になる」ドテ
学者「あらら言わんこっちゃ無いっすね…もうちょい安静が良さそうっすね」
--------------
『デッキ』
ザブ~ン ユラ~
少女「母…アランに正体バラシて良かったか?」
中年の女「大事な仲間の遺児だったのよ…驚いた」
戦士「んん?誰の?」フリムキ
中年の女「ファルクリード…神の手を持つ男」
戦士「伝説の男…アランがその遺児か…どうだ?似て居るのか?」
中年の女「若い頃の生き写しね…いつも違う女を連れ歩いてたのが気に入らなかった」トーイメ
戦士「ハハもしかして初恋か?」
中年の女「どうかしら?…でも憧れだった…自由な生き方も…その信条も」
少女「神の手とはどういう意味だ?」ハテ?
中年の女「彼に開けられない鍵は無かったのよ…そして盗めない物も無かった…白狼の盗賊その人…」
少女「アランも同じか?」
中年の女「さぁ?…でもあの大きな手は…まだ生きている気がする」
少女「父!まずいぞ!母が浮気しそうだ」
戦士「ハハ何を言って居る…年が離れすぎだ」
中年の女「でも彼が生きていると知ってしまったからには…導いてあげないと」
戦士「導く?」
中年の女「母親が生きて居るの…上手く誘導してあげたい」
戦士「連れて行ってやれば良いだろう」
中年の女「彼が親を離れた理由を引きずって居なければ良いけれど…」
戦士「訳有りか…ふむ」
中年の女「当面盗賊ギルドで彼らの面倒を見る様に父に進言するわ…リコル…あなたにも強力してもらうわよ」
戦士「やっと俺の価値が分かって来たか」
少女「母!私も忘れるな」
中年の女「そうね…良い子ね」ナデナデ
--------------
『甲板』
ユラ~ ギシ
盗賊「おととと…」ヨロ
学者「兄貴ぃ…ちっと大人しくしてて下せぇよ」
盗賊「うるせぇ!一週間も大人しくしてたんだろうが…」
戦士「アラン!!もう動けるのか?」ノシ
盗賊「おうリコル!!どうやら世話掛けた様だ…リカオンもデッキに上がってんのか?」
少女「お前ーーー!!その名を口にするなぁ!!」バタバタ
中年の女「ミルク…もう良いのよ」
盗賊「ほーう?ガキンチョはミルクってのか…覚えたぜ?」
少女「ミルクレープだ!勝手にミルク呼ぶな」プン
盗賊「へいへい…んで?家族そろって日光浴か?」
戦士「まぁ…そんな所だ…風が気持ち良いぞ?上がって来るか?」
盗賊「いいや…家族に割入る気なんざ無ぇよ…俺の家族に心配掛けちまったからそっちが先だ」ヨロ
学者「兄貴ぃ…海に落ちちまいやずぜ?」グイ
ロボ「ピポポ…」ウィーン
盗賊「おぉ!!ロボ…心配掛けたな?」ナデナデ
ロボ「ピポポ…」クルリン
盗賊「俺も操舵手伝ってやる…んん?」スタ
盗賊「誰だ?見張り台に上がってんのは…」クル
学者「あぁ!!兄貴に教えて無かったっすね…ビックリする人がもう一人乗ってるんすよ」
盗賊「んん?女か?」
学者「シルエット見て誰か分かりやす?」ニマー
盗賊「まさか…ラシャニクア…」
学者「正解!!流石兄貴っすね!!」
盗賊「おいおいどういうことだ!?」
中年の女「傭兵で雇った…それ以上何か説明が居る?」
盗賊「マジかよ…」
学者「狙撃手が一人居るだけで安全に航海出来るらしいっす…ほんでこの船に乗ってるんすよ」
盗賊「そういやロストノーズの連中がなんか粗ぶってたんだが…」
学者「味方っすね…電脳化した機械の連中を追ってたんすよ」
盗賊「ロストノーズごと雇ってるってか?」
学者「そこら辺は分からんのですが…ラシャニクアは傭兵団抜けたらしいっす」
盗賊「ほう?なんで又…」ジー
女ハンター「…」シラー
盗賊「まぁ良い…今船に乗ってんのはこれで全員だな?」
学者「へい…8人とロボ…ほんでウルフ1匹っす」
盗賊「寝床無いもんだから俺は荷室行きか…」
学者「ベッドで寝れるのは荷室だけっすけどね…ミライ君がベッド作ったんすよ?」
盗賊「ほーん…」
学者「兄貴の荷物は全部ベッド横の宝箱に入れてあるんで後で確認して下せぇ」
盗賊「ったく俺の船だってのによ…」
--------------
『船尾楼』
ドサ ギシ
盗賊「随分家具が増えたな?」キョロ
学者「全部ミライ君の手作りっすよ…良い居室になりやしたよね?」
盗賊「本棚に書物も入って居やがる…買ったんか?」
学者「俺っちが買って来やした…測量とか航海術とか…」
盗賊「俺に読めってか…」
ガチャリ ギーー
剣士「食事持って来たよ…」ドサ
盗賊「おぉ…今度はクソ薄いスープじゃ無いだろうな?」
剣士「パンとチーズ…あとスープね…ハハ」
盗賊「肉が無ぇな…」パク モグモグ
学者「病み上がりなんでゆっくり食って下せぇ…スープは全部飲み切って下さいね…造血剤入りなもんで」
盗賊「へいへい…あぁぁやっと落ち着いた」モグモグ
盗賊「しかしなんだ…リコル家族はなかなか優雅な航海してるじゃ無ぇか…デッキで風に当たりながら酒でも飲んでんだろ?」モグ
学者「まぁ良いじゃ無いっすか…お陰で安全に航海出来てるんすから」
盗賊「今どの辺に居るんだ?」
学者「外海のど真ん中っすね…この辺りっス」ユビサシ
盗賊「んん?陸沿いにフィン・イッシュ行く訳じゃ無いのか」
学者「一旦ゴールドラッシュ島に寄って行くらしいっすよ?」
盗賊「ほぅ?ちっと遠回りだが…海賊が出ない分安全か…」
学者「今商船の中継点になってるんでメチャ栄えてるらしいっす」
盗賊「ふ~む…金稼ぎには都合良いか…」ギラリ
学者「ちょちょ…また泥棒で騒動起こさんで下せぇ」
盗賊「俺ぁもう金が無いのよ…どうせ海から金塊サルベージして潤ってる連中が居んだろ?」
学者「兄貴は船持ってるじゃ無いっすか…ちっと大人しくしてそん時に備えやしょう」
盗賊「酒飲む金も無ぇんだが…」
学者「はいはい分かりやしたよ…金貨10枚くらいで良いっすか?」ジャラ
盗賊「お?気前が良いじゃ無ぇか…」パス
学者「ウヒヒヒヒ…実はっすね…傭兵ギルドの叔母さんから餞別貰ったんすよ」
盗賊「なんだと!?あの婆ぁニーナを売ったんだぞ!」
学者「あの後ロストノーズの連中がドヤドヤやって来てっすね…色々事情を聞かれてたみたいなんすが」
学者「これで勘弁してくれって俺っちに金貨渡して来たんす」
盗賊「じゃぁ俺にも分け前有るだろうが!!」
学者「今渡しやした…俺っち10枚…兄貴も10枚…」
盗賊「だったら奢りますみたいな顔してんじゃ無ぇ!!」ボカ
学者「あたたたた…」スリスリ
盗賊「あのクソ婆ぁ…またベラベラ情報垂れ流すぞ…」ギリ
学者「もう良いじゃ無いすか…あっちの大陸にゃ戻らにゃ良い訳で…」
盗賊「まぁそうだが…残した物も多い」---孤児達もニーナの墓も---
学者「2~3年もすりゃ忘れやすよ」
盗賊「金貨10枚か…当分はなんとかなるか…」
剣士「それだけあったら3年は暮らせるよ?」
盗賊「ヌハハハ…違い無ぇ…そうだ俺らはゴミ食って生きて来たんだもんな…」
剣士「何言ってるのさゴミなんか何処にも無いよ…全部宝さ」
盗賊「よ~し!!宝探しに行くか!!」
剣士「おおおおお!!行く行く!!どんな宝があるかなぁ」ワクワク
盗賊「そりゃ箱を開けてからのお楽しみよ…箱開けは俺に任せろ」
---------------
『デッキ』
ユラ~リ ギシ
中年の女「フフ…」ニヤ
戦士「丸聞こえだな…フフ」
中年の女「まるでファルクリードの話を聞いて居るみたい…懐かしい」
戦士「不思議と周りを引き込んで行くのだな…」
中年の女「そういう男…人間らしくて正直で…裏が無い」
少女「母の初恋か?」チラリ
中年の女「憧れ…自由で気ままな生き方…それでいて暖かい所に惹かれた…喧嘩してばっかりだったのよ?フフ」
戦士「まぁ分かる…アランは良い奴だ…間違い無い」
盗賊「お~し!!肉だ肉!!甲板でバーベキューやっぞ!!」ドタドタ
学者「兄貴ぃ…肉はまだ早いですって…」
盗賊「うるせぇ!!パンとチーズじゃ満足でき無ぇ!!」
学者「またそのちっこい炉で焼くんすか?」
盗賊「ぐじゃぐじゃうるせぇな…魚持って来い魚!!今から焼くぞ!!」
剣士「食材少し切って来るね」
盗賊「おらぁぁ!!ラシャニクア!!いつまでも見張り台に居無ぇでお前も降りて来い!!」
女ハンター「…」シラー
盗賊「降りて来いっつってんだろ」ドカッ ドカッ
学者「兄貴…酒飲んでるっすか?なんでそんなテンション高い…あ!!オークの血…ハイ状態に…」
盗賊「んあ?俺は普通だぞ?」
学者「あたたた…こりゃしばらく続きそうっすね…」
-------------
『バーベキュー』
ジュゥゥゥ モクモク
盗賊「おら芋だ!!キノコも焼けたぞ」ポイ
戦士「ハハハなかなか小さな炉で頑張って居るな」
盗賊「ほらおっさん!!芋焼けてるぞ」ポイ
戦士「良いツマミだ…」パク モグ
中年の女「ラシャニクア!見張りは休んで居りていらっしゃい…豪華なバーベキューだそうよ?」
女ハンター「…」スルスル シュタ
盗賊「いよう…やっと降りて来たな?煙で燻してやろうと思ったんだが…」
女ハンター「…」ジロリ
盗賊「まぁ食え…キノコだ」ポイ
女ハンター「…」パス
盗賊「なんだ不満か?」
女ハンター「しょっぼ…」パク モグ
盗賊「なんだとぅ!!」
学者「まぁまぁまぁ…兄貴…こりゃ確かにショボイっす…」
盗賊「肉無ぇのか肉は!!」キョロ
剣士「ゴメンゴメン…鶏肉だけど…切って来たよ」
盗賊「そうよソレだ…肉がありゃ皆満足だ」ジュゥゥゥゥ
女オーク「皆さん…パンもどうぞ…私が焼きました」
戦士「頂こう…」パク ムシャ
女オーク「どう…ですか?」
戦士「砕いたナッツ入りか…中々良い」
剣士「姉さんやったね?やっぱりパンと豆は相性が良いみたい」
盗賊「おいおい肉に興味は無ぇのか?」ジュゥゥゥ モクモク
女ハンター「…」チラリ
盗賊「お前こっち見たな?骨付きだ…特別にお前から食わせてやる…ホラ」ポイ
女ハンター「…」ガブリ モグ
盗賊「ヌハハハやっぱ肉だよな?ゲス!!酒持ってこい酒ぇ!!」
学者「あいやいや…兄貴はちっと控えて下せぇよ」
盗賊「俺じゃ無ぇ!!ラシャニクアを酔わせて潰すぞ」
学者「ええ!?」
盗賊「澄ました顔してっから酒で正体暴くんだ…お前が勝負してやれ」
女ハンター「私はお前と違って暇じゃない…仕事中だ」モグモグ
盗賊「うほーやっとしゃべったぞ?」
戦士「代わりに私が飲もう…」ズイ
盗賊「リコルはさっきから飲んでるだろうが…」
剣士「ワイン持って来たヨ…」スタ
女オーク「木製のタンブラーも…」トクトクトク…
盗賊「俺にもヨコセ」グイ
女ハンター「…」タジ
盗賊「逃げんなコラ…お近づきの一杯だ」
女ハンター「だから仕事中だと言って居る…」
中年の女「付き合いも仕事よ?」
女ハンター「ちぃ…」
中年の女「あなた達…同年代なのだから仲良くなさい?」
盗賊「ほぅ?同年代だったか…そりゃ乾杯しないとな」カツン!
女ハンター「…」ジロリ
盗賊「まぁ…仲よくしようぜ」グビ ゴクゴク
女ハンター「仕方ない…」グビ ゴクリ
学者「兄貴ぃ…その一杯で終わりっすよ?」
盗賊「俺の血は酒で出来てんだ…なんて事ぁ無ぇ!!ヌハハハ」
ワイワイ ワイワイ
---------------
---------------
---------------
『夜_甲板』
ザブ~ン ユラ~
盗賊「んぁぁぁぁ…薬のせいか…全然眠れる気がしねぇな…」フラ
ロボ「ピポポ…」ウィーン
盗賊「んん?心配で見に来たんか?」
ロボ「ピピ…」ピタ
盗賊「大丈夫だ…そうそう船から落ちやし無ぇよ…」
盗賊「はぁぁぁ…しかし…夜の海ってのは本当真っ黒けだな…星の光がちっと映っては居るが…」
盗賊「落ちたら真っ暗闇だろうな…怖い怖い…」
ガサリ
盗賊「んん?ラシャニクアか?…まだ見張り台に上がってんのか?」
女ハンター「眩しい…ランプの光をこっちに向けるな」
盗賊「お前ずっと其処に居んのか?」
女ハンター「定位置さ…文句あるか?」
盗賊「そっから何が見えんのよ…真っ暗闇だろ」
女ハンター「光はある…」
盗賊「ロボ!ちっと見張り台に上がるから居室入ってろ」
ロボ「ピポポ…」ウィーン
女ハンター「来るな…ランプが眩しい」
盗賊「フーーー…消しゃ良いんだろ?こんな真っ暗で良く上がれるな…」ヨジヨジ
---------------
『見張り台』
ヒュゥゥゥ…
盗賊「風が吹きっ晒しじゃ無ぇか…凍える寒さじゃ無いが…毛皮だけじゃ寒いだろう」
女ハンター「来るなと言ったのに…」
盗賊「眠れなくて暇なんだよ…んで?どこに光が見えんのよ」キョロ
女ハンター「昔はここに登れば妖精が見えた…」
盗賊「妖精?」
女ハンター「大人になったせいか…光しか見えなくなった」
盗賊「どこよ?」
女ハンター「そこら中に…」
盗賊「暗闇にまだ目が慣れて無ぇな…」ゴシゴシ
女ハンター「今晩は新月…妖精が見える筈」
盗賊「なぬ?」
女ハンター「お前…何故人のスペースにズケズケと入って来る」
盗賊「ほんなん気にした事無ぇよ」
女ハンター「少しは気にしろ」プイ
盗賊「俺の船だから俺が何処に行こうが勝手だ」
女ハンター「ちっ…」
盗賊「ラシャニクア…戦場で聞く噂とは随分違うな?」
女ハンター「何がさ…」
盗賊「妖精追っかけてる乙女だとは聞いた事が無い」
女ハンター「なっ!!」
盗賊「ヌハハ冗談だ…戦場に行く割には随分華奢で小柄だと思ったんだよ」
女ハンター「狙撃に体格は関係無い…逃げる嗅覚と腕が有れば良い」
盗賊「なるほど…ほんで妖精探しは嗅覚磨きってか?」
女ハンター「フン!!」プイ
盗賊「…なんで傭兵団抜けたんだ?」
女ハンター「あいつ等はクズばっかりだからさ」
盗賊「ほう?でも金稼げんくなるだろう」
女ハンター「私の戦果も全部アイツらが持って行く…金なんか殆ど貰って居ない」
盗賊「なるほど…何処も同じな訳か…」
女ハンター「何処も?」
盗賊「船に乗ってるミライとリッカ…一生懸命働いても貰える金はほんの少しだった…」
女ハンター「そう…」
盗賊「お前…奴隷だったんだってな?孤児だったんか?」
女ハンター「だから何?」
盗賊「いんや…何って話は何も無い…俺もゴミ食って生きてたって言いたいだけだ」
女ハンター「…」
盗賊「キノコ美味かっただろ…ゴミん中じゃ最高の御馳走だ」
女ハンター「肉が美味かった」
盗賊「ケッ!!そこはキノコ美味かったって言う所だろ…分かって無ぇな」
女ハンター「お前…変な奴だな」
盗賊「何がよ?」
女ハンター「普通は私の名を聞いて先ず鼻を見るんだ…お前は鼻を見もせずいきなりキノコ…」
盗賊「なんだお前…俺に鼻を見て欲しいって言ってんのか?」
女ハンター「いや…」
盗賊「船に乗ってるロボットが居るだろ…アイツは元々普通の女なんだ…鼻どころか全身全部削がれた」
女ハンター「話に聞く孤児機械化の…」
盗賊「俺はよ?アイツに生身の肉体を与えたくて旅してる…完全体のホムンクルスってのを探してな」
女ハンター「そうか…」
盗賊「もし見つけたらよ?お前にもちゃんとした鼻をつけてやれるぞ?」
女ハンター「硬化症が怖い…」
盗賊「完全体のホムンクルスは硬化症にならないらしい…これは信頼できる情報だ」
女ハンター「もし見つけたら…か」
盗賊「もしじゃ無ぇ…見つける!!」ギラリ
女ハンター「まぁ期待しないで待つ…木製の付け鼻も案外気に入って居るのさ」
盗賊「ヌハハそうか…ほんでお前は?この船に乗ったのは只の傭兵か?」
女ハンター「そうさ…でも目的は他に有る」
盗賊「何よ?」
女ハンター「海賊王の娘を探す」
盗賊「お!!?どういう事よ…丁度俺も探してんのよ」
女ハンター「何!?何処に居るのか知って?」
盗賊「いや…まだ知らん…だが知って居そうな人物が居るんだ」
女ハンター「それは誰だ?」
盗賊「まぁどうせ行先は同じだ…しばらく一緒だな?」
女ハンター「教えろよ…」グイ
盗賊「そのうち分かる…それよりお前が海賊王の娘を探す理由は何よ?鼻削がれた復讐か?」
女ハンター「復讐では無い…見たのさ…光を」
盗賊「光?」
女ハンター「奴隷として貴族の船に乗って居た時…見張り台で覗いた望遠鏡の奥にその人は居たんだ…」
その人は幽霊船と言われた船に乗って居た…
突然消えたり…現れたり…
それまで見た事の無い光り輝く剣…
不思議なクジラ…
見た事の無い魔法も…
何も無い私の生活に…望遠鏡の中にだけ有る夢の世界
私は虜になってしまった…
盗賊「憧れか…」
女ハンター「今でもその船に乗って居た全員の顔を覚えてる…」
女ハンター「その人を目の前にして連れて行って欲しいと真剣に思った…」
盗賊「なるほど…それがお前の光か…」
女ハンター「しまった…恥ずかしい話をしてしまった…」
盗賊「ヌハハ気にすんない…その船にな?ホムンクルスの完全体が乗って居た筈なんだ…そう聞いた」
女ハンター「どの人の事だろう…」
盗賊「まぁお前の事は大体分かって来た…見張り台で昔の様に探してんだな?お前の光を…」
女ハンター「そうさ…そこにあんたがズケズケと入って来た」
盗賊「そう言うない…」
ヒラヒラ…
盗賊「んん?」キョロ
女ハンター「来た…」スック
盗賊「これが妖精?」
女ハンター「そう…この光が行く先に幽霊船が見えた…」
ヒラヒラ…
盗賊「なんだこの光…踊って居るみたいに…」アゼン
女ハンター「スゴイだろう?」
---------------
---------------
---------------
『翌朝』
ザブ~ン ユラ~
学者「ふぁ~ぁ…遅くなりやした…起こしてくれりゃ良かったんすが…」ゴシゴシ
盗賊「興奮して全然眠れないんだが…お前薬に何か入れたか?」
学者「んん?体調はどうっすか?」
盗賊「すこぶる快調だ…腹の傷は痛むが…」
学者「多分オークの血を輸血したせいなんすよ…それにしても回復が早いっす…」
盗賊「喉がやたら乾いてよ…」グビ
学者「何飲んでるんすか?まさか酒じゃ無いっすよね?」
盗賊「酒だ…リッカが持ってた…こりゃなんかの果実酒か?」
学者「ええ!?もしかして体がポカポカしてたりしやせんか?」
盗賊「言われてみればそうかもしれん」
学者「なんか分かって来やしたぜ?…蒸留酒でオークの血が希釈されて増えてるんすよ…輸血された人間にも効果が…」
盗賊「だから俺の血は酒で出来てるって言っただろ?」
学者「そういや姉御にも何回か輸血されて居やしたね…そういう事っすか」
盗賊「んな事より周りを見て見ろ…行き交う船が増えて来た」ユビサシ
学者「本当っすね…」キョロ
盗賊「こりゃ多分目的地が近いぞ」
学者「ゴールドラッシュ島…楽しみっすね」
盗賊「俺ぁシカ肉が食いてぇな…出来るだけ臭いやつを」
学者「良いっすねぇ…到着したら酒場でパーーっと行きやしょう」
盗賊「分かってるじゃ無ぇか!!」バン
学者「おわととと…兄貴の手はデカくて重いんでちっと手加減して下せぇよ…」
盗賊「ヌハハハ悪い悪い…」
--------------




