59.英雄の器
『2キロ先』
ハァハァ… ドター
盗賊「満タンの樽を背負ってる気分だわ…」グター
戦士「すぅ…すぅ…」zzz
学者「呑気に寝て居やすねぇ…そろそろ4時間経ってるんすがねぇ…」
女ハンター「薄着1枚で靴も履いて居ないんだけれど…何処で装備を調達するつもり?」
盗賊「地下通路進みゃスケルトンが落とした装備が転がってる筈だ…ショボイのしか残って無いが…」
女ハンター「元は王様の筈なのに…薄着一枚だけ…」
盗賊「ヌハハ落ちる所まで落ちたな?」
学者「髭は貫禄ありやすけどね?」
盗賊「長すぎだ…全部剃らせるぞ…てか気持ち悪いから今剃れ」
女ハンター「賛成…起きて剃りたくないとか言い出したら面倒」
学者「ここじゃダメっすよ…こっから逃げたのがバレやす」
盗賊「おおう…そうだったか…」
学者「体冷えてるんで早く戦車の中に入りやせんか?」
盗賊「だな?」」スック
学者「初ワイヤー機動装置っすね?」
盗賊「おう!!俺が先に上がってワイヤー降ろすから引っ張り上げてやる」
学者「分かりやした…」
盗賊「行くぞ!?」スチャ
パシュン シュルシュル
盗賊「おおお!!こりゃメチャ便利だな…」
学者「兄貴ぃ!!ワイヤー降ろして下せぇ!!」
盗賊「待ってろ…先にバレンシュタイン引き上げるからワイヤー結んでくれぇ」パシュン シュルシュル
学者「どわっ!!危ないじゃ無いっすか…」タジ
盗賊「うるせぇ!!早く結べ!!」
学者「脇の下を一周回す感じで良いっすかね?」ゴソゴソ
女ハンター「薄着だから怪我してしまわない?」
学者「少々怪我してもどうって事無いすよ…兄貴ぃ!!引き上げて下せぇ!!」
盗賊「おう!!」
シュルシュル
盗賊「どわっ…やっぱコイツ重いな…どるぁ!!」ドサー
戦士「ぐぅ…すぴー…」zzz
盗賊「なんだ全然起きる気配無しか…次は2人同時で良いぞ!!」パシュン シュルシュル
学者「結構な重さ釣り上げられるっぽいすね?」
盗賊「高速で動く体重支えてんだからそれなりに丈夫な様だ…引き上げるぞ?」
学者「へ~い!!」
シュルシュル
盗賊「ラスとゲス2人の方が全然軽いわ」
学者「おおおお!!これが例の戦車っすか…この形は戦場で見た事無いっすよ」ドタドタ
盗賊「こっちの大陸の物だから古代だと違う国だったんじゃないのか?」
女ハンター「ミライ君が使ったキャンプ跡に石炭が少し残ってる…少し暖まらない?」
盗賊「ここまで来りやそう慌てんでも良いか…」
女ハンター「通路の先も見張りが出来るから安全…」
盗賊「おっし!!残ってる石炭を全部燃やしちまおう」
『キャンプ』
メラメラ パチ
盗賊「ここでどんぐり焼いて食ってたか…」
学者「レーションありやすぜ?一口で良いんで腹に入れといて下せぇ」
盗賊「あーーしょうが無えな…戦闘の基本か…」モグ
女ハンター「ふぅ…やっぱり火が少しあるだけで全然違う…」
盗賊「これからこの生活がしばらく続くぞ?」
女ハンター「慣れてるから大丈夫…」
学者「兄貴…これトロッコに乗って戦闘も考えてる感じっすか?」
盗賊「あぁ…ミライの工夫だな…そっから銃を撃つ様にしてんのよ」
学者「もうアサルトライフルの先端が見えとるんすが…」
盗賊「なんかな?全部で3つ有るらしいぞ?戦車に2つとトロッコに1つ…使う弾が25口径の通常弾だとよ」
女ハンター「それ私が頼んだの…ライフル弾を節約したかった」
学者「ほんじゃ戦うレンジに合わせて使い分けるんすね」
女ハンター「そう…バヨネッタの弾も限りがあるから出来るだけ敵を寄せて火炎放射で戦うのがベスト」
盗賊「火炎放射が届かん場合はアサルトライフル使う感じだな…それ以上のレンジはバヨネッタだ」
学者「ガトリングって弾どんくらい残って居やす?」
盗賊「500って所だろうな…どっかでキラーポッド落ちてりゃ良いが…」
学者「補給が肝になりそうっすか…」
盗賊「補給といえば途中で銀鉱山寄って行くぞ…石炭と砂銀を入手して行く」
学者「お?ツルハシとか有るならバレンシュタインさんの武器になりやすね」
盗賊「おお有ったわ…ツルハシを武器にするとかコボルトみたいだなヌハハ」
女ハンター「そんな物使わなくてもスケルトンが落とした武器を探せば済むでしょう?」
盗賊「お前が爆弾で吹っ飛ばしてるから何処飛んでったか分からんのだ」
女ハンター「盾とかも持って居た筈だから最低限の装備は揃うと思う」
『戦車』
ガコン ギギー
盗賊「あぁぁったく世話の焼ける男だコイツは…どるぁ!!」ドサー
学者「ウハハ扱いが雑っすね…」
盗賊「そろそろ起きて欲しいんだがなんで起きんのよ…」
戦士「ぐぅ…すぅ…」zzz
学者「兄貴も一回寝たら大概起きんすけどね」
女ハンター「それってもしかしてオークの血のせい?」
学者「その可能性はありやすね…確かオークは睡眠に弱いんすよ」
盗賊「バレンシュタインもハーフオークだってか?」
学者「んんんん…なんかオークの特徴が何処にも無いっすよね…エルフのハーフなのかも知れんすよ?」
盗賊「エルフがこんな髭もじゃなのは聞いた事無いが…」
学者「ほんじゃドワーフかも知れんす」
盗賊「おお!!そら納得行くわ」
ゴソゴソ
女ハンター「戦車の中に入れてた荷をトロッコに移したのね」
盗賊「だな?これで随分広い」
学者「これ兄貴動かせるんすよね?」
盗賊「一応移動させる分はな?イッコが言うには他にも色々動かせるとは言ってた」
学者「早く動かして下せぇよ」
盗賊「此処に留まってても仕方無えからとりあえずスケルトンの装備探しに行くか」カチャリ
ブーン ピピ
学者「おおおおおお!!壁面に外の映像が映るんすか…」
女ハンター「熱感知も搭載してるから索敵がすごいラク」
学者「暗視にもなって居やすね…どんくらい向こうまで索敵出来やす?」
女ハンター「目視と変わらないから認知できる距離は500メートルくらい?」
学者「いやいやそんな訳無いっすよ…一応大砲乗ってるんでもっと向こうまで見える望遠が有る筈っス」
盗賊「残念だが砲身短くて遠距離向きでは無い様だ」
学者「あらら…なんか勿体ないっすねぇ…」
盗賊「砲弾も60ミリの物が4発しか無い…こいつの入手は無理だろうな」
女ハンター「砲弾なんか乗せたら4人も乗れないと思う」
学者「そうっすね…今ラスさんが足伸ばしてる場所に本来砲弾を乗せてるんすよ」
盗賊「まぁ馬車みたいなもんだ…しばらく休んでて良いぞ…そろそろ移動するわ」スッ
ゴトン ウィーン
学者「おおお!!操作部見当たらんと思ったら…なんすか魔法使って動かしてるみたいすね…」
盗賊「特定のモーションで動かすんだとよ」
学者「映像の所に沢山数字とか出てるんすが全部意味分かって居やす?」
盗賊「分からん…動くと変わる数字は速度じゃ無えのか?」
学者「ちっと俺っちにも動かし方教えて下せぇ」
盗賊「当たり前だ…交代して寝る必要があるからお前もしっかり覚えろ」
『20キロ先_戦闘跡』
スタスタ
女ハンター「アラン!?まだ爆発させていない人の皮で作った爆弾が残ってるから回収して」
盗賊「へいへい…火薬も大事な物資な?」
学者「人の皮ってどういう事っすか?」
盗賊「異形の魔物共は生きてる人間から剥ぎ取った生皮を着込んでんのよ…反吐が出るだろ?」
学者「うはぁ…マジすか…」
盗賊「顔の部分があちこちに有ってキモ過ぎるんだコレが…」
学者「兄貴はそれを再利用したんすね…」
盗賊「ラス!!こっから先は歩きながら物資探して行くから戦車をゆっくり追随させてくれ」
女ハンター「分かってる…サッサと進んで」
盗賊「ゲスも戦車から降りて来い…足回りの可動部が見えるぞ」
学者「見るっす見るっす!!」ドタドタ
ウィーン ゴスゴスゴス
学者「へぇ…これ車輪が回転して推進する訳じゃ無いんすね…」
盗賊「蜘蛛だ蜘蛛…」
学者「乗っててあんま振動せんかったもんで不思議だったんすよ」
盗賊「可動部一杯あるから撃たれ弱そうだろ?」
学者「4本くらい脚部無くなっても動きそうなんで撃たれ弱いって事も無いと思いやすよ?」
盗賊「ほう…そういう事か…」
学者「乗ってる部分以外は全部脚部だったんすね…めちゃがっちりしとるじゃないすか」
盗賊「お前にメンテナンス出来そうか?」
学者「今度休憩する時に見て見やす…どんな構造か興味ありやすよ」
盗賊「やっぱお前を連れて来て正解だ」
学者「一応医術よりも機械工学の方が得意なもんで…兄貴はこういうの盗んで来るのはマジ一流っすね」
盗賊「おう…何でも盗んで来てやる」
女ハンター「ちょっと…止めて!!」
盗賊「んん?どうした!?」
女ハンター「アラン!!助けて…この人目を覚ました…止めて放して!!」バタバタ
『戦車内部』
ジタバタ ドタドタ
戦士「こ…ここは…」キョロ
盗賊「おうおう!やっと目を覚ましたか…」スタ
戦士「アラン殿?私はどうして…」ボーゼン
女ハンター「ちょっと放して!!」バタバタ
戦士「あぁ済まなかった…」スッ
女ハンター「凄い馬鹿力…肩が外れるかと思った…」
戦士「混乱してしまったのだ…済まない…それで何故私は戦車の中に?」
盗賊「フィン・イッシュの女王に頼まれて脱獄させたんだ…ほんで今は戦車に乗って逃走中よ」
戦士「サクラが…」
盗賊「ほーん…女王の名はサクラと言うんか」
戦士「サクラは何処に?」
盗賊「一緒に行動はしてない…てか女王の立場上俺らと行動は出来んと言ってたな」
戦士「私は何処に向かっている?」
盗賊「ルーデウスと決着を付けに行くんだ…女王がお前にそうさせろってな」
戦士「事情はサクラにすべて聞いて?」
盗賊「すべてかどうか分からん…だが俺らは大抵の事は知ってる…お前が人間じゃ無さそうだって事もな?」
戦士「さすがはファルクリード殿の血を引く者…」
盗賊「話は後でゆっくり聞くとしてだ…そのもじゃもじゃの髭をどうにか出来んのか?髪も長すぎる」
戦士「あぁぁ髭は年齢を隠す為だったのだが…」
盗賊「んん?どういう事だ?」
戦士「私はサクラと同様にかなり高齢なのだがどうも老化しないのだ…」
盗賊「なぬ!?」
女ハンター「どうも…ってどういう事?」
戦士「私は自分が普通の人間とは違うと言う事を知らなかった…これで理解出来るかな?」
盗賊「まぁどの種族か知らんがハーフだった事を知らんかった訳か…」
戦士「2人の弟はどちらもエルフの血を引く…私の母は人間だと思っていたが違っていたらしい」
盗賊「そら良いがラスは髭もじゃを嫌うから剃ってくれ」
女ハンター「剃って…髭を見ると虫唾が走る」
戦士「仕方あるまい…従おう…ナイフか何か貸して頂きたい」
盗賊「これを使え!」スラリ
女ハンター「そこら辺に髭を散らかさないで…剃るなら外でやって」
盗賊「だとよ?俺等ちっと物資を拾い集めてんだ…歩きながらになるが戦車から出て来い」
戦士「了解した…」スック
『地下通路』
ゾリゾリ ジョリ…
盗賊「裸足で歩き辛そうだな?」
戦士「ハハ気にしないでくれ…」ジョリ
盗賊「凍える寒さじゃ無いが…体温奪われちまうからな…」
学者「兄貴!トロッコの中に毛皮か何か入って無いんすかね?」
盗賊「おお…物資を確認して無かったな」
学者「拾った物資も持ちっぱなしじゃ邪魔になるんでトロッコに入れて行きやしょう」
盗賊「ラス!!戦車一回止めてくれぇ!!」
ウィーン ガコン ピタリ…
女ハンター「荷の中から少し弾薬を出しておいて?戦車の中にも置いておきたい」
学者「分かりやした…」
盗賊「おーし!トロッコの荷を確認してみっか…」
学者「これトロッコっちゅうかコンテナっすね…鉄製のコンテナ」
盗賊「ええと…どうやって開けるんだ?」ジロジロ
学者「金具が付いて居やすよ…」
盗賊「こりゃヒンジだろ」ガチャガチャ
学者「あああ分かりやした…これ真上から2つに分かれて開くんすよ」
盗賊「おお!そういう仕組みな…それでちょっとした足掛けが付いてんのか…」ヨジヨジ
ガチャガチャ ガコン バターン!!
学者「うほーーなんか色々入っとるじゃないすか」ゴソゴソ
盗賊「あいつ…トロッコの中でも生活出来る様にしてたんか」
学者「毛皮ありやすぜ?こいつ切って細工すれば履物作れそうっす」
盗賊「ええと…水と食いもんは…4人で1カ月程度って所か…おおお!酒もあるじゃ無えか」ゴソゴソ
学者「使う分だけ戦車の方に入れときやしょう」
『戦車』
ガラガラ ドサー
盗賊「弾薬持って来たぜ?」
女ハンター「ちょっと!!雑に扱わないで!!真っ直ぐ飛ばなくなる!!」
盗賊「悪りい悪りい…食料もちっと積んどくぞ」ドサ
女ハンター「折角片付けてくれてるのに…又散らかってしまって…」イラ
盗賊「ほれ?毛皮も有った…敷物にすりゃもうちょい快適だろ?」ゴソゴソ
女ハンター「それは欲しい…」グイ
盗賊「だよな?鉄板の上に寝転がっても落ち着かんもんな?ヌハハ」
女ハンター「人の皮で包んだ火薬はこっちに持って来ないで」
盗賊「へいへい…」
スタスタ
戦士「ちょっと見て貰いたいのだが…」ズイ
盗賊「うぉっと…無理矢理割り込んで来んな…」ヨロ
戦士「髭の剃り残しが自分では分からなくて見て貰いたい…」ツルリン スベスベ
女ハンター「フフ…全然人相が違うじゃない…」
盗賊「おお…随分若返ったな?」
戦士「ハハハお恥ずかしい…」
盗賊「ほーん…女王より年上なんだよな?」ジロジロ
戦士「その通り…」
盗賊「こりゃ息子と言われてもおかしく無いな…」
戦士「サクラはそれを気にして私を遠ざける様になってしまってね…気にしなくても良かったのに…」トーイメ
盗賊「遠ざけるってどう言う事よ?女王はお前の心配ばかりしてたぞ?」
戦士「分かっているとも…私に違う人生を与えようとしている事も分かって居る」
盗賊「もう歩んじまってるから諦めろ」
戦士「もうサクラの近くに居られないと思うと胸が苦しい…」
盗賊「何言ってんだ…英雄になって凱旋する予定だ」
戦士「フィン・イッシュを裏切る形になった上…罪を償う訳でも無く脱獄した身では二度とかの地を踏めん」
盗賊「ぁぁぁなんかメンドクセェな…英雄になって戻るという書置きを残して来てんだからやって貰わんと困る」
戦士「書置き?」
盗賊「只脱獄したって訳じゃ無えんだ…必ず英雄になって戻ると言う誓いを残したのよ」
戦士「戻る…私はまだサクラの下に戻れるのか?」
盗賊「英雄になった後な?」
戦士「どうやって私が英雄に…」
盗賊「ロールバックの危機に瀕している世界を救う!!英雄以外の誰がやる?」
戦士「おおぉぉ…まだ前に進める道が残されて居たか…」
盗賊「どうやらお前は女王にベタ惚れなのな?」
戦士「恥ずかし気も無く言おう!サクラは私のすべてだ…サクラの為なら何だって出来る」キリッ
盗賊「あのな…恥ずかし気も無くとか言わんでも良い…普通に話してくれ」
戦士「あぁ済まない…いつもの癖が出てしまった」
盗賊「これを言って良いのか分からんのだが…その愛するサクラが娼館に居るってどう言う事よ?」
戦士「王と言うのは沢山の子を残さなければならないのだ…」
私はサクラと結ばれ3人の子を授かったが…
シュタイン家の悪しき血筋を引く私達の子をフィン・イッシュの忍び一族は認めたく無いのだ
故にサクラを囲う忍びの一族は私以外の者の子をサクラに身籠らせる為にあの手この手と策を練って来た
しかしサクラは一度たりとも私を裏切らなかった
サクラも忍びのその行いに対して黙って従う性の持ち主では無い
娼館で身売りをするという破天荒な体を見せて忍びの一族に抗っている…という事なのだよ
盗賊「こりゃまた込み入った話な様で…」アセ
戦士「私がサクラの傍に居られない事で寂しい思いをさせてしまって居るのは事実としてある」
戦士「故に女性同士のたしなみ…に関して私は口を出さない事にしているのだ」
盗賊「おいおい…そんな話は聞いて居ないんだがペラペラしゃべらんでも良い」
戦士「あぁ…私とした事が…つい対等な相手だと思って話してしまった…」
女ハンター「ちょっと2人共!!戦車の入り口でおかしな恰好をしながら話すのは止めて!」
戦士「あぁ済まない…この髭の塊をどうしようかと…」モサモサ
女ハンター「そんな物を戦車の中に持ち込まないで!捨てるか燃やすかすれば良い!」イラ
戦士「捨てる…私の一部を捨てる…だと?」タジ
盗賊「おいおいおい…その髭の塊が何かに使えるとでも思ってんじゃ無いだろうな?」
戦士「いや…それを訪ねようかと…」
盗賊「だぁぁぁぁ!!貸せ!!そんなもん燃やしゃ良いんだ!!」グイ
戦士「あぁぁ…」
チッチッ ボボボボ メラ
戦士「あぁ…髭が…」
盗賊「どうも変な奴だとは思っていたが…お前天然だな?」
戦士「ハハハ良く言われる…残念だが自覚出来ない」
盗賊「薄着一枚ってのも何で上下繋がったタイツみたいなのを着込んでんのよ…小便する時は全部脱ぐつもりなんか?」
戦士「これはサクラが用意してくれた魚に変装する為の…」
盗賊「変装?…魚に変装だと?」
戦士「サクラは変装が趣味なのだ…私は稚魚に変装して…」
盗賊「まてまてまて…もう良い…お前の事が良く分かった」
戦士「そうか…理解して貰えたか…ふぅ」
盗賊「ラス!!どうやら大分イカれてる様だ」
女ハンター「そうね…開いた口が塞がらない」
盗賊「とりあえず身なりをどうにかせんとこのままじゃ変態だぞ…」
戦士「ぬ…脱げば良いか?」
盗賊「お前だけ素っ裸なのはおかしいだろ…ぬぁぁぁなんか話ズレてんな」
女ハンター「何でも良いから早く装備品拾って身に付けさせて」
盗賊「わーったわーった!!バレンシュタインさんよ…ちょい歩くから付いて来い」
戦士「バレンで良い…シュタインは省いて欲しい」
盗賊「ったく!!なんでこんな変態が王様だったんか…」スタスタ
『地下通路』
ガサゴソ ガサゴソ
盗賊「おーし!これは使えそうだ…肩当てを見つけた」ポイ
戦士「ふむ…傷んでは居るが組み紐を治せば…」グイグイ ギュゥ
盗賊「いろいろ見つけたのは良いが急所に当てる物が無えな…」
戦士「ひとまず盾を見つけたからこれで何とか…」バン バン
盗賊「そら良いが下半身丸出しじゃそのまま出歩けん」
戦士「アラン殿…現在地が分からないのだが…今何処に?」
盗賊「こっから10キロぐらい先に進んだら銀鉱山だ…それで分かるか?」
戦士「ここが最下層だとすると2層程上に上がると線路が有る筈…」
盗賊「上層に上がる為の側道は鉄柵に施錠したんだ…異形の魔物に裏を回られたく無かったもんでな」
戦士「そうであったか…やはり異形が姿を消したのはアラン殿の働きのお陰か…」
盗賊「50体ぐらい倒した」
戦士「その中にルーデウスは?」
盗賊「対面して居ないんだが…ゾンビにされたウェアウルフがトロッコを引かされててな」
戦士「ではそこにルーデウスが…」
盗賊「多分な?ゾンビのウェアウルフが何体も集まってトロッコ引いてるもんだから早くて追い付け無かった」
戦士「実はルーデウスが生きて居た事をついこの間まで知らなかったのだ…対面して話をしたい」
盗賊「この間?」
戦士「投降してきたアナール卿に聞くまでは異形の中にルーデウスが居るとは想像もして居なかった」
私には2人の弟が居てどちらも何十年と連絡が無い
一人は不死者となり精霊樹の下でエルフと共に居る事が分かって居たが…
エルフ達に行方を尋ねても答えて貰えなかった…
そしてルーデウス…
もう30年も昔になるか…
当時セントラルの公爵と呼ばれて居た人物の所へ身を隠したきり行方が分からなくなって居たのだが…
ついこの間…フィン・イッシュへ攻め込んで来て居るのがルーデウス本人だと言う事をアナール卿に聞かされたのだ
そして攻め入って来た目的が…ウェアウルフ一族の一掃と…私を跪かせる事…
盗賊「そら困った弟だ事…」ジロリ
戦士「私が弟に対して何をしてしまったのか分からないが…刃を向ける理由は聞き出したい」
盗賊「投降して来たアナールはどうした?」
戦士「当然…ガレオン船で帰還したサクラの下へ連れて行き事情を説明した」
戦士「アナール卿の安全を保障する件も嘆願したのだが…忍びはそれを認めなかった」
盗賊「ほんでみんな牢屋行きか…国家反逆の疑いでな?」
戦士「フフ私の考えが浅はかなのは認める…しかしアナール卿も又…私と血の繋がりの有る親族だったのだ」
盗賊「おっとおっとぉ?」
戦士「先にも言った様に王と言うのは多くの子を残す…私の父も沢山居る婦人に子を産ませて居たのだ」
盗賊「兄弟は3人だけじゃ無いってか」
戦士「公にして居るのが3人だけ…その実先王の落とし子は他に13人居る…アナールはその一人」
盗賊「政略的な話か…」
戦士「鍛冶屋になった者も居れば船大工になった者…娼婦に落ちた者…落とし子とはそういう扱いだ」
盗賊「ほーん…なんで3人だけ公の兄弟に?」
戦士「私は誰よりも体が強く負けた事が無い…弟2人はエルフの血を引き何をしても優秀…そんな理由で選ばれた」
盗賊「ほんじゃアレだ…3人に競わせて次の王を選出するつもりだ」
戦士「そんな事を私は望んで居ない…王座は弟に譲っても良いと思っていた」
盗賊「それは自分じゃ決められん」
戦士「私の母は先王の正妻では無い…貴族達の中で遊ばれる身だったのに私が第一皇子となったのは単純に強いから…」
戦士「素性の良い母を持つ弟2人の方が貴族の中で余程立場が良かっただろうに…弟に申し訳ない」
盗賊「それだな…ルーデウスがお前に刃を向ける理由は…その優しさだ」
戦士「理解出来る…悪行を重ねるルーデウスの事を知って叱咤したい一方で…血の繋がる弟をどうにか守りたい」
盗賊「そら都合が良すぎる…何千人もの人間の生皮を剥がしといて許して下さいなんて訳にはイカン」
戦士「分かる…償わせる事も必要だ…それでも弟を見捨てて居ない事を知って欲しい…だから会いたい」
盗賊「やべぇ…俺も心が動いちまう…」
戦士「んん?」
盗賊「いや何でも無え…どうやらお前はガチのカリスマ持ってそうだな」
戦士「フハハハそれ程大きな男では無い…只…愛は曲げない」
盗賊「それだ!それで良い…」
盗賊「なるほどそういう事だったか…アナールが保護を求めて来ても見捨てないのは同じ思いがあるか…」
戦士「悪い男だとは知って居る…協力する気も無い…だがあの日の事を覚えて居ると最後には伝えたい」
盗賊「あの日…」
戦士「共に過ごした日々…立場は見捨ててしまっても…心は見捨てて居無いと感じて欲しかったのだ」
盗賊「一つ言っとくが…どうにも救いようのない奴も居るぞ?」
戦士「知っているとも…だがそれでも愛は曲げない」
盗賊「愛は曲げない…貫き通すか…ふむ…こりゃ真理だな…」




