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20.命の不等価性


『キャラック船』



グイグイ グイグイ



女オーク「フン!」グイグイ


女ハンター「そのまま引き上げて…」


学者「兄貴ぃ…こりゃどういう事っすか…」ダダ


盗賊「見ての通りよ‥血が足り無ぇ…何とかしろ」グター


学者「ミライ君!水と湯を持って来て下せぇ…こりゃ傷口キレイに洗わんと膿んじまいやすね…」ゴソゴソ


戦士「新しい顔が居る様だが?船に乗せても構わんのか?」ジロ


少女「父ぃ!盗賊ギルドの者だ」


戦士「そうだったか…どうぞどうぞ」スス


マスター「なかなか良い船だ…」キョロ


盗賊「ところでゲス…サルベージの方はどうだ?」


学者「宝箱毎引き上げてお宝ザックザクっすよ…武器類もまぁまぁ残って居やした」


盗賊「盗賊ギルドに半分山分けする事になったんだ…渡してやってくれ」


学者「えええ!?マジすか…」


戦士「沖の船がこちらを勘繰っている様だからあまり財宝を船に乗せておくのはどうかと思うぞ?」


学者「俺っちの頑張り分が…トホホ」


闇商人「代わりにと言ったら何だけど…コレ」バサ


学者「なんすか?その書物?」


闇商人「錬金術について書かれているんだ…薬学に詳しい君の意見も欲しいな」


学者「ちっと見せて下せぇ…」パラパラ


盗賊「おいおい俺の処置を放置すんな…先に手当済ませろ」


学者「手当は済んでるんすよ…後はキレイに洗うだけなんで自分でやって下せぇ…」ヨミヨミ


盗賊「クソが…お前にはお宝の分け前無しだ!!」


学者「うほーーー…命の不等価性…だから産地によって効果にバラツキが…」ブツブツ



-------------




『荷室』



ガサゴソ



戦士「引き上げた武器類はすべてそこにまとめてある」


闇商人「銀製だけよく集めたね…」


戦士「鉄の武器はもう錆びついていたそうだ…大砲も重くて引き上げられない」


闇商人「まだ他にも残って居そうなのかな?」


戦士「簡単に引き上げられそうな物はそれで全部…残りは苦労しそうだと言って居たぞ?」


闇商人「ふむ…アランがあの調子ではしばらく待機するしか無いから…ゲス君にはもう少し頑張ってもらうか」


戦士「…というと?」


闇商人「一旦これを全部盗賊ギルドに引き渡すのさ」


戦士「ハハハなかなか気前が良いな?」


闇商人「どうもヤン・ゴン遺跡の方で大変な事が起ころうとして居てね…武器が必要になる筈なんだ」


戦士「大変な事?…どういう事だい?」


闇商人「魔王が復活しそうだと言えば伝わるかな?」


戦士「何ぃ!?」


闇商人「詳しくは後で話す…今は取り急ぎ武器を運ぶのと…沖で停船している正規軍2隻に事情を伝えたい」



シュタタ クルクル ドン!



少年「フガ…」ゴロゴロ ドタ


少女「お前ーー!!逃げるな!!チンコ見せろ」


少年「アウ…アウ…」ダダダ


少女「逃げても無駄だ!」シュタタ グイ


少年「アーーー…」バタバタ


少女「ふむ…やっぱり伸びるな…」グイグイ



戦士「こらミルク!!それは引っ張る物では無いぞ」


少女「父の物と形が違うぞ!」


戦士「良いから引っ張るのを止めなさい」


少女「仕方ない…ブラブラ気になるから何か履け」


戦士「ミルクが何か用意してやるんだ」


少女「お前ーー!!付いて来い!!ブラブラしない様にロープで縛ってやる」グイ


少年「ヒィィ…」バタバタ



闇商人「ハハ…あの少年は大分元気になった様だね?」


戦士「食が細いのが気になるが…」



少女「お前の名は何だ?


少年「フガフガ…」


少女「それしか言えんのか!?そうだ…フーガにしよう!お前はフーガだ!!」


少年「フガ!?」


少女「生のワニ肉ある…食いに行くぞ!」グイ


少年「アーーー…」ズルズル



-------------



『船尾楼』



グピグピ プハァ



盗賊「うぃーー」ゲップ


学者「足り無い血は良く食って補って下せぇ…寝ると造血促されるんで食ったら寝て下せぇよ?」


盗賊「おう!!腹いっぱいになったら眠気が出来て来た…」ドター



ガチャリ バタン



闇商人「どうだい?落ち着いたかな?」


学者「もう心配無いっすね…2~3日は貧血気味なんで大人しくしてりゃ全快しやすよ」


闇商人「それは良かった…僕はこれから荷を持って一度ならず者の街へ戻る」


盗賊「んあ?もう行動すんのか?」


闇商人「大事に至る前に武器を配らないと…と思ってね」


盗賊「そうか…まぁ気を付けて行ってくれ」


闇商人「護衛にリコルとラシャニクアを連れて行くよ…それでゲス君!」


学者「へ?俺?」


闇商人「引き続き沈没した海賊船からお宝を引き上げて居て貰いたい」


学者「そりゃ良いんすが…こっから先は船をちっと解体せんと入って行けんので時間掛かるんすよね…」


闇商人「これまで引き上げた財宝は全部持って行くから…これからの稼ぎが僕達の分さ」


学者「えええええ!?全部持って行っちまうんすか…」


闇商人「代わりの材料はこっちに持って帰って来る…象牙に琥珀…それから良質のワニ革」


学者「琥珀!!」


闇商人「ポーションの材料だったよね?」


学者「琥珀はそのまんま金に換えられやすねウヒヒヒ…そっちの方が軽くて済みそうっす」


闇商人「…という事でアラン…しばらく僕は行ったり来たりするから君は体を癒しておいて」


盗賊「そうさせて貰うわ…ちっと寝る」ドテ


闇商人「沖の正規軍とも僕が話して置くからそのつもりで…」ノシ



--------------



『サルベージ』



ザバァ ザブザブ



学者「引き上げて下せぇ!」


女オーク「フン!フン!」グイグイ


剣士「今度はどうだった?」ダダ


学者「あんま良い物無いっすねぇ…矢が一杯有ったんで一応持って帰ったんすが…」


剣士「矢は羽が無いからここで作れない…良いじゃない!」


学者「やっぱ金目の物は宝箱に入れてもう引き上げちゃったっぽいすわ…」


剣士「他の資材は?」


学者「水の中でそんな動かせんですよ」


剣士「そっかぁ…勿体無いなぁ…」


学者「一応…ちびちび集めて金貨は20枚ぐらいっすか…」ジャラ


剣士「銀食器とかあれば僕が加工できるけどね?」


学者「食器っすか…もっかい行きやすかねぇ…」


剣士「壺とか水瓶もあると助かる」


学者「分かりやした…今度は壺とかも引き上げやす」


剣士「ごめんね何回も…」


学者「いやいやガスマスクあるんで水中でなんも苦痛は無いっすよ…ほんじゃもっかい潜りやすね」ザブン



---------------



『数日後_甲板』



ヨタヨタ ドター



学者「お!?兄貴やっと動けるようになりやしたね?」


盗賊「おう横になってるばかりじゃ退屈でよ…どうよ?お宝の方は?」


学者「微妙っすね…謎の壺とか色々有るんすが俺っちには興味の無い物ばっかっすよ」


盗賊「遺跡の盗掘品か?」


学者「もしかしたら高値で売れるのかも知れんのですが…俺っちはやっぱ金銀財宝が良いっすよ」


盗賊「ヌハハ違い無ぇ…しかし泥棒も全然来無ぇな…」


学者「鉤縄で登れんもんで諦めたみたいっすね…てかあいつ等盗賊ギルドの関係じゃないんすか?」


盗賊「かも知れん…しかしこう暇だとなぁ…」ノビー


学者「フィン・イッシュ女王の船はどうなっちゃったんすかね?」


盗賊「うむ…海賊王の娘の噂も全然聞かんかったわ」


学者「兄貴…もしかして行き先間違っていやせんか?」


盗賊「んあ?…夢の記憶だからあんま確かじゃ無いんだが…寄港予定地には入って居た筈なんだ」


学者「それって候補地とかだったりしやせん?」


盗賊「此処をすっ飛ばしてるってか?…じゃぁあの正規軍の船は何なんだろうな?」


学者「もっかい行き先整理しやせんか?」


盗賊「ふむ…ちっと海図を持って来るわ」スタ



--------------



『海図』



バサッ…



盗賊「この印打ってる場所が寄港予定地なんだ…順番は分からん」ユビサシ


学者「外海の島を巡ってるんすね…ふむ」


盗賊「だから俺らは先回りして陸沿いを北上したのよ」


学者「外海の島もやっぱそれぞれ漁村とか港があるんすよねぇ…」


盗賊「まぁ…海賊王の娘を演じてるからな…出来るだけ噂を広めたいんだとは思う」


学者「途中で全滅してるなんて考えられやせんよね?」


盗賊「ガチ船団がそんな簡単に全滅はせんだろう…何か有っても女王の乗る船だけは逃すだろうな」


学者「ううむ…やっぱどう見てもヤン・ゴンに寄りそうっすねぇ…」


盗賊「だろ?シン・リーンへ向かうなら通る筈だからな?」


学者「もしもずっと北側を航海していたならこの次に行く場所へ行ってる可能性もありやすね」


盗賊「ムン・バイだっけか…まぁ俺らもそこに移動してみっか?」


学者「そっちは攻略された古代遺跡だって話じゃ無いすか…多分バン・クーバみたいに栄えてるんじゃないすかね?」


盗賊「又俺らだけの単独航海…ううむ」


学者「もう海賊相手は慣れてきたもんで大丈夫っすよ」


盗賊「うっし分かった!!ここで暇持て余してても仕方無ぇ…カゲミ戻ったら移動すっぞ」


学者「そうっすね…準備しときやす」



--------------



『双胴船』



オーライ オーライ



女オーク「フン!フン!」グイグイ


剣士「お帰りーー!!荷はこれで最後?」


闇商人「そうだね…あまり沢山は無いけど貴重な象牙と琥珀だよ」


盗賊「いよーう!カゲミが戻ったら次の寄港予定地に向かおうかと言う話をして居た所だ」


闇商人「そうかい…どうやら向こうの正規軍もかなり待ちぼうけを食らって居る様だよ」


盗賊「やっぱそうか…女王の船は航海中に何か有ったのかもな?」


闇商人「そこら辺りの情報はさすがに出てこない」


盗賊「ヤン・ゴン遺跡の方はどうよ?」


闇商人「変わりは無いね…只正規軍の一部がスクーナーで上陸しているから落ち着きない感じはある」


盗賊「ほう?盗賊ギルドはどう立ち回る?」


闇商人「敵対では無いよ…あくまで中立さ…落ち着きないのはその他の冒険者とかだね」


盗賊「んん?どういう意味だ?」


闇商人「エルドリッチ討伐を横取りされると思って居るんだよ…やっぱり正規軍は動きが全然違う」


盗賊「やっぱそうか…落ち着いた陣取りもそういう統率が取れてるからなのよ」


闇商人「それで?もう出発する気かい?」


盗賊「お前が良けりゃ行こうと思うが?」


闇商人「ふむ…まぁ良いか…」


盗賊「まだ用事があるならその後でも構わんが…」


闇商人「いや只の挨拶だよ…あの酒場のマスターには世話になったからね」


盗賊「そら大事な事だ…行って来いよ」


闇商人「彼は僕の体に気付いてるのさ…変に口説かれても困る…ここはサッと引く方が変な遺恨が残らない」


盗賊「なんだそんな事か…じゃぁ出発して良いんだな?」



シュタタ クルクル



少女「待てぇぇぇ!!」シュタ


盗賊「んあ?」


少女「ウルフィがまだ陸に居るぞ!!」


盗賊「おっとぉ!!忘れてたわ」


少女「カゲミ!もう一回戻って挨拶出来るぞ…その間にウルフィ連れて来る」


闇商人「ハハ参ったね…」


少女「父ぃ!!ウルフィ探しに行くぞ!!」


盗賊「まぁ俺ら準備しとくから行って来い」


戦士「ハハなかなか休めないねぇ…」



--------------



『船尾楼』



ガチャガチャ



学者「ちっと兄貴ぃ!!今ポーション作ってる所なんで散らかさんで下せぇ」


盗賊「なんだもっと隅っこでやってろっての…」


学者「今回手に入れた書物…これスゴイ発見っすよ?」


盗賊「俺は分からん…賢者の石の作り方とかそんなんだろ?」


学者「それもそうなんすが…命の不等価性…これの法則っすね」


盗賊「なんのこっちゃ?」



金属とかの無機物はその価値が質量に依存してるんす


黄金は重たいほど価値がありやすよね?


ほんで植物とか動物の価値は…環境で価値が変わるっていう理論なんす


まぁ簡単に言うと…兄貴みたいにゴミ食って育った環境の方が命の価値が高い


それを植物に置き換えると錬金術で作れるポーションとかもっと効果を伸ばせるんすよ



盗賊「ほーん…」ハナホジー ポイ


学者「あ!!今鼻ほじりやしたね?そういう物の価値が高い可能性があるんす」


盗賊「お前俺の鼻くそが欲しいんか?」


学者「ちっと良く思い出して下せぇ…ミライ君はゴミだと思った物を上手く使いやすよね?」


盗賊「まぁ確かに…」


学者「錬金術も同じ様にゴミだと思った物から良い物が作れるんす…誰も食い付かん毒キノコなんか良い例っすね」


盗賊「それが命の価値の高さ…なのか?」


学者「命の価値っていうとなんか言い方悪いっすね…成熟した魂…うーんなんて言えば良いんすかねぇ…」


盗賊「じゃぁ難破船で助けた小僧が持って居た石…」


学者「…」ピタ


盗賊「あれは命の価値の高い成熟した魂を持って居た誰かの結晶…そういう事だな?」


学者「はっきり言いやすと…その通りっす…書物に全部書いてありやす」


盗賊「俺は姉御の牙を大事にしている様に…あの小僧はその誰かを大事にしてる訳か…」


学者「まぁそこら辺の話はもう済んだ話なんでそっとして置きやしょう」


盗賊「ふむ…」


学者「実はっすね…この書物には錬金術の事だけじゃ無くて…この世の成り立ちも少し記されてるんすよ」



輪廻転生って言うらしいんすが…


この世界はそもそも地獄で…人間は魂の価値を高める為に何度も生まれ変わる…


そうやって魂の価値を高めた後に悟りを開くことで神と同化する…


超古代ではそんな教えが有った様なんす


なもんで遺跡で発見されたミイラは悟りを開いた神だった可能性がありやす



盗賊「その神を食らってエルドリッチになっちまったってか…」


学者「さっきから言ってる様に…魂の価値を高めるのは苦行なんす…人間に苦行を与えて魂を高める方法と言うと…」


盗賊「ぬぁぁ聞きたく無ぇな…」


学者「カゲミさんからちっと聞いたんすが…シン・リーンの魔術師もこれを黙認してるらしいじゃないすか」


盗賊「…」


学者「なんでだと思いやす?」


盗賊「さぁな?俺にゃ関係無いと思いたいが…」


学者「ズバッと言いやすよ?」


盗賊「言って見ろ」


学者「神が居ないから誰も天に行けなくなったのが原因だと思いやす」


盗賊「…」


学者「この地獄の世界の中で天に行くのが唯一の救いだったのに…20年前それが無くなった」


学者「この事実を隠すためにシン・リーンは言論統制を始めたんす」


盗賊「あぁぁぁ嫌な話だぜ…神を復活させようって腹積もりか…バケモンだぞ…あのエルドリッチってのは」


学者「結果的にはそうだったのかも知れやせんが…シン・リーンの行いも完全否定出来んすよ」


盗賊「死んでも天国にゃ行け無ぇってか…うーむ」


学者「地獄が確定してるんならどうにかしようと思いやすよね?」


盗賊「この世が地獄だってんなら…もっかい此処でも良いけどな?」


学者「本当に救いようの無い環境でも同じ言葉が言えやすか?」


盗賊「…なるほど…俺も恵まれ過ぎってか…」


学者「やっぱ多くの人を救うには信じる何かが必要なんすね…それが教えっすよ」


盗賊「ウソじゃダメか?」


学者「分かる人にはすぐバレちゃうんじゃ無いすか?魔術師とか特に…」


盗賊「俺ぁ今まで神様なんぞ拝んだ事無ぇからなぁ…そんな大事に思えんのだが…」


学者「恵まれて居たからじゃないっすかね…」



-------------



『甲板』



ヒラヒラ パタパタ



盗賊「おいミライ!…この吊ってある布は何だ?」


剣士「え!?あぁそれ矢避けだよ」


盗賊「布でか?」


剣士「うん…突っ張って無いから矢を避けるならそれで十分さ…なんなら弓矢で撃って見たら?」


盗賊「ほーー考えたな…」ジロジロ


剣士「一応日除けの役割もあるんだよ?日中ずっと日に当たってると暑いからね」


盗賊「なるほど…弓の撃ち合いも想定済みな訳か」


剣士「ちょっと矢避けが有るだけで狙える場所も限られてくるからねぇ」


盗賊「ちっと弓矢撃ってみるな?」ギリリ シュン!



バスン! ポトリ



盗賊「おぉぉ!!布が包まって矢が通らんのか…」


剣士「でしょ?矢避けはそれで十分!」


盗賊「ふむ…それで要所要所に布が吊ってある訳か…」


剣士「帆操の邪魔にはならない様には考えたつもりだよ…あ!!」


盗賊「んん?」


剣士「双胴船が帰って来る」


盗賊「ようし!船引き上げる準備だ!」ダダ



-------------



『荷上げ』



オーライ オーライ



盗賊「うらぁぁ!!」グイグイ


学者「兄貴…怪我は大丈夫なんすかね…」タジ


盗賊「動か無ぇと鈍っちまうんだ…しかし一人で荷上げ出来るのは良いな」ヨイショ ドスン


戦士「そうだろう?その荷上げ装置も中々良い工夫だ」


盗賊「小舟を甲板に固定するからちっと手伝ってくれ」グイグイ


戦士「うむ…反対側を持てば良いな?」グイ


盗賊「ミライとリッカは帆を開いて碇もあげてくれ…出発すんぞ!」


剣士「おっけー!!」シュタ


盗賊「おいミルク!!積んで来た物を荷室まで運んどけ」


少女「出港!!」ビシ


盗賊「おい聞いてんのか!?」


少女「出港だぁ!!」ビシ


ウルフ「アオ~~ン!」シュタ


闇商人「じゃぁアラン…僕は疲れたから荷物は頼むよ」スタ


女ハンター「私も少し休む…」スタ


盗賊「おいお前等…」


少女「出港だぁぁぁ!!」ビシ



--------------


--------------


--------------




『船尾楼』



ユラ~リ ギシ



盗賊「進路は北東だ…こっから2~3日行けばまた陸が見えて来る筈」


ロボ「ピポポ…」クルクル


盗賊「舵取りは任せるな?」ナデナデ


学者「なんか雲行きが怪しいんすが…」


闇商人「それは良い…水浴びしたかったのさ」


盗賊「ならず者の街は水浴び出来るような環境じゃ無かったな?ヌハハ」


闇商人「そうだよ…あそこは川が汚くて浴びる気にならない」


盗賊「ところであの酒場のマスターにはお別れ言えたんか?」ニマー


闇商人「まあね?次来た時はもっとゆっくりして行けってさ」


盗賊「ほんであの荷物か…」


闇商人「要らないと断ったんだけどね…まぁ珍しい酒もあるから良かったじゃ無いか」


盗賊「お!?マジか…」


闇商人「僕はあんな男よりラシャニクアの方がずっと好みだ…」


女ハンター「なっ…」ドテ


盗賊「ヌハハお前等そういう感じか」


女ハンター「いや違う!!」


闇商人「比べたらの話だよ…ちょっと僕は体が気持ち悪いから先に水浴び行かせて貰うよ」スック


盗賊「ラスも一緒に行ったらどうよ?」


女ハンター「私は後にする…」プイ


闇商人「何言ってるのさ…樽には一人しか入れないじゃないか」


盗賊「一緒に入れとは言って無い…背中ぐらい流せるだろう?」


闇商人「背中ねぇ…まぁ拒む気も無いから来て貰っても良いけど」


女ハンター「私の方が恥ずかしい!行く訳無い!」



--------------



『夜_甲板』



ザザザザ バシャバシャ



盗賊「うほーー一気に降って来たな」ゴシゴシ


学者「此処ん所蒸し暑かったっすからねぇ…」ゴシゴシ


剣士「あ!!ちょうど良かった!!甲板の掃除手伝って!!」


盗賊「なぬ!?」


学者「あらら…」


剣士「甲板の上で魚解体したりいろいろやってるから汚れてるんだよ…ブラシで擦って落として」ポイ


盗賊「雨降るたんびにコレだもんなぁ…」ゴシゴシ


学者「まぁでも荷上げでくっ付いて来た海藻類もそのまま張り付いてるんで綺麗に落としやしょう」ゴシゴシ



ビュゥゥゥ グググググ



盗賊「風がちっと出て来てるか…嵐にならにゃ良いが…」


学者「ミルクちゃん騒いで無いんで大丈夫っすよ」



--------------



『翌日_船尾楼』



アーデモナイ コーデモナイ…



シン・リーンは精霊信仰が根強いけど一応唯一神信仰も認められている


フィン・イッシュの殆どは龍神信仰…あとは自然信仰かな



盗賊「ほーん…」ナハホジー ポイ


闇商人「まぁ…名の知れた神の類は皆…それぞれの時代の勇者によって滅された訳さ」


盗賊「ほんで俺ら人間は天国に行けなくなったってか?」


闇商人「それがどれほど大変な事なのか…僕はあまり実感出来ないんだけれど…」


学者「それ成仏出来ないって事っすよね?」


闇商人「どうなんだろうね?一応死者を弔う儀式はやっている様なんだけどね」


学者「まぁでも神が居なくなったと言うのは不都合な真実なもんで知れ渡らん様に言論統制するのは理解出来るっすよ」


戦士「口を挟むが…こう考えてはどうかね?」


盗賊「んん?」


戦士「もしも不治の病を患ったとしよう…願う事は救いだと思わないかね?」


盗賊「ふむ…確かにそうだな」


戦士「神に救いを願う事で希望を見る…しかし救いが無いと知った場合…絶望しか見ないのでは?」


闇商人「流石だね…僕達よりも長く生きているだけの事はある意見だ」


盗賊「絶望か…う~む」


闇商人「一人や二人じゃないさ…もしかしたら死者達も天に行く事を望んで居るのかも知れない」


盗賊「お前それ言ったら数え切れんぞ」


闇商人「そんな絶望が魔王を生んだりしないだろうか?…神はそうならない為の存在だったとか?」


学者「一番の問題は20年前…神が滅された後に勇者達が光を示さなかった事っすね」


闇商人「そうだね…事の真相が闇に消えたままだ」


盗賊「どうも不吉な予感しかし無ぇ…エルドリッチも放ったらかしだしな」


闇商人「逆に言うと幽霊船の誘き出しには都合が良いよ」


盗賊「俺はいつまでも待ってるほど暇じゃ無いんだけどな…」ペチン ナデナデ


ロボ「ピポポ…」



--------------




『少し後』



スタスタ



学者「カゲミさん…ちっと教えて下せぇ」


闇商人「何かな?」


学者「俺っちは精霊信仰の事あんま知らんのですが…ウンディーネとかそういう奴っすか?」


闇商人「あぁ…僕もあまり詳しくは無いんだけれど…マルコさんの残した書物によると完成体のホムンクルスが精霊だったらしい」


学者「ええ?どういう事っすか?兄貴が探してるのもホムンクルスっすよね?」


闇商人「う~ん…その完成体のホムンクルスは本来精霊になる筈だったのさ…でもマルコさんがそうさせなかった」


学者「ちっと待って下せぇよ…まだ生きてるんすよね?」


闇商人「うん…ドワーフの一族に守られているという話さ」


学者「じゃぁ神はまだ残ってるという事っすね」


闇商人「話は複雑なのさ…僕も一度会った事が有るくらいでそのホムコという人がまさか精霊だとは思っても居なかった」


学者「なんか特殊な事が出来たりしたんすか?」


闇商人「僕が知る限り何も出来ない普通の女の人だよ…ただマルコさんは異常な程執着してた」


学者「そのマルコっていう人の書物を読んでみたいっす…持って来て無いんすかね?」


闇商人「残念ながら…僕の持ち物では無いから書物は全部ハテノ自治領に置いて来たよ」


学者「そーっすか…信仰されてるくらいなんできっと何か出来るんすよね…」


闇商人「まぁエルフを生んだり…そんな感じかな?」


学者「ちょちょちょ…生命を生む?」



歴史の話になってしまうけれど…


3000年くらい前に精霊樹という木からエルフが生まれる様にしたらしいんだよ


それだけじゃ無くてドラゴンを生んだのも精霊だという話さ


だからエルフもドラゴンも精霊を崇拝している


エルフに近しい関係だったシン・リーンも精霊信仰なのはそのせいさ


こちらの大陸には中央に大きな樹海があってね


エルフはその樹海を住処として精霊樹と精霊を守っていたのさ


ところが30年ほど前の大厄災の時にその樹海が光る隕石によって焼き尽くされた


それまではエルフ達とシン・リーンは立地的に近かったんだけど


光る隕石が落ちて以降エルフは住処を失ってその後移り住んだのはシャ・バクダ


シン・リーンとは遠縁になってしまった



闇商人「あぁ話が逸れてしまったな…ホムコさんの話だったか…」


学者「なんかいろいろ分かって来やした…本来エルフの所に居る筈のホムコっていう人がドワーフに囲われてるんすね?」


闇商人「う~ん…まぁ事情はいろいろ有ると思うよ」


学者「ドラゴンまで生むとかスゴイ事っすよ…その力をドワーフが持ってる訳で…」


闇商人「んん?もしかして世界情勢を勘繰って居るのかい?」


学者「フィン・イッシュに居たドワーフもエルフもあんま協力関係じゃ無い様に見えたもんで」


闇商人「もしかすると関係して居るのかもねぇ…僕はシン・リーンとフィン・イッシュの摩擦の方が気になるけど…」


学者「あんま良い関係じゃ無いんすか?」


闇商人「どちらの女王も融通が利かない気質なのさ…まぁエルフがフィン・イッシュ側に付いたのも摩擦の一因だと思うよ」


学者「摩擦って具体的にどんな?」


闇商人「黄金の取り合いだね…そもそも国が接して居なくて遠いから戦にはならないけど関係はあまり良くない」


学者「黄金のサルベージは魔術師が必須っすよね?」


闇商人「うん…でもあの海域で活動するのはフィン・イッシュの協力無しではサルベージ出来ない」


学者「分け前で揉めそうっすね…」


闇商人「それだけじゃ無いんだよ…フィン・イッシュには魔物が沢山居たよね?」


学者「そうっすね?何か関係が?」


闇商人「あれには秘密が有る様なのさ…シン・リーンはその秘密を掴んで居て対処しようとしている」


闇商人「でも忍びの一族が断固としてシン・リーンの魔術師を阻むという事が起きているんだ」


学者「そら他国の事に口出しするシン・リーンが悪いっすね」


闇商人「まぁそんなこんなが沢山在るからあまり良い関係では無いのさ」


学者「電脳化した奴らが裏で何かやってる時に揉めてる場合じゃ無いと思うんすがねぇ…」


闇商人「その通りだね…まぁ関係が悪くなるように誘っている線も考えられる」


盗賊「おう…所でよう…俺はあんまこっちの大陸の事知らんのだがシン・リーンって今どんなよ?」


闇商人「どんなって…何を知りたいのかな?」


盗賊「俺等が行って安全なのかとか色々だ」


闇商人「う~ん…目立つ様な事をすると魔法で強制的に従わせられる位には危険だね」


盗賊「他の奴らはそれで良いと思ってんのか?」


闇商人「さぁね?マルコさんが捕らわれになって居なかったら正直僕は行きたくない」


盗賊「魔法で記憶を操作されるなんざ許される事だとは思えんのだがな…なんでそれで批判され無えのか…」


闇商人「それは僕が君達に教えた事だね…一般の人にはあまり知られて居無いんだ」


学者「言論統制が徹底されてるんすね…怖い国っすねぇ」


闇商人「昔はそれほどでも無かったらしいんだけどね…まぁ僕が知ってるだけの事を教えて置こうか」


盗賊「おうおう!もったいぶんな」



20年前に海賊王の娘がゴールドラッシュ島を発見したのは有名な話だね?


その時にゴールドラッシュ島で発見したのは黄金だけじゃ無いんだよ


2000年近く石にされて眠って居た古代の魔導士と呼ばれる人達を眠りから目覚めさせてるんだ



盗賊「んん?そりゃ関係ある話なんか?」


闇商人「結論から言ってしまうと…その古代の魔導士達がシン・リーンの政策を変えてしまったのさ」


盗賊「ほう?」



それまではシン・リーンの魔術師達は割と自由に魔法の研究をしていたんだ


でも古代の魔導士達が現れてシン・リーンの規律を厳しく変えてしまった


その結果今の言論統制みたいなのが徹底されてしまったんだよ



盗賊「乗っ取られたって事か?」


闇商人「どうだろう?もし宝石に姿を変えてしまったシン・リーンの王女ルイーダが健在なら違って居たのかもね」


学者「古代の魔導士ってそんなスゴイ力を持ってるんすかね?」


闇商人「聞いた話では現代の魔術師に出来ない事が色々出来るらしい…空を飛んだりね?」


盗賊「こらやっぱ乗っ取られたと思って良さそうだな」


闇商人「良いか悪いかは分からないけれど…その魔導士のお陰で機械と渡り合えてるのは確かだよ」


盗賊「なるほど…空から魔法ブッパだとしたら相当な戦力だ」


学者「ちっと待って下せえよ?その古代の魔導士の目的が良く分からんす」


闇商人「目的…」


学者「2000年前から機械と戦って居たんすかね?なんで今シン・リーンに加わって戦ってるんでしょう?」


盗賊「む…そういやそうだな…乗っ取るにしても動機が良く分からんな」


闇商人「う~ん…神が居なくなったと言うのは魔導士にとって大きな問題なのかも知れないよ?」


学者「あっし等がその辺知らんだけなのかも知れんすねぇ…う~ん…」


盗賊「まぁ良く分からんが…用心しなきゃならんのは理解した」


闇商人「そこら辺の事を盗賊ギルドはどう考えているんだろう?」


盗賊「ミルクに聞いてみっか?」


闇商人「そうだね…僕が聞くよりアランが聞いた方が良さそうだから頼むよ」







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