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1.姉御

地震…津波…噴火…寒冷化


落雷…隕石…洪水…日蝕


飢餓…疫病…地殻変動


あらゆる天変地異で世界は疲弊していた


地球を襲った地軸の移動


太陽と月が喧嘩をしてしまったかのように


違う方向から登り


世界は混乱を極めた


あれから数十年…


安住の地を探し人々はそれぞれの営みを


それぞれの場所で始めていた…



再建都市バン・クーバ



そこにかつて神の手と知られた男の遺児がいる


少年は大人になり…


世界の秘密へと歩み始めようとしていた




『地下鉄道_列車』



プシューー モクモク



盗賊「姉御はまだ来ねぇのか…遅せぇ」イラ ウロウロ


ロボ「ピポポ…」ウィーン


盗賊「ちぃぃ…とりあえず先に乗って場所だけ抑える…逸れるな?」スタ


ロボ「ピピ…」ウィーン



おい押すな!!後ろの列車に移ってくれ


ちょっと…そこは私が座っていたの!!


はいはい席ありやすぜ?2人?では2銀貨で…ウヒヒ



ドヤドヤ…



盗賊「ちぃぃ…こんなつまらん事に2銀貨使っちまった…ロボ!席取られるから動くなよ?」


ロボ「ピピピ…」キョロ ウィーン


盗賊「こりゃ姉御達来たら立ち乗りになんな…」



ボエーーーーーー プシューーーーー



盗賊「マズい…出発の警笛だ…」


学者「兄貴ぃぃぃ!!」タッタッタ


盗賊「おう!!間に合ったか!!早く乗れ!!」グイ


学者「はぁはぁ…大変っす…姉御は来れんらしいっす!!」


盗賊「なんだとぉ!!?どういう事だ!!」


学者「前回の機械化兵団との戦闘で負傷していたらしいっす…まだミネア・ポリスに居るとか」


盗賊「なんで連絡が来ないんだ!!」バン


学者「俺っちも迎えに行ってさっき知ったんすよ…はぁはぁ」


盗賊「くそう!!姉御抜きで作戦実行か…」


学者「兄貴なら大丈夫っすよ」


盗賊「それで…姉御の容態とかは聞いて居ないのか?」


学者「結構な大怪我だとか…」


盗賊「だろうな…少々の我慢じゃいつも来るからな…」


盗賊「う~む…ミネア・ポリスに見舞いに行った所で治る訳でも無ぇし…」


学者「この季節逃したら船手に入らんすよね」


盗賊「仕方無ぇ…俺らだけで盗んで来るぞ」


学者「そう言うと思って居やした…」パサ


盗賊「んん?何だそりゃ?」


学者「姉御が残した作戦計画っす…ギルド宿舎の部屋の方に置いてあったんで持って来やした」


盗賊「おぉ…見せてみろ」バサ



ふむ…


船を奪った後は地庄炉村まで自力で行って…


なるほど…向こうの大陸の盗賊ギルドとコネクションが有るのか…



盗賊「おい!!姉御が盗賊ギルドと接触してたのは知って居たか?」


学者「知らんっす…今知りやした」


盗賊「そういや前に誰か知らん奴らと組んでた事が有ったな…アイツ等か…」トーイメ


学者「その盗賊ギルドに手を借りる感じなんすか?」


盗賊「結果的にそうなるんだろうな…どうも荷を運ぶ必要があるらしい」ヨミヨミ


学者「ちょっと心配なのが…2人で船を動かせるか…っすね」


盗賊「そんなもんやってみるしか無ぇだろ」



ガコン!! カタンカタン…



盗賊「お…動き出したな」


学者「兄貴はいつもロボと一緒っすね…」ナデナデ


ロボ「ピポポ…」クルリン


盗賊「まぁな?俺の一部だ…勝手に触わんな」


学者「維持費大丈夫なんすか?特に魔石…」


盗賊「今ん所はな?まぁ…魔石よりもボロくなった本体の方が問題なんだ」


学者「俺っちが整備しやしょうか?」


盗賊「そら助かる…ちっと落ち着いたら頼むわ」



--------------




『蒸気機関列車』



ガタン ゴトン ガタン ゴトン…



ロボの本体は…まぁメンテナンスしてりゃなんとか永らえるんだが…


脳と連結しているなんとかユニットってのがもう替えが無いんだ


後3年もすりゃ使えなくなるらしい…



学者「…なるほど…それは俺っちでもダメかも知れんっす」


盗賊「まぁ…しょうが無ぇ話よ」


盗賊「だがな?世界の何処かにはホムンクルスというのが合ってな…」


学者「知って居やすよ?お金さえ払えば闇で入手はできるらしいっすね…」


盗賊「いや…それとは違う…完全なホムンクスルと言えば良いのか?それならロボに肉体を与えられるんだ」


学者「部分的なホムンクルスじゃないって事っすね?」


盗賊「全身だな…俺はロボに体を与えたい訳よ…そんで姉御はその話に乗った」


学者「それで船を盗みに行くんすね?」


盗賊「まぁ…船を手に入れたら何処へ行けば良いかまだ分かって居ない…ただ俺にはちょっとしたアテがあるんだ」


学者「宛て?」


盗賊「その内話してやる…今は目の前の課題だけ考えろ」



そう…アテが有る


神の手…俺の父が仲間だった奴ら


アイツ等なら必ず何か知ってる筈…




『夢』



ドカーン!! タタタタタン



僕「くそぅ…囲まれてる…」


男「おい小僧!そこを動くな?今から何が起こるか良く見てろ」


僕「どうするんだよ!?」


男「こういう世界が有ると言う事を先ず知れ…動くなよ?」スゥ…


僕「え!!?…き…消えた…」



スパ! スパ! ガチャーン ドカーン!



僕「何だ?何が起こってる!?」キョロ


僕「見えない…どうしてキラーマシンが壊れて行く?」タジ



リリース! スゥ…



男「小僧!!行くぞ!!来い!!」グイ


僕「え…ぁ…」スタ



その男が父だと知って居た…


なのに言いだせなかった…


言えないまま…失った…



--------------


--------------


--------------




『要衝エド・モント』



プシューーーーー ガコン



学者「兄貴!兄貴!」ユサユサ


盗賊「んぁ…あぁ…」パチ


学者「ここで1時間止まるんで少し降りられるっす」


盗賊「降りたら又席取られちまうだろ…」モゾモゾ


学者「じゃぁ兄貴が席を取っといて下せぇ…俺っちはここで少し買い物したいんす」


盗賊「んあ?バン・クーバより良い物売ってるとは思えんが…」


学者「ほら小型の機械…キラーポッドが使う弾…あれが買えるんす」


盗賊「なんだと?…てことはお前は銃を買ったのか?」


学者「譲り受けたと言った方が良いっすね」


盗賊「お前兵隊でも無いのにそんな物持ち歩いて見つかったら只じゃ済まんぞ」


学者「兄貴もラッパ銃持ってるじゃないっすか」


盗賊「こりゃ形見だ」


学者「いやいやそういう問題じゃ無くてっすね…見つかったらマズいのは兄貴も同じっすよね?」


盗賊「俺ぁ特別よ…逃げる自信がある」


学者「見つかったら見つかったでその時は…」


盗賊「ダメだ貸せ!!今見つかったら作戦が台無しになる…俺が預かる」


学者「う~ん…じゃぁ隠し持ってて下せぇ…」スッ カチャ


盗賊「…」ギロリ


学者「機動隊が使うバヨネッタっす」


盗賊「お前…こりゃ普通じゃ手に入らん代物だぞ?殺したな?」ギロ


学者「勘違いし無ぇで下せぇ…殺したのは機械化兵団の奴らなもんで…」


盗賊「機動隊が行く激戦地にお前が行くとは思えんが?」


学者「正確に言うと運ばれて来た機動隊の人を看取った…そのままにしておくと誰に取られるか分からんもんで…」


盗賊「フン…まぁ良い…早く行って来い」


学者「食事も入手してくるんで楽しみに待って居て下せぇ」タッタ


盗賊「…」---アイツ---



こいつには連番が振ってあるんだ…


しかも特殊な発信機まで付いてる


ん?なるほど発信機はさすがに外したか


他の兵装をどうしたのか問い詰める必要があるな…




『1時間後』



ボエーーーーーー プシューーーーー



学者「兄貴ぃぃぃ!!戻りやしたぁぁ」ダダ


盗賊「…」シラー


学者「あら?相席の人が変わりやしたね…どうも」ペコリ


青年「こんにちは…キ・カイまで失礼します」ペコ


学者「君は一人なんすか?」


青年「はい…」


学者「良く此処に座る気になれたね?兄貴に近寄る人は中々居ないんすよ?」


盗賊「おい!!ベラベラしゃべるな」ドス


学者「あたたた…済まんっす…まぁこんな感じなんすが気にしないで下せぇ」


青年「ハハ気にしてなんか無いよ」


盗賊「…」ギロリ


学者「なーんか…堂々とした青年っすねぇ…兄貴ぃ…レーション買って来やした」スッ


盗賊「ふんっ」モグ


学者「酒も仕入れて着やしたぜ?」


盗賊「よこせ…」グイ キュポン グビ


学者「良かったら君もレーションどうっすか?」スッ


青年「え?あぁ…じゃぁ遠慮なく…」スカ


学者「あらら?君は目が不自由なんすかねぇ…目隠しなんかして…」パス


青年「ま…まぁ…頂きます」ハム モグ


学者「俺っちは医術も学んで居るんす…少し見てあげても良いっすよ?」


青年「いえ…目は大丈夫です」


学者「な~んか…怪しい感じっすねぇ…目隠しにフード…」


青年「ハハ…どうかお構いなく」パク モグ


盗賊「おい!!困ってるだろう…良い加減にしておけ」ゴン


学者「あたたた…話題変えやしょうか…キ・カイへは何をしに?」


青年「キ・カイに帰る所なんだ…食料を買いにエド・モントまで来たのさ…」


盗賊「ほう?キ・カイに住んで居るのか…」ジロ


青年「珍しい…よね…ハハ」


盗賊「まぁ事情は色々有るだろうからな…住んで居るなら少し聞きたい事がある」


青年「何でも答えるよ?何かな?」


盗賊「俺は昔キ・カイに住んでた事が有るんだがもう何年も戻って無くてな」


青年「僕はずっとキ・カイに住んでるよ」


盗賊「今外の市街地はどうなって居るんだ?人は住んで居るのか?」


青年「一応少し住んでるよ…殆どの人はバン・クーバに移住したみたいだけど」


盗賊「そうか…まだ残って居るのか…」トーイメ


青年「皆さんがキ・カイに行く理由は漁業関係?それとも鉱山関係?」


盗賊「どちらでも無いが…しいて言えば漁業か」


青年「今時期は珍しい魚の収穫期だからね…沢山捕れると良いね」


盗賊「孤児院は残って居るか?」


青年「孤児院?知らないなぁ…」


盗賊「そうか…もう無いのだろうな…」


ロボ「ピピ…」シュン


盗賊「まぁ…自分の目で確かめる」


青年「このロボは皆さんと一緒に?」


盗賊「まぁそうだが?」


青年「キ・カイでは機械化してる人の検査が厳しいんだ…大丈夫かな?」


盗賊「許可証はちゃんと持ってる」


青年「そう…なら大丈夫か」


盗賊「う~む…お前…本当は見えて居るな?」ジロ


青年「え…いや…目が見えない訳では無くて…人に見せられない訳で」


盗賊「なるほど…火傷とかそういう類か…イラン詮索して済まなかった」


青年「なんか久しぶりに他人とちゃんとした話が出来て嬉しい」


盗賊「そうか?」グビ


学者「レーションのお代わりありやすぜ?」ガブ モグ


青年「いやそんな…それは高価な事知って居るから貰えないよ」


学者「俺っちは傭兵で結構稼いだんで割とお金あるんす」


盗賊「…」ギロリ


学者「ちょちょ…兄貴そんな怖い顔で見んで下せぇ…」タジ


青年「ハハ…」


盗賊「ところでそのくそデカイ袋が買い物した食料か?」


青年「うん…どんぐりとかキノコとか…キ・カイでは中々買えないんだ」ガサリ


盗賊「どんぐりが食料…やはり辺境に住むと貧しい訳か…レーション美味かったか?」


青年「なんかこういう言い方すると卑しいって思うかも知れないけど…こんなに美味しい物食べた事無かったよ」


盗賊「そりゃ結構!全部持って行け」グイ ドサ


学者「なぁぁああああ!!兄貴ぃ…」


盗賊「お前にゃちっと問い詰めなきゃならん事が有る!!」


学者「なななな…なんすか?」


盗賊「他の兵装を何処やった?」グイ


学者「え…あ…アハハハ」タジ


盗賊「アハハじゃ済まん事をお前はやっているんだぞ?必ず内ゲバが始まるんだ」


学者「すすす…済まんっす…」


盗賊「まぁ此処で言ってもしょうがねぇ…落ち着いたら覚悟しとけ」


学者「あたたた…」


青年「フフなんか楽しそうだ…」


盗賊「悪いな…話は聞かなかった事にしてくれ」ゴン


学者「あ痛ぁ!!」ナデナデ



----------------




『廃都キ・カイ_地下鉄道』



キキーーーーー ガコン プシューーーー



盗賊「おっし到着だ…忘れもんすんなよ?」


学者「へいへい…」ゴソゴソ


青年「じゃぁ僕は此処で…」ヨッコラ セ


盗賊「よう…縁が有ったら又な?」ノシ


青年「はい…ではさようなら」スタ


盗賊「なかなか感じの良い奴だったな…」ボソ


学者「ここは地下鉄道の何番なんすかね?」キョロ


盗賊「8番だったか…ガキの頃はこの辺で悪さしたもんだ」ゴソゴソ


学者「なんかそこら中崩れてボロボロっすね…」


盗賊「キラーマシンの反乱時はここからエド・モントまでが激戦区だったらしい…俺らは上手く逃げられた」


学者「へぇ?」


盗賊「ロボ!!俺から離れるんじゃ無ぇぞ?…」スタ


ロボ「ピポポ…」ウィーン


学者「兄貴ぃ!!待って下せぇ…」タッタ


盗賊「モタモタすんなバーロー」



衛兵「おいお前達!!何だその機械は!!」ダダ



盗賊「はいはい衛兵さんよ…これが許可証…脳の機械化はやっていない…見てくれ」パカ


ロボ「ピピピ…」ピタ


衛兵「脳…」タジ


盗賊「これで満足か?」カパ


ロボ「ピポポ…」プシュー


衛兵「た…確かに…話に聞く孤児機械化事件の…」


盗賊「そうだ…珍しいか?」


衛兵「あぁ済まない…特例の件は承知している…通って良いが…あまり目立たん様に頼む」


盗賊「分かって居る…お勤めご苦労さん」ノシ



-------------



『地下街道』



ピチョン ポタン



盗賊「ロボ…済まなかったな…毎度毎度見せたく無い物を曝ける事になっちまってよ」ナデナデ


ロボ「ピ…」ウィーン


盗賊「まぁそのお陰で銃器を持ち込んでも怪しまれないんだが…」


学者「兄貴ぃ…これからどうするんで?」


盗賊「どこかで一泊して明日の夜に決行するつもりだが…」


学者「ちっと情報集めた方が良くないっすか?」


盗賊「うむ…流氷の具合も確認しておきたい」


学者「先に流氷見に行きやせんか?外に出りゃ港も見れやすよね?」


盗賊「そうだな…ちょいと防寒着を調達して外に行くか」


学者「ええと…全然人が居ないんすが…」キョロ


盗賊「この先にホームっていう場所が有るんだ…そこが中心になって居る筈」


学者「買い物は任せて下せぇ…」


盗賊「当たり前だろう…払いもお前だ」


学者「ハハ…」


盗賊「ロボに被せる防寒着もちゃんと用意しろよ」


学者「分かっていやすとも…」



--------------



『ホーム』



ヒソヒソ ヒソヒソ


今年も出稼ぎ労働者が入って来出したね


稼ぎ時だからちゃんと売るのよ?



盗賊「分かっちゃ居たが寂れ具合が半端無ぇな…」


学者「昔は世界一の人口を抱える都市だったんすよね?」


盗賊「天変地異以前はな?俺が居た頃は既に落ち目だった様だがそれでも人でごった返してたもんだ」


学者「軍の施設とかどうなってるんすかね?」


盗賊「殆ど空らしい…港は軍港跡地を使って居ると聞いた」


学者「宿泊する場所が有るのか心配になって来やしたよ」


盗賊「路地裏で十分だろう…心配なのは食い物だ」


学者「あたたた…」


盗賊「おい!!あそこで毛皮のフードが売って居そうだ…仕入れて来い」ユビサシ


学者「ちっと待ってて下せぇ…」」タッタ




---------------




『30分後』



タッタッタ



学者「待たせたっす…」ドサ


盗賊「遅かったじゃ無ぇか…どれどれ」ファサ


学者「すんごい高くてですねぇ…ちっとも値下げしてくれやせんでした」


盗賊「どうせアブク銭だろうが!そういうのは全部使っちまえば良い…これがロボの分だな?」ファサ


ロボ「ピポポ」クルクル


盗賊「おぉ!!喜んでるぞ?うむ…なかなか似合う」


学者「分かるんすか?」


盗賊「ピポポが肯定…ピ…これが否定だ…まぁ他にも色々ある」


学者「じゃぁ行きやしょうか…」スタ



--------------




『旧市街地』



ヒュゥゥゥ…



盗賊「ふぅぅやっと外に出られた…」


学者「その許可証便利っすねぇ…持ち物見られんで済むんすね」


盗賊「まぁな?それが特例処置になってる…一応幹部扱いな訳よ」


学者「俺っちはあまり知らんのですが孤児機械化事件はそんなスゴイ事件だったんすか?」


盗賊「国家反逆…って所か?まぁ歴史に残る事件だな…俺はそのど真ん中で生き抜いた…まだガキだったんだが」


学者「スゴイっすねぇ…」


盗賊「機動隊が今の地位に登り詰めたきっかけだった…だから幹部の様な特例が許されてるんだ」


学者「それが今は泥棒をする立場ってなんかおかしいっすね」


盗賊「こいつの為なんだ…」ポン


ロボ「ピピ…」プシュー


学者「そういう事っすね…」


盗賊「今回の件で俺に手配書が回るかも知れ無ぇ…でも姉御は俺の話に乗ってくれた…姉御には感謝してる」


学者「じゃぁ俺っちも危ないっすね…」


盗賊「何言ってんだアホが!…機動隊の兵装を闇で捌いてタダで済むと思ってんのかボケが!」


学者「ええ!?」


盗賊「そんな甘く無ぇんだよ!!俺よりお前の方が危険だ…ちったぁ自覚しろ!!」ドス


学者「あたたた…」


盗賊「だからフードは深く被れ…顔は極力見せるな…そこら辺徹底しろ!!」


学者「へい…」ファサ


盗賊「よし…じゃぁ行くぞ」スタ




--------------




『雪に埋もれた瓦礫の山』



ズボ ズボ ズズズ



盗賊「何処に穴空いてるか分かん無ぇから気を付けて歩け…ロボは無理して付いて来なくて良い」


ロボ「ピポポ…」プシュー


学者「これで夏っすか…」アゼン


盗賊「よし…流氷が漂っては居るが船が動かせん訳では無いな」


学者「これ昔はずっと向こう側まで海だったんすよね?」


盗賊「あぁ…俺が住んで居た頃は海だった…灰色の海で俺は嫌いだったが…」


学者「切り立った氷山…なんでこんなんなっちゃうんすかね」


盗賊「知るか!」


学者「これ向こうの大陸まで徒歩で行った人居ないんすかね…」


盗賊「なんでそんな事が気になるんだ?」


学者「向こうの大陸に行った事無いんで…夢っすよ夢」


盗賊「アホか…バン・クーバから商船が出てんだろうが…金払えばいつだって行ける」


学者「徒歩ならお金掛からんじゃ無いっすか」


盗賊「お前学者なんだろ?気候の事とか勉強して来たんじゃ無いのか?」


学者「俺っちは医術と機械工学しか学んで無いんすよ…」


盗賊「じゃぁ今お勉強だな…こっから先は寒すぎて立ち入る事が出来ん未踏の地だ…覚えておけ」


学者「確かに寒すぎっすねぇ…」ブルル


盗賊「まぁしかし…ここも変わり果てた…見た所孤児院の建屋も無くなってる」


学者「行かなくて良いんすか?」


盗賊「良い思い出は無い…ただお袋が居た場所は見て置きたいな」


学者「お袋?初耳っす…お袋が居て孤児院に入ってたんすか?」


盗賊「俺が孤児院に通い詰めてたって感じだ…お袋は忙しくて殆ど帰って来なかった」


学者「そういう事っすか…」


盗賊「お袋とは生き別れてもう何処に居るのかも分からん…激動の時代に飲み込まれた結果だ」


学者「そのお袋さんが居た場所って何処なんすか?近いなら行って見やしょう…もしかしたら待ってたり…」


盗賊「まぁそのつもりだ…ここから近いから行って見る…」スタ



--------------




『旧商人ギルド跡地』



ザック ザック



盗賊「…ここだ」


学者「瓦礫の山っすね…なんか小さな小屋が建ってる」


盗賊「誰か住んでる感じは無いな…ちっと覗いて来る」タッタ


学者「どうっすか?」キョロ


盗賊「う~む…人が住む小屋では無い…中に馬車が入っているな」


学者「ええ?ソリじゃなくて馬車?」


盗賊「まぁ…使えなくなって放置された馬車だろう…もうボロボロだ」


学者「はぁぁ…ハズレっすね」


盗賊「ここには良く連れて来られたんだが…もう見る影も無ぇな」ウロウロ


学者「そうそう…そういやさっき大麻売ってたんで買ったんす…一服どうっすか?」


盗賊「お?気が利くじゃ無ぇか…ヨコセ」チッチ モクモク


学者「兄貴は大麻吸ってさまになりやすねぇ…」


盗賊「ただガラが悪いだけだ…真似しようと思うな?」スパー フゥゥゥ


学者「俺っちにも吸わせて貰って良いっすか?」


盗賊「なぬ?お前もしかして一本しか買って無かったのか?」


学者「一本しか売って無かったんすよ…」


盗賊「なんだ早く言え馬鹿が…ホラ」ボキ


学者「アララ…折らんでも良かったんすが…」チッチ モクモク


盗賊「ガラの悪いのが2人揃って大麻吸ってりゃ誰も近づかんな…ヌハハ」スパーーー フゥゥゥ



サクサクサク…



青年「あれ?どうも…なんか縁が有るみたいだね」スタ


盗賊「お?誰かと思えば列車の…どうした?お前の家が近いのか?」


青年「いや…そこが僕の家だよ」


盗賊「ぶっ!!マジか…今何も無ぇなぁとかボロクソ言ってた所だ」


青年「ハハまぁ…そこは昔使ってた家なんだ…今はここの地下に住んでる」


盗賊「何だと?」ギラリ


青年「え?何か悪い事言ったかな?」タジ


盗賊「お前は誰だ?」


青年「ええと…どう答えれば良いのかな…」ドギマギ


盗賊「あぁぁ悪い…脅してるつもりじゃ無い」


青年「良かったらお茶でもどう?貰ったレーションのお礼に…」


盗賊「お…おぅ…そりゃ願っても無ぇ…寒かった所だ」


青年「姉と一緒に住んでるんだ…姉と言っても腹違いなんだけど…先に言っておかないと驚いちゃうから…」


盗賊「そういう事情は誰にでもあるわな?」


青年「此処へは何か用事で?」


盗賊「ふむ…まぁ信用出来そうだから言うが…俺は此処で一時住んでたんだ…知った人間が誰か居ないかと思ってよ」


青年「えええええええ!!?」


盗賊「おっと!!何だ急に…」


青年「姉が待って居る人かも知れない…」


盗賊「何?」


青年「姉はずっと此処で誰かを待ってるんだ」


盗賊「ほう?会ってみたいな…誰だ?」ハテ?


青年「こっちだよ…下にもう一つ入り口が有るんだ」スタ


盗賊「…」---あぁ知ってるとも---



--------------



『隠れ家』



ガチャリ バタン



青年「姉さん!!帰ったよ!!お客さんを連れて来た」


女の声「おかえり…お客さんって誰?」


青年「ここを訪ねて来た人だよ…もしかしてと思って案内したんだ」


女の声「え!!?」ドスドス



盗賊「うぉ!!あ…姉御?いや…なんで姉御が此処に…」タジ



青年「やっぱり知り合い?」


女オーク「違うみたい…ごめんなさい…人違いの様です」


青年「そうか…あぁ…まぁとりあえず奥でお茶でも…」


盗賊「おう…邪魔するぜ?悪いな…」---姉御じゃ無ぇのか---


青年「さっき持って帰ったレーションをくれた人たちなんだ」


女オーク「そう…どうぞ奥へ」ササ


学者「びっくりしやしたね…姉御に瓜二つっすね…」ヒソ


盗賊「だな?正直俺もビビった」ヒソ


女オーク「お茶を入れて来るのでどうぞご自由に…」スタ


盗賊「ようお前…腹違いも良い所だな…姉がオークとはなかなか無い組み合わせだ」


青年「血は繋がって居ないんだ…」


盗賊「ヌハハそんな事気にするな…オークが身内に居るのは良いぞ?」ニヤ クイックイッ


青年「ハハ…余計な詮索しないでよ」



---------------



『お茶』



チョロチョロ モクモク…



盗賊「ほう?煎茶という奴か…これは向こうの大陸で飲まれる物だ…体に良いらしい」ズズズ


青年「姉は昔向こうの大陸に居た事があるんだよ」


盗賊「なるほどな?」ゴク


青年「やっぱり2人は知り合いでは無いのかな?」


盗賊「う~む…似た人物を知っては居るが…残念だが初対面な様だ」


青年「ここに住んで居たという話は?」


女オーク「ええ!!?ここに住んで?どういう事?」ズイ


盗賊「あぁ…まぁ一時だけだけどな…この部屋の中に有る物は大体見た事がある…それも…これも」


女オーク「他の人は?他の人は何処へ?」


盗賊「おっとっと…待て…お前は誰だ?俺はお前を知らん」


女オーク「私もここに居たのは短い期間なの…でもここに住んで居た人をどうしても探したい」


盗賊「なるほど…お互いすれ違って居た訳か…」


女オーク「知って居る事をどうか教えて…」


盗賊「んんん…まぁ昔の事だから話して問題無いか…」



カクカク シカジカ…


-------------


-------------



盗賊「…とまぁ…誰か居るんじゃ無いかと思って訪ねて来た訳よ」


学者「兄貴忘れてますぜ?お袋さんが居ないか見に来たんすよね?」


盗賊「お前は黙ってろ!」ゴン


学者「あたたた…」スリスリ


女オーク「もう10年以上此処で待ってても元の住人は帰って来なかった…」


盗賊「お互い同じな訳だ…ほんでお前はどうして待ってるんだ?」


女オーク「それは…」


青年「僕の本当の両親を探してるのさ…姉さんは僕の為にずっと苦労してるんだ」


盗賊「なるほど…う~む…」トーイメ


女オーク「他に何か手掛かりになる事は無いですか?」


盗賊「有るっちゃ有るんだが…」


女オーク「どうか教えて欲しい…」


盗賊「まぁ良いか…お前海賊王の娘を知ってるか?」


女オーク「いえ…」


学者「うお!!知らない人の方が少ないんすよ?あんな有名人を知らないって…」


青年「姉さんはキ・カイの人達と殆ど付き合いが無いんだ…差別されて外を出歩けないんだよ」


盗賊「そうだったのか…外の市街地に住んでるのもそういう理由か…」


青年「本当はずっと馬車に住んでたんだ…キ・カイの壁の外でね…人が少なくなってようやく此処に入れた」


盗賊「壁の外はオーガやら魔物がウヨウヨ居るのにか?マジか…」


青年「オーガの牙をほんの少しのお金と交換してどうにか凌いで来たんだ…」


女オーク「もうそんな話は良いの…それよりもその海賊王の娘は何処へ?」


盗賊「残念だが分からん…ただ昔の俺の知り合いで情報のやり取りをしてる闇商人がいるんだ…そいつなら知って居るかも知れん」


女オーク「その人は何処に?」


盗賊「世界中転々として居てな…今はフィン・イッシュに居るらしい」


女オーク「フィン・イッシュ…向こうの大陸…」


青年「姉さん…向こうの大陸は遠いよ…もう無理して稼ぐ事なんかしなくて良い」


盗賊「んんん…なんつうか…俺はそういう話に弱いんだ…この話はここで切り上げるか」


青年「うん…そうだね」


学者「俺っちから提案なんすが…今晩此処に泊めてくれたらお金払いやすぜ?」


盗賊「あぁ悪く無ぇな」


青年「僕は歓迎だけど…姉さん」チラ


女オーク「え…ええ…でも食事も出せないし…なんだか悪い気が…」


盗賊「俺らにしてみりゃ寒さ凌げるだけで十分な訳よ…そっちが良けりゃ世話になる」


女オーク「ではご自由に…私はこれから仕事に行って来るので」


盗賊「おぉ悪いな…早速だが俺らはちっと港を見に行きたいんだが…ここに勝手に出入りさせて貰うぜ?」


女オーク「どうぞ…」


青年「僕は暇だから案内しようか?」


盗賊「そら助かる…おい学者!くつろいでる暇は無ぇぞ!!」


学者「すんません…」スック



---------------



『港へ続く街道』



サクサク サクサク



盗賊「ところで自己紹介して居なかったな?」


青年「そうだね?お互い名前も知らないで変な感じだね」


盗賊「俺の名はアラン…職業は傭兵だ…まぁ本職は泥棒なんだがな」


青年「僕はミライ…ええと職業なんか無いんだけど…そうだなぁ…剣を使うから剣士かな」


盗賊「ほう?誰に教えて貰ったんだ?」


青年「姉さんだよ…姉さんの名はリッカ…剣を使うのが上手い」


盗賊「なんだ…戦えるなら傭兵でもやりゃ良いのに…ほんでこいつの名はお手伝いロボ…本当は別の名があるんだがロボで良い」


ロボ「ピポポ…」クルリン


青年「どうもよろしくロボ」ペコリ


盗賊「ほんでこいつがゲシュタルト…ゲスと呼べば良い…こいつがまぁ問題児なんだ」


学者「兄貴そら無いっすよ…」


盗賊「良い所出のお坊ちゃんだったんだが素行が悪すぎて追い出された挙句…俺にボコられたヘタレ学者だ」


青年「どうも…」ペコリ


盗賊「先に警告しておくが物が無くなったらまずコイツを疑え」


学者「兄貴ぃ!!勘弁して下せぇ」


青年「アハハ…僕達は何も持って居ないけどね」


盗賊「いや…お前の家の中に有る物はかなり価値の高い物ばかりだ…古代の遺物と言えば分かるか?」


青年「そうだったんだ…姉さんは元の住人がそれを取りに戻るんじゃ無いかって大事に保管してた」


盗賊「そうか…まぁ正しいやり方かも知れん」


盗賊「ほんでお前の姉は何処で働いてんだ?」


青年「炭坑だよ…鉄鉱石とか石炭とか掘ってる…あと錬鉄もやってるかな」


盗賊「まぁ…オークはそうなるわな…どうせ死ぬほど安く雇われてんだろ?」


青年「その通りさ…何でもお見通しなんだね」


盗賊「お前は働かんのか?」


青年「働く気はあるんだけど姉さんが人の前に出るのはダメだって…」


盗賊「…」ジロ


青年「そう…察しの通り…僕の顔の事さ」


盗賊「訳アリか…まぁ良い…ほんでだ…」


青年「ん?」


盗賊「俺らが自己紹介した意味なんだが…」


青年「意味?」ハテ?


盗賊「俺らは職業柄知らん人間に容易く名乗る事なんかしないんだ」


青年「えーと…意図が読み取れない」


盗賊「フィン・イッシュまで連れて行ってやるから手伝えって話だ…お前に姉を説得出来るか?」


青年「えええ!?」


学者「兄貴ぃ…良いんすか?」


盗賊「2人で船動かせると思うか?」


学者「あぁぁ…確かにそうっすね」


盗賊「元々姉御ありきの作戦だったんだ…丁度姉御並みに働けそうなのを偶然見つけた…しかもタダで雇えそうだ」


学者「さすが兄貴…」


盗賊「…で?どうよ?」


青年「姉さんに相談してみる」


盗賊「明日の夜までに決めてくれ…まぁ1日ありゃ何とかなるな?」


青年「姉さん次第だね…僕も姉さんに苦労ばっかり掛けたく無いんだ…ここに居ても苦労ばっかりだから」


盗賊「よし!商談成立だな!期待してるぜ?」



--------------



『旧軍港』



ザザー ザブン



盗賊「ほぉ…結構漁船が動いてんな」


剣士「今時期は地引網漁をやって居るんだ…この時期で1年分の魚が収獲出来るみたいだよ」


盗賊「お前はあの漁船に乗った事有るか?」


剣士「うん…姉さんと一緒に一時働いた事が有るんだけど…ちょっと問題が起きちゃってね」


盗賊「問題とは?」


剣士「海に出ると逃げ場が無くなるじゃない?姉さんが襲われそうになったんだ」


盗賊「なるほど…強姦されそうになったか」


剣士「そういうのが有ったからそれ以来炭坑で働く様になった」


学者「兄貴ぃ!動いてないキャラック船があるっすね」ユビサシ


剣士「あの船は漁に適さないみたいだよ?漁で使うのは船底の浅いキャラベル船なんだってさ」


盗賊「ほう?良く知って居るな」


剣士「それからあの船はすごいお金持ちの所有物らしいよ…ええと…名前忘れちゃったなぁ」


盗賊「金持ちにしちゃショボイ船な様だが…」


剣士「ええ?そうなの?」


盗賊「金持ちはアレの10倍ぐらいデカい船を持ってる…アレは精々10人程度しか乗らんな」


剣士「あぁぁバン・クーバーで少し見た事有るなぁ」


盗賊「ソレだソレ」


剣士「そんな船はキ・カイで見た事無いよ」


盗賊「まぁ…港の見学はこんなもんか」チラ クイ


学者「じゃぁ戻りやしょうか…ちっと寒いんで戻りたいっす」コクリ


剣士「そうだね」


学者「俺っちはちっと古代の遺物に興味があるんすよ…見せて貰って良いっすか?」


剣士「盗まないなら…」


学者「あいたたたた…盗みやしやせんよ」


盗賊「悪いが先に戻っててくれ…俺は酒を買い付けてから戻る」


剣士「うん…気を付けて」


盗賊「ロボの事も頼む…ここからなら衛兵に止められる事も無いだろう」


学者「分かりやした…行きやしょう!」スタ


盗賊「…」---さぁて仕事だ---



---------------



『夜_隠れ家』



ガサゴソ ガサゴソ



学者「おぉぉこんな物まで…」ブツブツ


剣士「壊さない様に…」ソワソワ


学者「これは古代遺跡の盗掘品なんすよ?」


剣士「へぇ?」


学者「これなんで魔術書が何冊もあるんすかね?」


剣士「さぁ?…でも僕はそれを読んで勉強したんだ」


学者「読めるんすか?謎の文字が並んでるんすが…」


剣士「ルーン文字というらしいよ…ルーン文字の解読は他の書物に有るんだ」


学者「もしかして魔法を使えたりするんすか?」


剣士「残念ながら使えない…なんか血の契約が必要だとか…良く分からないんだ」


学者「じゃぁ何を勉強したんすか?」


剣士「う~ん…魔導って何なの?とか…魔方陣って何?とか…」


学者「ふむふむ…医術とは…生命とは…そういう感じっすね…確かにそれだけ覚えても治療は出来ない…なるほどぉ」


剣士「アランさん戻るの遅いなぁ…」


学者「兄貴は多分酒場じゃないっすかね…いつもの事なんす…心配しなくても帰って来やすよ」


剣士「聞きたい事が有ったのになぁ…」


学者「俺っちが分かる事なら答えやすよ?」


剣士「ええと…海賊王の娘の事…僕は噂なら聞いた事有るんだ」


学者「何が知りたいんすか?」


剣士「名前とか…年齢とか…それから指名手配されてる理由とか」


学者「名前は姉の方がアイリーンで妹がアイラっすね…逆かも知れやせんが…」


学者「年齢は不詳なんすが噂では当時姉が30歳…妹は25歳くらいらしいっす」


学者「指名手配された理由はなんか色々噂が有るんすが…白狼の盗賊団の一味だったとか」


剣士「白狼の盗賊団…それも聞いた事が有る…」


学者「もう伝説っすよね…貴族達から財宝を奪って庶民にばら撒いたんすよ…だから貴族達に指名手配されたんす」


学者「今となっては捕まえても懸賞金を払う貴族が居ないんで意味の無い手配書っすね…ビラだけが出回ってるんすよ」


剣士「そうだったんだ…そんな人たちが此処に出入りしてたのか…」


学者「う~ん…出入りしてたかどうかは知らんすが…兄貴は手掛かりだと言って居やしたね?」


剣士「あぁ…そうだったか…」


学者「何か事情を知ってるとは思いやす」


剣士「じゃぁやっぱりアランさんに聞くしか無いね」


学者「俺っちにも教えてくれないんで厳しいかも知れんすよ?」


剣士「そうなんだ…」


学者「うほーーー!!これ相当値打ち物の剣っすね…」スラーン


剣士「あ…それは姉さんの剣だよ…重いでしょ」


学者「確かにちょいと重いっすねぇ…錆一つ無い…材質何なんすかね?」ジロジロ


剣士「コバルト合金だよ」


学者「へぇ…こんな良い剣を何処で手に入れたんすかね?」


剣士「教えてくれないんだ…多分姉さんが待って居る人に関係する物なんだよ」


学者「じゃぁ勝手に触ってたら怒られそうっすね」


剣士「うん…元有った場所に返しておいて」


学者「へいへい…」


剣士「…」


学者「何すか…盗みやしやせんよ!!」


剣士「ふーん…」



ガタン! ゴトゴト!



学者「んん?上から何やら音がするっすね…」


剣士「あぁぁ…又来たか…危ないから外に出ない様に」


学者「どういう事っすか?」


剣士「多分オーガがお腹を空かせて市街地に入って来てるんだ…たまに来るんだよ」


学者「そら大変じゃないっすか…兄貴が帰って来て無いっすよ」


剣士「うん…でも姉さんが居ない時に戦うと怒られるんだ…しばらくすると何処かに行くよ」


学者「いやぁ…ここに住むのも生きた心地がせんっすね…」


剣士「もう慣れっこだよ…此処に居れば安全さ」



--------------




『深夜』



ガチャリ バタン



女オーク「…」スタスタ


剣士「あ…お帰り姉さん」


女オーク「あら?まだ起きて居たのね…先に寝てて良かったのに」


剣士「うん…なんだか興奮しちゃってさ」


女オーク「これ今日の稼ぎ…」チャリン


剣士「銀貨2枚か…」


女オーク「お客さんはお休み?」


剣士「うん…もう一人はまだ帰って無いけど」


女オーク「オーガの足跡が有ったわ…何も無ければ良いけれど…」


剣士「ちょっと心配だね…それで姉さんにちょっと相談なんだけどさ」


女オーク「どうしたの?」


剣士「お客さんがフィン・イッシュまで連れて行っても良いと言ってるんだ」


女オーク「それは本当?…でもどうやって…」


剣士「船で行くらしい…なんか船を動かす人が足りないから手伝って欲しいって…」


女オーク「船…」


剣士「姉さんが船に乗りたく無いのは分かるよ…でもあの2人はなんかそんな事しない気がするんだ」


女オーク「やっと見つけた手掛かり…どうしよう…」


剣士「船…やっぱり怖い?」


女オーク「船は嫌な思い出しか無いから…でもこれを逃したら次は無いかも知れない…」


剣士「嫌なら無理に行く必要も無いんだよ?僕は此処でも満足しているから」


女オーク「ミライ…」グイ ギュゥゥ



---違うの---


---あなたの両親を探す理由は---


---本当は私の為なの---


---気持ちに整理を付けたいの---


---私はあなたの母なのか…姉なのか…それとも恋人なのか---


---あなたは一体誰?私から生まれて…一体誰になったの?---


---私の気持ちは誰が受け止めるの?---



剣士「どうしたのさ急に?」


女オーク「何でもない…ごめんね」


剣士「ううん…姉さん何か思い詰めてるね?話してよ…」


女オーク「何でも無いわ…」---私はこのまま姉で良いのか分からないの…そんな事言えない---


剣士「そう…今日はもう遅いから寝ようか」


女オーク「まだ一人帰って来て居ない様だから少し待つわ…」


剣士「じゃぁ僕も待つよ」


女オーク「分かったわ…こっちにいらっしゃい…私も寒いからヒザを温めて?」


剣士「なんか他の人が居ると恥ずかしいなぁ…」ストン


女オーク「…」ギュゥ



---こんなに愛しいのに---


---どうして気持ちが落ち着かないの---




--------------




『明け方』



ギギギー バタン



盗賊「…」コソコソ


女オーク「すぅ…」zzz


剣士「すや…」zzz


盗賊「…」---なるほどな---


盗賊「…」---この2人はこんな風に極寒を生きて来たか---


盗賊「…」---わかるぜ?---


盗賊「…」---馬車の中でそうやって温め合ってたんだろ?---


盗賊「…」---俺も姉御に温めて貰った事がある---


盗賊「…」---姉御は俺だけの物じゃ無かったけどな---


盗賊「…」---まぁ羨ましい限りよ---


盗賊「…」---しかしまぁ…---


盗賊「…」---貧しく育った方が愛は育むな---


盗賊「…」---俺はロボを温めてやらんとイカンな---


盗賊「…」コソーリ ギュゥ


ロボ「…」クルリ


盗賊「動くんじゃ無ぇ」ヒソ


ロボ「…」ピタ


盗賊「ちっと寝る…」ヒソ


ロボ「…」


盗賊「暖かいか?」ヒソ


ロボ「…」


盗賊「…」---待ってろ---



---お前に命を与えてやる---



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