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星の烙印  作者: 加藤爽子
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序章

新連載始めました。

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


2024.06.18 文言修正

2024.09.25 文言修正

「世界なんて滅びてしまえばいいのに」


 誰もいない山の中でボソリと呟かれたそれは、(のろ)いの言葉だった。

 馴染めない自分が悪いのか、それとも受け入れない世界が悪いのか、正直どちらも同じなのかもしれない。居場所が無いということには変わりはないのだから。


 白茅(ちがや)が育ったのは都心から少し離れた町にある施設だった。

 恨むべきは自分を捨てた両親。

 どんな人なのかも捨てた理由も知らない、ただ捨てたという事実だけがそこにあった。

 捨てた場所も悪かった。よりによって(かや)が伸び放題の河原だったのだ。

 萱は薄い刃物のような葉をしており大人の指でも簡単に傷付ける。

 初夏だったので凍死こそ心配する事は無かったが、その時期だったからこそ藪蚊も多く、川の水位が上がれば容易く流される……そんなところに産まれたばかりの乳飲み子が捨てられたのだから、望まれて産まれた訳では無いことが推し量れる。

 今生きてここに居るのが不思議なくらいなのだ。


 加えて恨むべきは名付け親。

 成人すれば改名も可能とはいえ、まだ中学生の身の上ではそれも叶わない。

 施設の院長は、強く真っ直ぐスクスクと育って欲しいという願いが込められた良い名前だと言うが、名前を呼ばれるたびに萱の中に捨てられた事実を突き付けられてしまう。

 白茅にとっては忌々しい名前だった。


 親から貰ったものといえば、外見はなかなか悪くは無い。

 顔は小さくスラリと伸びた四肢、白い肌に薄っすらとそばかすは浮いているものの、艶のある黒い髪を短く切り揃え、長めの前髪の奥から覗く少し吊り目気味なアーモンド形の大きな目が印象的だ。

 しかし、髪で隠してもなお人を引き付ける黒曜石のような瞳は望まぬ輩を惹き付けるらしく、今のところメリットよりもデメリットの方が多い。


 それとこれは遺伝なのか何なのか分からないが、白茅の目は視え過ぎる(・・・・・)のだ。

 猫のように何も無い虚空をジッと見つめていると周りが勝手に不安を感じてしまう。

 義務教育だと押し付けられた学校でも上手く馴染めず、施設でも浮いていて、異端児である自分が心置きなく自由に振る舞える場所は無かった。


 今、白茅がいるのは雑木林とはいえ手入れされた町中にある小さな山で、山頂近くには神社の奥宮と呼ばれるささやかな(やしろ)がある。

 いくら山自体は低い方とはいえ、拝殿の裏手に隠されているような険しい登り坂に奥宮まで参拝する人は少ない。

 ましてや神社の拝殿裏から続く参道とは真反対にある更に獣道と見紛うような裏参道に人気(ひとけ)などあるはずも無い。

 程よく木々がバラけて木漏れ日を感じさせるちょっとした広場のような場所に出る。

 途中にある立入禁止の看板を無視して獣道をほんの五分程度進んだ中腹にも届かない場所だ。

 ここが白茅の厭う世界から切り離される唯一の場所だった。

 程よく伸びた木々が丁度人工物を目隠し、時々道路を走る車やバイクのエンジン音が聞こえるものの殆どの町の喧騒から白茅を隔離してくれるのだ。


『チガヤ、君に滅びたセカイのハナシをしよう』


 誰にも聞かれていないと思っていた(のろ)いの言葉に、少し舌っ足らずで高めの男性の声が応えて、白茅はビクリと肩を揺らした。

 一瞬、驚いたものの聞き覚えのある特徴的な声の主を探してキョロキョロと辺りを見回してみると、頭より高い位置にある木の枝に予想通りの彼が寝そべっていて、ホッと息を吐いた。


「クトルか」


 本当の名は知らない。初めて会話した時に一度フルネームを名乗られたはずだが、バカ長い上に明らかに日本語ではなく発音が正確に聞き取れなかった。

 当時は白茅がまだ幼かったこともあり耳に残った最初の方の音がそのまま彼の呼び名になった。

 クトルは、一見して黒猫のように見える小動物だ。

 しかし、左目の下にある妙に形の整った星型の青い痣と人語を話すこと、更には鳥のような翼が右肩からのみに生えていた。両翼揃っていれば繭のように全身を覆い隠せそうな大きな翼だ。

 彼との出会いは十年近く前、こんな容貌をしている癖に無防備にも施設の塀の上をテトテトと軽快に歩いていたところを四歳だった白茅が見付けた。

 一緒に目撃した施設の子供と後から話していて分かった事だが、ただ目の下に星の痣がある黒猫だとしか思っていなかった。

 あんなに大きな翼なのに視えているのはどうやら自分だけだったらしい。

 きっかけはクトルの翼だったが、白茅にはそれ以外のものもよく視えた。

 その多くは人に纏わりつく靄や光のようなものだった。ハッキリと視えるクトルの翼は珍しい。

 (からか)われたり、嘘つきと言われたり、怯えられたりを繰り返して、ようやく他の人には見えないものがどれなのか理解(わか)るようになったのは僅か数年前……小学生も後半になってからだった。

 それに気付いた時にはもう遅かった。すでに白茅は社会(世界)から弾かれてしまった後だったのだから―――。

以下、裏話になります。

読み飛ばして頂いても大丈夫です。


白茅がクトルに出会った四歳の頃からずっと会っていた訳ではなく、十三歳の時に再会しました。

作中の白茅は十四歳を想定しています。

白茅の学校は制服でブレザーですが、たまにこっそり私服に着替えて学校をサボったりします。

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