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声が聞こえる

作者: 八百坂藍

たまに、呼ぶ声が聞こえる。

「田中。」

気づいたらそこには誰もいないのに、

仕事中から1人でいる時まであらゆる時に、不定期に、

声が聞こえる。

でもよりによって、何も。

1人きりでなんとなく肝試ししている今。

こんな山奥の暗いトンネルで聞こえなくても良かったじゃない?

「田中。」

それは低い声だった。

「〜〜〜!!!」

声にならない悲鳴とともにトンネルから飛び出す。

触られている感覚がした気がする。

俺の名前を呼んでいる気がする。

でも、その何かは私を捕まえていない。

だから、走れている。

何が本当か、わからない。

気のせいだったらしない?でもこの全身から出ている警鐘は一体何?

頭がぐちゃぐちゃで、整理がつかないまま、でも足は止めず一心不乱に元来た方向へトンネルを抜けようと走る。

トンネルを抜けて、電柱の下に到着する。

振り返ると暗いせいで何も見えなかった。

だがあんな至近距離にいたのだ、私が止まれば追いついているはずだ。

気のせいだったのかな。

ほっと胸を撫で下ろす時間は与えられなかった。

何かが光を遮った感覚がした。

呼ばれている気がする。

聞き取れないぐらいの声だが、何故か呼ばれている気がする。

大慌てで私は電柱の下から自分の車へ走った。

車の中に入る。

バンバンバン。

気のせいじゃない。

ドアを叩いてる音がする。

「田中。」

低い声が、聞こえる。

それも、窓越しとは思えない程明瞭に。

次第にドアを叩く音が車を揺らすガタガタと言った音に変わる。

恐怖で俺はいっぱいだった。

「やめてくれ!」

「お前がやめろ。」

父に叩かれて俺は起きた。

「いい加減遅刻するからさっさと飯を食べなさい。」

そう言って俺の部屋の扉を閉めて父は下の階へ降りて行った。

夢だったのだ。

よかった…。

どっと疲労感が体を襲い、衝撃から半ば放心状態のまま、朝食を食べ、服を着替える。

学校へは父が送迎してくれている。

なのでバッグの車に乗っけて、私は親父より先に車に乗る。

乗った直後、

声が聞こえた、気がした。

助手席の俺は、振り向いてしまった。

そして本当の現実に戻される。

「田中。」

気を失っていただけらしい。相当な現実逃避だった。

そしてこの夢みたいなのが現実らしい。

顔が歪んだ男が、後ろにはいた。

とても強い力で変形したとしか思えない顔、そして虚な目が私を見ていた。

頭がいっぱいで。

直視できなくて私はもう丸くなった。

「田中。田中ぁ。」

「ごめんなさいごめんなさい」

「田中。田中。田中。田中。」

「ごめんなさいごめんなさい許して下さい」

「お前は、こうなるなよ…」

突然優しい声音に変わる。

ふと違和感を覚えて顔を上げると、景色は朝であることを告げていた。

こうなるなとはなんだ?

不思議に思った俺はつい、トンネルをもう一度見に行こうとしていた。

丁度トンネルが明かりで照らされていてトンネルに入る必要もなかった。

トンネルの先はすぐ真っ暗だった。

深い穴が空いているのだ。

しかも、とても大きい。

これを警告していたのだ。

後日、花束を置いておいた。

もう声は聞こえない。

「田中」

と不意に呼ばれると驚いてしまうけど、ね。

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