31.一難去ってまた一難
「ルーデルト、聞きたい事がある」
軽食に手を付けていたオーレリアはこちらを見ないまま聞いてきた。
「アレに会ったのか?」
「アレ、とは?」
「僅かだが残滓がある。にもかかわらず祝福を受けていない。訳が分からん」
「いえ、訳が分からないのはこちらです」
「察しろ」
…何という無茶ぶり。
とりあえず紅茶を口に含んで考えてみる。
オーレリアの指すところのアレとは誰の事か。最近新たに会った人物は特にいないはずだ。にもかかわらず、オーレリアは残滓があると言った。残滓というのが何を指しているのかは分からないが魔力の気配のようなものだろう。
何しろ「祝福」と言ってのけたのだから。
大聖堂とオーレリアが私の後ろ盾となると公言した、立場的な「祝福」とは恐らく意味合いが違うのだと思われる。
そうなると、オーレリアの大聖堂のロードという立場で言うところの「アレ」と「祝福」とは…
「まさか女神のことではないですよね…?」
「なんだ、やっぱり会ってるんじゃないか」
「会ってませんよ!?」
選択肢を減らしていこうと、一番ありえないものを口にしたはずなのにまさかのドンピシャだった。
どう思い返してもそんなものと会った覚えはまったくない。
むしろ会っているのであれば『不死』の魔法を授かっているはずだ。
私の反応にオーレリアはジッと視線を向けてきたが、嘘はついていない。会っていないものは会っていないのだ。こればかりはどうしようもない。
暫く私を見ていたオーレリアだったが、不思議そうに首を傾げた。
「わたしがアレの残滓を間違えるはずがないんだがな」
「そもそも女神をアレ呼ばわりしていいのですか」
「女神様なんて呼ばれ方なんざ、アレは望んでないだろ」
女神を祭っているのが大聖堂だろうに、そのトップが信仰対象をアレと呼ぶのはいかがなものか。
私は別に信仰しているわけではないがさすがにマズいだろうとは思う。
それはそれとして。
「まるで女神の事を知っているような口ぶりですね」
「実際知っているからな」
「…は?」
「どういう存在かくらいは、ロードなら知っていて当然だ。アレはそういうものなんだよ」
「オーレリア、詳しく話を伺いたいのですが」
「面倒くさい」
「そこを面倒で終わらせないでください」
「お前が面倒なんじゃない。勝手に話してクローツィアとラウレントにバレることが面倒なんだ
よ。本気で知りたければ大聖堂まできてあの二人を説得してみせろ。あいつらが許すんなら話してやる」
…あのロードたちを説得しろというのか。
ということは大聖堂のトップが知りえる重要事項ということではないか。
さらっとオーレリアは言ったが、かなり機密なことなのでは。何しろロード全員の許しが必要な内容なのだから。
だが、女神のことを知らなければこちらとしても手詰まりに近い状況にある。
これは近いうちに大聖堂に赴かなければならないだろう。
命を狙われて、助けられたと思ったら結局難題を吹っ掛けられているこの状況に、なんだか慣れてしまいそうな気がしている自分が少し嫌になってしまいそうだった。




