26.ストッパーは置き土産を残して去ってゆく
室内をウロウロしながら「どんな子ならルーデルトの目にかかるかしら」などと呟いている普段のメリアーノらしからぬ行動を見ながら、どうすればこの人を止められるか私もまた悩んでいた。
できれば今抱えている問題が終わってからが望ましいが、それを許容する彼女ではないだろう。
メリアーノが気にしていることは確かに大事なことではあるが。
「何をしていらっしゃるのかしらぁ、メリアーノ様?」
「まぁ、アリス!」
ノックもなしに突然扉が開かれたので何事かと思いきや、入ってきたのは母上っだった。
ここでこの人にまで出てこられるとますます収拾が付かなくなる気がしてきた。
だが。
「ねぇアリス、ルーデルトはどのような娘なら…」
「メリアーノ様、ちょっとお茶でもご一緒しましょう? ここではルーちゃんのお仕事の邪魔になってしまいますから」
「そのルーデルトにふさわしい伴侶を…」
「メリアーノさまぁ?」
なんだか母上の周囲の空気が重くなってきた気がする。
うっすらと寒気すらしてきたのは気のせいではないだろう。
うふふ、といつものように笑う母上が、未だかつてないほど禍々しいものに感じる。
かつて母上は「後宮の女を怒らせるものではないのよぉ? とーっても怖いのだから」などと言ってはいたが、これはもしや母上が一番怖いのではないかと、今、まさに思った。
そう、これは怒っているのだ。
どれに関してかはあまり考えたくないが。
メリアーノも母上の機嫌が急降下していることに気が付いたようで、さすがに押し黙った。
「メリアーノ様、ルーちゃんの事はルーちゃんが決めるから大丈夫と申しましたよねぇ」
「え、えぇ。でも国王としていつまでも独り身でいるのは」
「大丈夫です、と申し上げましたよねぇ?」
…あ、これは母上に軍配があるな。
完全に気圧されているメリアーノを見るのも、ここまで庄がある母上も見たことがない。
だがこれはすでに勝負がついている。火を見るよりも明らかだ。
「お茶でも飲んでゆーっくりお話したいですよぉ、メリアーノ様」
そう言って母上は手を叩いた。
すると待機していたらしい侍女たちが入ってきて、固まっているメリアーノを器用に部屋から連れ出していった。
メリアーノが去り、静まり返った部屋で母上はいつも通りの笑みで「それじゃあお仕事頑張ってねぇ」と言って出て行こうとして、ふと立ち止まり振り返る。
そこには悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
「ところでねぇルーちゃん、あなた本当にオーレリアちゃんのこと女性として見たことないの?」
「…はい?」
「ルーちゃんが一番気を許してるのはガレスちゃんだけど、仲良しさんな女の人はオーレリアちゃんだけよね。女性として意識したこと、本当にないのかしら? よく考えてみてちょうだい」
そんな問いを残して、母上は部屋から出て行った。
オーレリアを、女性として。考えたことは…なくはないけれども。
そこまで考えてふと気が付いた。
…母上、貴女最初から全部聞いてましたね?
オーレリアを「ちゃん」付けで呼べるだけの肝の座った人はアリスだけです。




