2.うっかり選ばれてしまったルーデルト
主人公視点に戻ります
溜息が止まらない。憂鬱でしかない。そもそも面倒くさい。
そんな3コンボが出来上がっている私は悪くない。
「ルーデルト様、顔に出ています」
私にそうツッコんできたのは、従者であり幼馴染のガレスだった。
「自室にいるときぐらい大目にみてくれ。まさか本当に選ばれるなんて思ってもみなかったんだ」
「手を抜けばよろしかったのに。真面目な性格してるのに変なところで面倒くさがり屋なところありますよね」
「『王族としての資質を知りたい』なんて言われたんだ。本気で取り組まないで廃摘にでもなったら冗談にもならないからな」
「なんでそんなに真面目に育ったんでしょうね。母君はあんなにのほほんとした方なのに」
幼い頃からの付き合いだけあって、ガレスは私と母上のことをよくわかっていると言える。
9人目の側妃ではる母上は生家が子爵家ではあったが父上に見初められて側室として迎え入れられた。
のんびりとした性格の母上は、数いる側妃の中では珍しく、積極的に父上の寵愛を受けようとはしなかった。むしろ父上が来た時には茶を出してもてなす程度で特に媚びない。そういった所が気に入られたのかもしれないが。
そんな母の一人息子として育てられた私は幼い頃、今はだいぶ丈夫になったほうだが、体が弱かった。
ちょっとした気温の変化で臥せることが多く、他の異母兄弟との遊びについていけないことも多かった。
そこで私に付けられたのが、私より2歳年上のガレスだった。母方の遠縁の男爵家の息子だったが、両親が事故で他界したため子爵家で引き取ることになったところを、専属の従者がまだいない私の話し相手にもなるだろうということで、付けられることとなった。
当時5歳だった私にとって、ガレスは色々な事を教えてくれて構ってくれる兄のような存在ができて、それは喜んだ記憶がある。父親が文官だったガレスは貪るように本を読む子どもだったらしい。そこから得た知識を惜しみなく私に与えてくれたため、ベッドの上にいながらも私は着々と知識を手にすることができた。
大きくなったら教えてくれた世界を直接見ていたいと言って笑ったとき、ガレスは私の頭をクシャクシャと撫でてくれたのを覚えている。
年齢が上がるにつれ、私が体調不良を訴えることが少しずつなくなってきた。それに伴い、遅れていた王族としての教育も、他の王子王女に遅れをとらないようにとペースを上げられた。
ついてこられないのではないかと周囲は不安がっていたが、そこはガレスの功績と言えよう知識に助けられ、順調に進んでいった。
体力向上のためにと、騎士団の新兵教育に参加させられた時は死ぬかと思ったが。
幼少期よりは幾分体力がついてきたとはいえ、普段あまり運動はしてこなかった私はとにかく貧弱っだった。
母上は「ルーちゃんの好きにしていいのよ?」と相も変わらずのほほんと言っていたが、剣も持てない、乗馬すらできない貧弱王子と影で呼ばれているのを知った時、男としての矜持が勝った。
出来る範囲からでいいと必死に訓練に食らいつき、勉学のほうも欠かさないようにと努力した。
その結果、成人するころには王族の中でも上の下くらいには認められていただろうと自負している。
それからは王族としての公務を少しずつ任されるようになっていった。
別に国王になりたい訳ではなかった。ぶっちゃけ面倒なだけである。王様志望者は異母兄弟の中にそれなりにいたのだから、やることはやるが、それ以上の事はしないようにしていた。
にも関わらず。
やることをやってきた部分が結果的に評価され、なりなくなかった国王という立場のお鉢が回ってきたのだ。
もっと手を抜けばよかったと思わなくもないが、自分の性格上できるかといえばどうすれば手を抜くということになるかがイマイチ加減がわからなかった。
そして冒頭にいたるのである。
戴冠式の日時を知らされ、それに伴い衣装を仕立てたり、今までとは違う最上位者としての式典での振る舞いなど云々とにかくやることが山積みと化した。
拒否権がないのがどうしようもない。私という存在が認められた部分に関しては喜ばしいことではあるが。
未だに心の身辺整理ができていない状態で、式典用の正装が出来上がったと報告があり、ガレスを伴って悶々としながらも試着した姿を姿見で見る。
「オーレリア嬢が見たら腹抱えて笑ってくれそうな気がしますよ」
「私は珍獣か何かか?」
「ボクが言っていいのであればハッキリと。ルーデルト様は完全に衣装に着られています」
「…知ってた」
だから嫌だったんだとげんなりした私に、ガレスはポンポンと肩を叩いた。