13.ロードとセヴンスと嫌な予感
帰りの馬車の中で、ロード・クローツィア―もといレスティオンは今日の収穫を頭の中で整理していた。
顔合わせとは言っておいたものの、実際のところはルーデルトが本当に「不死」を引き継いでいないかどうかの確認であった。
大聖堂で、一度「アレ」の傍にいる体験をすれば、女神の『祝福』を受けているかどうかは嫌でも分かる。
カスティニオーリの残滓が邪魔をする場合もあるが、どうやら本当に「不死」を継承しなかったようだ。
…安堵はできない、か。
「レスティオン様、いかがでしたか」
考え込んでいるところに、心配そうにファナが声をかけてきた。顔を上げればファナだけではなくジルベルトもどこか不安気な表情だった。セヴンスとは他の者がいないときは、基本ロードではなく名前で呼び合う程度に気が置けない仲だ。そうでなければ派閥が成り立たない。
そしてセヴンスである二人が不安になるのも無理はない。ラウレントにもいえることではあるが、セヴンスでは女神の『祝福』は感じ取れない。わからないのが普通なのだ。中立派もまた然り。女神の『祝福』を感じ取れるという事ができるのはロードとなれる最低条件だ。
唯一、カスティニオーリを除いて。
大聖堂における最大の禁忌を抱えるカスティニオーリが異常なだけであるが。
だが、そのことを考えるとキリがないので一度かぶりを振って、考えるのを止めた。
「ルーデルト王は「不死」の魔法を引き継いでいない。断言できるのはこれだけだ」
「では、女神が消滅したかまでは分からないのですね」
「分からないな。弊害が出ていない以上は女神はまだ消滅してはいないだろうが、力が強すぎて今はまだ影響が出ていないだけかもしれない。何にせよ、王族にはできるだけ早く調査結果を求めたいところだが…」
「あまり急かすような真似をするとロード・カスティニオーリが黙っていないでしょうね…」
ファナが若干顔を青くしてレスティオンの言葉を引き継いだ。
カスティニオーリがやらかすところを思わず想像してしまったのであろう。ファナは先代のロード・クローツィアの代から続けてセヴンスの地位にいるため、カスティニオーリの逆鱗に触れた結果がどうなるかを知っている。
ジルベルトはどう反応していいかわからないという顔をしているが、触らぬ神になんとやらというやつだ。
「とりあえずは、こちらも様子見だ。だがいつ状況が動くかわからないことだけ念頭に置いていてくれ」
「かしこまりました、レスティオン様」
「特にラウレントが動いたときはすぐに知らせてほしい」
「カスティニオーリではなく?」
「あの狂信者が『祝福』のない国王を前に何を言うか、というよりも何をするかわかったものじゃないからな」
「…せめて信仰深いとおっしゃってください」
ジルベルトが何とも形容しがたい表情で言ったが、後日、レスティオンの予想は誠に残念なことに現実となるのであった。