10.異母兄と王宮図書室
ようやく話が進みます
「ルーデルト様、イアン様がお会いしたいとのことですが…」
「兄上が?」
ようやく周囲と環境が落ち着いて、政務にも慣れてきたころ正妃メリアーノの長子であるイアン兄上からの面会依頼がやってきた。
私が国王として選ばれてから、正妃は私の事がとにかく気に入らないらしく、嫌がらせとまで呼べることはしてはこないが、公務に消極的になってしまった上に顔を合わせるたびに遠回しに嫌味を言ってくる。実害がないので今のところは放置しているが。
…兄上たちが国王になる気がなかったのに、私にどうしろと。
ともあれ、どこかの友人とは違い正規の手続きを経ての面会依頼となれば特に断る理由もない。
夕食後ならば時間も取れるので、許可を出し再び読んでいた書類に目を通した。
内容は『不死』の魔法についての報告書だ。
父上の遺品や亡くなるまでの間の行動の中から何か手がかりはないかと思い、父上の側近であった者たちに指示を出して調べさせていた。流石に中身を見るわけにはいかないと言われ日記などの手記は直接持ち込まれたので、それ以外、つまり生前の行動記録を作らせた。
今のところ、これといって明らかにおかしい行動をとっていた報告はない。
ただ、調べものがあったのかはわからないが、亡くなる数カ月から王族のみが入ることを許される王宮図書室に足を運ぶ時間が多くなっていた。
もしかしたらそこに何か手がかりとなる内容があるかもしれない。
だが、国王としての業務は割振りが上手くいかないためまだまだ多忙で、図書室に行ける時間は取りづらい。
悶々としながらも夕食を取り終え、イアン兄上との面会時間となった。
「久しぶりだね、ルーデルト」
「お変わりないようで何よりです、兄上」
異母兄弟の中で最年長のイアン兄上は穏やかな性格で、あの正妃とあまり似ておらず、側妃の子である私にも対等に接してくれていた。
その兄上が私と直接話をしたいということは、何かあるのであろう。
「あの式典からしばらくは忙しいと思ってね。落ち着くまで待っていたんだ」
「お気遣いいただきありがとうございます。それで、要件とは?」
「ルーデルトが忙しい中、公務のみこなしているというのも申し訳なくてね。母上に関しては申し訳ないが私たちでは抑えられないから、せめて何か手伝えることがあればと思ったんだ。ルーデルトは抱え込むところがあるから、もう少し私たちを頼ってくれていいんだよ」
兄上なりに気を使ってくれていたようだ。おそらくもう一人の兄上もそうだろう。
ならば丁度いい。任せたい案件があるのだ。
「それでは、是非ともお願いしたいことが。王族である兄上でなければ頼めないことがあります」
「というと、やはり父上が亡くなった原因についてかな」
…相変わらず察しがいい。
国王には向かないと明言していたが、私からすれば兄上は何事も卒なくこなすタイプだと思う。
少々器用貧乏なところはあるが。
信頼できる相手ということもあるが、人手不足には変わらないので、この際王宮図書室の件を兄上に任せてみようと考えた。
父上が図書室に通っていたことを簡潔に話してみると、兄上には少し心当たりがあったらしい。
「確かに父上は元々読書家ではあったが、政務のため以外に図書室に行くことはほとんどなかったはずだ。それがこうも頻度が高く通い詰めるとなると何かあるかもしれないな…。わかった、図書の量は半端ないが、ルーデルト一人に任せていいものでもない。『不死』の魔法について何か記されている書物がないか弟と調べてみるよ」
「感謝します、兄上」
「何度も言うけど、ルーデルトは一人で抱え込みすぎだ。遠慮なく周りを頼るといいよ」
「…オーレリアにも似たようなことを言われました」
「ロード・カスティニオーリか。大聖堂の事と言い、大物が後ろにいるとプレッシャーも大きいだろうが、有効活用すればいい。権力は使ってこそだ」
茶目っ気にそう言われて、兄上との対談は終わった。
王族しか入れない図書室の件を引き受けてくれたのはありがたい。
これで少しは進展があればいいのだが。
まだまだ核心へは程遠いですが、確実な一歩を踏み出しました。