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影喰  作者: 87オカメ
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第一話「予兆(オーメン)」

〜ザンドラデ1000ノ影喰。ヒトカゲ喰ラウ、喰ラワレルハ消滅ス〜


「なんだ、この中二じみた古書は…」


数週間前にじいちゃんが病を患って急死したという知らせを母さんから聞いた。人気のない山奥で一人暮らしで誰も片付ける人がいないからお願いねと頼まれ、僕が片付けに来たというのに…考古学の仕事をしていたって聞いてたから、中学生の時は凄いリスペクトしてたじいちゃんだった。でも今実際、こう書斎を整理してみたらこんなものコレクトしていたのか。他の古書はボロボロで字も掠れていて全く解読不能。なぜかこの古書だけは一文だけ解読できたけれど、内容が悪趣味。いや、失望したと言うよりは意外な一面が見れて笑ってしまう。正直、もっとお金になるようなものを残していて欲しかったなとは思った。


「勇人くん、おじいちゃんとの思い出に耽るのもいいけれど、片付ける度に手の止めていたら終わりませんよ!」


「あ、すいません紫音さん。ここに来るのも僕が小学生以来なんで…何だか懐かしくて、つい宝探し気分になっちゃって…」


僕以外にもう一人お手伝いさんを母さんが呼んでくれていた。僕は別に一人でもよかったのに…いや、むしろ一人の方がじいちゃんの悪趣味を納得いくまで漁れてもっと面白い一面が見られただろうからそうしたかった。家政婦である紫音さんは僕のお母さんとは知り合い同士。お掃除のプロでお仕事の依頼も多く抱えているが、手早く正確にこなす。僕一人だと、片付け途中で書物を読み始めて、掃除が遅くなるだろうからと作業日当日に母さんが送り込んできた。僕を小さい頃から手塩をかけて育ててきた親故に子のことをよく分かっているものだ。そんなところを感心してもしょうがないのだけれど。


ふと、周りを見渡すと本棚から机の上が綺麗に片付けられていて、さっきまで埃と黒ずみが凄かった床と窓まで新築かと思うくらいピカピカになっていた。僕がじいちゃんの粗探しに耽っている間に紫音さんがほとんど…いや、ほぼ全てやってくれていたようだ。紫音さんに対する申し訳なさを感じると同時にお片付け助っ人として呼んでくれた母さんの選択を大いに賞賛してしまった。


「紫音さんが全部やってくれたんですか?…すいません。僕、この本に夢中になってて全然気づきませんでした。やっぱり紫音さんが来てくれて凄く助かります。ありがとうございます!」


「いいのよ。一応、村島さんから報酬は前払いでいただいているし、勇人くんも幼い時から見てきて好奇心旺盛な子なのは分かってるから。…でも、人に任せてばかりいたらダメよ!」


「は、はい。以後気をつけます…」


「よろしい!それじゃ、そこにまとめて置いているゴミ袋を捨ててきてくれる?私は掃除道具を片付けてくるから。それでお掃除は終わりにしましょう。」


僕はちょっとした罪悪感を感じながらゴミ袋を2袋ずつ両手に持って廊下の方へ出ていった。

紫音さんのおかげで予定していた時間より早く終わったので、この後は一旦家に帰る予定でいたが、変更してそのまま学校に向かうことにした。宿題プリントを机の引き出しの中に忘れてきたというしょうもない理由だが、社会科の先生から配られたプリントとなったら話は別。あの先生、授業で使う教材を忘れたり授業中居眠りしてたりするだけで凄く叱責してくるから正直めんどくさい。生徒会長である僕がガミガミ怒られて、活動を応援してくれている友人たちを失望させてしまう事態は避けたい。その気持ちがある故に、プリントを取りに行かないという選択肢はないのだ。紫音さんが言っていた「人に任せてばかりいたらダメ」という言葉がふと蘇った。僕も紫音さんのように期待している人たちに応えられるよう、努力をしなきゃと強く思った。





例の宿題プリントを回収し終えた僕は校舎を後にして校門の外に来ていた。帰り道はどこかに寄り道する予定はない。このプリントをさっさと終わらせることが最優先項目になっているからだ。校門の外からすぐ近くにある交差点で今、信号待ちをしているのだが、ここの信号はまあ長い。休日もあってか、いつもより車通りも多い。横断歩道の向かいにはシックな格好のやや小柄な女性が同じく信号待ちをしている。この辺じゃあまり見かけ無いミステリアスな装いだったが、最近は理解し難い奇抜なファッションをしている人も多く見かけるので、あまり気に止めなかった。

数分待ってようやく信号が青になり、横断歩道を渡っていく。反対側からも例の女性が歩いてきてすれ違う。


「ザ…ドラが……れるか。新た…影喰が……れる」


すれ違った女性の声が聴こえて一瞬振り返ったが、彼女の方はこちらを気にすることもなく先を進んでいた。ただの独り言だったらしい。気に取られていたら歩行者用信号機がチカチカして青から赤に変わりかけていたので、小走りで横断歩道を渡り切った。


「何なんだ、さっき女性。占い師か何かかな?」


ミステリアスな格好の怪しそうな人物で真っ先に思いついたのがそれだった。僕は占い師のことはよく分からないけど、あの格好で暗い部屋で水晶玉に両手を翳している印象が強い。古いイメージなのかもしれないけれど…

まあ、それ以上あの女性のことを詮索しても何かあるわけでもないので、やめておこう。…それよりも喉が渇いてきた。思えば、じいちゃんの遺品整理をしてから水分を一滴も取っていない。ちょうどその先の公園の前に自販機があるから、そこで買おう。

ポッケから財布を取り出し、100円玉と10円玉3枚を探そうとした時……



青く澄んだ快晴の空が突然、一瞬で薄暗くなった。


「えっ、なんなんだ!?何が起こったんだ?」


さっきまで聞こえていた車や信号機の音も消えて、辺りは静寂。視界を見渡せば景色の色が失われている。僕のそばを歩いている人たちや周りのビルや住宅は実体がなく、シルエット化している。完全に止まっているわけではなく、ゆっくりと動いてはいる。対して、僕の体は何ともないようだった。何だろう…同じ世界にいるはずなのに、僕自身だけ凄く乖離された世界にいる感覚だ。第一象限にいた世界から同じ形で反転した第三象限の世界に移ってきたよう。それに空気もなんだか重く息苦しい。


状況を掴めず困惑してキョロキョロとしていると、学校前の交差点辺りに人影が見えた。先ほどのシルエット化した歩行者の人たちと違い、実体が見えて動きが軽やかである。


(もしかして僕と同じ状況の人がいる!?)


何か知っているかもしれないと期待を持った。少しでもこの不安と疑問を払拭したい。そして、これは現実ではなく夢だと断言してもらいたい。そう望んでいた。

駆け足でその場所に近づいた。…が、途中で足が止まった。

僕の目に飛び込んできたものは・・・




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