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7-10話 修学旅行(3)

【読者さまのコメント】

新幹線は到着し、いよいよ京都旅行が開始される!

移動はバス。そして席は……なるほど。

事前に話し合いで決定しているのですね!(笑)

まず最初は那奈!

アイドルからダンサーかぁ。いろいろと不安になるのも無理はないよね。

高松、モテモテ!

 京都駅、到着。

 俺たちは新幹線から降り、京都駅八条口から外に出た。

 有名な京都タワーがある出口とは逆になる。

 出口付近のバスのロータリーにはすでに多くのバスが止まっていた。

 ここからは班に分かれてバスに乗り込む。

 バスには、例えば一組から三組までの第一班の男女計三十名が一台目に乗り込み、次のバスには四組から六組の第一班の男女、三台目は一組から三組の第二班の男女という形だ。

 なぜ、このような面倒な組み合わせを学校側は考えたのかは、事前に俺たちには知らされなかった。

 修学旅行のパンフレットが出来、手元に来て初めてわかったのだ。

 俺は渋谷先生に質問したところ、

「他クラスの生徒と交流するのもたまには良かろう」

 の一言で終わらされてしまった。

 クラスからも特に不満の声はなかったので、俺も不完全燃焼だが、決定に従った。

 

 うちの班の女子メンバーは出口を出て、ロータリーのどこに自分たちのバスがあるかを確認すると、井上さんの一声で全員集まり、なぜかじゃんけんをしていた。

 その結果が出たのか、メンバーは小走りに俺を追い抜き、バスに向かった。

 男子メンバーの横を通った時、誰かに声をかけたらしく、彼らも追随し始めた。

 俺は、行動に違和感を感じたが、すでに新幹線内で大分疲労していたため、ゆっくりと彼らを追った。

 俺は自分たちが乗る第一組第一班のバスに最後にたどり付き、乗り込むと、すでに一番前の席に坂本・佐々木、鵜坂・牧野と班の男子が二名ずつ別れて座っていた。

 また俺が男一人になるパターンである。

 奥には三組のメンバー、うちのメンバーと通路を挟んで反対側には二組のメンバーが座っていた。俺は、

「すみません、バスも席自由なんですか」

 とガイドさんに尋ねると、ガイドさんは、

「そのように言われていますが……」

 と回答があった。

 またかよ…… と面倒くささを感じながら、順に空いている席を探していると、男子メンバーの後方に夏村さんと多江ちゃん、井上さんと石森さんがペアで座っており、女子と男子の間の席に那奈が一人で座っていた。

 俺はここに座れという意味であろう。

「あのう…… ここが俺の席ということでよろしいでしょうか?」

 と尋ねると、那奈は、空いている席を手でパンパンとたたきながら、

「ピンポン! 正解。じゃんけんで決まったんだ。一番最初は私がレッズさんの隣ね」

 と言った。

 確かに、バスまでの移動中、女子だけ集まり、じゃんけんをしていたことを思い出した。

 そういうことですかと俺は思いながら、後ろの席の夏村さんを見ると済まないという表情であった。

 もう、どうにでもなれだ。俺は、

「では、道中宜しくお願いします」

 と言い、那奈の横に座った。

 バスの後ろの方を眺めると、昨年の今頃、カウンセリングした元ヤンキーたちや顔見知りの部活関係者の顔も見え、俺に手を振っていた。

 俺も軽く手を振り、正面をむき直した。


 俺が席につくと、那奈は、

「今日は私が京都駅から銀閣寺までのバスを担当。三十三間堂からホテルまでのバスは石森さんが担当することになっているよ。明日は行きが小倉さんで、帰りが井上さん。最終日は悪いから終日夏村さんって話になっています」と俺に伝えた。

 結果的に、最終日までは夏村さんと隣は無理なのかとも思ったが、交代で隣が変わるのであれば同じバスに乗る他のクラスの同乗者に、終始俺と夏村さんがベタベタしていたといわれることもないであろう。

 まあ、それはそれで良いか……。

 何分、俺たちの班以外は他のクラスの生徒だ。

 ここで変な関心を持って帰られ、自分のクラスで俺たちの変な話題を広げてほしくはなかった。

 そんなことを考えているうちにバスは駅前を出発した。


 ところで、京都駅から銀閣寺までが今回の修学旅行中、一番バスの乗っている時間が短くなるのではと思い、那奈にこう言った。

「ということは、那奈が隣の時間はみんなの中で一番短いかもしれないね」

「そうなの? それは寂しいなあ。このメンバーの中で一番の顔見知りってさ、レッズさんだけだもんね」

 と、ちょっと寂しそうな顔した。

「ところで那奈は京都に来た経験は?」

「初めてかな? 中学の修学旅行は東北だったんで、転校しなかったら高校の修学旅行も東北だった」

 この当時、埼玉の県北の学校は修学旅行と言えば東北というパターンも多かったと聞く。

「じゃあ、車窓からもせっかくの京都の町を満喫しないとな。ほら、右に東寺の五重塔が見えてきたよ」

「ほう、大きな五重塔だね。ところで『五重』ってどういう意味?」

 そこからかよと思いながらも那奈に一から京都の楽しみ方となる、建物や仏像の見方を説明した。

「へぇ、レッズさん、そんなことも知っているんだ。ジジイかよ」

 彼女に取ってはありがた迷惑だったのだろうか、その返信に俺は少しがっかりした。


 バスは京都駅を出て、東寺を通り過ぎ、西本願寺で右折し、七条に向かい、東大路通を北上した。

 車窓の左手には鴨川が見え、次第に駅前にあった京都タワーの姿も小さくなっていく。

「ところでレッズさん」

「その呼び名は辞めろって」

「バスの中では二人きりだからいいでしょ」

「まあ、だれも聞いていないからいいけど、どうしたの」

「うん、あのね、握手会だったら二分で千円取られるのに、今日は無料だねと思って」

「本当だ。でも、憧れの推しが同じ高校に入ってくるとは思わなかったよ」

「その上、数少ないずっと応援してくれているレッズさんと旅行、まあ修学旅行だけど一緒に旅行出来るとは思わなかった。思い返すと私が一期生で入団してから、ずっと応援してくれてたもんね」

 と那奈は言いながら車窓から見える風景より遠くに見える懐かしい二人の思い出の風景を見ているようだった。

「そうだね。俺の家のそばのイトーヨーカ堂浦和店の屋上にステージが出来て、そこでSTMがミニライブやったんだよな。もう四年位前か…… 俺も偶然見に行って、後列でかっこよく踊っている那奈を見て、応援しようと思ったんだよね」

「あれから正式デビューになって、増員されて、選抜制になった時、選抜から外れたのに今までずっと変わりなく応援し続けてくれていたのはレッズさんだけだった」

「俺もSNSを使って応援はしたんだけど、力及ばずで申し訳なかったよ」

「レッズさんが謝る必要ないよ。自分の力不足なんだから」

「でも、選抜に選ばれなくても握手会の時のミニステージで目を輝かせながら、かっこよく踊っている那奈は本当に格好よかった、好きだったよ。そして毎回、ミニコンサートを見るのがすごく楽しかった」

「惚れてたか? 惚れていたのか? でも、ありがとう。ステージからいつもレッズさんを見て踊ってた。よく考えるとレッズさんって最終的に私にいくら貢いでくれてたんだろうね」

「いったいどのくらいなんだろう。逆に計算してたら気持ち悪くない? 俺は那奈にうん万円貢いだよって正確に言われたら引くよね。実はさ、俺、以前バンドやってて、バイト代わりに少し収入もあったから、それのほとんどを那奈に貢いじゃったんだよね」

「そうなんだ…… ありがとう」

 そして少し間が空く。


 それを嫌った俺はSTM退団の話を持ち出した。

「でも、以前にも言ったと思うけど、これからチームを出て、ダンスで頑張るんだろう…… それで確実に食べて行けるのならいいけど、推しとしては心配なんだよね」

「さすが、レッズさん。後々まで面倒見がいいね。実のところは私も不安しかないんだ…… 結局、ダンサーってさ、バックの仕事じゃない。それで食べて行けるのかって言うのとやっぱ不安なんだよね。この件を決めたときも、今居候させてもらっている姉にも『もっと将来についてしっかり考えなさい』って言われたんだ。姉貴は大手企業に勤めているから特に心配するんだよね。ダンスやってても、最終的にはダンススクールの講師ぐらいしか職は無いしね。とはいえ、私は高崎のヤンキーの出身だし、それほど頭良くないしさぁ」

「その辺は心配ないよ。去年の春までは、この高校も生徒の半分近くはヤンキーだらけだったしね。身近では夏村さんもそうだったし」

「えっ! そんな学校がここまで落ち着いたんだ」

「中には、大学や専門学校狙って勉強しているやつもいるし、先生達も生徒に一生懸命な先生が多いから、頑張れば頑張ったなりに成績は出ると思うよ」

「でもなあ…… 俺、頭悪いんだよ、本当……」

「那奈。話し口調が変わってきてるよ」

「ゴメンゴメン、つい独り言だとヤンキーの時の言葉が出ちゃうんだよね」

「そりゃ、しょうがないね。夏村さんも出ちゃうし」

「そう言えば夏村さんってあんな綺麗な子なのに本当にヤンキーだったの?」

「浦和の駅周辺では名の知れた総番だったんだよ」

「そんな総番とポケーっとしたあんちゃんがどうしてくっ付いたの?」

 俺は那奈に夏村さんから呼び出されて勉強を教えたこと、俺から付き合って欲しいと告白したこと、そして現在までの経過を話した。

「すごいなあ、青春ドラマみたいなことしたんだ、レッズさん。私にもそうだったけど、こうと決めたらトコトンやり抜きそうだもんね」

「トコトンやるよ。でもやり過ぎて事故ることもあったけど」

「そうか…… それじゃあ、お願いしちゃおうかなあ……。その『トコトン』を私にも分けてくれないかな?」

「何? 卒業の時の握手会は盛り上げてみせるから……」

「そうじゃなくて……」

「そうじゃなくて……?」

「なんか、私、勉強できない分、ダンスに明け暮れて、それ以外を考えもせず今まで来たんだけど、短い間だけどこの学校でレッズさんと出会えて、レッズさんがダンス以外の別の世界も教えてくれるように思えたんだよ。だから、夏村さんに頑張ってる分の少しでいいから私の人生の手助けをしてくれないかな?」

「ちょっと待て! 俺がそんなこと出来るわけないじゃん。自分の人生だ。まずは自分でよく考えて、目標立てて動けよ。そして道に迷ったら俺に聞いてくれるのは問題ないけど。奈那の人生の手助けを俺に振られても俺は責任持てないよ。確か同じようなことを後輩にも言ったことがあるんだ。まずは自分で考えて自分の意思で行動しろってね。それと俺は夏村さんの人生の手助けをしている訳ではないんだ。夏村さんが決めた道を進むのを手助けしているだけなんだ。まずは自分の道は自分で決めないと」

「まあ、そう言うだろうと思ったよ。多分、後ろに座っているうるさい子達の面倒もみんなレッズさんが見てるんじゃないの? だから当てにされちゃうんだよね。じゃあ、私も道を見つけてレッズさんを当てにするわ!」

「勝手に決めるな! 俺はアイドル奈那のことは知っているけど、緒方奈那のことは全然知らないんだ。どうやってアドバイスすればいいかわかんねえよ」

「ふ~ん、アイドル奈那のことは知ってるんだ…… バストと身長は?」

「…… 81センチの162センチ」

「正解! さすがだね。ということは、会場で売っていた水着の写真で、私の裸、想像したことあるでしょう」

「……」

「あるでしょ?!」

「(はい)」

「エッチ! その反省も含め、私の人生相談宜しくね!」

「ちょっと待てよ!」

「夏村さんにチクるよ」

「はい、わかりました…… てか全然、俺、窓の外の風景見れてないし!」

「ごめん! ごめん! それとさあ……」

「何? 俺、車窓みたいんだけど」

「私、レッズさんのこと、『かーくん』って呼んでいい? みんなの『かずくん』、夏村さんの『かずや』と差別化したい」

「差別化? なんで自分だけの呼び名にしたいの?」

「やはり、私の唯一の推しを他人に渡したくないから……。ここまで来たんだ……。ずっと私の推しでいて欲しいんだよ。『出会い』って神様が企てた『縁』だと思うんだよ。その『縁』で人生は良くもなり悪くもなる。多分、かーくんは私を良い方向に導いてくれると思うんだ」

「『縁』ねえ……。 まあ、いいや。どうぞ、呼んでください」

「じゃあ、よろしくね、かーくん」

 と言いながらも那奈はこの短時間の会話の間に俺に頼る準備を着々と整えてしまうのであった。

 不意の車窓を見た俺は、

「もう京都御所じゃん。もうすぐ銀閣寺着くぞ!」

 と那奈に言った。すると那奈は、

「わかった。かーくんに付いて行けばなんでも上手く行きそうだから。なんでも指示して!」

「じゃあ、別件で一言言わせてもらう。那奈、香水の香り強すぎ。高校生レベルのにしろよ。香りが強すぎて隣に座っていて、頭が痛いわ」

「かーくんを迷わすために付けたのに逆効果だったか。今度、かーくん、高校生レベルの香水選んでくれる? 好きな香りでいいよ」

「機会あったらね!」

「今日ホテル着いたら外出時間あるじゃん。その時に行こうよ?!」

「その時、俺は夏村さんとデート! 本当は生徒会のパトロールだけどね」

「じゃあ、夏村さんも誘おうっと!」

 と言い、早速後ろの席に座る夏村さんに声をかける那奈であった。


 銀閣寺付近でバスを降り、そこから哲学の道、永観堂、南禅寺、清水寺そして三十三間堂まで、ガイドさんの後を歩いて行動した。

 この間は、男子は男子、女子は女子で行動したため、混乱は無かった、記念写真を除けば……

 記念写真を俺は夏村さんと撮りたくて、他の女子に頼むと、その代わりとして撮ってくれた子と俺が一緒に写真を撮る。

 その後、その他の女子も便乗して俺とペア写真を撮る。

 そして女子全員の集合写真に俺が強引に入れさせられて撮られ、女子だけの集合写真を俺が撮影。

 最後に男子の集合写真に入って撮影となった。

 俺は一体何回写真を撮らされるんだ……


「かず、もう憔悴しきっているな」

 と坂本は笑いながら、声をかけてきて、しばし二人で哲学の道を歩いた。

「お前、こんだけの女子メンバー、全部面倒みるのというか、最終的には夏村さんと付き合うんだろう? 他の女子とのいい決着方法を卒業までに考えていた方がいいんじゃないか」

「それはそうなんだけど、せっかく皆仲良くしているところに亀裂を作りたくないと思っているのが現実かな。それと、進路も変われば、次第とそちらに足が向くだろうし、どうしたらいいんだろうねえ」

「もてない俺に聞くな」

「俺だって中学時代、全然女子との交際なんかしたことなかったし、バンドを組んでいたときはおたくのお兄さんや仲間に、うちのボーカルは女子に人気が無いって言われたぐらいだからね。だから、何か今だけ盛り上がって、卒業の頃には目の前には誰もいないって感じになるのかなって想像もしてる。最悪、夏村さんでさえ俺から離れていくような感じがするんだ。それぐらい俺には自信が持てないんだ。これじゃ中学の時の二の舞だけど」

「お前の一生懸命って、自信がないからがむしゃらにやって、不安を忘れようとしているだけなのかもな」

「それは俺も強く感じている。だから大学合格してから時間が出来て自分を振り返る時間が増えたら、周りに迷惑をかけてしまい、誰もいなくなっているんじゃないかって不安がいつもあるんだ。だから少しずつでもその準備はしておかなくてはいけないと思っている」

「まあ、かずとは兄貴を通じての長い縁だ。何かあったら言えよ!」

「ありがとう。『縁』か……」

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2023/02/09 一部改稿(全体に長くなったので、一部を次話に移動)

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