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7ー8話 修学旅行(1)

 ◇◇ 九月十四日 ◇◇


 今朝のショートホームルームで、昨日決まった学園祭の実施要項の発表と修学旅行のパンフレットの配布が行われた。

 先に俺と石森さんが教壇に上がり、学園祭の実施要項の説明を行い、明日のショートホームルームで担当分けをすることを報告した。

 クラスメイトから了解を得て、話終えた俺と石森さんが席につくと渋谷先生がパンフレットらしきものを配り始めた。

「二十五日からの修学旅行のパンフレットだ。自分の分を取ったら後ろに回してくれ」

 さすが、旅行会社が作ったパンフレットである。

 上質な光沢紙に日程や班とメンバー名、訪問地のカラー写真入りの説明の他にも持ち物や注意点など事前に旅行会社と学校で打ち合わせた内容もそのパンフレットには記載されていた。

 もうすでに旅行会社と学校間で話はかなり進んでいたのか。

 ここまでしっかり決められているのであれば、今更修正、反論はできないなと俺は思いながら、ざっとパンフレットに目を通すと、何で? と気になる箇所が見つけ、我慢できず質問のため手を上げた。

 教壇に立って、パンフレットが最終列まで行き渡ったか確認していた渋谷先生は俺を指し、

 「高松、どうしたのか?」

 と尋ねた。俺は、

「豪華なパンフレットでとてもありがたいのですが、ちょっと疑問点がありまして…… いいでしょうか?」

「どうした? 何か気になることでもあったのか?」

「各クラス、各班とメンバー名まできれいに印刷されていて、とても素晴らしいパンフレットなのですが、京都行ってから一緒に行動する男女の班がすでに決まっているように思えるのですが……」

「なにか不服か?」

「いえ、何か作為的なものを感じるのですが……」

 綺麗なパンフレットの中に各クラスの班分けとペアとなる男子と女子の班のペアが印刷されたものが、別途ページに貼り付けられていたのだ。

 他のクラスメイトも班ページを見ると、勝手に学校側が男女の班のペアを決めていたのに気づいた。

 元ヤンキー班は元ヤンキー同士、混成班は混成同士、俺たちの班は…… 夏村さんの班とペアだ。

 クラス全体に『エ~!』の声が響いたが、なぜか各自まんざらでもないらしく、不平も言わず場は収まっていった。

 俺は一人、周りをキョロキョロしていると、渋谷先生は、

「普段、仲が良い男女班ペアにしたつもりだが、問題なかろう?」

「いやいや、ひとこと生徒にも同意を得た方がいいのでは……」

 と言うと、俺のシャツの裾を引っ張り、座れと指示する人が…… 夏村さんだった。

 俺が席に着くと小声で夏村さんは、

『お前、俺と組むのが嫌なのか?! 他の班に組みたい奴でもいるのか?!』

 と言った。これと同時に、反対隣の井上さんは、ニコニコしながら内心強面こわおもてな雰囲気で、

『かずくん、まさか私たちのこと嫌がってないよね』

 と小声で、且つちょっと脅迫めいた話しっぷりで言った。

 そして井上さんの質問の間、斜め前の多江ちゃんは俺の足を蹴って来ていた。


「さてさて、高松の意見に賛成の奴はいるか?」

 と渋谷先生が聞くと、他の生徒達は自分の班のメンバー達とアイコンタクトを取り、頷き、無言を通した。

 要はこの班編制をみんなは了承したということだ。

「高松、一応みんなには聞いてみたが、反対意見ないようなので、これでいいか」

「結構です……」

 俺の完敗であった。


 ショートホームルームが終わると俺の周りに夏村さんの班のメンバーが集まってきて、俺への口撃が始まる。

「お前、俺といっしょに成りたくなかったのか?!」

「私たちじゃ不満ってこと?!」

「私はかずくんと二人で…… が良かったなぁ~」

「井上、てめぇ、何言ってやがるんだよ!」

「高松君、モテモテだね~。私以外に推しがこんなにいるなんてうらやましいことですなぁ」

「石森さんも、何か言ってやりなよ!」

「私は、高松君が行くところだったらどこでもいいから……」

「なんか最近、多江ちゃんよりも、石森さんの方がお嬢様キャラになってますが……」

「こういう時は、かずくんには言わなきゃだめだって分かってきたから」

「はい、はい……」


「和也も大変だな」

 と言いながら、勉強仲間の男子メンバーは女子メンバーの外から楽しそうに笑っていた。

 しかし、ここでも石森さんが入ってきたことが俺には気になっていた。

 いずれにしても、俺にとってはコントのような数日間が始まるのだった。

 

 ◇◇ 九月二十三日 ◇◇

 

 修学旅行出発日の前日が三連休の最終日ということで、出発が切羽詰まってからの旅行の準備は嫌だったので俺は夏村さんと俺たちのファッションコーディネーターである晏菜と一緒に修学旅行に着ていく服を探しに行った。

 俺たちの時代の修学旅行は制服で行く高校が多かったが、うちの高校は一年時の林間学校同様、修学旅行も私服での参加が認められていた。

 俺はいつものようにTシャツに羽織るもの、そしてデニムのパンツで良いと思っていたのだが、晏菜から叱られ、どうせなら夏村さんとさりげなくペアルックにしてはどうかと言われた。

 それを聞いた夏村さんが俄然乗り気になり、三人で買い物に行くことになったであった。


 浦和PARCOに着くと、後ろから声を掛けてきた女性達がいた。

 井上さんと多江ちゃんだった。

 実は、昨晩のweb会議での勉強の際に、夏村さんが今日の予定について口を滑らしてしまったため、同じ会議に出た井上さんも行くという話になり、それならば、多江ちゃんも連れて行こうという話になった。


 暦の上では、今日は秋分の日。

 蒸し暑さはだいぶ収まり、やや乾いた風が気持ちよかったが、PARCO前の広場はほとんど日陰がなく、直射日光で汗ばんでしまう。

 俺はさっさと屋内に入り、涼みたかったので、みんなに声をかけ、PARCOに入った。


「おにぃ、モテモテだね。今日が天国で、卒業の時には周りに誰も居なくなった…… なんて中学時代と同じようなことにならないでよね」

 と俺の中学時代を知っている晏菜は言った。

「かずくん、中学時代もはじめはモテてたの?」

 と多江ちゃんは疑問のまなざしで俺を見た。

「おにぃは、中学時代、モテなかったよ~。いつも一人で頑張っていたって感じだったもんね」

「お前とは俺が三年の時しか中学校一緒じゃなかったのに、なんでそんなこと知っているんだよ?!」

「だって、先生が言ってたもん。あいつは女っ気無いなって」

 晏菜が先生から聞いたと言われると合点がいく。

 こいつは中学一の情報通であり、先生とも太いパイプがあるからだ。

「で、モテなかった時の唯一話せて、手も握ってた女子が緒方さんってこと? キモ!」

「井上さん、失礼だな。応援している代償として握手していただけだから、好意は無かった。断じて言う」

「本当? おにぃ、最初から那奈のところにしか行かなかったのに。一目惚れかと思ったよ」

「お前、ややこしくなること言うな」

「ところで、なぜ高校行ったら、おにぃが急にモテ始めたのかよくわかんないよ」

「なんでだろうね?」

 と俺も晏菜に同調した。すると、

「そりゃ、俺がお前に声を掛けたからだろう」

 と夏村さんは言った。

 確かに夏村さんに拉致されてから俺の高校生活は別物のように変わった。

「いやいや、夏村さんがかずくんに声掛けなくても、今の調子だったらモテそうだけどね」

 と井上さんは言ったが、俺は、それを否定し、

「多分、夏村さんと係わることでいろいろな人たちと係わる方法を学ぶことが出来たと思うし、俺の背中を押してくれたのは夏村さんだから」

「さすが、かずやは分かっているな! やっぱ俺のおかげだよな、うんうん」

「入学当初の頃みたいに勉強だけに邁進していたら、かずくん、絶対にモテそうにないもん。まあ、その方が私にとってはラッキーだったかもしれないけど」

「そうかもね。かずくんと夏村さんの関係がおもしろかったから私も好奇心湧いたっていうのもあるし、やっぱ、きっかけは夏村さんだよ」

「だろう?! 分かればいいんだよ。俺が居てこそのかずやだもんな」

「でもおにぃがいなかったら、沙羅ちゃんはヤンキーのままだったよ。そしたら、付き合いも変わっていると思うよ」

「やっぱ、かずやと俺は結ばれる運命にあったんだなぁ~」

「はいはい」(全員)


 PARCOの女性服売り場の三階に上がり、俺を除いた女子メンバーは集団で服を見に行った。

 俺は一人、エスカレーター横のベンチに座り、スマホを眺めていたが、それではあまり時間が潰せないため、五階の紀伊國屋書店に行き、入り口そばの雑誌売り場で雑誌を読んでいた。


 他人を待つときの時間はなかなか過ぎ去ってくれない。

 時間がなかなか経たないことに腹立たしさを覚えるが、ある閾値を超えると、意外とどのくらい時間が経ったのか忘れてしまうことがある。

 気がつくと、二時間半も書店に俺は居ることに気づいた。

 それと同時に急な腹痛に襲われ、書店を早足で出た。

 すると入り口付近からすっと隠れる人影が見えた。

 腹痛が俺の足を推し進めていたが、やはりそのことに気になり、そちらの方向に向かうと、ある女性がこちらを背にして立っていた。

 身長が低く、見ただけで、誰か俺は気づいた。

「石森さん…… だよね?」

 すると石森さんはこちらを向き、話しかけてきた。

「ああ、高松君、こんなところで会えるとは思わなかったよ」

「今日は買い物?」

「うん、修学旅行の買い物しようと思って」

「多分、三階か四階に夏村さん、小倉さん、井上さんいるから、合流したら?」

「いや、ちょっと待ち合わせがあるから、失礼する」

「そうか、俺もちょっとおなか痛くて、ここでごめんね」

「そうか、お大事に」

 と言い、石森さんと別れた。


 トイレに駆け込んだ俺は、本屋で雑誌を読みながら、晏菜に終わったら本屋に来いとラインを事前にしていたため、出入り口をちょくちょくチェックをしていたのだが、思い返すと何度も石森さんらしき姿を見た記憶が残っていた。

 まあ、他人のそら似もあるだろうと思い、その場は気にしないようにした。

 ちょうど、用を済ましたとき、晏菜から『おにぃどこにいるの?』とラインが入ってきた。

 俺はさっさとトイレを出て、待ち合わせ場所の書店に向かった。


 書店に行くと、晏菜と夏村さんしかおらず、井上さんと多江ちゃんは自分の服を選べたので帰ったとのことだった。

 まあ、目的が自分達の服選びであることを考えると、早々にいなくなってくださった方が面倒が減る。

 これから、俺の服選びが始まるからだ。

 ここで多数の女性から、この服がいい、あの服がいいとやられると時間ばかりがかかってしまうからだ。

「PARCOって女子ものばかりだから、伊勢丹に行こうよ」

 と晏菜が言うので、俺も夏村さんも晏菜の後をついて行った。


 浦和駅東口からガードを抜け、西口に出て伊勢丹に向かう。

 なぜか、夏村さんの修学旅行に着ていく服を探しに来たのに晏菜も商品の入った大きな袋を持っていた。

「晏菜、なんでお前こんなにデカい商品買ってきたの? お前、今日の主役じゃないじゃん」

「冬物が出てたから早めに押さえておいたってことですよ。おしゃれ初心者のおにぃや沙羅ちゃんには分からない話だと思うけど」

「はいはい、わかりました。重そうだな。持ってやろうか」

「うん、ありがとう」

「お前ら、本当に仲いいな。俺には兄妹がいないから分からないけど、兄妹でここまで顔が違うならカップルでも通用するんじゃねえ?」

「やっぱ、そうかな? それはそれでうれしいかなぁ」

 といいながら、晏菜が荷物を俺に手渡そうとした時だった。

 俺は誤って左手で紙袋を受け取ろうとしてしまい、袋の持ち手は受け取ったが、手に力が入らず、紙袋を落としてしまった。

「おにぃ、大丈夫?!」

「ごめん、力がうまく入らなくて…… ごめん」

 その瞬間、晏菜は一瞬、夏村さんを睨み、すぐに自分の表情の変化に気づいたのかすぐに表情を崩した。

 夏村さんはその晏菜の表情を直視してしまい、ちょっとたじろいでしまった。

「沙羅ちゃん、ゴメンなさい。なんかこういうことがあると反射的に沙羅ちゃんと吉川さんを許せなくなっちゃって……」

「いや、かずやを怪我させてしまったのは私の責任だ。晏菜ちゃんがそう思うのも当然だと思う」

「ごめん、ごめん。俺がしっかりキャッチしなくちゃだめだったね。晏菜も夏村さんも気分変えて行きましょうよ」

 俺は右手で落ちた紙袋を拾い、二人の肩をたたき、伊勢丹へ急かした。


 伊勢丹に着くと、晏菜が主導権を握り、夏村さんの服と合う服を選んでは俺に着させ、『これはないわ』と笑っては他の服を探すの繰り返し。

 最終的に俺は一時間半のマネキン状態を強いられたわけだが、楽しそうに笑っている晏菜と夏村さんを見ていると、小学生時代に晏菜から少林寺拳法の道場の友達だと紹介され、三人で遊んでいたことを思い出した。

 三人とも成長はしたが、そこに流れる雰囲気はあの時のままであった。


 突然、晏菜がつぶやいた。

「沙羅ちゃんが実のお姉ちゃんだったらいいのになぁ……」

「おにぃではご不満ですか?」

「おにぃは沙羅ちゃんの彼氏であり、私の彼氏なの」

「言っている意味がよく分かりませんが」

「血がつながっていれば、もっと沙羅ちゃんと深く話せることもあったんじゃないかなって思ってね」

「別に私を実の姉さんのように思ってくれてもいいんだけど」

「だけど、沙羅ちゃんに、うちの父の話や母の話をしても、結局は別家族だから何もできないでしょ」

「まあ、そうだな」

「おにぃに言うと出来ないことでもなんとかしてくれようとするけど、それが無鉄砲だからね怖いんだよね。正月、沙羅ちゃんのお祖父さんの家に行ったときも多分、おにぃのことだから沙羅ちゃんとの関係をなんとかしようとしたんじゃないの?」

「確かにがんばってくれた」

「そういうところ、おにぃってあるんだよね。だから相談すると全力投球でなんとかしてくれるからうれしいんだけど、やっぱり私はじっくり話を聞いて貰いたいんだよね。そこで良いときは良い、悪いときは悪いと言って欲しいんだ。それを沙羅ちゃんだったらしてくれそうだから……」

 晏菜の言いたいことは分かる。

 夏村さんは立場上、他人の『家』に関与出来ない。

 それを晏菜も分かって愚痴っているわけだ。

「それだったら、晏菜ちゃんの悩みを私が聞いてあげる。そして相談にも乗ってあげるよ。その代わり実行部隊はかずやだ。かずやに任せるので、納得いかないことをしたら言ってよ。俺がかずやを叱ってあげるから」

「わかった。じゃあ、遠慮無く相談させて貰うね。ところで、なんで沙羅ちゃんは他の人と話すときは普通の話し言葉なのに、おにぃと話すときはヤンキーぽい話し方するの?」

「うん、かずやがこのままがいいからと言っているので」

「実はおにぃってM?」

「違うわ!」

「じゃあ、そろそろ帰ろうか。沙羅ちゃん、お母さんが今日のご飯準備してあるから、食べて帰りなって言ってたよ。どうする?」

「もちろん、いただくよ。かずやが実はMって話や、私という彼女がいるのに同級生の他の女子二名と一緒にショッピングしたことをご両親にチクらないといけないからなぁ」

「もう、勘弁してください……」


 三人で笑いながら伊勢丹を出て行くと、出口から人影が三人を眺めていた。

「いいなあ、私もあの輪に入りたいな。夏村さんの代わりに……」

 と言い終わると、スマホの写真フォルダをタップし、眺めた。

「今日はいっぱい、高松君を撮れたな…… 帰って楽しもう」

 と言い、ニコニコしながら帰路に向かう石森であった。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2023/02/07 一部改稿

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