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7ー6話 目標にむけて

【読者さまのコメント】

アイドル那奈との握手会!

ちょっとしたフォローを忘れない高松、さすがです!!!

夏村さんは状態が少し落ち着いたみたい。

でも、油断は禁物。身体を大事にしてほしいな。

石森さんと井上さんのことがちょっと気になる……。

そして、試験の結果が出た!

 ◇◇ 九月九日 ◇◇


「レッズ氏、こっち、こっち!」

 同じ握手会会場とは思えないくらい、人気推しの握手のレーンに並ぶために混雑した場所とは別の空間と感じられるほどの人気の少ない場所に彼らはいた。

「うちやま氏、みなさん、お久しぶりです」

「おひさです!」

「そういえば、レッズ氏。七月、八月来なかったですものね」

「まだ高校生なんで、期末試験と夏期講習とか有ったんで来れなかったんですよ」

「学生さんは大変ですよね。今日も那奈、単推しですか?」

「そうですね」

「レッズ氏が来なかった時、那奈の列ほとんどいなくて寂しそうでしたよ」

 確かに、毎回、俺以外は数えるほどの気まぐれの人しか那奈に並ぶ人はいなかった。

 悪いことをしたなとも思ったが、転校後の学校での俺へのちょっかいがその反撃かとも思った。

 十二月に卒業であること、またこれから毎日顔を合わせることを考えると、今後の握手券の購入計画を考え直さないといけないとも思った。

 しかし、バンドをやって小遣い稼ぎをしていた時代とは違って、今は家計的に厳しい。

 卒業の際の握手会の対策も考えると頭が痛くなる。

 

「じゃあ、みなさん、もうそろそろ第三部が始まりますので並びますか」

 人気のある子のレーンは朝一番の第一部から握手会が始まるが、那奈は人気がないため、限定された部しか参加しない。

 俺たちの界隈は、推しが人気の無いメンバーの界隈のため、第三部からの活動になるのだ。

 今回那奈は、第三部だけなので、終われば午後の勉強会には間に合う予定だ。


 俺は那奈のレーンにやってきた。

 やはり、まだ誰も並んでいないないかと思い、今日も鍵開け(一番最初に並び、出てきたアイドルをお出迎えする役割)と鍵締め(握手会を終了したアイドルを最後に握手した人が見送ること)をすることにした。

「こんにちは。ちょっと学校のスケジュールで二ヶ月来れなかったんですけど那奈はどうですか?」

 と係員にいうと、顔見知りであったため、

「すごく、寂しそうにしてましたよ。那奈ちゃん」

 と答えてくれた。

「じゃあ、元気出させに行ってきます。今回は三枚でお願いします」


 俺が握手する場所で待っていると、那奈はちょっと元気なさそうについたての裏から出てきたが、俺の顔を見るなり、

「和也くん、来てくれたんだ。ありがとう!」

 と言い、ニコッと笑った。

「お前、本名ばらすな!」


 係員がどうぞと言われたので、まずは学校で彼女に言うべきことではないと思った、握手会にこれなかった理由を高速で話しまくった。何分、握手券三枚なので六分しか話せないからだ。それを聞くと、那奈は、

「そんなことが有ったんだね。ごめん、嫌われちゃったかと思ったんだよ。あとは夏村さんに行くなと言われたとかさ…… だから学校でもちょっかいかけて気を引こうと思っちゃったんだ。今日もレッズさんの持っている枚数知っていたんだけど、不安でさ」

 と言った。理由はそんなもんだろうなと思っていた通りだった。


 それから、手持ちの握手券を分け、複数回並び、那奈とお互いの現況とお互いの夢を語った。

「やっぱ、レッズさん、話しやすいわ。今日は話聞いて貰ってよかったよ」

「俺も、わだかまり残しておきたくなかったからね。後はお互い夢に向かってがんばって行こうよ」

「推しってことで、私のこと何かあったら助けてくれるかな?」

「いいよ。俺でできることだったら」

「ありがとう。そういえば、今日は夏村さんは?」

「体調不良で家でおとなしくしてる」

「鬼の霍乱かくらんかよ(笑)」

「人の彼女、鬼扱いするなよ」

「まあ、これからも宜しく頼むよ」

「おう、まかせておきな」

 といい、手を振って那奈と別れた。

 好きとは違う何かに背中を押され、那奈を推し始めた俺であったが、いざ、学校で明日も会うという状況になると、どう接すればいいのかと思っていたが、深く考えずに同じ高校生として付き合えばいいんじゃないかと思った。

 那奈も残りの高校生活をエンジョイしたくて転校してきたのであろうから。

 

 レーンの出口を見るとそこには晏菜がいた。

 他の推しとの握手を終わったのであろう。

「ずいぶん、仲よさそうで」

「なんで、晏菜が怒っているの」

「怒って無いし、沙羅ちゃんの代わりに監視してただけだし。帰ったら沙羅ちゃんに報告するし」

「はいはい、わかりました」

 といい、俺と晏菜は会場を後にしたのだった。


 勉強会の方は、八日土曜は多江ちゃん、さより、晏菜で行い、今日は、さよりはバイト先の目の前で俺も参加した握手会が開催され大勢の来客が想定されたため、ヘルプがきてしまい欠席。

 多江ちゃんと一緒に勉強した。

 なぜか、さよりが来ない日は晏菜も勉強会には参加しないのだ。

 多分、毎回来る度に多江ちゃんがケーキを持ってくるので先にいただくつもりであろう。


 ◇◇ 九月十日 ◇◇


 朝、俺は浦和駅まで行き、夏村さんと同じバスに乗った。

 一昨日の一件がある。やはり心配になってしまったからだ。

「夏村さん、今日は調子はどう?」

「かずやとの焼き肉が効いたかな。でも今日の体育は見学したいな。まだ痛いから」

「夏村さんの体操着姿、見れないの寂しいなあ」

「どうせ、お前、井上の姿見てるんだろう? お前、あいつのスタイル好きだよな」

「滅相もないです」

 と返信したが、完全に夏村さんはお見通しである。

「俺さ、ホルモンの薬飲んでいるせいで、生理も不順で、その薬のせいで、胸も発達しないんだってさ」

「先生が言ってたね」

「俺もせめて、井上ぐらい胸あると、かずやの意識もブレないだろうけどな」

「胸、関係ないですけど」

「本当か? 俺、小学生高学年に毛が生えたぐらいだもんな。理想はかずやの部屋にあったエロ本の子みたいな胸がほしいな」

「どうかご勘弁を!」

 

「ところで今日は、全国模試の結果が来るな。どうする?」

「夏村さんの家に成績持って行っての話し合いは今日はできないので、コンピュータでweb会議ってどうですか」

「おう、この前、かずやが契約、セッティングしてくれた光回線で会議するやつな。やってみよう。でも、あの設備いいなぁ」

「なんが?」

「いつでも、かずやの顔が見れるから……」

「ありがとうございます」


 夏村さんとは事前に今日の八時半にweb会議を開始することで約束を貰っていた。

 俺は学園祭の実行委員会の設定準備をしたかったため、夏村さんとは別々に帰る予定だったからだ。

 俺は委員会室に入り、電気を付け、昨年の備品の入った段ボール箱を開け、コンピュータとLANケーブル、プリンタを接続していた。

 すると、実行委員室のドアがノックされた。

 俺は夏村さんかと思い、作業をしながら、

「どうぞ、入って!」

 と言った。そしてドアが開き、誰かが入ってきた。

「ごめん、ちょっとケーブルが散らばっちゃってて、時間が想像以上にかかっちゃってごめんなさい。がんばって早く終わらすから」

 と言うと、夏村さんとは違う声が聞こえた。

「何か、手伝おうか?」

 俺は声の方向を見るとそこには石森さんが立っていた。

「あっ、ごめん。石森さんだったのか。どうしたの?」

「うん、部活終わって、委員会室に電気が点っていたら来てみた。何か手伝おうか?」

「コンピュータ関係の接続なんで、わからないんじゃないかな?」

「大丈夫、自分の部屋のコンピュータ環境、自分で構築したんで」

「すごいね。じゃあ、お願いしようかな?」

 

「ありがとう。思った以上に早く終わったよ」

「役に立ててうれしい。高松君、この後は?」

「帰るだけだよ」

「じゃあ、いっしょに帰ろう」


 あまりクラスでも大騒ぎをするような子ではないのだが、俺に対しては淡々と途切れず話しかけてくる石森さんだった。

 しかし、俺と那奈が教室の後ろで騒いでいるとき、こちらを見ていた石森さんのまなざしが忘れられなかった。

 ちょっと変わった子だなという違和感はあったのだが、ルックスがかわいい子系であったため、付き合ってくれることは嫌ではなかった。

 石森さんとは一緒のバスに乗り、市役所近くの『六間道路』という停留所で別れ、俺は自宅に向かった。

 この周辺は常盤という場所なので常盤中学の出身だろうと想像した。

 常盤中出身の知り合いは結構いるので情報を入手しておこうと思った。

 というより、運動部のことなら井上さんだが、いつでも連絡してきてと伝えてからまだ音沙汰がなく、相変わらず難しい顔をしていた。

 この件について井上さんに聞くのは現時点では止めておこう。


 自宅に着くと全国模試の結果の封筒がリビングダイニングの机の上に置かれていた。

 心積もりはできていたが、やはり現物を前にすると緊張する。

 食事が終わると晏菜が開封を楽しみにしている様子だった。

 しょうがない、今回は夏休みに迷惑を掛けた家族へ陳謝も含め、夏村さんの前での開封ではなく、家族の前での開封を選んだ。

 慎重に封書の上部をハサミで切って、内容物を取り出した。


 総合偏差値66。

 前回の64から2つ上がっていた。

 いちよう夏の目標だった偏差値を上に動かすことはできた。

 第一志望の筑波の医学部の平均合格偏差値が68であるので、あと2つ上げれば、合格圏に入ることができるレベルである。

 あと一年ちょっと受験まであるとしても射程圏内には入ってきたと思った。

 俺の成績表を横から眺めていた晏菜はこう言った。

「やるねぇ、おにぃ。なんか私の夢が近づいてきた感じがするじゃん」

「何、それ?」

「おにぃ達が大鳳を私の入りたい学校に近づけてくれるってこと」

 そうだったな。

 晏菜のうちの高校を受験する宣言の理由は大鳳での高校生活が楽しそうで、かつ俺たちが進学も目指せる学校にしてくれそうだからというものだった。

 その第一歩に近づけたかなと思った。

 両親は、真剣に、

「もし筑波に行ったときのかずにつぎ込む予算建てしておいた方がいいなあ」

 と言い出していた。

 父の顔はマジだったが、母の顔は困惑ではなく、笑顔に満ちていた。

 単純に成績が良いことに満足しているのであろう。


 俺は夏村さんとのweb会議の前に、α会の芹沢先生に成績報告とお礼の文章をラインで送った。

 芹沢先生からは少し時間が経った後返信があった。

『まずは、第一段階おめでとう。意外と早めに効果が出たのでびっくりしたよ』

『先生の確実に取れる問題は確実に、確実に取れる範囲を広げていくというのを徹底的にやってみました』

『了解。じゃあ、次は、早めに出題範囲の勉強を終わらすことだね。ちょっと長期戦になるけど、α会は早く提出すれば次の課題が送られてくるので、早めに進めて、解答をもらったらそれを徹底的に復習し、自分のものにしていく。そして確実に解答できるように練習することができれば第二ステップ終了だね』

『わかりました。参考にして頑張ります。これからも宜しくお願いいたします』

『オッケー、ところで、高松君って志望校どこだっけ?』

『筑波です』

『筑波って試験に面接あるぞ』

『えっ! 面接ですか……』

『こればかりは通信添削ではどうにもならないし、筑波は結構面接重視なんで、対策練っておいた方がいいぞ』

 確かに、夏村さんの志望大学の試験科目は調べていたが、自分の志望校は調べていなかったことに気づいた。

 今からではしょうがない。芹沢先生には礼を言い、明日、自分の受験校の試験科目を調べようと思った。


 八時半になると、コンピュータのweb会議に夏村さんが入ってきた。

「どう、コンピュータの調子は」

「すこぶる良好。すごいな。かずやがリアルに見えるぞ! 楽しいな!」

「こちらも夏村さんがバッチリ…… ってなんでネグリジェ姿なんですか?」

「いや、かずやをムンムンさせてやろうと思ってな。どうだ?」

「ムンムンします! それより成績表を見せてください!」

 と夏村さんを急かした。

 すると、夏村さんは封筒を開け(すでに開封済みのようであった)、成績表をこちらに見せた。

「バ~ン! どうだ!」効果音付きの発表である。

 受験科目偏差値63。

 って、前回よりも十近く上げてくるって……

 やっぱ、夏村さんは最強だよ。

「これって、コンピュータで何か細工してます?」

 と冗談を言ってみる。

「馬鹿野郎! 正真正銘の偏差値63だ。そんなこと言い出すなんて、もしかしてかずやのこと抜いたか? 抜いちゃったか?」

「抜いてませんから、じゃあ、俺もバ~ン!」

 俺も夏村さんと同じ効果音で発表した。

「お前、夏休み前、あんなことあったのに偏差値66って、どんな勉強したんだ?」

「みんなとの勉強会が適当に緊張感を与えてくれたのがよかったのかもしれないですね。その上、多江ちゃんが完全にライバルになっちゃったしね」

「ということは、今年の夏休みは大成功って感じだな」

「でも、夏村さんの水着姿、今年も見たかったな~」

「かずやには俺の生乳、拝まさせてやっただろう」

「か、鏡越しですので。 それはそうとして、成績表の詳細が見たいので、写真で撮って送っていただけませんか?」

「うん、いいぞ!」

「それと、二学期からは、完全に慶応合格モードで勉強していただこうと思っています」

「うん、わかった。どうするんだ?」

「英語、歴史、国語総合に絞って受験勉強を進めます。そしてその他の教科は学校の成績用に勉強して、比重を抑えます。でも夏村さんなら、全校三位保持は楽勝ですよね」

 ここで俺は策を練った。

 夏村さんは勉強する科目を絞ることを嫌う。

 だから、比率を変えて勉強し、学校の成績は学校の成績として上位を狙う、一方、受験用の科目の比率を重くし対策していこうと

言ってみたのだ。その上に『楽勝』なんてくすぐるような言葉を加えてみた。

「しょうがねぇなあ。合格のためだ。かずやの言うとおりにやってみるか」

 と夏村さんは言った。予定通りである。

「じゃあ、今日は、成績表を精査させていただきますので、明日学校でお話しますね」

「わかった」

「じゃあ、また明日、同じバスで待ってますね」

「ちょっと待て!」

「どうしましたか?」

「作業を進めてくれていいから、画像このまま切らないでいいか?」

「なんでですか?」

「かずやを見ていたい……」

「わかりました。お好きにどうぞ!」

 と言い、メールで送られてきた、写真をみながら、今後の対策を練っていく。

 動画を通じて夏村さんが見ているのを感じ、変な汗が出てくる。


 すると、『ドンドン』とドアをノックする音が聞こえた。

「は~い、どうぞ!」というと、パジャマ姿の晏菜が部屋の中に入ってきた。

「おにぃ、ここの政経の問題わかんないから教えてよ~」

「別にいいけど、何?」

「衆議院のさあ…… う~ん?…… 沙羅ちゃん、何やっているの?」

「こんばんは、晏菜ちゃん。ちょっとかずやの姿を見ていた」

「相変わらず、沙羅ちゃん、おにぃのこと大好きだね」

 ここで晏菜の悪い虫がうずうずしてくる。

「実は沙羅ちゃん。私、おにぃにこんなこともしちゃうんだよ」

 と言いだすので、俺は何かと晏菜の方向を振り返ると、晏菜は自分の着ているパジャマの上着を俺の頭の上から被した。

 当然、俺は晏菜の方向を向いているので晏菜のブラや柔らかい触感が顔面を通り過ぎる。

「お、お前、かずやになにしてる! お、お前ら兄妹だぞ! 変態か!」

「だって、沙羅ちゃんがおにぃ好きなくらい、私も好きなんだもんしょうがないじゃない」

「だから、兄妹はそんなことをしたら、あ~! 俺が代わりにしたい!」

「冗談だよ。沙羅ちゃんをからかっただけ! じゃあねぇ~」

 そこにはweb会議越しで切れまくっている夏村さんと、完全昇天状態の俺がいた。

「おい、かずや! 妹で変な想像してないよな?! あ~! 再度俺の生乳見るか」

「お願いだから、web会議切らせてください。集中できない!」

「わかった。じゃあ今日はこの辺で満足してやる。web会議切った後で、晏菜ちゃんをおかずにしたら殺す!」

「兄妹ですからありません!」

 と言って、web会議を終了した。

 しかし、この後まもなく、厄介な人から連絡が来たのだった。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2023/02/05 誤記訂正、一部改稿

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