6ー13話 交差していく夏(7)
【読者さまのコメント】
高松は井上さんと同じバスに乗るのが気まずくて一本早めのバスに乗る。
でも、そんなのお見通しだよ!
井上さんはたった一日でものすごい量の情報をGETした!
どうやって髙松一哉に勝つか……高松は考え、サッカー部の試合に出る!
やっちゃえ!!!
◇◇ 八月十七日 ◇◇
さすがに昨日の今日である。
同じバスに乗ると井上さんも乗っている可能性を考えて一本前のバスに乗った。
朝の通勤時間には早いが、学校方面行きのバスは七、八分に一本の間隔で運行していた。
バスの運転手の後ろの席が空いていたので、そこに座り、昨日晏菜から得た情報を思い出していた。
一哉は、埼玉栄東高校のサッカー部に所属しており、レギュラーであること、以上。
情報量が少ないなと思いながら、晏菜にも潰すと約束してしまっていたのでどうしたらいいかと考えた。
晏菜も少林寺を習っていたときは一哉に勝ったことはなく、年齢も二歳下なので負けて当然だとは思うのだが、一哉の勝ったときの偉そうな態度が気に食わなかったらしい。
その上、自分の姉代わりの夏村さんを馬鹿にする態度が子供ながら許せなかったらしい。
そんな一哉に俺が勝てば、少しは二人の気は紛れるのではないかと思った。
しかし、俺が勝ったとしても、代理人がいわば、『仇討ち』をしただけだ。
それでも本当に二人は満足してくれるのであろうか。
まあ、晏菜に了解してしまった手前、今から止めたとも言えないので、『敵討ち』を買って出ようと思った。
高校前のバス停に着き、バスを降りていくと、後ろから肩をたたかれた。
俺が後ろを向くと、そこには井上さんがいた。
「やっぱ、逃げると思ったよ。想定して一本早いの私も乗りました」
「いや、すいませんね。こちらもゆっくり考え事したかったんだよね……」
「髙松一哉のこと? 埼玉栄東高校のサッカー部で今大会の背番号は十五番、今までほとんど途中出場だね。左のサイドバックに入るのが多くて、サイドから攻め込んで、センターに玉を入れて行くって感じのプレーヤーかな?」
「なんで知ってるの?」
「昨日、栄東のバレー部の子に聞いたんだ。成績は進学クラスだけど、国立は無理で、私立文系狙っているらしいよ。高校ではそれほどは目立っていないらしい。成績もまあまあ、運動もまあまあ、『まあまあ』でも進学校の『まあまあ』だからね。それと、金持ちの家のお坊ちゃんらしくて、なんか仲間みたいのを従えているらしいよ。原則全寮制なのに、あいつだけ自宅通学って話」
「一晩でそこまで調べ上げたの?」
「当たり前じゃん。ご褒美がまっていると思えば……さあ」
「井上さん、今日はバレー部、練習あるよね!」
「えっ! なんで知ってるの?」
「同じバスにバレー部の一年生の女の子がいた」
「た・し・か・に……」
「まあ、いいや。本当にありがとう。ご褒美は後ほどさせていただきますので、部活がんばってください!」
「切ないなあ、その言い方……せっかく、夏村さんのいない間に気を引こうと思ったのに」
(十分、寝る前に思い出っしちゃったよ!)
「残念だね。昨日も、夏村さんと合ってたし。土日は多江ちゃんも勉強会来てるし」
「えっ! 小倉さんも本格参戦? (やばいな、小倉さん、かわいいしなあ) ちょっと作戦変更! それまで、かずくん泳がしておく」
「ありがとうございます」
部室に着くと、部室のホワイトボードの上に貼られた高松宮杯の試合予定と会場を調べた。
試合は、浦和サッカー場と大宮サッカー場の二カ所であったが、全日程、我が浦和大鳳は浦和サッカー場での試合で、初日二十九日の第一試合はうちの高校と浦和商業高校。第二試合は戸田高校と栄東高校であった。
うちの試合が終わった後、会場に残り、試合を見ている間に一哉が出てくれば彼のレベルを知ることができる。
今日は、まず初戦の浦和商業に勝って、次の栄東戦に向けてメンバーを短期間でできる底上げのトレーニングをしていこうと思った。
下手は下手なりだが、昨年廃部の危機を乗り越えた部員たちのやる気は俺の期待を満足させるものであった。
その日の午後
いつもように、浦和駅の改札で夏村さんを待っていた。
約一ヶ月に及ぶ夏期講習も本日で終了。
昨年の夏の今頃、やっと学校の授業に追いつくことができた夏村さんが、一年後の今、都内の進学塾の私立難関文系コースで夏期講習を受けるほどになるとは正直思わなかった。
難易度の高い授業を受けるだけなら誰でもできる。
その授業について行くことができているということが素晴らしいことだった。
そして、その内容を十分理解できていることも然りだ。
やはり、夏村さんは最強だよと思っていると改札口の向こうから二人の女性がこちらに向かってやってきた。
「あれ? 今日はお二人さんでのご帰宅ですか?」
ちょっとおどけて声色を変えて話しかけると、夏村さんはこう言った。
「小倉さんも今日が講習最終日だったんで、偶然を装って一緒に帰ってきた」
「かずくんと一緒に食べようと思って新宿でケーキ買ってきたよ!」
「ありがとう! 今日は金曜日でさよりも来ないし、打ち上げしながら食べましょうか!」
「いいね! あっ! もしかして、晏菜ちゃんって帰ってきてる?」
「晏菜も今日が最終日だと思うけど、帰りいつも夏村さんたちよりも遅いので……」
と、俺は多江ちゃんが晏菜の分を買ってきていないと仮定して気を使おうとしたところ、
「自分のは自分で買ったよ!」
と、どこからか晏菜が出没した。絶対に改札で待つ俺の姿を見て待っていたのだろう。
「すごいね。おにぃ。三人の美人に囲まれて帰れるなんて、最高ですね!」
「はい、はい。最高、最高」
と晏菜の言葉を軽く流し、みんなで俺の自宅に向かおうとしたところだった。
「夏村、皆さんでつるんで、もう戦線離脱か?」
後ろから変にとげのある言葉が俺たちを襲った。いち早く振り返った夏村さんはこう言った。
「髙松一哉!」
「いやあ、同じ駅だし、夏期講習も終わったんで、一緒にかえってやろうかと思ったんだけど、お仲間さんが増えてきたんで、もう受験はギヴアップの残念会かと思ったよ」
「お前、俺の後をつけてきたのか。気持ち悪いやつだな!」
「いや、同じ方向が帰り道ってだけだよ。そういえば、ごめんな! この前の塾内試験、俺の方が成績良かったみたいで」
「うるせぇ、大学受験ではお前にぜってぇ勝ってやる。てか、わざわざそれを言いに来たのか?」
「いやぁ、結果を存じ上げてないと可愛そうだと思ったんでな」
いちいち言い方が気に障る奴だ。しょうがない……
「そんなチンケな報告聞かなくていいよ。夏村さんはもっと成長するから」
と俺は言い、夏村さんの前に立った。
「おっと、夏村の彼氏さんですか? 夏村だったらもっとかっこいい人選ぶか。同級生さんですか?」
「一哉、お前忘れたのか、俺の顔。和也、もう一人のかずや、高松和也だよ」
「高松和也って、小学校の少林寺拳法の大会で、夏村と喧嘩になったとき入ってきた高松和也か!」
「ああ、そうだよ。高松和也だ。聞き捨てならねぇこと、お前抜かしやがったな。ぜってぇ、夏村さんは大学受験、お前に勝つ。俺がそうさせる。それとは別にお前のこと、小学校の時と同じようにしてやってもいいんだぜ、受験までにな」
「受験はそうはうまく行かねえからな。こっちは進学校、夏村は馬鹿学校なんだからな。絶対結果で勝負つけてやる」
「がんばってな。小学校の時同様、俺は夏村さんの味方だから。あと俺も夏村さんと同じ学校だ。馬鹿学校って言うんじゃねぇ」
すると何も言わず、一哉は反対側を向き去って行った。
「まあ、気にしないで夏村さんがんばって合格しよう! まだ夏村さんは発展途上の人なんだから」
「あいつ、今もあんな感じなんだ。絶対、おにぃ、あいつのことやっつけてね。腹立ってきた!」
「馬鹿学校なんて言われたら私も気分が悪い。絶対かずや…… あれ? かずくんと同姓同名なの?」
「多江ちゃん、漢字は違うけどね。さあ、こんなことは忘れて俺の家に行って決起集会しましょうか?!」
「おう!」
その中で一人、夏村さんが顔を赤くして無口でいた。
「夏村さん、絶対合格して、一哉のこと、やっつけようぜ!」
「うん!」
(そうだったな、今日も小学生の時と同じように、私のために戦ってくれたんだ…… やっぱ、かずやは昔と同じ私の『王子様』のままなんだな……)
◇◇ 八月十八日 ◇◇
ここから、二十五日までは俺の家での勉強会は俺と夏村さん、多江ちゃんで毎日終日行った。
目標は二十六日の全国模試であったためである。
ふと、思い出したのだが、確か多江ちゃんの国立大学医学部志望校は千葉大学か筑波大学の医学部であり、一緒の受験校であったがこのことは内緒で勉強は進めた。絶対面倒なことになりそうだったからだ。
俺も今月十四日に自身の志望校を決めたため、共通テスト受験が確実になり、遅ればせながら国語と社会に比重を置いて勉強をし始めた。
今まで勉強を続けてきた理系三科目は『取りこぼしがないように』、『誤解答がないように』を目標に勉強を続けた。
勉強方法で迷ったときは芹沢先生に相談し、一つ一つ解決していった。
そして二十六日、俺たちは模試を受験した。
模試終了後、俺は夏村さんと多江ちゃんに夏休みの勉強会の終了を告げた。
やり方は変えてもいいから、勉強会を継続したいという多江ちゃんの意見に夏村さんと俺は同意し、土日に継続して行うこととした。
◇◇ 八月二十七日 ◇◇
模試の翌日、俺は気分を入れ替え、学校に向かう。
そして俺が提供した練習メニューの達成度をチェックし、指示した。
たった二週間ではあるが見違えるほどコンパクトなサッカーができるようになり、パス精度も上がっていた。
さすが、練習が大好きな連中だ。
信じて練習してくれた成果だと思った。
勝村からはコーチ兼選手としてリーグ戦に出場してくれないかと要請があり、部員全員もその意思に同調してくれたため、参加を了承した。
俺は、二十九日の先発メンバーを選出し、配置も決めた。
前回の試合のビデオを見せて貰い、現状ならなんとかいけるのではないかと思い、特別なことは教えず、シンプルで動くサッカーを目指した。
◇◇ 八月二十九日 ◇◇
第一試合、浦和商業戦。
現在では浦和レッズレディースの本拠地である、浦和サッカー場ではあるが、応援客は数えるほどであった。
これだけの観客だとこちらの指示の声も味方に通りやすい。逆を言うと敵に指示がわかってしまうのだが。
しかし、試合の指導権は終始、うちの高校が握り、コンパクトで動くサッカーが実を結んだ。
フォワードの決定力不足は否めないが、なんとかシュート十一本に対し、ゴール三本で3対0で勝利した。
初めて勝った嬉しさか、両チームの挨拶後、ベンチは優勝でもしたような騒ぎとなった。
俺は次の試合が見たかったのでさっさとベンチを整え、メンバーを控え室に戻るよう指示した。
第二試合では、うちの高校が使った控え室は戸田高校が使うこととなり、栄東の選手たちと出会うことはなかった。
俺は自分達の試合中客席を見ていたが、栄東の選手は誰一人として見に来てはおらず、完全にうちの高校は眼中にない様子だった。
客席に勝村とともに向かったが、疲れたであろう選手たちも一緒に残ってくれた。
勝村がビデオを回しながら、俺と勝村の試合の実況が始まる。
勝村は本当にサッカーの試合の解説は得意であるが、練習ビデオは最後まで全然見てくれていなかった。
栄東高校だが、浦和商業よりはうまい選手が多いが、全体的にプレーに雑な面が見えた。
特にその点を俺は注意深く選手たちに説明した。
試合は膠着状態のまま、後半残り三十分のところで、埼玉栄東は選手交代で高松一哉が出てきた。
うちの高校のメンバーは同姓同名であることをびっくりしていたが、そんなことはどうでもいい、俺は彼のプレーの特徴を見た。
彼は左サイドバックに入ったが、特にスピードがあるわけでもなく、うまいわけではないが、体幹がしっかりしており、すこしのラフプレーでは潰されない強さを持っていた。
しかし、時間が進むにつれ、目に見えて疲れが出てきたと見え、スピードが落ち、雑さが出てきた。
「お~い、みんな! こんな感じでエネルギー切れにならないように普段から走り込みしろよ。こいつら滅茶苦茶雑な試合になってきただろ」
頭を縦に振る部員たち。
結局、試合は0対0で終わる。
見ていても試合が長く感じられた。
俺は勝村にこう言った。
「三十一日の試合、ちょっと、俺出ていいか?」
「お前の試合が見られるのか?」
「ああ、ちょっとタイマン張りたい奴がいて、そいつを潰したい」
「おい、みんな! 明後日の試合、かずやが出てくれるそうだ。それも、マジのプレー見せてくれるそうだ。そのときは交代してくれるか?!」
「いいとも!」
何かのテレビ番組みたいになったが、出場の了解は得た。
「おにぃ、お帰り。今日の試合は?」
「3対0で勝ったよ。うちの高校、公式戦初勝利だ」
「やったね。次はどこ?」
「栄東 八月三十一日」
「一哉の学校? あいつ出るの?」
「途中出場かな? その日は俺も出て奴を潰す」
「いいね! おにぃがボコるの大好き!」
そういえば、俺のトラブルの時、必ず晏菜も見ていたのじゃないかなと思った。
小学校の夏村さんの件、中学校の時の件、中山道での件。
晏菜が見てない保証がないのだ。
嫌なことを思い出させてしまったなと反省していたのに、晏菜は『大好き』と言った。
俺にはブラックすぎて、忘れてしまいたい過去なのに……
と俺が考えている間に晏菜は電話をかけた。
「沙羅ちゃん。三十一日にサッカーの試合が有って、その試合でおにぃが一哉をボコってくれるって! 見に行かない?」
『いくいく! 絶対いくぞ! あんなやつ、少しかずやにボコられた方がいいんだ』
と、晏菜と夏村さんはサッカーの試合に行く約束をしていた。
◇◇ 八月三十一日 ◇◇
浦和サッカー場控え室
今日も、第一試合となった。
ちょっと早めに入って、作戦の打ち合わせを行った。
すでに昨日、細かな作戦会議は行ったが、再度ホワイトボードを使って、各メンバーと対応を確認した。
「開始三十分前です」との係員の誘導で、グラウンドで出る。
俺は第一戦ではジャージー姿であったが、今日はジャージーの下には17番の背番号の付いたユニフォームを着ていた。
練習時間はうちの高校が先であったため、うちのメンバーがグラウンド内で練習を始める。
このウォーミングアップも俺が指示したものであったが、それまではグラウンドに出て二人でボールを蹴ってパスをしあって終わりだったようだ。
俺は一人別メニューにさせてもらい、ボールを一個貰うと、ドリブルしながら、自分が入るであろう、右サイドバックの守備範囲の芝を確かめていた。
グラウンド内は、一昨日使われていたため、若干芝は荒れており、ボールの転がるスピードは第一戦より遅かった。
俺はドリブルしながら一気に駆け上がり、ペナルティエリアのちょっと外からシュートした。
そしてゴールからボールを拾い、コーナーアーク(コーナーキックをする場所)にボールをおき、ボールを蹴った。
ボールを蹴りながら、メンバーのところに戻ってくると、全員が練習を止め、俺の行動を見ていた。
「お前ら、練習は?!」
「いや、ちょっといいもの見れたなぁって! あのコーナーキック、エグいでしょ!」
「ウォームアップ! ウォームアップ!」
と手をたたきながら叫んだ。
ふと、観客席を見ると、明らかに一昨日より観客が多い。明らかに栄東の制服を着ている人たちばかりだ。
今日は夏休み最後の試合。次は九月五日で学校が始まってしまうので夏休みの思い出と来ている人もいるのだろう。
その中に異質のグループが……
制服を着ていないので一般客かと思ったが、よくよく見ると、夏村さん、晏菜、多江ちゃん、そして井上さんが集めたきたのであろう、女子バレー部、卓球部、バドミントン部、バスケットボール部と体育館で一緒に練習している部活の人たちを集めてきた様子だった。
それとは別に、生徒会のメンバーや、ほかの運動部員の顔も見えた。
たぶん、初めて勝利したことが引き金となったのだろう。興味を持って来場してくれたのかと俺は思った。
十五分の練習が終わると、栄東のメンバーがグラウンドに出てくる。
彼らとの公式戦ではうちの高校は一度も点が取れたことがなく、また複数点差で負けていた。
相手の練習を見ても、体を温める程度しか動いていないことは見てわかった。
完全に馬鹿にしてやがるな……
そして試合が始まる。
俺の指示通り動いているメンバーは第一戦と同様、コンパクトなサッカーをして、ボールに対し、次から次へと違う選手が関わっていく。
困ったボールを持った相手選手は前方にボールを蹴るが、ラインを押し上げているので、パスが通らないか、オフサイドに取られる。
膠着状態のままハーフタイムとなる。
意外とサイドから勝村にボールが流れていたので、追加オプションとしてサイドからボールを運んでセンターに流しシュートを狙ってみようと指示した。
後半、その指示が功を奏して、右サイドからのパスを勝村がつなぎ、ゴール前に流し、味方フォワードがゴールし先制点!
そして、その近辺から、明らかに運動力の差が見え始めた。
相手チームは二名を交代させたが、一哉は出てこない。
あいつはスタミナがないことがわかっていたので、残り二十分ごろからと思っていたが、案の定、残り十八分のところで一哉は監督に呼ばれ、ウォームアップを始めた。
そろそろ出番かな?
俺もベンチを出て、ウォームアップを始めた。
それを見たうちの選手たちはまたスピードが上がった。
ただ、うちのフォワードも決定力がないので何度もシュートを外す。
相手チームは動いた。一哉を左サイドバックに入れた。
俺は部長先生に右サイドバックとの交代を依頼した。
高校野球の地方大会ではないので『××くんに代わりまして、代打 ○○くん』というウグイス嬢のアナウンスはない。
おれは交代選手とハイタッチすると、右サイドバックの位置に向かった。
途中、勝村の横を通ったので、
「勝村、俺サイドから持って上がってお前に流すから、センターに走り込む俺にパスしてくれ」
と言うと、勝村は、
「了解!」
と言い、サムアップした。
俺は自陣のバックラインに着き、ホイッスルとともに、センターラインまで上がっていく。
一哉にボールが渡り、ドリブルで上がって行った。
するとうちの選手は一哉から離れ、一哉からのパスラインをカットする位置に移動する。
『言ったとおりの行動してくれるねぇ』と思いながら、俺は一哉に向かっていき、スライディングでボールを奪い取る。
そして、少し離れたところにいた選手が、ボールを前線に移動させる。
次は、一哉へのパスカット、ドリブルカットと攻撃は続く。
一哉も誰が対応しているのか全く認識していなかった様子だったが、俺がパスされたボールを持って、上がって行くのに対処する時に初めて、俺を認識した様子だった。
「お前、高松か?! なんでスタメンででてこねぇんだよ!」
「ああ、俺、お前を潰すためだけに選手登録したんでね。うちの彼女があんだけ言われたんじゃ、俺もゆるせねぇって訳よ」
「なんだと!」
「俺の彼女は夏村沙羅だ。俺は彼女とともにお前より良い大学行ってやる。夏村さんには勝てたかもしれないけど、俺、お前に負けたことないんで……」
と俺は言い、ドリブルで一哉を突き放していく。
そして、勝村が見えたのでパスをし、ゴール前に突っ込んでいった。
勝村から、左サイドバック、勝村の流れで、俺にパス。
そこからドリブルで持ち込みゴール!!
周りの選手全員が走り寄ってきた。
「かずさん。ボールがかずさんに収まった後の動きって別世界のサッカーでしたよ」
「みんな練習すればできるようになるよ。練習、練習」
と言いながら、一哉を見ると疲れからかうなだれていた。
しかし、まだ俺の復讐は終わらない。
一哉の体の重心がボールを蹴っている足に乗る瞬間、ボールに向かって突っ込み、一哉の体は吹っ飛んだ。
栄東の選手はファールではないかと審判に抗議したが、ボールに俺は足を入れていたのは明確でファールは取られなかった。
パスを受けたらわざと一哉に向かっていき、足技を使って一哉を抜いていく。
完全に一哉の息が上がった時点で、ボールを持った俺は動けなくなった一哉を一気に置き去りにし、ドリブルをしていくと再度勝村へのラインが空いたので、パスを通す。そしてゴール前に俺は突っ込んで行くが、ボールは相手ディフェンダーにあたり、ラインを超えた。
コーナーキックのチャンスだ。
よく考えてみるとこんなに攻め込んでいる試合なのに、コーナーキックのチャンスが初めてって、どんだけうちのフォワード、シュートを外しているんだよと思った。
ボールをコーナーアークに置き、ゴール前に集まった選手の群れを見たとき、良い案が見つからなかったので、一発賭けで蹴った。
蹴ったボールは回転しながらゴール方向に曲がっていく。
そしてそこにはおれよりもでかい、うちのディフェンダー君がぼーっと立っていた。
ボールは彼に当たり、跳ね返ったボールはジャンプしたゴールキーパーとは逆の方向に飛び、ゴール内に入った。
ディフェンダー君は初ゴールを大喜びしていた。
みんなも歓喜していたところに終了のホイッスル。
まだ元気のある大鳳と疲労困憊の栄東。特に一哉の消耗はひどかった。
挨拶終了とともにその場に倒れ込んだ。
俺は彼に何も声をかけることはせず、グラウンドを離れた。
シャワールーム
「いや~、今日も3対0。完勝だね。かずやがこのまま出続けてくれればグループトップも夢じゃなくねえ」
「運動量もすごいし、相手のディフェンダー、完全にグロッキーだったもんな」
俺は終始無口だった。
控え室から出て、選手出入り口から出てくるとそこには、大鳳高校の生徒たちが集まっていた。
俺たちは一列に並び、ありがとうございましたと大きな声で挨拶した。
そこで解散となったが、俺はサッカー部員の足を止めた。
「ごめん、今回はこの試合で終わりにしたいんだ。勝村との約束は一勝したいってことだったし、実は運動しているときも、結構傷が痛むんだ。やはり全速力で走ると、腕に力が入るし、相手と交錯する時は怖いんだよ。だから悪いが、今日で終わらせてもらいたいんだ。また、痛みとか出なくなったら戻ってくるから、それまでには上のグループにいてくれよ!」
サッカー部員は頭を縦に振ってくれた。
「かずや、ごめん。無理させてたんだよな。練習メニュー守るから、また上達したら別メニュー作ってくれよ!」
「了解、喜んで!」
俺は部員と別れて夏村さんたちの方向に向かおうとしたところ、肩をたたかれた。
「ありがとうな、和也。無理させてごめん」
「勝村か。良かったよ。役に立てて。ロッカー、これからも借りるから、そのお礼だ! また誘ってくれよ」
「おう、じゃあ、またな!」
俺は真っ先に夏村さんのところに向かおうとしたが、晏菜が最初に近づいてきた。
「やっぱ、サッカーやっているおにぃ、かっこいい! だい……」
「かずくん、お疲れ~」
と晏菜との会話に割って入り、背中から飛びついて来る人が……
バレー部員から一斉の『ヒューヒュー』の声。
「井上さん、この場においてこんなことするの勘弁してください!」
と言いながら夏村さんを見ると怒っていない様子。
「夏村さんから、夏休みの学校でのお礼で了解取っているもんね!」
そういうことか。夏村さんが井上さんに学校での俺の面倒を頼んでいたのだなと初めてわかった。
だから、あんなにやり放題だったんだと思った。
「井上さん、ちょっと離れなさい。沙羅ちゃんがオッケーしても私が許可していないのでだめです」
「なんで、晏菜ちゃんの許可いるの?」
「おにぃは私のおにぃなので」
「もしかして、晏菜ちゃん、ブラコン?」
「知らないけど、ダメ」
「よし、今度は晏菜ちゃんの了解取ってフェロモン注入しよう!」
「おにぃ、いいかげんにしてよ」(私もフェロモン注入したい……)
「なんで、俺怒られるの?」
「小中と違って、モテキャラに変わっているから! いろいろな女の子に手出し過ぎ!」
周辺の女子生徒が晏菜の発言に引き気味になる。
「手は出してないから! 誤解ないように!」
そんな茶番に付き合って居られない。俺は夏村さんの前に行き、こう言った。
「夏村さん。無事、敵討ちしてきたよ」
「爽快だった。ありがとう。あとは勉強で完全勝利目指すぞ!」
「それが一番大変だけどね!」
といい、振り返って、ごちゃごちゃもめている晏菜と井上さんに帰るぞと言って正面を向き直した時だった。
夏村さんは多くの生徒の居る前で俺の右腕と脇腹の間に手を入れ、腕を組んできた。
「さ、沙羅ちゃん?!」
目をまん丸にしてびっくりする晏菜。そのほかの生徒もそうだった。
「いいか、かずやは俺のかずやだ。今まで、いろんな奴に見てみないふりしていたけど、俺は絶対にかずやをほかの奴には渡さない。いいか、もう一度言う。かずやは俺のかずやだ。休戦終了。もしかずやが欲しけりゃ実力行使で来てみろ。俺は絶対に勝つ」
沈黙する周辺。
「やはり、かずさんって夏村さんとお付き合いされているのですか」
と一年生の応援に来てくれた子が尋ねたので、さよりの件も終わったことだし、もういいかと俺は思った。
「はい、そのとおりです」
というと『え~』という声。下級生の女子生徒になぜか大人気の夏村さんにダサい彼氏出現は彼女たちには一大事件だったのだろう。
「でも、かずくんと私はずっと友達だもんね。だからオッケーだよね」
と井上さんは言った。色々と永堀先輩からは井上さんの思いは聞いていたがここではこう答えるしかなかった。
「はい、でいいですよね。夏村さん?」
「もう発表しちゃたんだから、今日からお前、俺を『夏村さん』じゃなくて『沙羅』と呼べ。あと、友人だったらしょうがない。ただし性癖あるやつは禁止にするかもな」
「へいへい」
と言い井上さんは他のバレー部メンバーの中に入っていった。
「じゃあ、私も注意しよう」と言った多江ちゃん。
当然、夏村さんにはわからないのだろうが、俺はフルーツパーラー高野に行った後のことを思い出した。
「なんだ、小倉さんも性癖あるのか?」と尋ねる夏村さん。
「し~らない!」と笑顔を振りまきながら歩く多江ちゃん。
しかし、こんなタイミングでみんなの前での交際宣言、言い切っちゃうなんて、夏村さんは最強ですよ!
タッ、タッ、タッ。
「あれ、試合終わっちゃったんですか? バイト終わって駆けつけたのに!」
そんな間の悪い吉川さよりであった。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2022/11/06 校正、一部改稿




