6-3話 それぞれの夏(多江)
【読者さまのコメント】
今回は多江ちゃん視点の回!
多江ちゃんにとって高松は特別な存在。
夏村さんという彼女がいるのはわかっている。
けれど、孤独や心細さを癒やしてくれたのは高松だ。
何気ない時にポンと優しい言葉をかけてくれる。
嬉しくて、前に進みづらくなる。
◇◇ 終業式の日 ◇◇
「多江、また学校の全校成績二位なの? なかなか一位になれないのね。一位はまた花屋の和也くん?」
「はい。また全教科百点取ってましたし、五科目以外の点数もいいので……」
「全国模試の成績はどうなんだ?」
「それは私の方が上なんですけど、学校の成績はなかなか」
「まあいい。最終的には多江が医学部に入ってくれればいいんだから」
これが私の両親とのいつもの会話である。
なにかと言うと成績、成績……
うちの高校のような低レベルの学校ではトップを取らないと恥ずかしいと思っている両親だった。
二年から週三回の『浦和ゼミナール』とは別に、新宿にある『医進スーパースクール』という進学塾にも通うようになった。
『浦和ゼミナール』では医学部に進む人が少ないというのが原因でもあるが、『医進スーパースクール』は全員が医学部狙い。
やはり雰囲気も違うし、関東の有名高校の人たちが来ているので競争も厳しい。
私は自分の記憶が始まった時から勉強をし始めている感じだから、勉強すること自体は苦にはなっていなかった。
だけど、勉強は楽しいかと聞かれれば楽しくはない。
そんな時も、かずくんがいつも言っている『高校でどれだけがんばってどこの大学に行くかで人生は変わる。そして大学を留年せず卒業できればその人生は約束をされる。あとはその人生をどう楽しむかは自分の勝手だ』という言葉は身に染みている。
勉強のための孤独には慣れていた。
両親が引いたレールの上に乗れれば、両親は安心するのだろうが、今の私はレールの上に乗れてもいない。
そのため、両親との関係もギクシャクしちゃって、会話も楽しくなかった。
先月、新宿でかずくんと紀伊国屋書店で会い、フルーツパーラー高野で話したことを思い出す。
なんであんなこと言っちゃったのかなと思い、思うたびに興奮してしまい、忘れようと思ったけど、忘れられなかった。
別れ際に嗅いだかずくんのにおいがまだ忘れられなくて、頭の中を漂う。
あの日以降、私からの話を気に留めてくれているのか、かずくんは学校や、ラインでコンタクトをとってきてくれていた。
本当にかずくんは人に気を遣う。
なんの不満も表情にはみせず、いつもニコニコと。
勉強していても、かずくんのことを思い出してしまうが、なぜかそこに出てくるかずくんはいつも私を笑顔で励ましてくれる。
だから、かずくんへの思いが勉強の邪魔になることはなく、応援にさえ感じていた。
それがあの事件があってから、かずくんと会うこともできないし、痛みがつらいのか連絡もほとんどなくなってしまった。
受験が終わるまではあきらめようと思ってはいたが、いざ『かずくん』という存在が消えてしまうと、高校に入学した当初の孤独に戻ってしまったような感じがする。
塾の帰りに駅から旧中山道を通って自宅に帰るので、かずくんの家が毎日目に入ってしまう。
家に行ってお見舞いという考えはあったが、妹さんが怖くて行けなかった。
妹さんはなっちゃんとはすごく仲がいいと聞いている。
仮にかずくんと交際できたとしても妹さんを落とすのは一苦労だろうだなんて考えてみたりした。
そういえば、かずくん、今年の夏期講習は『浦和ゼミナール』を受けるんじゃなくて、通信添削にしたらしい。
こうなると、夏休み中、かずくんと会う機会は絶望的だなと思ってしまう。
とはいえ、全国模試は受けると言っていたからそこで会えるかも! と期待してしまう。
というか、吹っ切ったと言いながら、結局かずくんのことを思っていることに気づき、私って駄目だなと思ってしまう。
思い出しては想像の中でかずくんに応援してもらっているんだから……
吹っ切るなんてできないよ。
口に、態度にださなかったけど、ずっとかずくんのこと追いかけていたんだから。
だめだ、だめだ、勉強しよう……
◇◇ 八月三日 ◇◇
『医進スーパースクール』の授業が終わり、JR新宿駅の埼京線・湘南新宿ラインのホームで浦和停車の湘南新宿ラインを待つため、白線内で立っていると、軽く背中を叩かれた。
「お久しぶり、小倉さん」
その声の主は、なっちゃんだった。
「お久しぶり、終業式以来だね。塾、代々木だっけ? 今終わり?」
「うん、終わってから、職員室に行って先生にわからないところを聞いてきたんで、いつもよりちょっと遅いんだ」
「ふ~ん、それでなっちゃんは塾で何を勉強しているの?」
「私立難関文系コースに行っている。最初は受験科目を絞りたくなかったんだけど、かずやから言われたんだ。今から志望校の出題科目に集中してそのほかの科目は学校の授業に集中した方がいいってアドバイス受けたんだ」
「ふーん、進学塾の授業はむずかしくない?」
「うん、授業終わったら、かずやの家で勉強会して予習復習しているから大丈夫」
なっちゃんの語る文章には必ず「かずや」という単語が出てきた。
それだけ一緒に目標に向かってがんばっているんだろうと思うと、それが、うらやましくてならなかった。
「かずくんってやさしいから、なっちゃんのことをよく面倒みてくれてるんだろうなぁ」
「うらやましいか?」
なっちゃんから言われたこの言葉に私は絶句してしまった。
「うらやましいか?」
二度も言われるとさすがの私の堪忍袋も音を立てて破けていく感じがした。
その時、なっちゃんはこう言った。
「そこが、やつの問題なところなんだよ」
あまりにも想像していない言葉が出てきたため、私は何も反応できなかった。
「かずやはいいやつだ。誰にでもなんとかしてやろうとして行動してしまう。だから、私や小倉さんみたいにかずやのことを好きになってしまう人が複数できてしまう。たぶん私たち以外にも彼のことを好きな子はいるのかもしれない。それって、最終的にかずやは誰にするかを決める必要がでてくるってことだ。その時、選ばれた子以外は不幸になる。要は相手に優しくしすぎて不幸になる子をあいつは増やしているんだ。あいつはそれに気づかず、いつもニコニコしているけどな」
なっちゃんは、そこまで気づいているんだなと思った。
「でも、なっちゃんは安泰じゃないの、現実に付き合っているんだし」
「いや、俺たちの関係は俺が現役で大学合格するまでのものだ。その後は、こんなにかわいそうな人を作っていったかずやに選ばせて苦しませてやる」
「あれ? だけど卒業したらかずくんと結婚してお花屋を継ぐんじゃないの?」
「口ではそう言っているだけ。王子様が本当の王子様になったら、結婚してもいいと思うけど、他の女性にもしっぽフリフリだったら、即払い下げだね」
「かずくん、しそう!」
と言って二人は笑った。
湘南新宿ラインの車内でも夏休みに入ってからの出来事をお互いに語りあった。
あそこまでなっちゃんの考えを言ってくれたのだから、私のかずくんの思いについても聞いてもらった。
「そうか、高校に入って小倉さんに最初に勉強仲間に入らないかと誘ったのもかずやだったらしいよな。かずやだったら、一発逆転あるかもしれないよ、小倉さんを選ぶとか。かずや、スレンダーでかっこいいより、可愛くて胸がある子の方がお好みだよ。そう考えると私は小倉さんに負ける……」
といい、私の胸を見てはため息をつくなっちゃん。
「それとな、かずやって眼鏡の女の子好きみたいだぞ。小倉さん、視力は?」
「コンタクト」
「じゃあ、たまには眼鏡で誘ってみたら……」
「してみようかな! でも、なっちゃんとかずくん、今まで築いてきたものが違うもん。そのぐらい強固な関係じゃないの?」
「いやいや、井上の色仕掛けにあいつよく引っかかってるしな!」
「言えてる、言えてる!」
今までの不安な日々が少しづつ剥がされていった感じがした。
高校に入って初めてなっちゃんの家に行った帰り際、『かずくん、取ってもいい?』なんて発言しちゃったから、一対一でいるときはあまり声をかけることがなかったんだけど、やっぱり中学三年間いっしょのクラスだった友達なんだなあと実感した。
でもあの当時のなっちゃんとは確実に変わっていた。
なっちゃんは、『かずくん色』に変わっている感じがした。
浦和駅ホーム
「小倉さん、ごめん。改札でかずやが待っている可能性があるから、私、先に改札に向かっていい?」
「ああ、私、東口から出るから大丈夫だよ。でも仲いいね」
「だから、そこが問題なんだよ!」
ふと、なっちゃの口調に違和感を感じ尋ねてみた。
「なっちゃん、普段、かずくんがいる前ではヤンキー口調だけど、なんで今日は普通なの?」
「実はこれもかずやが本当の王子様かどうかのテストなんだ」
何度も出てきた『本当の王子様』ってどう意味だろうと気にはなったが、なっちゃん独特の言い回しだろうと気にしなかった。
面倒見はいいんだけど、かずくんってなっちゃんの手の上で転がされているなあと思ったら笑えて来た。
また、しんどくなったらなっちゃんに連絡してみようかなと思った。
でも、さっきの話の展開からすると……
私も希望を捨てなければかずくんと付き合えるチャンスはあるってこと?
そう考えたとき、無理に自分の本心を押し殺すことはせず、自然にやっていこうと思ったら気分が楽になってきた。
やっぱ、今度かずくんのお見舞いに行ってみようっと!
◇◇ 数日後 ◇◇
「こんにちは! 和也くん、いらっしゃいますか?」
「えっと……」
私を出迎えたかずくんのお父さんが表情を困惑させた。
「和也君の同級生の小倉です。お見舞いに来ました」
「ああ、小倉先生のところの娘さんですね。和也がお世話になっています。どうぞ上がってください」
「今日は夏村さんは?」
「和也と一緒に勉強してますよ」
「そうですか。ところで妹さんは?」
「進学塾の夏期講習から帰ってきていないですよ」
天敵は不在か、ラッキー!
「では、おじゃまします」
お父さんがインターホンを取ると、受話器から微かにかずくんの声が漏れ聞こえた。
「かず、小倉さんの娘さんがお見舞いに来てくれたよ。今、上がって貰ったから」
「えっ! 多江ちゃん来たの? どうしようかな?」
「かずや、俺が小倉さん呼んだ。来たかったら来てもいいぞって言ったら本当に来たよ」
「まあ、夏村さんがオッケーならいいか…… 上に上がって貰って」
「じゃあ、コーヒーも持って行くわよ。手土産貰ったから」 私はご両親にお辞儀して、階段を上った。
「こんにちは! あっ! 本当になっちゃん、いた!」
「小倉さん、来たんだね。こっち空いてるから来なよ」
かずくんはぽかんとした顔で私たちの行動を眺めていた。
「夏村さんに言われたから、めがねで来てみた」
「おう、いいね。おい、かずや。おぐらさん、どうだ! お前の好きな眼鏡で俺より胸あるぞ!」
「余計なこと多江ちゃんに教えないでよ!」
「俺、初めてかずやの部屋に来たとき、エロ本見つけたのよ。その姿が、小倉さんに眼鏡をかけた風にも見えたし、妹の晏菜ちゃんにも見えたんだよ」
「かずくん、もしかして私のこと好み?!」
「黙秘権を使わせていただきます」
机の上の問題集、参考書を眺めていた私は、こう言った。
「へぇ、こんなに楽しく勉強しているのに、結構難しい問題も勉強しているんだね」
「俺には最高の家庭教師である、かずやがいるからな。なんか家庭教師ってエロい響きない?」
「あるある!」
「絶対にないない!」
「ねえ、私もこの勉強会、参加させてもらっていい?」
「えっ? 何で?」
「なんか楽しく勉強できそうだし、私の最高の家庭教師もかずくんになってもらおうかな? エロいこと起こりそうだし」
「多江ちゃん、そんなキャラじゃないよね。もっとお嬢さんキャラだよね?」
「なっちゃんとは昔からこんな感じだったよ。き~めた! 私も勉強会に来ようっと」
「本当にくるのですか?」
「かずくん、『医進スーパースクール』の授業内容を無料で勉強することができます。理科系行くなら、プラスになるんじゃない? その上、勉強しながら両手に花だよ!」
「わかったよ。是非ともいらっしゃってください!」
「やった~、なっちゃん、一緒に勉強しよう!」
「オッケー!」
ということでなっちゃん、かずくんそして私、三人での勉強会がはじまったです。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2022/10/25 校正、一部改稿




