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5-9話 和也のやり方と夏村のやり方(5)

【読者さまのコメント】

病院に救急搬送された高松は検査の結果、すぐ手術しなくてはならなくなった。

予想以上にひどい怪我だけど、手術はなんとか成功……?

その間も高松は周りの人のことばかりを心配している。

なによりも、夏村さんのことを。

高松の願いは届くのか?

 もう高校を出てどのくらい経ったのであろうか……


 俺は大宮駅のそばにある『さいたま赤十字病院』に搬送された(現在はさいたま新都心駅に移転)。

 学校からも自宅からも滅茶苦茶遠い病院なので、道中、俺はどこに連れていかれるのかと思ったが、半ば気を失いながら救急車に乗っていたのと、起きている時は高城先生が話かけてくれていたので、あまり時間の経過には気づかないでいた。

 

 俺を病院側に引き渡すと、高城先生はこう言った。

「私はこれから学校に帰るけど、もし奥さんに会ったら何て言ったらいい?」

 だから奥さんじゃないと思いながらも、病院に着くまで気を紛らわしてくれた高城先生に礼を言うと、次のことを依頼した。

「夏村さんに会ったら、病院名は教えてもいいですが、面会できるかわからないと伝えてください。あと、今回のことで色々と混乱しているようだったら、『自分の思ったように動きなさい、ただし動く前によく考えること』と伝えてあげてください。あと、嫁さんとは別件ですが吉川の事も、宜しくお願いします」

「わかった。しかし学校までどう行ったらいいんだ? タクシー代、学校に請求しても出してくれないしなぁ?」

「多分、大宮の子たちは北浦和からバスに乗るかと思いますが……」

「北浦和だな? 駅着いたら交番に聞こう。じゃ、高松、気を付けてな!」

「高城先生、いろいろありがとうございました」


 救急受付から手を振りながら出ていく高城先生を見送ると、救急窓口から出てきた看護師さんが、俺に声をかけてきた。

「高松さんですか? 痛みはどうですか?」

「救急車の中で鎮痛剤らしきものを打ってもらったので今は鈍痛だけ残っている感じです。ただ、めまいがひどいですね」

「では、まず腕に刺さったナイフを抜いて、それから検査をして処置を検討します」

 こいつを抜くのかと思っただけでも気持ち的には落ち込んだが、流石にそのままナイフを抜くのは痛すぎるので、麻酔を打ってからナイフを抜いてもらった。

 そしてレントゲンを撮り、医師からすぐ手術をしますと言われた。

 俺は、手術の同意書にサインをし、何かの薬を点滴をされているうちに意識を失った。


 それから何時間経ったのであろうか。

 高城先生が電話してくれたのであろう、その電話を受けた時、丁度帰宅した晏菜も含め、両親の三人が外科の病棟に駆けつけた。

 俺はこの時、手術後で眠っていたようで、三人が病室に来ていることに気づかなかった。

 まず、三人は病棟のナースステーション横の外科診察室に通された。

 そこで待っていたのは俺の担当医師となった入江副部長であった。

「ご家族の方は以上でよろしいでしょうか?」

 と入江先生が言うと、代表して父が

「はい」

 と答えた。

「では、まず、今回の息子さんの傷ですが、ナイフが左腕の内側から外側に貫いていました。そのナイフにより尺骨と橈骨(腕の二つの骨)の損傷、腕橈骨筋損傷、長橈側手根伸筋断裂、正中神経の断裂と腕静脈の損傷ということで骨、筋肉、神経、血管の縫合手術を実施いたしました」

「ということは当面はギブスとかになるんでしょうか」

 と母が質問すると、入江先生は、

「骨折しているわけではないのでギプスは不要です。ただし、一週間程度は左腕から手にかけては動かさないようにテーピングで固定させていただきます。手術跡は残ってしまうかもしれませんね。内側で五センチ、外側で八センチ程度になると思います。多分、この程度の手術であれば明日の夜には退院できる予定です。ただし……」

「ただし?」

「今回、傷は比較的小さかったのですが、傷が深く、腕を貫いた状態だったので、筋肉の縫合もしましたので、動かすことが可能になるのは一か月程度はかかると思います。それよりも問題なのは……」

「障害でも残るんですか?」

「神経を断裂していまして、縫合はしたのですが、完全に以前の状態に戻る保証は出来かねます。残存する症状の可能性として、漠然と続く疼痛、左手を完全に握ることができない、人差し指、中指、薬指に不自由がでることが想定されます。痛みは次第に取れてくると思いますが、障害についてはなんとも……」


 入江先生との話を終え、病棟待合室に来た家族は、ベンチシートに座った。

 直接、俺の病室に戻って今の話はできないと考えたのだろう。

「障害があっても利き手じゃないから不幸中の幸いね」

 と母は安堵しながら言った。

 一方、父は

裁ち鋏(たちばさみ)は握れるから、最悪でも花屋の仕事を継ぐことはできるな」

 と父は言った。しかし、その二人の話を聞いて怒り出したのは晏菜だった。

「左手が不自由って、おにぃの大好きなギターが弾けなくなるってことだよ!! わかる?! おにぃの勉強より好きな趣味を取り上げてしまうことになるのに、よくそんな楽観的なこと、よく言えるよね!! それとおにぃは理科系志望でしょ。作業をする時、左手を使うことが多いと思うんだ。それが出来なくなったらどうするの? おにぃの夢は何も無くなっちゃうよ!」

 と晏菜は叫んだ。

「おにぃ、かわいそうだよ~、おにぃ…… ところで沙羅ちゃんにはどういうの? 言い方次第で、責任、感じちゃうと思うよ」


「それは大丈夫。俺が心配させないようにがんばるから」

 トイレに起きた俺は待合室で家族が話しているのを聞き、晏菜の叫び声に、自分自身の悔しさよりも先に晏菜が苦しんでいることに心を痛めた。

「まぁ、しょうがない。これも運命だよ。でも障害が残るかもしれないだろう? リハビリがんばって以前のように必ず戻るから心配するなって!」

 と言い、俺は晏菜の頭を優しく撫でた。

 撫でた晏菜の目には涙があふれていた。


「ところで、いつ退院できるか聞いた?」

「明日の夜だって」

「よし、期末の初日には間に合うな。今日は、先生に痛み止めを多めにもらって、これから試験勉強するかな?」

「お願いだから今日は辞めて……」

 家族一致の意見のためそれには従わない訳にはいかなかった。

「じゃあ、俺、死ぬ訳じゃないんでみんな帰っていいよ。利き手の右手で入院中の生活はなんでも出来るから。明日も店あるんでしょ?」

「そうか? いちおう着替えは枕元に置いてあるから。それと何かあったらすぐ電話してこいよ」

「わかった。試験勉強は約束したのでこっちに置いといて、今回の事件に関わちゃった子をどうフォローしようか考えてから寝るわ」

 と言うと、家族は、明日の退院の時間にまた来るなと言って帰っていった。


 待合室に一人残され、見回すと病室の枕元に設置されたテレビを見るためのプリペイドカードを売っている自動販売機があったため、いくらするのかと近づいた時、

「かずや…… 大丈夫なのか? でも残念だな、病院のテレビだとエロチャンネルはないぞ」

 と、聞き覚えのある声が聞こえた。

 声の主は夏村さんだった。

 そしてその後ろに吉川が隠れていた。


 時間は高校から救急車が出ていった時までさかのぼる。

 救急車を見送った夏村さんと池田であったが、夏村さんは池田に教室にもどり、授業を受けることと、今回の事件はあくまで事故であり、吉川は悪くないという俺の言葉を教室での統一した見解にするよう指示をした。

 要は吉川を悪人に仕立てないよう努力するように言った。

 そして、吉川もなかなか教室に戻りにくいであろうが、その時はなんとか温かく迎えてやってほしいとも依頼した。

 池田は仲間とともにそのように対処すると約束をし、教室に向かった。


 夏村は、一人、生徒会室に向かった。

 当然、現在は授業中であり、部屋には誰もいなかった。

 ご両親が亡くなって数年、一人には慣れたと思っていた夏村だったが、心の中から湧き上がってくる不安と和也の怪我のことを考えると、一年前、浦和のさくら草通りでの仲間の刺傷事件を思い出してしまった。

 あの時も事件の中に自分はいた。

 そして、仲間を怪我から救うことはできなかった。

 すべてのことが全部自分の責任で起こったことに感じてしまい、自分の不甲斐なさも相まって、不安と悲しみの混沌とした心情が胸の中を激しく駆け巡った。


「かずや、ごめん! かずや……!」

 思わず出した大きな声に自分自身がびっくりし、ほほを流れる涙を止めることは、もはや出来なかった。

 その時、生徒会室のドアが突然開いた。

 生徒会の関係者であれば必ずノックをし、自分の名前を名乗ってからドアを開ける。

 最初にやりだしたのは和也だった。

 夏村は涙を拭きながらドアの方向を向くとそこには渋谷先生が立っていた。

「おい、夏村! らしくないないな! この学校の(アタマ)だったんじゃないのか?」

「頭だって好きな奴が傷ついたら、そりゃあ涙のひとつぐらい出ますって!」

「そうか、だけど、その好きな奴はあんな怪我をしながら、お前や吉川の対応を俺に伝えていったぞ、池田経由だがな」

「かずやは強いから…… 私は何をしたらいいのか……」

「そんな時は、もし自分が一番信じている人の立場だったら、今どう行動するかを考えればいいんじゃないか? 夏村! 高松だったら、今なにをする?! 対象者はさっき教室に戻ったぞ」

 その言葉に夏村さんは頷き、

「かずやだったら、絶対こうする! 行ってきます!」

 と言い生徒会室を出て行こうとした。

「おい、夏村。お前が出て言ったら、生徒会室のカギは誰が閉めるんだ? まず、私を外に出さないと!」

 と渋谷先生は夏村さんを茶化した。

「すみません。どうぞ、お先に」

 と夏村さんは言い、渋谷先生を生徒会室から出すと、一礼をし、カギを締めて、あるところに向かった。

『かずやだったら、必ずこうする! かずやがいない今、これをやるのが俺の定め!』と心の中で頷きながら、夏村さんは走っていった。


 ちょうど、五時限目と六時限目の間の休み時間となった。

 五時限目の授業中に戻った吉川ではあったが、教室内の目は明らかに吉川を攻撃している目が多数であった。

 席にもどった吉川であったが涙で腫らした目をこすりながら、もはや授業にはならない状態であった。

 授業が終わると池田と仲間は吉川に近づき、あれは事故でお前が悪いのではないとかずさんも言っていたので心配するなと声をかけ、元気付けはしてはいたが、池田たちだけでは力不足だった。

 周りの生徒の気を引くに至らなかった。


 そこに勢いよく走りこんできた女子生徒が一名いた。

 肩で息をしながら、教室の入り口で立ち止まるとゆっくりとした足取りで吉川の方向に向かっていった。

 すると吉川に向かって話しかけていた池田たちは彼女に場所を譲った。

 その女子生徒は吉川の席の前に立つと大きく深呼吸をし、こう言った。

「今回の件、策とは言え、吉川さんの気持ちを傷つけてしまったことをお詫びします。指示の責任は私、夏村の責任だ。本当に申し訳なかった」

 と言い頭を下げた。すると、吉川は急に席を立ち、こう言った。

「夏村さん、頭を上げてください。たぶん中学を卒業したままだったら、私は同じことをこの高校でも繰り返していたと思います。中学の反省と謝罪をすることで本当に自分は変わることができたと思います。全て、夏村さんそしてかずさんのおかげです。それなのに……」

 と言うとまた吉川の目から大粒の涙があふれてきた。

「それ以上のことは言うな。そんな暇があったら、こうしろって和也が言っていただろう……」

 すると吉川は回りを見回し、

「夏村さん、池田君たち、そしてクラスのみんな! もしよかったら私と友達になってください! お願いします!」

 その言葉とともに吉川はクラス全体に頭を下げた。


 少しの間が空いた後、

「もちろんだ。かずやが認めたお前だ。俺も友達になろう」

 と言い、夏村さんは吉川に手を差し出した。

 そして二人は固く握手をした。

 すると、それを見たクラスメイトは、なぜか夏村さんの前に並び始め、

「友達になってください!」

 と握手を求めてきた。

(かずやだったら、『喜んで』と言って握手するんだろうなぁ)

 と思った夏村さんは各生徒と握手をしていった。

「あれ? 私には?」

 と吉川がぼやくと、握手の列のクラスメイトからは、

「お前は夏村さんの後!」

 と言われ、吉川は膨れっ面をした。


『やっぱ、かずさん、すごいや。中学時代の反省を踏まえて、対応がうまくなってきている。たぶん、この光景もかずさんの思い描いた状況なんだろうなぁ』と池田はつぶやいた。


 夏休みを数日後に控えた七月前半、今年は梅雨も早めに終わったと見え、昨日まで続いた雨でぬかるんでいた道路や、校庭を一気に乾かしていった。

 そして窓から吹く風は、教室内の熱気に負けぬような熱さだったが教室内のだれもそれには気づかない様子だった。


 ひととおりの握手会が終了すると、夏村さんの携帯に電話が入った。

 夏村さんが出ると、相手は高城先生だった。

「あっ、夏村。だんなさんだけど、大宮の赤十字病院の外科に入院したから伝えたからね。あとは『自分の思ったように動きなさい、ただし動く前によく考えること』と伝えてって言われた。言ったからね。じゃあ、宜しく!」

「だ、だんなですか…… だ、誰のことかなぁ……」

 と言いながら夏村さんは顔を真っ赤にしていた。

 それを見た吉川は、夏村さんにこう言った。

「夏村さん、かずさんの病院わかったんですね」

(なんでこいつわかったんだ?)

「私も一緒に行っていいですか? どこの病院ですか?」

「大宮の日赤だそうだ」

「うちから近いんで一緒に行かせてください」

 そう言われた夏村さんは周りを見回し、池田たちにも話したら絶対に行くと言うだろうと思い、

「じゃあ、二人で行くか。人数多いと入院初日だから迷惑かけるかもしれないからな」

 とわざと周りに聞こえるように言った。


 そして、また病院での話に戻る。

「あれ? いつのまに仲良くなったの?」

 と俺が聞くと、夏村さんはこう言った。

「生徒会室で一人どうしたらいいか悩んでいた時、渋谷先生が来てくれて『高松だったらどうするか自分で考えてみろ』と言われたら、自然と体が動いて、吉川のクラスに行って俺の方から今回の件について謝ったんだ。そして吉川の方から友達になってほしいと言われて友達になった」

「そうか、二人ともありがとう。吉川、やったな!」

「かずさん、本当にすみません…… 私、なんてお詫びしたら……」

「心配するな、俺、明日の夜、退院することになったんだ。だから期末試験から学校は参戦だ!」

 と言うと、俺は吉川の頭に手を置き、ゆっくり撫でながらこう言った。

「お前にはできると思っていたよ。ただ、お前は人との付き合い方となんでも自分が中心にならないと、と思うところが悪い点だったんだよ。もう大丈夫。いつか言っただろう。胸を張れ!」

「はい!」

「でも退院が明日でよかったよ。明日は学校休むけど、夏村さんは期末試験の勉強がんばってよ!」

「うん、いい成績とることがかずやへの顔向けだと思っている」

 という夏村さんの言葉をかみしめながら、俺は頷いていた。

 すると吉川は怪訝(けげん)な表情をしながらこう質問してきた。

「かずさん、一つ聞いてもいいですか?」

「何?」

「本当にかずさんと夏村さんは付き合っていないんですか?」

「付き合ってなんかいないよ。だって夏村さんは俺の未来の嫁さん確定だから付き合っている以上の存在なんだよ。以心伝心の仲だよ」

「かずさん、だましましたね! 付き合ってなかったら私が狙っちゃおうと思っていたのに」

 と吉川はしかめっ面をしながら俺の顔を覗き込んだ。

 一方、夏村さんは……

「悪いな、俺という未来の嫁…… 本当か?! 嫁決定か! 退院したら同居するか? 夏休みは婚前旅行するぞ!」

 と相変わらずのボケ炸裂。

「だから俺はまだ年齢的に結婚できないちゅうの!」


 二、三十分程度であろうか。

 夏村さんと吉川の見舞で気分は晴れた。

 しかし、後遺症は残るのかなぁ……

 グタグタ考えてもしょうがないかと思い、病室に戻り、横になると麻酔が残っていたのか、すぐに眠ることができた。


 しかし、麻酔が切れることで俺の快眠は終わりを告げる。

 たしか、痛みが出た時はナースコールして良いって言われたよなと思いながらも、俺は立ち上がり、トイレに行きながらナースステーションに立ち寄った。

 ステーションには夜勤の方が2名コンピュータとにらめっこしていた。

「すみません、傷の痛みが半端ないので痛み止めもらえますか?」

「あら、わざわざ来なくてもコールしてもらえれば行ったのに」

 とは言ってくれたが、明日は退院の身、迷惑をかけずに退院したいと思ってしまった。

 ナースは当直の医師に電話をし、痛み止めの錠剤2錠と中途半端に覚醒してしまったのでもう少し眠れるよう安定剤を追加してくれた。

 あとで調べたのだが、痛み止めに安定剤を併せて服用すると鎮痛効果が増すらしい。

 部屋に戻り、夏村さんが買ってきてくれた飲み物の口を開け、薬を飲みこみ、飲み物で流し込むと数分後に痛みも取れ、すぐに眠りについた。


 利き腕ではないから大丈夫と両親は言っていたが、病院生活は結構難儀した。

 トイレの際、大きい方も小さい方も結構大変だったし、食事で食器を持てないのは結構つらい。

 またペットボトルを右手だけで開けろと言うのも結構大変だ。

 携帯を右手でダイヤルし、右手で持って会話も長時間は結構疲れる。

 今後の苦労の一部を病院内で体験し、退院となった。

 結局、学校の終わる時間前に追い出されたので、夏村さんには会えず、両親と豪勢なことにタクシーで自宅まで帰った。


 するとどこから俺の帰宅を勘付いたのか、中央警察署から私服警官が来て、今回の一件について聞かせてほしいと言ってきたが、事故に基づくもので両者間で示談が成立していますのでお帰りくださいと言い帰ってもらった。

 警察は不自然さがあるため捜査に来たのだろうが、俺は吉川の両親と俺の両親の間で和解契約を結んでほしいと救急車内で両家に伝えてあり、書面も出来上がっていたため警察はいっさい手が出せない状態であったのだ。

 治療費等は吉川の家が持つと言ってくれたのだが、俺の両親は怪我を負わされた家族として示談には納得がいかなかったようだった。

 しかし、俺の要望を第一にということで渋々示談という形で対応してくれたのだった。

 その代わり、この怪我が原因で不自由になったとしても自分で決めたのだから自分で責任を持ちなさいというのが両親の主張だった。

 だから俺は一生をかけて障害が残った場合は背負う決意でいた。


 入院中、鎮痛剤の使い過ぎで胃が痛み、退院の時には胃薬ももらったので万事準備オッケー、後は期末試験を受け、できるだけの成績を残すだけだった。


 一学期の残った期間は両親には悪いが自転車通学は無理なので、バス通学にした。

 主な日程は期末試験と球技大会、終業式であったが、結局大事をとって球技大会の日は欠席をした。

 夏村さんを応援とも考えたが、なるべく俺が痛みを我慢する姿を見せたくなかったのだ。

 とは言え、毎日夏村さんは生徒会活動を早退し、看病がてら俺の家に来ては夕飯を食べて帰っていった。


 そして七月二十七日。

 両親と晏菜の立ち合いの元、先生からテーピングの終了と近医でのリハビリの開始の紹介状をもらった。

 先生から状況を聞かされた家族の中で晏菜の表情が冴えなかった。

 手術した跡は結構目立ってしまったなと思いながらテーピングを外した左手をゆっくりと動かしてみる。

 まだ、腕を曲げたり、外側や内側に捻じると痛みが来るが、それ程、気にはならなかった。

 そして懸念された指だが親指と小指の動きは問題ない。

 しかし、人差し指、中指、薬指の自由は利かなかった。

 手も右手に比べ幾分冷たい感じがする。

 あとはリハビリを根気よく続けることと夏村さんと吉川に後遺症を気づかせないようにすること。

 そう心に決め、外科の外来を出ると、待合室には夏村さんと吉川、そして吉川のご両親がいた。

 俺は不自由などないようなふるまいをしながらも、長期間のテーピングで筋力が下がっちゃったので、リハビリ頑張りますねと言った。

 傷跡が目に入った吉川は泣き始めたが、俺は、

「お前が泣いたってどうにもならないんだから、お前は胸を張れ、それを見ながら俺はリハビリして完治するから」

 と言い元気づけた。


 夏村さん、俺の家族、吉川の家族は大宮駅前のそごうの一階にある『イタリアンダイニング Dona』に入り、食事をしてから吉川の家族と別れた。


 大宮駅からJRに乗り浦和へ行く車内で、俺は夏村さんからこう言われた。

「お前の左腕に障害が残ろうとも、俺はいつまでもお前を守る」

 なぜ、知っているのと思いながら、ちょっとごまかしながら話を(はぐ)らかすと、

「実は、外来の診療室の外から聞いていた。かずやは俺に責任を感じるなと言うかもしれないが、事故の原因が俺にあるとかそういう問題ではなくて、これから俺はお前と一緒に歩んでいくんだ。だから苦しみも悲しみも、そして楽しみもこれからはいつも二等分だ。だからお前の苦労も俺が背負う。ただし、背負うのは全部じゃないぞ。お前もお前のできる限りのことは頑張れ。手からはみ出る部分は俺がなんとかしてやる」

 俺は涙を我慢した。

 こんなこと彼女に言われて涙しない奴なんていない。

 でも夏村さんは違う。

 こんなところで泣いていたら、殴られる。

 泣いている暇があるなら頑張れと言うのがわかるからだ。

 だから、俺はじっと我慢した。

 そして改めて自分の障害に立ち向かうことを決心した。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/17 校正、一部改稿

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― 新着の感想 ―
[良い点] 高城先生が「わかった。しかし学校までどう行ったらいいんだ? タクシー代、学校に請求しても出してくれないしなぁ?」というのが混乱しているのが分かり良かったと思います。 [気になる点] 物語の…
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