5-7話 和也のやり方と夏村のやり方(3)
【読者さまのコメント】
いじめられた過去がある少女。
彼女の家にやっと上がれた高松だったけれど、予想通り、ものすごい反発に遭う(汗)
いじめは本当によくない! 悪い!
これだけ心に深く傷をつけるのだもの!
話を聞いてもらえない状況だったけれど、高松は──?
俺は家の中へ通され、前に被害者の父親、俺、後ろに母親というふうに挟まれた状態で居間に向かった。
お父さまからそこに座れと指示されたので、座布団を横に置き、畳の上に座った。
そして、ご両親が席に着いたのを確認し、改めて吉川の件でご迷惑をおかけしたことをお詫びした。
ご両親からは何も言葉がなかったので、俺は一度深呼吸をしてから、吉川から説明を受けていた中学時代のいじめの発端から現在までの経過を説明し、叶うことならご両親、そして被害者にも吉川は謝りたいと言っていることを伝えた。
すると今度はご両親からの質疑応答が始まる。
ここでうそや適当なことを言ってしまっては、身もふたもないので、自分のわからないことは吉川から説明をさせると言い切った。
話は一時間近くに及び、正座で痺れた足がほぼ感覚がなくなった頃、家のインターホンが鳴り、誰かが家に戻って来た様子だった。
それは都内の高校から帰って来た今回のイジメの被害者、川崎英子さんであった。
見知らぬ、自分と同じくらいの年齢の男子生徒がリビングに正座している事情が分からない英子さんは俺と目が合うと軽く挨拶した。そして、
「食事出来たら呼んで」
と母に声をかけると、自分の部屋に入っていった。
さて、どうするかと俺は考えていると英子さんの父親が席を立ち、
「経緯を娘に話してきます」
と言った。
「大丈夫でしょうか?」
と俺は尋ねると、
「これが君の目的でしょ」
と父親は言った。さすがこちらの意図は理解していらっしゃると俺は思い、対応は父親に任せた。
数分の沈黙の後、部屋から『なんでそんな人、家に入れたの! またイジメられる!』と怒鳴るのが聞こえた。
その声があまりにも大きてびっくりしたのか、恐怖を感じたのかはわからないが、母親は立つことさえもできなかった。
俺はその声を聞いて、
「ちょっと、娘さんの部屋に行かせてもらっていいですか?」
と母親に尋ねた。母親はどうしていいのかわからず、ただ頷いた。
俺は立ち上がり、廊下に出ると、丁度英子さんの部屋から出てきた父親に、アイコンタクトで了解をもらった。
そしてドアをノックした。
俺は一息、深呼吸をすると柔らかめの口調でこう言った。
「失礼します。私、浦和大鳳高校二年の高松和也といいます。ちょっとだけでもいいのでお話聞いてくれませんか?」
すると部屋の中から英子さんの恐怖を含んだ怒りの声が聞こえてきた。
「イヤ! あの子の友達って、絶対、私にまた悪いことをしようと思って来たんだ! 帰って!」
そう英子さんが思うのもしょうがないと思い、長期戦も元々頭に有ったため、今日は部屋の外からでも挨拶ができたことで良しと思った。
これ以上、彼女を興奮させるのは得策ではないと思い、また次回と、リビングに向かおうとした時、俺の頭の中に、ある顔が思い出された。
そして、彼女の名前が、こんな時に有効なのではないかと思い、こう切り出してみた。
「しょうがないですね。そのことはまた次回ということにしましょう。ではもうひとつ、実は俺、英子さんが興味ありそうな話を持って来てたんです。実は俺、君の出身中学の有名OGとも、友人なんですよ。その子は君の中学ではみんなに恐れられた子でしたが、今では立派に更生させましたよ、俺の手で」
と言ったが何も部屋からは返答はなかった。逆にレスが無いということは、もしかして話に乗って来たか? と思った。
「それは誰だかわかりますか?…… 笹川春陽、そういえば桜花中学に二年前まで居たヤンキーでしたよね。彼女も今、俺の友達ですよ。俺、変な性格の持ち主で学校の厄介な奴ら更生させるの得意なんですよね」
数分の沈黙の後、ドアがカチャっと鳴り、中から英子さんが顔を出し、こう言った。
「さ、さ、笹川春陽が今、更生したんですか? あの、学校でも一番厄介ものだったヤンキーが!」
「ええ、俺、最強の猛獣使いなんで(笑)。今では普通の女子高生になって、髪の毛も黒(だったかな?)にして、コーラス部でがんばってますよ」
「うそ! 本当? どうやったんですか? 聞きたい!」
ということで意外な人の名前から状況は打開することできた。
それからというもの英子さんから質問の雨あられだった。
あの笹川を(どんだけ奴は悪かったんだと思ったのだが)更生させた人ならということで、英子さんからは了解を得ることができた。
そして、まずは英子さんのご両親に吉川のご両親の謝罪を受け入れてもらい、英子さんが納得いった後で、吉川の直接の謝罪に俺も同行することで了解を得ることができた。
結局、英子さんの状況を鑑みながら、吉川のご両親、そして最終的に吉川が英子さんと直接会って謝罪し、最終目的の英子さんから謝罪の了承を得たのは、俺が初めて英子さんの家に入れていただいた日から二十日後で、あと数日で七月となる時期までかかってしまった。
英子さんの心情を考えれば致し方ないと思った。
それだけの心の傷を英子さんは負ってしまったのだから。
思えば、今年の梅雨の期間は英子さんの家への訪問でほとんどを費やした感じであった。
そして七月、桜花中学校で同窓会があるというのでそこでみんなにも謝りたいと吉川は言うので、それならがんばってみろと俺は了承した。
そして随分と変わった吉川の表情と行動に俺は満足していた。
同窓会で、吉川は司会からマイクをもぎ取って、参加者全員の前で土下座をして謝ったというのだから、俺もうれしく思った。
これを聞いた時、俺の努力は報われたのかなと思った。
ただ、一つの気になることは、同窓会での出来事を吉川本人から直接報告を受けていないことだった。
同窓会での話を聞いたのは渋谷先生から吉川の出身校の先生からのお礼の電話の報告という形だったのだ。
◇◇ 桜花中学校 同窓会 ◇◇
吉川は開催の挨拶の後、壇上に向かい、司会からマイクを奪取し、中学時代に迷惑をかけたことを謝った。
それから同窓会の間も、吉川に加担した同級生のところに行っては謝っていた。
それを見ていた当時担任の先生は吉川の変わりっぷりにびっくりしていた。
最後に、その担任の先生にも迷惑かけたことへのお詫びをし、先生は喜んでいた。
『かずさんが、私の立場だったら、このぐらいはする。そしてみんなに認めてもらうまで頑張るんだ』
と吉川はそう思っていたようだ。
謝罪も終わり、少し休んでいた吉川に会場で声をかけた女子生徒がいた。
「さより、よかったね。ちゃんと更生できて! あたしらといたら、高校でも同じこと繰り返してね~?」
声をかけてきたのは大鳳高校に進んだ同級生だった。
現在は陸上部に在籍し、彼女も吉川が更生したことを単純に喜んでいたのだが、そこで余計なこと言ってしまう。
「そういえば、高校行ってからほとんど声かけてくれなかったよね」と吉川が聞くと、彼女は
「いやさ、さよりのこと、監視しているんで、お前ら、さよりに付きまとうなって言われたのよ」と回答した。
「そんなのさびしくない? ところで、それ言って来たのって誰?」と吉川が尋ねると、
「あぁ、生徒会実行委員長の夏村さんと笹川先輩。夏村さんって、かっこ良くってきれいだよね……」
その言葉を聞いた時、吉川にはそれ以降の彼女の話は聞こえていなかった。
大鳳で自分が孤立したのは、生徒会実行委員の夏村が原因なのだと断定したからだった。
そこからは『かずさんだったら……』という言葉もどこかに吹き飛ばされてしまった。
吉川は早々に会場を去り、その足で大宮駅前のキャンプ用品を扱うスポーツ店に立ち寄り、サバイバルナイフの小型のものを購入した。
「私から仲間を取り上げた奴を許せない!」
その時、吉川の頭の中から和也の言った『短絡的になるな!』という言葉は完全に消えてしまっていた。
吉川は自宅に帰ると、両親に同窓会は楽しかったと一言だけ残して、部屋にこもった。
そして電気も点けない部屋で自分のカバンの中に先ほど購入したサバイバルナイフをしまったのだった。
◇◇ 七月九日 ◇◇
翌日の月曜日の昼休み、俺はいつものように池田たちと教室前の廊下で話していた。
いちよう、吉川の一件は片付いてはいるが、一学期が終わるまでは、吉川も不安であろうからなるべくそばに(廊下から見守るだけだが)いてやろうと思っていたのだ。
「さて、今週の水曜日十一日から期末試験始まるぞ! おい池田! お前、中間試験、成績良くなかったんだから頑張れよ!」
「勘弁してくださいよ! かずさん。かずさんは、毎回一位で勉強しなくても楽勝なんでしょ?! でも中学時代のかずさんの面影が全然無い……」
「いや、高校入って勉強しながら色々と考えたわけよ。いいか、お前ら、『高校時代にどんだけがんばってどんな大学に入って無事卒業するかで人生は決まる』って言われているんだよ。大学に入ってから卒業のがMUSTだけど、職に就く時、高校でがんばって大学に入って卒業した場合と、遊んで高卒で終わった場合では、生涯賃金が五千万違うと言われているんだ。この差って大学行って卒業するだけで、高卒より約十年分多くの金が貰えるということを意味するんだ。当然、初任給が大卒と高卒とじゃ違うから最終的にはもっと差がついてしまう。どっちがいいと思う? だからお前らも頑張って五千万アップを狙え! 俺は顔が良くなくって性格もよくないので高給取りになって彼女を見つけるのが目標だ。だから勉強がんばっている」
「なんかよくわかんないけど、すごい説得力! がんばります!」
と池田がいうと周辺の後輩たちも笑いながらも、目を輝かしている子たちもいることに気づいた。
そんな子たちの中で、何人かは俺の真意を理解し頑張ってくれることを俺は祈った。
そういえば、今日は吉川と会っていない。
同窓会の話は渋谷先生から情報が入ってきていたので、よくがんばったなと褒めてやりたかったが、顔を見せてこない。
俺は「ちょっと悪い」と言って、一年六組の教室方向に向かおうとした時、普段とは明らかに眼光が異なる吉川が急いで教室を出ていくのを見かけた。俺は吉川に、
「さより! 昨日の同窓会どうだった? おい! さより!」
と声をかけたが何も返事は戻ってこなかった。
俺は嫌な予感がしたので、吉川を追いかけた。
だが、いかんせん、今は昼休み。
廊下にいる生徒が邪魔になる。
そういえば、今の時間、剛たちと別れて生徒会室に行くのが夏村さんの日課だ。
廊下で話をしていても、夏村さんが階段を降りていくのを見かける時間だ。
タイミング的に嫌な予感がした。
ここで、吉川にもう一度、さっきより大きな声をかけるのも彼女が気を動転しかねないと思った。
単純に捕まえて何をしようとしているのか問いただすしかないと俺は思った。
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編集記録
2022/10/15 5-7話を2分割し、校正、一部改稿




