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5-4話 暴力と心の成長

【読者さまのコメント】

高松の席が大問題だ……女同士の静かな戦いが、仲間たちとの関わりに亀裂を生みそうになる。

だったらさっさとその場から離れるのが一番!

そして高松は一年生たちとの距離を詰めていく。

これで情報収集は安心……かと思ったら?!

 入学式が終わって、数日後……

 俺は休み時間になると一年の池田のクラス、一年六組に遊びに行くのが日課となっていた。

 休み時間といえば、教室で勉強仲間と何やかやと話をして過ごすのが一年の時の流れであった。

 二年になり、俺の隣に夏村さんが座るようになってからは、休み時間になると必ずどこかに消える井上さんの席には、多江ちゃんが座るようになった。

 そして、多江ちゃんは夏村さんが俺に話しかける隙も作らせないよう自分から話しかけてくるようになった。

 こうなってくると勉強仲間の体裁が保てなくなり、俺と夏村さんと多江ちゃんのグループと坂本、佐々木、鵜坂、牧野、さくらちゃんのグループの間に見えない境界が出来始めていたことを早々に俺は気づいた。

 俺は勉強仲間のグループ崩壊はもっとも避けたかったので、

「ちょっと、一年の池田のところ行ってくるわ」

 と言っては、教室を離れるようになっていた。

 すると、夏村さんは元ヤンキー仲間の(つよし)のクラスや生徒会室に行ったりしていたので、一人残された多江ちゃんは勉強仲間の中に戻り、以前のようにメンバーで集まって話をするようになったようだ。

 夏村さんには悪いとは思ったが、薄々俺の行動の意図を生徒会室にいるときに匂わせていたのでわかってくれているだろうと思っていた。


 二階に行くと池田たちが彼らの教室前の廊下で待っていた。

 入学式終了後の片づけから池田とその時一緒にいた同級生たちは俺を慕ってくれているようになっていた。

「かずさん(もうこの時期には『高松さん』から『かずさん』に呼び方は変わっていた)、いいんですか? 毎時間、二階に逃げてきて(笑)」

「いやぁ、俺、嫌われているからさぁ、クラスに居ても肩身狭くて、逃げてきてるわけよ」

 と俺が言うと『嫌われている』という言葉にレスをした教室内にいた数名のクラスメイトたちがこちらを見ては、すぐ目をそらした。

「そういえば、俺、大里中学出身で、かずさんと同級に中矢って先輩がいるんですけど、中学時代、ヤンキーで有名な人だったんですよ。だけど、今では、サッカー部でヤンキー辞めてがんばっているんですよ。びっくりしました! 更生させたのってかずさんだって聞いたんですけど、本当ですか?」

 と池田の同級生の一人は尋ねた。

 中矢がサッカー部に入ったことは勝村からの聞いていたし、カウンセリングも対応したことを思い出した。

「俺には人を更生させることなんかできないよ。クラスの嫌われ者で毎時間ここに逃げてきている男だよ(笑)。ただ、彼とは何度も話をした。初めは『俺のことなんて誰もわかってくれない』とか言って心を閉ざしていたけど、本当に向こうから口を開いてくれるまで何度も俺は話しかけ続けたよ。そして、最終的にどうなりたいかを考えて、その場所に向かうにはどうしたらいいかを一緒に考えた。そして最終的に彼はどこに着地すればいいのかを考えついてくれたんだ。そしたら『俺、こんなカッコして突っ張っている場合じゃねえ』って話になって、今は自分の見つけた目標に向かってがんばっているんだ。俺は何もしていない。勝手に奴が進む道を見つけてくれただけだよ」

「なんで、かずさんがそこまでやるんですか? そんなこと、先生がやるべき仕事なんじゃないんですか?」

「相手が先生だと身構えちゃうし、立場的に自分の学校の生徒を何人か更生させれば、先生という立場なら自分の評価になるって考えてしまう人がいるかもしれない。要は自分のために奴らをなんとかするって感じかな。それに対して、俺は奴らがどうなろうと自分の得には何もならないんだよ。だから俺は『お前はこうしろ!』ではなく、『お前でやりたいことは自分で考えろ、ただし、わかんなかったら手助けするから。仲間だしな』と言うんだ。あくまで相手との立場は生徒と生徒、同レベルで話をするから先生には話しにくいことも話せたのかなって思ってる」

「かずさん、熱いっすね!」

「当たり前だろ! 俺はロックンローラーだからな!」

「そういえば、かずさん。まだバンドやってるんですか?」

「やってるよ」

「かずさん、中三の学園祭の時の弾き語り、良かったもんな」

 と言いながら、遠くを見つめて、何かを思い出している様子の池田だった。

「そういえば、去年のこの高校の学園祭でかずさん、オンステージやったって話じゃないですか。俺も見たかったなぁ」

 そんな話も広まっているのかと思ったが、その裏にあったトラブルまでは彼らの耳には届いていなかったのかと俺は思った。

「ば~か! 俺、代役で三時間歌わされたんだぞ! 喉潰れるわ!」


 といった、どうでもいいような話を時間が有ったら二階に降りて来ては話をしていた。

 すると不思議なことに日が経つに連れ、集まってくるメンバーが増え、一年の方から質問が来るようになってきた。

 それを丁寧に回答する。

 そんな日々が続いていた。

 しかし、その会話とは別に俺は教室内の吉川の動向を確認していた。

 

「ところで、かずさん、彼女できました?」

 とニヤニヤしながら池田は質問してきた。

 俺はこの時点で夏村さんとの関係を一年に広めたくはなかった。

 というのも夏村さんの過去を知らない一年にとって、彼女は理想の先輩女性になっていたからである。

 そんなお方と付き合っているとも言えず、

「この顔と、この性格でモテる訳ないじゃん。モテてたら今頃その子の教室にずっといるちゅうの!」

「確かに! かずさんモテそうにないしなぁ!」

 と言い、爆笑する一年生たち。いらぬお世話だ。


 しかし、何か用事があって一年のクラスにやってくる二・三年生は、俺の顔を見つけると、気軽に声をかけてくるのは、今まで奴らに言ったことと整合性がとれなくなるので困る。

「あれ? 高松、こんなところで何やっているんだ? 次は何が目的?」

 と怪しまれたりすることもあった。

「かずさん、実は校内で顔が広いですね?」

 と聞かれたときは、

「俺の学園祭での活躍が伝説になっているのだよ!(笑)」

 とうまくごまかしてその場をしのぐのであった。


 ただ一つ困ったことに、俺が一年のクラス前で時間をつぶしていると、階段を移動しながら夏村さんがちょくちょくチェックしにくるのだ。

 そしてたまに夏村さんと目が合うと、彼女の眼は『またやっているな』とほほ笑んでいるようだった。

 そんな感じで俺を偵察に来るものだから、夏村さんがヤンキーだったとは知らない一年生は平気で彼女に声をかけてくる。

 まあ、自分の彼女にこういうのも変だが、夏村さんは美人で、背が高くて、目立つのだ。

 偶然、階段を下りていく夏村さんの姿を見つけた一年生の女子生徒たちはこう声をかけてきた。

「夏村さんって、すごいきれいな方ですよね。もう誰かと付き合いされているのですか?」

「い、いや、お、私は面食いなんで、私のお眼鏡にかなう男子はいないんだ」

「さすが~、夏村さん、いうことが別世界の人ね」

 誰に向かって言っているんだ、元ヤンキーの総番だぞ、その人は……(笑)

「まぁ、夏村さんは最強の彼女だろうね。外見も内面も……」

 と俺がボソッと夏村さんを見ながら言うと、池田の同級生たちは、

「かずさん、夏村さんと知り合いなんですか? 紹介してくださいよ!」

 だけど、ごめんね。俺の彼女なんだとこの場では言うのを避けた。

「こんど時間が有ったらね……」


 そんな時間が数日続いたある日、一年の別のクラスで騒ぎ声が聞こえた。

 喧嘩らしい。

 俺は池田たちとその教室へ向かった。


 教室を覗くと、ある男子生徒が、席に座った別の男子生徒に頭からバケツの水をかけたのだった。

 水をかけた生徒はヤンチャそうな生徒で、かけられた生徒は水で髪をビシャビシャにし、反抗もせず席に座っていた。

 俺はゆっくりと教室内に入り、彼らに近づき、

「おい! お前、なんでこんなことしてんだ!」

 と水をかけた奴に聞くと、

「こいつ、普段から何も言わないで、協調性無くて、気持ち悪いんですよ。だから腹が立ったんで水をぶっかけてやったんです」

 水をかけた生徒はバケツを持つ手が震えていた。

 多分、彼への嫌悪感と怒った先輩がここにいるという恐怖感が混ざったものなのであろう。

 俺はバケツを振り上げた腕をつかみ、そっと下ろさせた。

 そして周りの生徒を見回しながら、こう言った。

「君たち、彼って気持ち悪い存在なのか?」

 水でズブ濡れにされている子がいる前でこんな話を聞くのは心が痛んだが俺は聞いてみた。

 すると、数人が頭を縦に振り、それを見たバケツを持った生徒は表情を変え、満足げであった。

 彼らの表情・行動を見て、俺は敢えて声のトーンを落としてこう言った。


「ちょっと待てよ! 気持ち悪い? 気持ち悪いことで、彼はお前らを傷付けたのか? なぐったのか? 笑ったのか? ちょっかい出したのか?」

 俺はバケツを持った生徒とは別の、頭を縦に振った生徒に向き合った。

「別にないです……」

「気持ちが悪いとか、腹が立つとか、人間、好き嫌いがあるのは、どうしようもない感情なんだと思う。だけど、その感情が湧くたびに人を攻撃していたら、キリがないだろう! だけどよく考えてみろ。何かの拍子に次はお前が他の人に気持ち悪がられる立場になるかもしれないんだぞ!」

 そして、頭を縦に振った他のやつに向かって指をさしながら続けた。

「お前も! お前も! お前も! 次はお前たちが気持ち悪がられるかもしれないんだぞ! だから、そんなことでいちいち切れるなよ。 彼がお前らに何かしたのか? 何もしていないだろう! もし、その気持ち悪さが彼の性格からくるものだったり、彼の行動の自由を妨げている何かであった場合であろうとも、彼自身に何の罪はないんだ。 そんな罪の無い人をお前が代わって罰する? ふざけんじゃねぇ! 何様だと思ってるんだ!」

 そして、俺はゆっくり水をかけた生徒、頭を縦に振った生徒たちの顔を順に見まわした後、水をかけられた生徒の横へ行き、腰を折り、彼の目線までかがみ、こう言った。

「ごめん、悪かったな。ひどいこと言っちゃって。でも、人間って成長の過程で自分の感情を抑えきれなくなって爆発しちゃうことがある。だから彼らも成長の途中だと考えて許してやってくれないか? それともう一つ。お前も自分に自信を持て! 君は間違ってはいない。 胸を張れ! そして、君も成長の途中だ。 反省することはあっても決して自分を否定するな! 違うと思ったら言い返せ! 周りは君の言っていることが正しいと思えば、心の片隅に君への同調を持ってくれる。それが積み重なっていけば君に対していつかは味方になってくれる。 だ・か・ら、まずは自分はどうしたらいいか考えて、そして行動してみろ」

 ずぶぬれになった生徒は軽くうなづき、カバンからタオルを出すと自分の体をぬぐい始めた。

「少し、汚いかもしれないけど、俺のもよかったら使ってくれ」

 と言い、俺の使い古しのタオルを彼に手渡した。

 彼は頭を下げ、俺のタオルを使った。


 しーんとしたクラスを見回し、またやってしまったと思った俺は照れ隠ししながら、

「お呼びでない? お呼びでない? こりゃまた失礼いたしました!」

 と七〇年代のギャグを言いながら教室を早足で出て行こうとした。

 意外と数人には受けたので、植木等(うえきひとし)(※七〇年代に大活躍したコメディアン)のギャグ恐るべしと思った。

 そして、水をぶっかけた生徒の横に来た時、俺は立ち止まり、彼にこう耳打ちした。

「俺の言った意味を理解することが出来たら、その時は総合棟一階に有る生徒会室に来な。俺がそれが正解かどうか、確認してやる。意味が解らなかったら解るまで自分で考えろ!」

 彼は深くうなずいた。


 教室を出ると、丁度、生徒指導の渋谷先生と夏村さんがやって来たところだった。

 誰かが、生徒会室あるいは生徒指導室に駆け込んだのであろう。

 俺は渋谷先生に事の始終を報告し、その場を去った。


「かずさん、さすがですね」

 と池田が言うと、俺はこう返答した。

「創立三年目での初の喧嘩騒ぎが、さらに形を変えて広がることは避けたかったんだ。暴力は何も生まない。俺たちはいつも言葉で説得してきたんだ」

「俺たちって?」

「俺と俺がこの世の中で最も信じている人のことだよ」

 と言い、ちらっと夏村さんを見た、池田たちにはわからないように。


 そんなことを言いながら俺は池田たちと歩いている時、騒動が起こった教室の出入り口で成り行きを見ていた、ある女子生徒を俺は見逃さなかった。

 『吉川さより』だった。

 俺は彼女のすぐ横を通り過ぎたが目を合わすことはなかった。


 それから二日後、生徒会室に水をかけた生徒と彼に同調した生徒たちが生徒会室に出頭し、俺に自分なりの意見をまとめ、俺とののカウンセリングを受けた。

 確かに頭にきたこと全てに立腹していたら、何も手につかなくなってしまうことを理解してくれたようだ。

 また人にはいろいろな個性があり、それを否定することは、自分の個性を否定することにつながると思ったらしい。

 実はこの内容の『カウンセリング』は昨年の夏、ヤンキーたちを改心させるために行った個人面談の内容とほぼ同じ内容だったのだ。

 怒る、キレるの原因は普通の高校生でもヤンキーでも同じだと思ったからだ。


 彼らのカウンセリングを終え、すでに帰ってしまった夏村さんを追いかけるために、俺は生徒会室で残って作業していたメンバーに挨拶をし下駄箱にむかうと、出口に一人の女子生徒がいた。

 俺は気づかず、運動靴に履き替え、出口に向かおうとした時に、

「高松先輩、一年の吉川と言います。池田君と同じクラスです。少しお話があるのですが、明日の12:30、総合棟の屋上でお時間いただけますか? ご相談があります」

 と話しかけてきた。

「別にいいけど、もしかして告白なら、今でもいいよ(笑)」

「そんなんじゃないんです! まじめなことなんです!」

「わかった。じゃあ、明日12:30でいいかな?」

「はい、よろしくお願いいたします」

 と言い、軽く会釈をすると出口下の階段そばに留めてあった自転車に乗って帰っていった。


「いきなりの大物がむこうから掛かって来たけど、さて、どう出てくるかな?」

 俺はいつもの定位置に置かれた自転車のキーを開け、走り始めた。

 すでに桜の花は散り終え、それに取って代わって咲き誇っていた八重桜も散り始め、バス停までの通学路の路面には八重桜の散った花びらの濃いピンクがちりばめられ、街路灯の明かりが日中ならきれいなピンク色を何か濁った決して気持ちが落ち込ませるような色に変えていた。


 ◇◇ ある日 ◇◇


「ところで春陽(はるひ)、吉川の出身校の生徒はどうなった?」

「いちよう全員、体育会系の部活に入れまして、暴力沙汰は部活が大会に出場できないことを強く植え付けましたので、大丈夫かと思います。中学時代に問題になったいじめは全て一個人に対する事件だったので、毎日、高松くんがクラスに張り付いて変化がないか監視してくれているみたいなので大丈夫かと思います」

「かずやが監視……? 多分、違う目的だろうよ。まあいい、かずやが吉川のそばに毎日いてくれるのは心強い。次は他の学校出身の問題児が六組にいるかだな」

 相変わらず自分の得意分野、外堀を埋める戦法の夏村さんと、内側に潜入して攻める俺の共同作戦だ。

 どちらかが失敗しても、どちらかでカバーできる…… はずだ。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/12 校正、一部改稿

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