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5-1話 新学期

【読者さまのコメント】

二年生に進級した!

高松は朝練で走りながら、各部活動の活動をそれとなくチェックする。

高松がいなかったら、こんなにも活発な部活動はできていなかったんだろうなぁ……。

そして、クラス分け!!!

さてさて、モテモテな高松はどうなるのかな?

 ◇◇ 四月二日 ◇◇


 今では、温暖化現象が原因なのか、桜は三月中旬で開花し、二、三週間前後楽しむことができるわけだが、俺が高校の時代は、卒業式ごろに桜が咲き始め、入学式ごろに桜が満開になるのが常であった。

 桜の季節は天気が不安定というのはこの時代も定説で、曇りと雨を繰り返していた。

 その天気の変化に耐えて花を開いていく桜の木に今年もご苦労さんと声をかけ、俺は自転車で学校に向かった。

 今年も近所の野良猫と遊ぶ神社の桜はきれいに咲き始めていた。


 うちの高校は今年で三年目を迎え、来年の三月、初めての卒業式を迎えることになる。

 お世話になった上郷地(かみごうち)先輩や小鳥遊(たかなし)先輩や林先輩も卒業してしまうのかと思うと残念だが、なんとか盛大に送ることができればと思っていた。

 ということは年を明けてからは卒業式前の謝恩会という新しいイベントも頭の片隅においておかなければならないと思った。

 そして、今年初めてうちの高校初の大学受験生も登場してくる。ずっと学年一位を継続していたという上郷地先輩の進路も気になるが、そのほかの三年生がどのようなレベルなのか聞いたことがない。

 まあ、何人かの先輩の進路は聞いていた。

 上郷地、小鳥遊、野球部の林、陸上部の上村、女子バレー部の永堀先輩方は大学に進学希望だ。

 サッカー部の先輩、軽音楽部のロック魂バカ先輩方は専門学校希望だった。

 昨年の夏から始まった補習授業には三年生の人たちも参加しており、彼らの健闘も祈っていた。

 せっかく今年の埼玉県公立高校競争率ベスト三に入り、なぜか注目されているうちの高校に先輩たちの進学がプラスアルファの味付けをしてもらえるとありがたいと思った。


 埼大通りを行き、埼玉大学を通り過ぎると、街路樹はケヤキから桜に変わる。今が最高潮と咲き競っている桜の並木を俺は自転車で飛ばしていく。

 植物には一般的だが日差しがよいところから花を咲かせ始める。

 この辺では住宅も平屋の一軒家が多く、日差しがよいため、ほかの場所より咲くのが早いようだ。

 しかし、このあたりから荒川の川風の影響もあり、通常、風が強くなってくるのだが、ありがたいことに今日はほとんど風はなく、暖かい日差しが桜の花々の間を通り抜けて少しピンクかかった色をしているように俺は感じた。


 俺は駐輪場に自転車を置き、校門そばの掲示板を見たが、まだクラス分けと担当教師名は貼りだされていなかった。

 この時間に来ていればすでに掲示板に貼られていて一番に情報ゲットと思っていたが思惑は外れた。

 掲示板に貼る役目の先生も社会人である。

 不必要な早朝出勤はしたくないのだろう。

 俺は残念がりながら、サッカー部の部室に入った。

 そこで着替えると、校門に行き、外周のランニングを始めた。

 さすがに春休み中、朝のランニングのためだけに、わざわざ往復一時間かけて高校にいくのは馬鹿らしいのでその間は休みにしていた。

 高校の外周は用水路をはさんで校庭側には八分咲きであろうか、桜が見ごろを迎えていた。

 ただし、まだ校舎ができて一年、校庭ができて二年(一年目は校舎はプレハブだった)であるため、桜の木も貧弱で、たぶん俺の子供が(結婚出来て子供が生まれたという仮定だが)通う頃になれば木と成長して、りっぱな花を咲かせるんだろうなぁと思った。


 校庭を見ると野球部、サッカー部、テニス部、陸上部が朝練をしているのがわかる。

 一年の時は各部に迷惑かけたなぁと思いながら走った。

 まぁ、あの一件がなければ俺は外周をランニングという習慣はつかなかった訳だし、あのことが原因で校内の雰囲気も新たな展開を迎えたと思っていた。


 外周も約四分の三回ると、総合棟のそばを通る。

 するとそこからはとても響く歌声が聞こえてきた。

 『ノッコ』こと山田信子が声の主であることはすぐに分かった。

 文化部活性化に導いた彼女の歌声は練習を重ねてさらに磨きがかかってきている様子だった。

 ノッコの兄貴はバンドの練習の時、畑中さんのお付きのような感じでたまに来ることがあった。

 しっかりと畑中さんから指導を受けがんばっている様子だった。


 しかし、外周を一周回るだけで、運動部も文化部も活気があるのがわかる。

 以前に比べ、朝練をやっている部活が多くなっているのだ。

 現状に少しでも自分が絡めたことに俺は嬉しさを感じていた。

 だが、俺には中学時代の辛い経験もある。

 だから引くべき時は引く、あとは残ったものに任せる、これが今の俺のやり方なんだと納得した。


 外周を二周すると校門そばの掲示板に渋谷先生が、張り紙をしていた。

 たぶんクラス分けだと思い、走るのをやめ、掲示板のそばに行った。

「おう、高松か。まだ外周は続けてるのか?」

「おはようございます。サッカー部の件の時、自分が思った以上に動けていないのが分かったので、いざという時のために継続しています」

「感心だな。引き続き夏村のこと頼むな」

「えっ? 何のことでしょう……」

 と俺が言うと渋谷先生は声楽出身らしい、滅茶苦茶響く声で笑いながら去っていった。

 『夏村を頼む』とは何を意味しているのだろうか?

 付き合っているのは先生も知っているはずであり、またやんちゃに戻すなよという意味かなと勝手に解釈した。


 さて、俺は何組かなと紙を見ると 二年一組で担任はまた渋谷先生。

 勉強仲間は? と探すと全員一組だった。

 やはり一組には成績上位者を集めているのではないかと思うと、無性に渋谷先生に確めたくなった。


 夏村さん…… 

 一組、同じクラスか。

 でもいざ一緒のクラスになると決まると彼女とどう接していいのかわからなくなる。

 ちなみに井上さんも同じクラスだ。

 知っている奴を探すと、生徒会書記長の河野くん、元ヤンキーでは文化祭で一緒に苦境を乗り切った、羽田さん、曽根さん、川尻さんが一緒だった。

 比率的には元ヤンキーよりも中間層が多かった。

 まあ、元ヤンキー、中間層なんて意識しなくてもういいんだよなと思いながら、しばし張り紙を眺めていた。

 

 俺はランニングを三周で止め、部室に戻り着替えた。

 初日からさすがに五周は飛ばしすぎかなと思ったからであった。

 なぜか俺のロッカーに『名誉部員 高松和也ひゅん』といたずら書きがされていた(『ひゅん』とは何を意味しているんだ?)が、部を辞めた今もこの場所を残してくれている奴らに俺は感謝した。


 俺は部室のカギを締め、部室棟を出て、教室に向かおうとした。

 すると、後ろからそっと俺に近づき、手で目隠しをされた。

「だ~れだ」

 声色(こわいろ)を変えているがすぐに見当がつく。

 というか勢いよく目隠しするから彼女の体が俺に当たり、柔らかなふたつのふくらみが背中に接触した。

 今は驚かなくなったが、最初は反応すべきところが反応してしまっていた。

 しかし、彼女は相変わらずボディコンタクトが多い。

「いのうえさん」

 俺が無機質に答えると、井上さんは、

「春休み中は会えない、クラスの内だけの彼女に向かってそれはないんじゃない…… さびしい」

と返答してきた。

 しかし彼女には残念な話をしてあげなくてはいけなかった。

「井上さん、実は先ほどクラス分けの発表がありまして、また井上さんと一緒のクラスになりました」

「やった、これでかずくん、やりたい放題だ!!」

 (こいつ、何考えているんだ?)

「あと、もうひとつは残念なお話があります」

「なになに?」

「夏村さんも同じクラスになりますので井上さんにかまっている暇はありません」

「えっ! 本当! 楽しみ!」

「えっ? なんで?」

「私、かずくんと夏村さんってどんな感じで普段接しているのか知りたかったから、楽しみなんですよ」

 完全にこちらの予想が外れてしまい、俺はとまどう。

「へぇ、そうなんだ! いいこと聞いた! じゃあ、またね!」

 そこに、ぽかんと取り残される俺……

 まぁ、教室に行こう。


 前にも述べたが、うちの高校の教室棟は一階が職員室を含む事務関係、二階が一年、三階が二年、四階が三年の教室になる。

 まだ、三年がいないころ、一、二年と三年はクラスの並びが逆であったが、今朝確認したところ、三年も一・二年と同じ並びに変更されていた。

 そうか、夏村さんに呼び出されたり、たけしの思いを聞いた三年一組の教室は今や三年八組と変わってしまったと思うとちょっと寂しかった。

 気分を落ち込ませながら階段を下りていき、三階に着き、二年一組の教室にやってくると、すでに俺が一年の時に毎朝やっていた窓開けがされていた。

 教室の前のドアから中を覗くと、一番後ろの列、向かって一番右の席に見慣れた女子生徒がいた。

 夏村さんだった。

 髪の毛、セミロングに切ったんだ。

 髪の色も黒に戻していた。

 それもかっこいい!


 俺は彼女を驚かせない程度に元気よく

「おはよう」

 と声をかけると、夏村さんは少し顔を赤らめながら

「おはよう」

 と返してきた。

 そして夏村さんは自分の座った席の左隣の机をたたきながら、

「ここはかずや用に取っておいた。今日からは俺が隣だ」

 と言った。

 俺は少し、からかい半分に、

「俺が隣で夏村さんは大丈夫?」

 と言うと、夏村さんはこう返した。

「俺のことを助けてくれるんだろう。近くにいた方が助けやすいと思って……」

 俺は、頭を搔きながら、

「へい、へい」

 と言い、席にカバンを置いた。

 よく考えてみると、俺と夏村さんは学校ではいつも向かい合って座っていた。

 早朝勉強会もそう、家での勉強会もそう、生徒会室での席もそうだった。

 いつでも彼女と話せるように向かい合って座っていた。

 しかし、二年からは違う。通知票の成績も学年三位である。

 俺と肩を並べて向き合っていくべきタイミングなのかもしれない。

「これから一年宜しくお願いいたします、夏村さん」

「違うだろ、一生宜しくお願いしますだよ。俺の思いはな」

「重いなぁ」

「お前、俺から逃げる気か! 俺を好きにさせた責任取ってもらうからな! 絶対逃がさないから!」

「大丈夫、俺も逃げないし、夏村さんに逃げてもらいたくないよ」

「しょうがねぇなぁ、そこまで俺にぞっこんなら、高校卒業とともに祝言な!」

「そういうことにしておきます」

 と俺は鼻の下を指で掻きながら言った。

 

 そして俺は夏村さんの家の仏壇のご両親の写真の裏に隠されていた写真を思い出し、こう思った。

「俺があいつになれるとは思ってはいないけど、なるべく近づいて、お前の分まで夏村さんを幸せにしてやるから、それまで待ってろ、バカヤロウ!」


 高校一年の時と同じような時間に勉強仲間も登校してきた。

「あっ! なっちゃんに取られちゃったから、私はかずくんの左隣!」

 と俺の両隣を学年二位と三位に囲まれてしまった。

「いいな、かずは大モテだな! じゃあ、俺はさくらちゃんにでも……」

「佐々木君、『さくらちゃんでも』って何よ! 『でも』って! 絶対隣になってあげない」

 とさくらちゃんに反発をくらう佐々木。

「じゃあ、佐々木。俺がいい子紹介するよ。一年の時、同じクラスだった、羽田さん、あの子いい子だぞ、ちっちゃくてかわいいし根性あるからなぁ」

「かなでなら俺が紹介してやる。お墨付きだ」

 と夏村さんも俺の冗談に乗ってきた。

「俺は、かずみたいに勇気がないので…… 辞退します」

 と佐々木が言うと、夏村さんは、

「てめぇ、かなでのどこが気に入らねえんだ? てめえよりやるときはやるぞ!」

 とちょっと笑いながら言ったが、佐々木は完全にびびってしまい、

「自分、ヘタレなので無理(です~)」

 と声を落とした。

「まあ、どこにするかはじゃんけんで決めるか!」

 と坂本が言ったのとほぼ同時に、廊下の遠くからダッ、ダッ、ダッ! と走ってくる音が聞こえた。

「やべ~、夏村さんと小倉さんに席取られた! じゃあ、私、かずくんの前、取~り!」

 やってきたのは井上さんだった。

 そこで勝ち誇った夏村さんの笑顔はとても晴れ晴れとしていた。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/09 校正、一部改稿

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