4ー10話 多江の決心と俺の反省
【読者さまのコメント】
高松は一人、どうして多江ちゃんが告白してきたのかを考える。
初めは、多江ちゃんのことが気になっていた。
でも、夏村さんとのお付き合いが全部変えてしまった。
何か見落としているのではないか?
悩んでいると、井上さんから連絡がきて……。
小倉多江……
あんな告白をしてくるとは思わなかった。
両親が医師であり、そのうえ一人っ子である彼女にはその家を継ぐ使命がある。
高校受験に失敗し、浦和大凰高校に入学した。
その失敗で両親からの信頼を失い、入学式も一人での参加であった。
そしてひたすら勉強だけの高校生活を過ごしていた。
そうなってくると、クラスからも孤立し、声をかける人もいなくなっていく。
ボッチはボッチなりにアンテナを張っているものだ。
どこの世の中でも、個々の武力の差を考慮しなければ、数が多い方が勝つのだ。
当時、俺は高校では勉強に集中して大学に入りたいという願望があったため、勉強に明け暮れていた。
そんな時、アンテナにシグナルを感じたのは多江ちゃんからのものであった。
俺は、こんな高校だし、勉強頑張って大学行ければ、高校生活は楽しまなくてもいいや、ぐらいに思っていたが、流石にボッチで行動すると、多勢に無勢、分が悪くなってしまうと思い、仲間を作った。
これが勉強仲間だ。
必然的に、南浦和の進学塾に通っているメンバーを集めただけだが、やはりボッチに比べると心強かった。
すでに坂本や佐々木たちとは交流があったのだが、多江ちゃんも同じ進学塾にも通っていたのを知っていたので、俺は仲間に入らないかと声をかけてみた。
当初、進学校出身のプライドか、俺のことを避けていたが、住んでいる場所が近所であったこと、医者であるご両親にうちの家族は今も診てもらっていること、同じ理系志望という共通した話題が多々あったため、次第に俺に打ち解けていった。
そして彼女は勉強仲間の一員となった。
最初に声をかけたせいか、多江ちゃんは、不安な時は俺を頼ってくれていた。
やはり進学校出身ということで夏村さん以外のヤンキーには慣れておらず(このころ夏村さんはバキバキのヤンキーではあったが、同じ中学の一年から三年までの同級生ということで、他のヤンキーほどは怖がってはいなかったようだ)怖がっていたが、クラスのヤンキー、特に当時クラスの女子で一位のヤンキー笹川春陽などが茶々を入れようとしたときは、俺に奴の目が行くように行動し、可能な限り彼女を守っていた。
彼女が頼ってくれることは当然悪い気持ちではなく、進学塾帰りのバーガークィーンでの暇つぶしや休憩時間に彼女から質問されることから彼女からの信頼度も高かったことは自覚していた。
そんな関係の中で俺が多江ちゃんにとって一番頼ることのできる人になっていたのかもしれない。
ただ、少しずつ聞かされた多江ちゃんの置かれた立場に俺は入りきることができず、また介入する勇気もなく、ぐずぐずしていた。
俺は自分から他者の置かれている立場に入ることを避けていたのだ。
それは中学時代の失敗を引きずっていることもあり、相手への介入を避けていたのだ。
一方、この高校に入って恋心を抱いたのは多江ちゃんに対してが最初であったと思う。
しかし、俺の目の前に夏村さんという彼女が現れた。
このことは多江ちゃんにとって、自分は俺にとって二番という順位に落ちてしまうことを意味する。
その上、俺は、多江ちゃんの時は躊躇した相手への介入を、夏村さんと出会ってから逆に積極的に介入することを選んでしまった。
サッカー部然り、軽音楽部然り、生徒会然り……
そう、自分との付き合いでは俺を変えられなかったものを、夏村さんは簡単に変えさせてしまったと感じるだろう。
さらに、自分たちと一緒に勉強に使っていた時間を、夏村さんに勉強を教えている時間に変えたにも関わらず、俺が自分よりも上の成績を維持していることに、いつしか不満・不安を感じ始めていたのだと思う。
そして、八月の全国模試で俺が志望校に医学部を書いたことで、彼女の心に火がついた。
その思いはいつか俺に成績で勝てば、自分の方を俺が向いてくれるのではないかという形に変質していった。
また、夏村さんのように俺に対して接近を試みようとしたが、俺の自宅訪問というアプローチは妹の晏菜に拒絶された。
多分、妨害されたことからの焦りもあったのだと思う。
八月の全国模試以降、成績を心配し、さらに勉強を集中していた様子は彼女の行動から感じ取れていた。
そして、十一月の全国模試、十二月の期末試験の成績で俺を抜いた。
その時点で、多江ちゃんからすれば、俺の成績が多江ちゃんに負けた理由として、夏村さんが俺の足を引っ張ったという理由に転嫁できるはずと考えたのだろう。
しかし、事態は多江ちゃんの思うように動かなかった。
俺と夏村さんは生徒会室に入り浸るようになり、坂本の家での勉強会には完全に出なくなった。
また、進学塾も度々休むことも増え、帰宅も夏村さんと一緒に帰っている。
これでは前に進まないと考えた多江ちゃんはバレンタインデーの行動に出たのではないかと俺は思っていた。
しかし、多江ちゃんがこのような行動に出ると言うことは、他の勉強仲間も同様に少なからず俺に対して不平不満は持っているのではないかと思った。
これって、俺が希望していた勉強仲間との関係を維持するという目標から自分で離れて行っていると思った。
多江ちゃんからのバレンタインのチョコが意外な方向に俺の不安を掻き立てた。
ベッドで横になりながら今日までの多江ちゃんや勉強仲間との関係を思い起こしていたところ、スマホに連絡が入り、画面を見ると、ラインに井上さんからの書き込みが来ていた。
『今日は夏村さんとアツアツのお帰りだったかな?』
いらぬお世話だ。そのまま無視して流そうとしていたところ、追加で書き込みがあった。
『そういえば、小倉多江から何かアクションあった?』
なんでこいつ、今日有ったことを知っているように書けるんだ? と思った。
話には乗らない方がいいかなとも思ったが、いずれにしても気になるし、無視するわけにはいかなかったので、
『帰りに夏村さんのいる前で告られた』
と書いて送ってしまった。
やばい、こんなプライベートなこと書いて良かったかなと思っていたところ、
『やはりね……』
と井上さんからの返信が来た。俺は、
『なんで?』
と反射的に送ってしまったが、井上さんは、
『いや、最近、彼女、何かかずくんに言いたそうだったんだよね。だから私、先手うってみんなの目の前であんな風にかずくんにチョコをあげて煽ってみたんだけど、それにのってきたわけね』
と書いてきた。本当に井上さんは周辺の変化を勘付くのは鋭い。
だから、井上さんはわざわざ教室で、あのようにかえって目立つチョコの渡し方をして、私も好きだよアピールをしたのだろう(耳元では俺が彼氏は嫌だといわれたけどね)。
そこでプレッシャーを感じた多江ちゃんが行動を起こしたという流れだと整理はできた。
『ところで、かずくん。告られたわけだけど、かずくんがやるべきことは何?』
『何かないがしろにしていること、ない?』
………
しばし、返答に迷う俺。
しかし、『ないがしろ』という言葉に誘導され、さっきまで考えていたことを思い出し、ラインに返信した。
『夏村さんとの関係を変わりなく続け、以前のように多江ちゃんを含め勉強仲間と付き合うこと』
『正解。最近、勉強仲間との関係が粗になっていたから、小倉さんもかずくんとの関係が遠ざかっちゃった感じがして、そして追い込まれちゃったんだと思うよ。中間層との関係もいいんだけど、もと居たグループを軽く考えちゃだめだよ』
確かにそうだなと思った。
勉強会も出なくなり、一学期は皆勤だった進学塾も生徒会のことで休むことも多くなった。
でも、彼らは理解してくれていると俺は勝手に思っていたのかもしれなかった。
俺は一つのことに熱中すると他のことを疎かにしてしまうところがあり、中学時代にはそれが原因でトラブった。
今回も井上さんというバックアップをしてくれる人がいなかったら同じことを繰り返してしまうところだった。
たまにはゆっくり自分の時間を作って、自分を顧みることが必要だと思った。
『ありがとう、いろいろ教えてくれて助かった』
『別にいいよ。その代わり、またクンクンさせてね』
と井上さんは返してきた。
…………
夏村さんとお休みの電話をし、スマホを枕元に置いて部屋の電気を消そうとした瞬間、再びラインに書き込みが来た。
見るとまた、井上さんだった。
『かずくんが彼氏になるのは嫌って言ったけど、もっと余裕をもって、他人の助けのいらない人になったら付き合ってあげてもいいよ!♡、いわゆる大人の男になったらかな?』
書いてある内容にちょっとびっくりしたが、いつもの冗談だろうと思い、
『はいはい、ありがとう!』
と返信したところ、すぐに返信が来た。
『多分、今日の夢の中にお邪魔します!』
◇◇ 二月十五日 ◇◇
真冬なのに変な汗をかいていたことに気づいた、寝起きの俺。
(本当に井上さんが俺の夢に出てきた……)
『正夢になったんだから、勉強仲間との仲をどうにかしなくちゃいけないな!』
と思い、ラジオのスイッチを入れ、基礎英語Ⅰを聞いた。
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編集記録
2022/10/07 タイトル変更、校正、一部改稿




