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4-6話 大鳳の歌姫(1)

【読者さまのコメント】

高松の冬休みはあっという間に終わってしまった。

だって、挨拶回りがあったんだもの!!!

こればっかりは仕方がない!(笑)

三学期がスタートして、学校の雰囲気が一学期に比べて断然良くなっている。

これも高松あってこそ!

そんな彼に次のミッションが!

 ◇◇ 一月八日 ◇◇


 今年の冬休みは普段よりも長かった……

 去年までと同じように一月七日まで休みってやることない…… と思ったら大間違いだった。


 今年の正月は、濃厚すぎて始業式の今日の学校に向かう足はしんどかった。

 元日は高松家、二日に夏村さんの祖父母の家、三日に母の実家に夏村さんを連れて行き、四日に夏村さんのお母さんの実家に挨拶と緊張続きだった。

 でも、結局のところ、夏村さんのご両親の実家から交際を認めてもらうことができた。

 こんなに二人の交際で安心できたタイミングはなかった。

 では、いよいよ二人の時間を…… と思っていたら、五日には妹の晏菜が『沙羅ちゃんとデート!』と言って、夏村さんを奪ってしまった。

 そして、六日は今年初のバンドの練習日ということで潰れてしまい、結局夏村さんと一日ゆっくり過ごせたのは、休みの最終日七日になってからだった。


 北浦和駅から西に向かう『埼大通り』を自転車で走ると旧与野市大戸あたりからロヂャース浦和店までは急な下り坂になる。

 すると真正面には白い頂きの富士山が見え、あたかも富士山に向かって突っ走っていくような感覚になる。

 高速で急坂を富士山に向かって走っていくのは心地よい。

 横を走る車は新大宮バイパスから、東京方面に向かう車が多いため渋滞であまり動かない。

 その車の列を追い抜いていく優越感が気持ちよかった。

 とはいえ季節は冬である……

 『埼大通り』は埼玉大学を抜けると進行方向が北に変わる。

 ここから高校までは向かい風となり地獄の苦しみになる。

 今日のように気持ちの乗りが悪いと、その風は何倍にも感じる。


 さて、俺は学校に着くと、サッカー部の部室に行き、短パンとTシャツに着替え、校門に向かった。

 サッカー部の件が終わってからも、やはり体の鈍り(なまり)を感じていたので夏村さんとの勉強会前に外周を五周ランニングすることを継続しており、それが日課になっていた。

 適当な骨への刺激は骨を強くすると聞く。

 やはり若いうちは体をいじめておかないとねと思いながら、朝練に来た運動部のメンバーと一緒に外周を回らせてもらうのも楽しかった。

 実は俺は長距離走が嫌じゃない。

 そりゃ、中学時代サッカーで前後半走りまくってたんだから、走ろうと思えば走れるのだ。

 ただ、体育祭の時は本当に目立ちたくなかったので最下位になった、というか最下位を狙った。

 最下位だと、白熱したトラック競技中にノソッと帰ってくるので目立たないのである。

 中学の時みたいに『校内マラソン大会』とか有ったら、夏村さんをビビらせることぐらいの結果はだせると思いながら走っていた。

 五キロメートルではあるが一キロメートル四分台で走れる自信はあるし、実際それに近いペースで毎日走っていた。


 ランニングを終えると、着替えて、夏村さんとの勉強会を頑張った。

 それも終わり、教室の整理などをしていると、二学期の始業式の日、ヤンキーが全員、制服で着て登校し、学校中が騒然としたことを思い出し、懐かしんだ。

 考えてみれば、ほんの三、四ヶ月前のことである。

 本当にあの時をきっかけに学校の雰囲気は激変したと思った。

 あの時の先生方のあたふたした姿・対応を思い出し、笑ってしまった。


 しかし、今日、三学期の始業式の日はそのような変化はなく、ちょっと寂しいなぁと思いながら体育館に向かった。

 逆に変化がない方が、問題もなく平穏だと言う意味だろうと一人納得していた。

 始業式の会場である体育館に、てんでんばらばらと集合し、俺のクラスはこの辺かとあたりを付けて立っていると、不思議なくらい、多くの人が俺に声をかけてきた。

 元ヤンキーならわかる。

 だが、今回は体育会系部員が多い。

 男子だったらわかるよ、なんで女子も来るの?


 サッカー部再復活の一件は、やはりかなりの体育会系部員の評判に繋がったみたいだ。

 それとだいぶ目立つように動いてきたことも理由の一つであろう。

 サッカー部のみんなはもちろん、野球部の林先輩や陸上部の上村先輩もわざわざ挨拶にきてくれた。

 最後には恒例、女子バレー部員ご一行様が俺を完全にからかいにやってきて、体を叩きまくりながら挨拶してきた。

「高松君、いつデートいく?」

「まってるよ~」

「ディズニーシー!」

 周りは何が始まったのかという疑念のまなざしがいくつも俺のか弱いハートを貫いて行くため、痛すぎる……

 俺が隣のクラスを見ると案の定、夏村さんの視線が怖い。

 思わず両手を合わせて『ごめんなさい』をしながら、夏村さんに謝った。

 その時、俺は夏村さんが口を動かすのを見た。

 俺は読唇術を会得はしていないが、明らかに夏村さんが何を言いたいのかが分かった。


 『う・そ・だ・よ・~! ば・~・か!』


 そう、言うとクスっと笑っていた。

 夏村さん、可愛過ぎます……


「こら、かずくん! 夏村さん見てデレデレしているなよ。俺たちと話してるんだろう?」

 井上さん、ここでその突っ込みは要りません。

「うちらとディズニーシー行くのは夏村さんから了解もらってんだから、冬の大会終わったら行くんだからね。ヨロシク!」

 そういえば井上さんとの約束はこれだったよなと思い出す。

 学園祭の時の約束。

 もう二ヶ月経ってるから時効かと思ったが甘かった。

 クリスマス・イブのデートの時もお世話になったし、必ず約束は守りますよと心の中で十字を切り、誓った。


 といった感じで、俺にとっては今学期も騒がしく始まった。

 でも、やっぱりいいね。

 教室で元ヤンキー、中間層が仲良く話しているなんて。

 入学のときは考えられなかった。

 でも、この急激な変化に対応できない奴って必ずいる。

 そいつらを何とかするのが、生徒会のアンダー組織に所属する私の役目である、とかっこよく言ってみたが、なんか、スパイみたいで嫌だ。

 俺的には絡め技ではなく、正面切って仲良くしたいのだ。

 そしてなるべく少数の方々と……

 それが、ボッチらしい生き方だ。


 改めて考えてみると、サッカー部の一件の時はわざわざ目立つ作戦を練ったが、ここまで交友関係が広くなるとは想像もつかなかった。

 ここまで来るとボッチも解消しないといけないのかなと思った。

 中学時代も仲間は多かったが、例の一件後、ボッチになった。

 ようはボッチになる前に戻れと言うことだろう。

 しかも、上郷地(かみごうち)先輩の指示は中間層との交友関係を広めること、そこから得られる情報のチェックだったしね。

 このくらいの交流では、まだ甘いということですか……

 と、鼻の下と上唇の間に人差し指を挟んでボケーとしていると、俺のことを嗅いでいる女子が……

 い・の・う・え・さ・ん!

「かずくん! 継続してジョギングしてるから、朝のフェロモンは格別ですなぁ〜! 朝からエネルギー注入!」

 いい加減その性癖はやめなさいって!

 と思い、周辺を見回すと、多江ちゃん、さくらちゃんと目が合う。

 お願い! 夏村さんには言わないでね。


 その時、井上さんに年末のお礼を言わなくてはいけないことを思い出した。

「年末のバイト、ありがとう。両親も喜んでたよ」

「いえいえ、良いって! 私がいれば百人力でしょ! 大船に乗った気で今年の年末も呼んでね!」

 前述のごとく、年末に自宅の花屋での正月飾りを売るバイトで井上さんに助けてもらったのだ。

「井上さんは人当たりがいいので、客商売には向くねって両親も言ってたよ」

「しょうがないなぁ、夏村さん諦めて私と結婚しちゃう? 冗談! 冗談! かずくんが彼氏って考えられないし。でも、年末は予定空けておくよ!」

 昨年末のお飾りの売上に確かに貢献してくれたので、断る理由がない。

 そのことは夏村さんにも言えるけどね。

 まあ、宜しく頼むよと言うと、井上さんはVサインをして快諾してくれた。

 しかし、毎回なんで『俺を彼氏としては考えられない』って言うんだろう?

 どうでもいいことではあるが少し凹む。

 でも、俺には夏村さんがいますのでとすぐに復活するのです。

 なにせ、夏村さんのご両親にもご了解をいただいたんだものね(実家だけど)。


 井上さんは話題を変えて話してきた。

「そう言えばさあ、学園祭の時にかずくんの演奏も良かったけど、一年六組の山田さんっていう子の歌声が学園祭の合唱のとき、凄くうまいくって、今、一部の子から人気になってるんだ。かずくんもボーカルだから、知ってるかなぁと思って」

「いや、午後からの演奏の準備で忙しくて全く聞けてなかったけど、山田何さん?」

「確か、信子さん。山田信子(やまだのぶこ)さんだよ」

 ほう~、そう言われると、ボーカル魂に火がつく。

 確か文化祭実行委員会が録画していたよなと思い、授業が終わったら生徒会室で見せてもらおうと思った。

 塾は明後日から三学期分は開講だったので、ここはラッキー! 今日中に見ておこう。

「ありがとう、確認してみるわ」

「プロのご意見が聞きたい、ヨロシク!」


 六時限の授業が終わり、生徒会室に行こうと部屋を出ると、隣のクラスの後のドアの廊下を挟んで反対側に夏村さんが待っていた。

「三学期、始まって最初だから一緒に行こう」

 うんうん、喜んで!

 何でこんなにキュンとしちゃうこと簡単に夏村さんはしてくるのだろう。

 とデレデレ感を抑えながら、俺は夏村さんの後ろを歩いて行く。

「隣、歩きなよ。もうみんな知ってるんだから」

「い・い・の・で・す・か?」

「また、後ろ追いかけてると『夏村の腰ぎんちゃく』って言われるよ」

 まだ、そのこと覚えているのですね。

 サッカー部問題の時、自己練と称し、早朝ランニングをしていた時、因縁をつけてきた旧サッカー部員の先輩に言われた言葉だ。

 じゃあ、今日からは胸を張って夏村さんの横を歩きますね。


 生徒会室の前に到着。

 夏村さんが先に入れと俺を(さと)した、了解です……

「失礼します。高松、夏村入ります!」

 中には役員メンバー全員そろっていた。

「今年も宜しく!」

 とお互い挨拶をする。


「では、会長。新年のお言葉を!」

 と冗談気(じゅだんげ)小鳥遊(たかなし)副会長が声を上げた。

「じゃあ、ご挨拶まで。新年おめでとうございます。昨年末に組織として確立でき、このチームとしての正式な活動としては初めての年となります。つきましては各生徒からの認知度も増やし、確実な実績を積んでいきたいと思いますので宜しくお願いいたします。以上です」

 各自、拍手をし、これで終わりかと俺は思っていた。


 その時、小鳥遊副会長はこう言い出した。

「新年早々申し訳ないんだが、高松くんにお願いがあるんだ。学園祭の時、サッカー部のトラブルで学園祭に参加できなかったバンドの残党が集まって、『軽音楽部』の設立の申請を出してきた。旧サッカー部の息のかかったメンバーなので、問題のある部員もいるかもしれない。ついては、今度は『軽音楽部』に高松くんに入ってもらい、活動状況の確認と、問題行動の事前把握をお願いしたいんだ」

「『軽音楽部』ですか……?」

 一番嫌な部への参加だと俺は思った。

 やはり自分の専門分野である部というのは苦痛であるからだ。

 確実に自分より知識がない……

 確実に俺より演奏ができない……

 となると、理論や演奏の方法を教えてくれというのが頭に自然と浮かんでしまう。

 それって新人がやることかと思うが、うまい人が教えるのは自然の流れであろう。

 でも、今回は旧サッカー部員の関係者ということから、そこまで真面目にがんばろうという雰囲気ではないかもしれない。


 また、サッカー部の時と同じやり方では、相手にも、必ずサッカー部の時と同じ趣旨での入部だろうとバレてしまう。

 ここは搦め手(からめて)でいこう。

「了解しました。でも今回はちょっと搦め手でいきたいと思いますので、参加まで時間をください。それと、参加希望部員名の一覧をいただけますか?」

 というと、書記長の河野から、

「もう作ってあるので持っていけ」

 と一覧表を渡された。さすが河野君、仕事早いっす!


 ざっと見ると全員で十五名、一年六名、二年九名だった。二年が多いな……

「じゃあ、早速活動開始します。状況報告は夏村さんを通じて行いますのでよろしくです」

「了解。いつも貧乏くじですまんな。宜しく頼むよ!」

 上郷地先輩は一礼しながらこう言った。


 まず、最初に行くべきところ……

 そこは二年生で一番頼れる林先輩のところだ。

 早速、練習場に行き、林先輩に声を掛けると、明日の昼休みに来て欲しいということになった。



 ◇◇ 一月九日 ◇◇


 昼休みに林先輩の教室に行ってみると、そこには一緒に上村先輩もいた。

 同じ中学出身とはいえ、どんだけこの二人、仲がいいんだ。

 怪しい……

 それはいいとして、丁度いい。


 昼休みということで廊下も騒がしく、密談はここでサラっとやってしまった方が情報漏洩の恐れがないと思った俺は、河野が作ってくれたリストを見せながら二人にこう言った。

「今度、文化部で『軽音楽部』というのが申請されてきたんですが、実は今回のメンバーがここに書かれた方々で、もしお二人とご面識ある方がいれば、どんな方かお教えいただきたいのですが」

「いいよ。別に君の役に立つなら」

 とお二人とも快諾してくださった。

「ちょっとみせてもらうね。 う~ん、知っている奴何人かいるけど、まずこいつは、とてもまじめで音楽好きだな」

「どれどれ、こいつ、旧サッカー部の奴に脅されてバンドやるとか言っていた奴だよ」

 といった感じで、意外とメンバーの半数以上の方々の情報を入手することができた。


「そうなんですね。ではご存知の方々にある情報をそれとなく伝えてほしいのですが……」

「情報って?」

「…………」

「なるほど、サッカー部とは違う方法でやろうっていうんだな。おもしろい! 俺は乗った!」

「もちろん、俺もだ!」

「ありがとうございます! では、宜しくお願いします」

 と二人に一礼し、別れた。


 サイは振られた。

 後は結果待ちだ。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/03 校正、一部改稿

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