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4-5話 沙羅と夏村家(2)

【読者さまのコメント】

高松は一人ずつ声をかけ、次第に場の空気を柔らかくする。

さすが高松! カッコいい!

すると、まさかの質問をされた!

こ、こんな難しいこと、いきなり聞かれても(大汗)

でも、そこは高松、パーフェクト!!!

夏村さんがメロメロになるのも頷ける!!!

 俺は、次男の欣二さん家族に近づき、『どうも、高松と申します』から始め、会社のこと、息子さんの学校のこと、最近の社会情勢と聞いていく。

 一方、夏村さんは息子さんたちに昔話を始めたり、今の状況を聞いたりしている。

 次に、俺は三男の昭光さん家族、四男の勇志さん家族と会話していく。

 はじめは、なんだこいつは? と言った表情で話始めるが、次第に笑顔になって打ち解けていく。

 すると俺は周辺の変化に気づいた。

 兄弟同士でグラス片手に話出したのだ。

 その光景を見たとき夏村さんはこう思った。


 (そうなんだよ、かずやには場を和ませるという力があるんだ)


 『さすがだな、和也』

 そう思った夏村さんも今度は一人で一族の人たちと話出す。

 昭光さんの娘さんとは昔は仲が良かったのだが、夏村さんのヤンキー化で疎遠となってしまった。

 しかし、今はまた楽しそうに話初めていた。


 その時、五郎たちはあることに気が付いた。

 一族の孫たちが自発的に他の叔父に話に行っていないことに気づいたのだった。

 話は和也と沙羅の周辺で行われていく。

 最終的には、和也は夏村さんの父の兄弟全員を集め、議論したりしている。

「和也くんと沙羅を参加させたのは成功だったな」

「そうですね。でも、沙羅があんな子になるとは思いませんでしたよ」

 祖父母の顔は笑顔にゆがんだ。


 そして一時間の歓談の後、五郎さんはこう言った。

「さて、この辺で歓談は終了としよう。実は今日余興を考えてきたんだ」

 五郎さんは場を鎮め、こう言った。

 そして、孫全員に新日本化学グループ三社の『有価証券報告書総覧』と書かれた緑の冊子を手渡した。

 五郎さんは、そしてこういった。

「さて、君たちにはこれから新日本化学グループの将来を(にな)ってもらいたいのだが、この書類をざっと見ての感想を述べてくれないかな」


 初めて目を通す冊子に意味が分からず、ざっと目を通す孫たち。

 意見を求められると、各孫からは業績が右肩上がりだとか、報告書に書かれている図表で語れる程度の感想の話が出た。

 それをうなづきながら聞いていた五郎さんは俺の方を向いて、こう言った。

「さて、わがグループとは関係のない進学校出身でもない和也君はこれを読んでどう思うかね」

 え! なんで俺に振るの?

 こんなの見るの初めてだよと、夏村さんから手渡された報告書を見た。


 商工会の方々の勉強会で話には出てきたことがある『有価証券報告書総覧』。

 目次に目を通すと、へぇ、こんな本に会社の収支とか資本先とか製品別売り上げとかが書いてあるんだなと関心が湧いた。

「ちょっとお時間頂戴していいですか?」

 と俺が言うと、夏村さんは、

「かずや、書いてある中身、わかるのか?」

 と聞いてきたので、俺は

「商工会の勉強会で話には聞いていたんだけど、本物見るのは初めてなんだ! へぇ~こんな情報まで載っているんだ…… 会社の貸借対照表とか作ったり見るの大好きなんでね」

 と話し、しばし沈黙。

 そして、俺は五郎さんに向かい、こう言った。

「感想というか、こんなことを各社の社長さんのいる前で言って怒られないかなぁって心配なんですけどいいですか?」

 といい、五郎さんを見ると、うんとうなづくので、了解と判断。

 じゃあ、行きますか!

「まず、新日本化学は昨年実施した増資のために一株当たりの経常利益が今スマホで調べましたが、業界一位の東芝化学の三分の一というのは、株主としては「自己資本当期利益率」が低いので、株主がその状況を嫌い、株価が嫌な方向に動く可能性が考えられます。早急に売上総利益を上げるか、営業外利益をどこかに求めて改善させるのが先決だと思います」

 欣二さんの顔つきがこわばる。

 確かに市場株価平均の推移に反して会社の株価の低下が続いていたのだ。

「次に、新日本製薬は製薬メーカーの中では自己資本率が低いのが気になります。業界平均が二十%なのに七%って、これじゃあ商社ですよ。ずばり薄利多売している状態です。それに海外からの導入薬が多いのも理由の一つだと思います。早急に自社開発の医薬品の発売が先決です。だけど、研究開発費率も低いんですね。逆に新日本化学ではなくて新日本製薬が増資して、その増資額を新薬開発に使用し、そして最終的に自社開発品比率を上げ、自己資本率の向上につなげたらいいんじゃないかなと思います」

 昭光さんは下唇を噛んでいた。

 確かにここ数年自社新薬は出ていなかったからだ。

「最後に、新日本重化学工業は売上高は業界二位ですが、営業費用が高すぎます。また流動比率が低くて危険です。多分買掛での費用がとても大きいのでトータル的には営業力が問題だと思います」

 すると五郎さんはこう尋ねた。

「それでは君は以上の問題を解決する糸口は何と思うかい?」

 ほう、そういう質問がしたかったのねと思った俺は最善の解答を答えた。

「三社統合のホールディング化です。三社は各社で短所長所をもっていますが、ざっと見ただけですが、経営統合しちゃえば、ほぼ均等になって、他社に対抗は十分可能と思います。三社での資本規模、すごい金額になりますからねぇ。それとホールディングスなら三社はそのまま永続できます。管理はホールディングスで一括統治してもらう。そして各社は自分の業績アップに注力してもらうっていうのはどうですか?」

「これについて欣二はどう思う?」

 欣二さんに五郎さんは聞いた。

「それだと分社化した意味が……」

 本音がでましたねと思った俺はこう言った。

「そもそも三人で会社が一社ずつ欲しかったんですよね。それだったら三社は残して、ホールディングで一括管理が理想では?」

 四男の勇志さんはこう言った。

「ホールディングの代表はどうするんだ?」

「第三者ですよ。家族でホールディング作っても意味がない、徹底した管理システムが必要です。って言い過ぎましたか?」

 俺がこう言うと、五郎さんは間髪入れずにこういった。

「いやぁ、和也くんはおもしろいなぁ。いろいろなところに気が回る。多分、三社をまとめてしまうのが一番なんだろうが、三社分社が前提であればホールディングか…… 考えも及ぼなかったよ(笑)」

「三住化学さんとか東芝化学さんとかっていう旧財閥系ってホールディングス化しないでグループでまとめているのが多いんですが、商工会での勉強会でかなり効率の悪いキャッシュフローをしていたので、ここではあえてホールディングス化を提案してみました」

「よくそんな情報を知っているね?」

「テレビ東京の朝のモーニングサテライトと夜十時からのWBSって番組の受け売りなんですけどね(笑)」

 五郎さんは俺の回答に笑いながら(うなづ)き、こう言った。

「ということだ、孫たちには勉強だけではなく、会社の経営という力も養ってもらえるようにしないと、次の社長は別の家からでるかもしれないぞ! お前たち」

「……」


 無事、新年会はお開きになり、夏村さんの一族の方々はお別れにいろいろと声をかけてくれた。

 社長ご一族様とは携帯電話の交換もし、お子さんたちとはラインの交換もした。

 時間ができたら俺に決算書や「有価証券報告書総覧」の読み方を教えてほしいとのことだった。

 俺より頭のいい学校なんだから自分で勉強しろよって思ったが、これで夏村さんとの関係も好転していければと思い合意した。


 俺と夏村さんは送りの車に乗った。

「今日は大変お世話になりました」

「また、沙羅と二人で遊びに来てくれたまえ」

「はい、よろこんで。でも大丈夫です。多分息子さんたちが、以前と違って遊びに来てくれると思いますよ」

「本当に、君は『場を和ませる』のがうまいなぁ」

「多分、俺の周辺環境が俺を育ててくれたんだと思いますよ。ところで、決算書関係のことを私が好きなこと両親から、もしかして聞きました?」

「いや、ご両親が商人として一人前になるよう育てましたとおっしゃっていたのでね」

「でも、多分私は家を継ぎません。両親が大変なのを知っているので、もっと安定した職業に就きたいんです」

「じゃあ、十年後くらいにうちのホールディングスのCEOでもやってくれるかな?」

「喜んで! それまでにCEOになっても恥じないような勉強、経験を積んできます。まぁ冗談ですけどね」

「冗談じゃないと言ったら……」

 俺はしばし考えた。

「俺は沙羅さんを夏村家一族の中に戻したくはないのです。ある程度距離を置いた方がいいと思うんです」

 五郎さんは笑いながらこう言った。

「ほほう、もう沙羅を嫁さんにしての話なんだね」

 よく考えると、夏村さんと結婚していることを前提で話していたことに気づき、俺は赤面した。

「まぁいい、でも君たちの後ろには私達二人もついているということは忘れないでほしいな」

「わかりました。またいつでも呼び出してください」


 一方、夏村さんと康子さん。

「今日は沙羅も和也君を見よう見まねで頑張っていたね」

「やはり、和也はすごいと思うよ。毎日が参考になる」

「そう、今は幸せ?」

「すごく、幸せ」

「わかった。じゃあその気持ちを忘れないように」

「はい。今日は呼んでくれてありがとうございました。従妹たちとも仲良くなれたしね。よかった」

「最後にこれ、和也君に渡して! お祖父ちゃんとお祖母ちゃんからのお年玉って言っておいて」

「ありがとう…… でも私のは?」

「和也君にこれを渡してくれればわかるわ」


「和也君、沙羅のこと、頼みましたよ」

「わかりました」

 車のドアを閉め、二人は五郎さん康子さんに手を振った。


「お祖母さんは俺たちがこういう結果に導き出すことをわかっていたのかな?」

「だから、新年会を開いたんじゃないのかなぁ? それとかずやは父の兄弟の関係も改善してくれた」

「しかし、『有価証券報告書総覧』興味あるならもっていきなさいって、貰っちゃたけどいいのかなぁ? 定価4千円って書いてあるよ?」

「それで勉強して、和也がホールディングのCEOになればいいんじゃないの?」

「でも、夏村家にもどるの嫌でしょ」

「いや~、でもCEOの嫁か、片手うちわだな」

「ないない、あと何年後俺どうなっているかわからないしね(笑)」


「ところで、これ、お祖母ちゃんが、和也君へのお年玉だって言われて預かってきちゃったけど?」

「なんだろうね?」

 といい、袋を開けてみると銀行の袋に包まれた厚みがあるものと手紙が入っていた。

 その手紙を開けて二人で読んだ。

『和也君

 今日は来てくれてありがとう。

 君の性格は分かっていたので申し訳なかったが参加してもらいました。

 本当にありがとう。』

「やっぱ、会長ご夫妻だね。見抜かれてたよ」

 と二人で笑った。

『急な沙羅のトラブルの時にお金が必要になると思いますので、二人にお年玉の代わりにお預けします。

 必要な時に使ってください。

 そんな時が来なければデート代にしてもらっても結構です。

 余ったら、お金返してもらっても結構です。

 多めに返してもらっても結構ですよ。


  五郎、康子』

「夏村さん、ごめん。銀行の紙袋。開けて!」

 俺はちょっと大きめな声で夏村さんに指示した。

「デート代にしていいか。どんだけ入っているんだろう?」

 夏村さんが中に入った別の袋を開けると帯にまかれた一万円札が入っていた。夏村さんは、

「おい、こんだけあったらデートいくらでもできるぞ!」

 と喜んだが、俺の気持ちは正反対だった。

 一万円の帯、百万円である。

「やられた! お祖父ちゃんたちにハメられたよ」

「どういうこと?」

「この金は、使ってもいいけど、『多めに返してもらっても結構』…… 要はこの金をお祖父さんたちにどれだけ増やして返せるかなという俺たちに対する挑戦状だよ!」

「そういうことか、深読みしないと、全部使っちゃうところだったな」

「よし、そうなったら、商工会のいつも講師をやっている西井先生と話して増やし方を教えてもらおう! そして増やした分のうちの少しを崩してデートに使ったとしても、増やしてお祖父さんに返せるはずだ」

「おし、和也、やってやろうぜ!」


 俺と夏村さんを降ろし、五郎さんの家に帰った運転手が祖父母のところに行き、こう言った。

「沙羅様、和也様はご主人さまのご意向を理解されたようです」

「そうか、また来年の新年会、お年玉の使い道を全孫から聞くという余興が増えたな。楽しみだ」

 といい、祖父母は微笑んでいた。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/02 校正、一部改稿

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