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4-4話 沙羅と夏村家(1)

【読者さまのコメント】

お正月に夏村家にご挨拶っ……! なんてハードルの高いっ!

でもここで引き下がるわけにはいかない!

高松は晏菜に知恵を借りて、いざ夏村家へ!!!

互いに互いのことを思い、行動する。

高松と夏村さんならできると信じてる! 頑張れーーー!!!

 ◇◇ 一月二日 ◇◇


 昨日、夏村さんのお祖父さん、五郎さんの家での新年会への参加を夏村さんに相談された。

 高松家での新年会の最中にショートメールが入ったようだ。

 五郎さんは、夏村さんのみならず俺も来いというので断ることはできない。

 俺が断って夏村さん一人で四面楚歌のような場所に行かせることは許されないとも思った。

 俺は快諾し、その旨、五郎さんに伝えてほしいと夏村さんに伝えた。


 夏村さんを家に送った後、妹の晏菜に事情を話し、服の選択をお願いした。

 夏村さんは夏村家で恒例でやっていた新年会とは異なり、今回は一族だけの内輪での会なのでスーツは不要と言われていると言っていた。

 とは言っても、集まるのは新日本化学グループの社長陣御一行様である。

 いつものカッコだとなめられるというか、夏村さんが恥をかく。

 そこで、ファッションアドバイザーの晏菜の登場である。

 家に帰ると晏菜はすでに服を用意してくれていた。

 というか、勝手に人の部屋に入る、こいつの常識の無さには毎回頭に来るが、その分スムーズに準備が終わったので、感謝はしている。

「おにぃ……」

「なに?」

「沙羅ちゃんを助けてあげてね。多分味方はおにぃしか現場にはいないんだから」

「わかっているよ」

「しかし、おにぃ、今後は夏村本家に行くことも考えていい服準備しておいた方がいいんじゃない?」

「それもそうかな?」

「大丈夫、沙羅ちゃんからおにぃ逃げられそうにないから」

「そうだよな…… じゃあ、準備しておきますかね」


 さて、今日は五郎さんが用意した車で家まで向うらしい。

 まず、東京方面に家が近い夏村さんを乗せて、俺の家に来てくれるとのこと。

 夏村さんの家の前も俺の家の前も道は二車線ではあるが、方や高級住宅街で車の通りは少ない。

 おれんちはというと、それは商店街ということで、結構、車の通りがある。

 その上、おれんちの前の道、そんなに広くないので、夏村本家の高級車では停車であっても、他の車の往来が困ってしまう。

 ただ、今日は正月で近所は店を開けていないので問題はないだろう。

 でも、家の前に着いた時の、あの高級車特有のクラクション音は勘弁してほしい。

 俺の家の車とは明らかにクラクションの音の品格が異なるからだ。

 窓から誰かが俺がその車に乗ったのを見たら一日で町内会に広まってしまう。

 俺は車を家の前ではなく、近所の玉蔵院(ぎょくぞういん)というお寺の駐車場に止めてもらい、そこでコソッと車に乗り込んだ。

 夏村さんは、

「なかなか、近所付き合いも大変だな?!」

 と笑っていたが、俺にとっては大問題。

「卒業までは色々と隠していた方がよいと思うことが多すぎて…… 困る」

 と困惑を隠さなかったところ、夏村さんは、

「まあ、和也は有名人だもんな!」

 と言った。俺はちょっととぼけて、

「良い意味だったらいいけどね!」

 と回答した。


 情報は良いことはなかなか希望通りには広まらない。

 一方、悪いことは一瞬で広がる。

 その原因は情報の内容より自分の置かれている状況が上か否かで決まる。

 良い情報は、聞いた本人の置かれた立場より情報の内容が上位にある場合、広めたがらない。

 その原因は本人の嫉妬や妬みだ。

 広めたとしても自分の満足を充足させるものではないからだ。

 一方、悪いことは、情報の内容より確実に自分の立場が上のため、どんどん他者に広める。

 俺の中学時代の失敗談は町内会の誰もが知っているが、俺が頑張ったことは誰も覚えていない。

 過去の話をする時、『〇〇ちゃんは悪ガキでね……』という話は出るが、『〇〇ちゃんは成績が優秀でねえ……』はよほど学校で良い成績をとらなければ話題にもならない。

 だから、なるべくネガティブな情報は与えたくないのだ。


 自宅から高速を乗り継いで約一時間程度で五郎の家についた。

 いわゆる世田谷の大豪邸である。

 そして、またまた、登場! 不必要に厚いドア。

 このドアは夏村家特有なのか、それともお金持ちに特有なのか庶民の私には理解できないことなので判断に迷う。


 そのドアが開き、お祖母さん、康子さんが出てきた。

 夏村さんとの挨拶に続き、俺に向かって挨拶をしてくださった。

「和也さん、今年も宜しくね」

「はい、宜しくお願いいたします」

 康子さんもこの前お会いしたときと異なり、カジュアルな服ではあるが、相変わらず生地が良さそうで、俺の服の生地とは光沢が違う。

 まあ、しょうがないと、腹をくくり俺は家に入って行った。

「お邪魔します」


 康子さん、夏村さん、俺の順に廊下を歩いて行ったが、康子さんは、二人にだけ聞こえる程度の声で、

「和也さん。今日はいつもの和也さんらしく振舞ってみたらどうかしら。沙羅ちゃん、あなたは自分が和也さんだったらと考えて行動してみてはどうかしら」

 と言った。

 とっさのことで康子さんの言葉の意図は理解できなかったが、その言葉は耳に残った。

 まあ、いつもの通りにやれっというご指示だろう、了解しました。


 康子さんがドアを開け、中に入ると夏村さんの家とは異なり、洋室の大広間があり、手前には大きな絵がいくつも飾られた大きな横長の壁があり、反対側はどう見ても巨大な一枚ガラスでできた窓がいくつも並んでいた。

 窓から見える庭は夏村さんの家の庭の様式と似ている感じがした。

 同じ設計事務所に頼んだのかと勝手に想像をめぐらす。

 そして、大広間には長いテーブルが置かれ、一番奥に五郎さんたちが座り、テーブルをはさんで人々がすでに着席していた。

 そこにいた客人は夏村さんの姿を見てすべての人が驚いている様子だった。

 さすがに長男の娘と言っても半ば縁切り状態であり、元ヤンキーであったため、この変貌ぶりに驚き、そんな反応をしているのだと俺は思い、下座に空いた二つの席に向かい、先に夏村さんを座らさせ、俺は後に座った。


「突然で申し訳ないのだが、みんなに迷惑をかけた誠一(夏村さんの父)の娘の沙羅も呼んだのでご了解いただきたい」

 五郎さんの紹介で再度こちらに視線が集まる。

 皆さんの俺に注がれる視線が冷たい……

 お前、誰だって思われますよね、そりゃ当然ですよ。

 いわゆる、これが『蔑視(べっし)』ってやつかと思った。

 明らかに俺だけ服装のレベルが違いすぎる。

 俺たちは、素行不良娘と同伴したみすぼらしい高校生くらいに思われているのであろう。


「さて、みんな揃ったところで、乾杯をしよう」

 と五郎さんは言い、立ち上がったが、まだ出席者の各自のグラスには何も入っていなかった。

 当然、自分たちの立場的に自分からはビールの栓など抜くような人たちではないことは理解できる。

 ましてや、喧嘩して分社化してしまった一族だ、栓を抜いたとしてもビールを継ぎ合うことなど想像ができなかった。

 そう思った俺は、上座に歩み寄り、五郎さん、康子さんと順にビールや他の飲み物の栓を抜き、グラスに注いでいった。

「失礼します。何がご希望ですか?」

「ビールですね。承知しました」

 といった感じで。

 そして他の夏村家の方々にも注いで回った。


 俺は部外者だから給仕役か?

 いや、違う。

 これは康子さんが言った『俺らしさ』だと俺は思った。

 俺は昔から商店会の会合に良く顔を出させてもらって、飲み会の席での対応も知っていた。

 また、こういう席では一番年下が給仕に行くのは当然と思っていたのだ。

 そして飲み物を継ぐときはラベルを上にして注ぐことなんかは当たり前の作法だった。

 すると、夏村さんも立ち上がり、俺と同様に逆側の親戚に飲み物を注いでいく。

 これが『夏村さんが俺だったら何をするか』の回答か。

 実は昨年の商店会の忘年会に夏村さんも旧ヤンキー代表ということで参加していた。

 その時の俺の対応を隣で見よう見まねでやっていたのを思い出したようだった。

 二人の回答は一致したってわけだ。


 飲み物を継ぎ終わると五郎さんの掛け声で乾杯が行われた。

 『乾杯!』と声を上げ、グラスの飲み物をゴクリと飲み干すと各自席に着いた。

「それでは、初めてのものもいるので自己紹介をお願いしようか」

 と五郎さんが言うと、一番の上手に居る次男が自己紹介を始めた。

 次男、欣二(きんじ)さんは現在、新日本化学株式会社の社長で奥様と二人の子供がいた。

 両方とも慶応高校に在学中とのこと、ハイハイすごい、すごい。

 三男、昭光(あきみつ)さんは現在、新日本製薬株式会社の社長で奥様と娘さんがいた。

 こっちは慶応女子か、やはり慶応は大企業の御曹司を優先的に入れる制度でもあるのか?

 四男、勇志(ゆうし)さんは現在、新日本重化学工業株式会社の社長で奥様と息子さんがいた。

 こっちも慶応だと思ったが、こちらは海城高校だった。

 いちよう受験組もいるんだと思った。

 ということは将来は東大か?


 そして、最後に夏村さんの番となった。

 夏村さんはゆっくりと立ち上がり一礼した。

 そしてこう頭の中で反芻(はんすう)した。


 (和也だったらどうする?…… 和也だったらどうする?…… 『素直に行こう』…… か!)


 そして、こう話し出した。

「夏村沙羅です。父、誠一の存命中はいろいろとお助けいただきありがとうございました。また、両親が亡くなった際、私も混乱してしまったこともあり、生活等が荒れてしまい、皆様に大変ご迷惑をおかけしましたことをここでお詫びいたします。申し訳ございませんでした。現在では、公立の浦和大鳳高校というところで、中学時代を反省しながら過ごしております。浦和大鳳高校は入学当時の私たちをはじめとしたヤンキーがおり、校内もバラバラで、市内でも評判の悪い学校でした。しかし、ある人との出会いが、私達を目覚めさせてくれて、社会とかかわりをもつことの重要性、人間として生きていくことの楽しさを教えてくれました。今日一緒に同行してくれた、同じ高校の同級生、高松和也さんがその方です。この方と出会わなければ今の私はいませんし、今も皆さんに顔向けが出来ていなかったと思います。そして、現在、ここにいる和也さんと大鳳高校をみんなが喜んで青春できる学校にするために生徒会で活動しています。今、胸を張って言えます! 夏村沙羅は更生できました。そして皆さんと再びお会いし、お話することができると。では、私の恩人であり、私の大好きな方。高松和也さんです」

 そこで、夏村さんに(せか)かされ、俺は立ち上がり、こう言った。

「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございませんでした。私、夏村さんの同級生の高松和也と申します。皆様と違いまして、いち商人(あきんど)の息子でこんな場所にいること自体、おこがましいことではございますが、夏村さんの祖父母様にご招待いただきましたので、参加させていただきました。私と沙羅さんとの出会いは、沙羅さんから勉強を教えてほしいというご依頼がきっかけではあったのですが、なぜ、勉強をしたいかと尋ねましたところ、『私を最高にしてほしい』と言われました。この『最高』というものにどれだけ近づけられるかわかりませんが、私は沙羅さんを目標達成まで高校生活で見届けたいと思っております。本日の出会いがきっかけとなり皆様とご縁ができましたことに御礼申し上げ、ご挨拶に代えさせていただきたいと存じます。ありがとうございます」

 そう言うと、二人偶然一緒に一礼し同時に着席した。


 五郎さんはそれを見てニヤリとした後、周りを見回し、

「いちよう全員、自己紹介は終わったようなので、それではご歓談と行こうか」

 と言った。

 しかし、兄弟にもかかわらず、話もしようとしない一族の人々。

 それを見ていた、俺は夏村さんに小さい声で『いくぞ!』と言い、俺はビールを持って立ち上がった。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/02 4-4話を2分割し、校正、一部改稿

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