3-22話 輝いていてほしい
【読者さまのコメント】
勉強や生徒会を頑張る夏村さんを支えることに徹している高松は、なんだかぼんやりしてしまった。
多江ちゃんに成績を抜かれても平気だし、夏村さんが自分の成績を抜くならそれでも、と考える。
そんなの、カッコよくない!!!
夏村さんの気持ちに応えて!!!
保護者公認おめでとう!!!
さて、その後のサッカー部はどうなったのかというと生徒会の再承認を受けて、俺と勝村で立てた計画に基づき、部活を再開していた。
まず部活をするにも部員が足らないので部員募集を行った。
この時期、フリーの生徒は、元ヤンキーが中心とはなったが帰宅部でもサッカーに興味がある人がいて、参加してくれた。
やはり、うちの高校では珍しかった他校との練習試合を校内に招いて行ったのはインパクトとして大きかった。
実はこのインパクトも俺の想定のうちであった。
要は宣伝効果を期待したものだった。
俺は前にも増して勝村をはじめ部員たちが頑張っているのが嬉しかった。
まだまだサッカー部と言っても普通人に毛が生えた程度のレベルでしかないが、各自が生き生きと練習していた。
でも、『名誉兼部員』という称号はもらったが、冗談でも校内で出会った時、『チワッ!』と挨拶してくるのは勘弁してほしい。
そんなことをされると、たまに練習指導と言う名前を借りてボールを蹴りに行きたくなってしまうからだ。
そして他の運動部も元ヤンキーたちの受け入れを始めてくれた。
林先輩も何人か受け入れてくれて、部長会で夏村さんが訴えた『笑顔』を彼らに分け与えてくれているようだった。
部活への入部届は生徒会で一括管理することとなった。
部の活動、人数等を考慮し、部活費用を配分するからだ。
これも以前は部長会で配分を決めていたらしい。
また、誰がどこの部活に所属しているか把握できると、何をやるにも情報が予め手元にあり、下準備が楽なため、生徒会活動としてはプラスに働く。
意外にも夏村さん、MS-Excelの達人で集計表計算を自分で作っては俺が必要内容を入力していた。
中学時代にはMS-Officeをある程度パソコンの授業で習っていたそうだ。
さすが進学校は違う。
生徒会だが、今回、一からの立ち上げになる。
会則も無いし、細則もない。
その原案を夏村さんが作り、俺が肉付けして、上郷地先輩等役員に確認してもらう。
もちろん、俺と夏村さんの書いた手書きのなぶり書きを書紀さんたちがワープロソフトで文章に整えていく。
と言うような結構ヘビーな日程を頑張った甲斐あり、関係書類を作り上げ、十二月二十二日という終業式前日には職員会議で承認を得た。
生徒会と言っても、自治会ではなく、学園生活の自治云々を語れるレベルに校内が成長していないので、教職員の協力を得て、円滑な学園生活を送れるよう、生徒をバックアップすることを主眼に、教職員におんぶにだっこ状態で行くことにした。
以上の結果として、新生・浦和大鳳高校生徒会は無事発足となった。
さて、俺と夏村さんの関係の話だが、以前と違うことといえば、現在では毎日の行動の主導権は夏村さんが握っている。
以前なら俺が日程を決め、勉強の日やデートを決めていたが、現在では生徒会の仕事を中心にした生活をしている夏村さんに俺は合わせたかたちになった。
サッカー部活動問題や生徒会の準備をやっていると、なんだかんだ言いながら塾を休んでしまったり、夏村さんとの勉強会をキャンセルすることが多くなっていた。
しかし、こんな状況でも、よい結果さえ出せば、夏村さんが喜んでくれると思っていた。
しかし、俺の性格上、一つのものに集中すると、他のことが手につかなくなる。
そういえば、先月校内で行われた全国模試であったが、五教科総合で初めて多江ちゃんに負けた。
もともと、国立を狙っている彼女には五教科では負けてもいいと思っていた。
こんなことを思っている時点で俺は多江ちゃんには最初から負けたも同じだ。
ただし、英語・数学・理科の得点は勝っているし、偏差値は若干上がってはいたため、成績にうるさい母を黙らすには十分だった。
夏村さんだが、夏の模試の弱点科目を克服し、確実に成績を上げてきた。
俺は当初、強みの科目に集中することを勧めたが彼女は自分の努力で全科目成績を上げてきたのだ。
また、彼女は現時点で受験科目を選ぶ段階ではないとも話していた。
自分から選択肢を狭める必要はないと。
その言葉を聞いた時……
最終的に夏村さんは俺の成績を抜くだろうと思った。
俺とは違い、ひたむきで終始前向きな考え方が俺とは異なっていた。
それをわかっているにも関わらず、俺は現状のままでもいいかと納得してしまっていた。
俺は以前からやりたいことが出来る学校ならどこでも良いと思っていたからだ。
また、夏村さんのサポートができれば良いと考えていた。
俺は夏村さんとの約束から目をそらしていたのかもしれない。
そして、十二月も中旬を過ぎる。
期末試験の順位が掲示板に発表となった。
夏村さんは中間試験と順位は同じだったが、点数は上がっていた。
やはり勉強仲間の上位メンバーとはまだまだ差があるようであった。
俺は! と言えば当然!
多江ちゃんに抜かれ二位となった。
まぁ残念と言えば残念だが、多江ちゃんとは勉強する目標が違いすぎる。
彼女は実家を継ぐために成績を上げて最終的に国立医学部に行くのが目標。
俺ってなんだろうね……
入学当初は中学時代を払しょくしたいがために一位を取るんだと意気込んでいたが、それは、何だったんだろう……
所詮、その程度の決意だったんじゃないのと思って成績を眺めていた。
たぶん、その時の俺の意思が『今の俺の表情』として現れていたのかもしれない。
すると、掲示板前で一緒に成績発表を見ていた夏村さんが、『今の俺の表情』を見たのであろう、俺の胸倉をつかんだ。
「かずや、お前! ちょっとこっち来い!」
周りが注目するほどの大声だった。
俺は胸倉をつかまれたまま、例のごとく、三年一組の教室に連れていかれた。
俺は何も抵抗せず、胸倉は掴まれたまま夏村さんに従って歩いて行った、。
部屋に入るなり、夏村さんは俺の頬を叩いた。
軽くではない。
俺が軽くぶっ飛ぶくらいだ。
俺は殴られたほほを押え、夏村さんを見た。
夏村さんは殴った右手を握りしめ、震えながら立っていた。
「だめだ! 違う! こんなのかずやじゃない! かずやは俺にとってもっと輝いていないと嫌だ!」
俺は反論できず目をそらす。
「俺をサポートしてくれるのはありがたい。
でも、俺はかずやには輝きながら前を走って俺を導いてほしいんだ!
俺のサポートに回ったら、そればかりで、かずやの輝きも消えちゃうなら、俺、生徒会もうやらない!
私よりもいい大学入るんだろう?!
私を大学に入れてくれるんだろう!
私が忙しそうだからって気を使うな!
私をもっと引っ張って行ってくれよ!
かずや、もっと俺にとって、学校内で一位を悠然と取り続けて、俺にとってまぶしい人にもどってくれよ!」
夏村さんの涙ぐみながら語った言葉の数々に俺は反省した。
「ごめん、俺、何かを忘れてしまっていたようだ。謝る」
「俺が見ても、今のお前、かっこ良くない。
昔みたいにかっこいいかずやに戻ってくれよ……
俺が勉強を教えてくれって、お前を連れ出した後、俺に勉強方法を教えてくれた時みたいにギラギラしてくれよ!」
「ごめん、俺、やり直してみるよ」
(俺にはもう何年も前のかっこいいかずやが俺の心の中にはいるんだよ、その時のかずやに戻って欲しいんだ)
と夏村さんは思った。
夏村さんは俺の反省の弁を聞き、少し笑いながら、こう言った。
「本当だよ。ダサかったらさっきみたいに叩きのめすからな」
「ハイハイ、わかりました。でも、張り倒されたところ赤くなってない?」
「うん、教室戻るのはもう少し後にしようか(笑)」
◇◇ 十二月二十三日、土曜日 ◇◇
この日は終業式。
そしてもう一つ大切なことがある。
夏村さんからは学校が終わったらそのまま夏村さんの家に来てほしいと言われていたので自転車に乗って夏村さんの家に向かった。
ところで、通知表の成績は五教科以外で取り返し、なんとか学年一位を死守していた。
まあ、気持ち的にはそんな気分ではない。
夏村さんの家に着くといつもの無駄に分厚いドアの横のガレージが開いており、そこには高級車が止まっていた。
俺は玄関につきインターホンを鳴らすと夏村さんが顔を出した。
「もう来てる。居間にいるので宜しく」
俺の想像したシナリオはすでに決まっていたので『失礼します』といつもより少し大きな声で挨拶の言葉を言って家の中に入った。
家の中では夏村さんが前を行き、俺は後ろを歩いた。
「ちょっと威圧感あるけど、気楽に話したほうがいい人たちなんで」
そんなこと言われてもですね、緊張は止まりませんよ。
居間につく。
普段から良く来ている夏村さんの家だが居間には入ったことがなかった。
夏村さんはふすまの前から『高松さんをお連れしました』と声をかけると中から『お通しなさい』という声が聞こえた。
先に夏村さんが居間に入り、俺は夏村さんの後に続きながら入ると下座に六十から七十歳くらいの身なりのしっかりした男性と女性が座ってこちらを見ていた。
二人とも上品すぎて、緊張度がさらに数倍アップする。
あの服の生地、高いんだろうなぁと平民の高校生でもわかるような風格だった。
「失礼します、高松和也と申します」
「どうぞ!」
俺は上座に回ると『失礼します』といい、着席した。
お祖父さんと思われる方が足を崩してと言ってくださったのですこし崩し、こう話し始めた。
「初めておめにかかります。高松和也と申します。沙羅さんとは高校の同級生です。よろしくお願いいたします」
「私は沙羅の父方の祖父の夏村五郎、こちらが祖母の康子です。沙羅からは和也さんの話はいろいろ聞いています」
「ありがとうございます。で、いろいろとお聞きなんですね?」
「はあ、聞いていますよ。沙羅をヤンキーから普通の子に戻してくれたことや、高校での活躍など」
「そうですか、悪い話でないとよいのですが」
と、俺は冗談交じりに言ったところで、お祖父さんたちは座り直し、こう言い始めた。
「まず始めに、沙羅を救ってくれてありがとう。実は沙羅の両親が事故で亡くなった後、こんな話をしてお恥ずかしい話なのだが、長男であった沙羅の父の会社の継承の問題で沙羅の父の兄弟同士で醜い争いになってしまったんです。そしてその争いに巻き込まれた沙羅が荒れてしまったんです。沙羅の父の弟たちは金の問題と沙羅の素行の問題で沙羅の面倒は誰も見ようととはしなかったため、沙羅は私が引き取ったという形なりました。ただ、私たちでは沙羅の心の問題の解決者になってあげることができず、一人で沙羅の生まれたこの家に住ませたというか私たちは見放してしまったのかもしれません。ヤンキーでもいい。誰でもいい。沙羅を救ってくれる人はいないかと。そんなときに君、和也さんが沙羅の前に現れてくれました。今まで私たちに電話の一つもくれなかった子が、電話をしてきては、成績のこと、学校のこと、林間学校のこと、学園祭のことなどを話してくれるようになりました。その電話の会話の片隅には必ず『かずやさん』というキーワードがあったんです。それで私たちは一度、その『かずやさん』に会ってみたいと思い、沙羅に時間を作ってもらったんです。和也さん、本当にありがとう。君がいなかったったら沙羅はどうなっていたことか」
俺は少し考え、頭を掻きながらこう言った。
「いえ、ぼくは彼女が立ち直る手助けをしただけですので。あと、彼女に足りなかった『家族』というものを私の家族で味わうことができたのがよかったのかなぁと思います。今じゃ、すっかり沙羅さんはうちの家族の一員ですので」
「そうですか、それでは折角なので後ほどご家族にご挨拶を……」
「折角ですが、こちらのようなきれいな家ではなくて昔から商売している汚い家なので」
ちょっと、俺は躊躇した。
あのリビングダイニングにこの二人を呼びたくはない…… 汚すぎるからだ。
「結構です。気になさらないでください」
そして数分、俺の家族の話をしていると、祖母さんが口を開いた。
「ところで、二人はどこまでいっているのですか?」
「はぁ?」
「お付き合いしているのでしょ?」
俺は夏村さんを見るとウンウンと頷くだけである。
しゃあないな(笑)。
「おっしゃる通り、お付き合いさせていただいています。個人的には夏村さんのご家族にお許しをいただいていないので、(仮)でのお付き合いと心では決めています」
「そうですか。この子には両親のことで辛い思いをさせてしまいました。なので今後のことは沙羅に任せたいと思います。沙羅、この方はどんな方?」
「私にいろいろなことを教えてくれて、道に迷いそうになった時、行き先を指し示してくれる星のように輝いている人です。世間一般でいう『かっこいい男性』ではないので浮気の心配も無いし」
「あら、この前の学園祭ではバンド演奏、カッコ良かったって言っていなかったっけ?」
「そんなこと、ここで言わないでよ…… 実は向こうの両親には結婚して向こうの家を継ぐって話も冗談でしてる(笑)」
「あなた、そんなこと笑いながら話せるようになったのね。よかったわ。和也さん、沙羅を頼みますね」
「わかりました。って結婚は決定事項ですか?」
「和也! 俺のこと、嫌なのか?!」
「お願いします……」
「ところで、和也を私立の医学部に行かせて俺は高松家を継いで花屋という夢もあるんだけど、和也の学費立て替えてくれない? 代わりに和也の名字が『夏村』に代わります」
「それもおもしろいなぁ。私は賛成だ! 康子は?」
「もちろんよ。でもまずはご両親ね。早速行きましょう!」
なんてお祖父さん、お祖母さんだ。
でもいろいろありがとうございました。
その後、折角なので高松家に行きたいとという話になり、俺は自宅に連絡をしたが、両親はいつもでもどうぞという感じであった。
夏村さんの家からタクシーで俺の自宅に向かい、花屋の前で父、母、妹は出迎えていた。
結局、いつものリビングダイニングに通し、俺と夏村さんは立って話を聞き、晏菜がお茶など出していた。
終始、夏村さんのお祖父さんお祖母さんからの感謝の言葉に両親は恐縮していたが、いきなり父はお孫さんが良ければ息子と付き合わせてほしいと言った。
既に息子さんにお聞きしていますと言われた父は赤っ恥をかいていたが、母はもうすでに夏村さんはうちの家族の一員といっしょなので面倒を見させてほしいと言った。
ヤンキー時代の一件について、お祖父さんお祖母さんは謝り、父を含め関係者の方々への対応に感謝していた。
そしてお祖父さんお祖母さんは、俺と夏村さんの交際を認め、俺の家族との引き続きの交流と夏村さんに社会への関わり方を教えてやって欲しいと依頼した。
両親は、承諾し、話は丸く収まるかと思った。
そこで俺は胸に一コ引っかかっていることをお祖父さんに聞いてみた。
「お祖父さん、ぼくが訊くのも変な話になりますが、夏村さんに将来、亡くなったご両親の会社の問題が降りかかることはありませんか」
「沙羅は会社経営に関する一切の権利、例えば株式等は保有していません。よって一切の問題が降りかかることは無いです。沙羅の分の遺産は私達が管理していますので、沙羅の金銭関係はすべてこちらで出しています。ですから、沙羅の一存で和也さんの医学部の授業料等の肩代わりはできませんので(笑)」
「それでは、夏村さんが急に大企業の社長になるとかいったアニメみたいな話も無いわけですね」
「そうだね。普通の娘として付き合って欲しい」
「承知しました。もしそんな想定があるなら、どう付き合えばいいか考えてしまいますが、背伸びをせず、がんばっていきたいと思います」
夏村さんのお祖父さんとお祖母さんは夏村さんの家に止めていた車を俺の家の前に呼び、そこから去っていった。
夏村さんは久しぶりの高松家なのでゆっくりしたいと言ってリビングダイニングに戻っていった。
今日、内内での夏村さんの両親のお墓詣りに夏村さんと御祖父さん御祖母さんと行くそうだ。
その前に夏村さんの家の仏間に線香と俺と俺の家族に会いに来たということだった。
後から聞いた話だが、夏村さんのお祖父さんは国内三位の化学系大企業『新日本化学グループ』の会長だそうだ。
そういえば、ある会社の社長夫婦の事故死から残された兄弟の間でバトルをし、最終的に会社を分社化し各会社を兄弟別々にトップに立ったと新聞にデカデカ出ていたのを子供ながらに知っていた。
夏村さんはそんなお嬢様の出ではあるが、今はそんな世界とは無縁の世界で自己確立のために戦っている。
やっぱ、夏村さんには社長になるべくリーダーの血が流れているんだなぁと思った。
ヤンキーのトップだもんな。
でも、そんな子に対し、俺は輝いていなかなくてはならない。
今は何をしたらいいのかわからないが、夏村さんの納得のいく輝き方をしないと昨日みたいに殴られるだろう。
しかし殴られることは全く怖くない。
俺は夏村さんに嫌われることが一番怖い。
そのためにも俺は輝きたい。
夏村さんの『輝いていてほしい』という言葉をまもるために……
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2021/12/23 加筆訂正
2022/09/27 校正、一部改稿




