3-12話 学園祭(6)
【読者さまのコメント】
いよいよ学園祭当日!
いろいろあったけど、なかなかの盛況ぶりだ!
なによりもメインのバンド演奏があるもんね!
高松が練習をしていると、そこにやってきたのは井上さん!?
な、ななな、なんですって?!
夏村さん、うかうかしてたら取られちゃうよ!!!
◇◇ 十一月三日 ◇◇
いよいよ学園祭は始まった。
体育館で校長先生、上郷地先輩の挨拶により学園祭の開幕が宣言された。
今回、クラスの準備の手伝いが終わり、手が空いたたけしたちが校内の警備や救護を引き受けてくれたため、校内で何かあっても、彼らに任せておけば万全であると思った。
こういう時に、駅前でパトロールをしていたことが役に立つ。
学園祭中には来客としてヤンキーの駅前パトロールのことを知ってくれている人たちも多く訪れてくれて、たけしたちにその節はと挨拶をしてくれた。
こんなことが学園祭で繰り広げられる…… すごく嬉しいと俺は思った。
俺は夏休みの終わりにたけしたちヤンキーにパトロールを辞めるよう夏村さんと説得に行ったときに、夏村さんを責めた。
ヤンキー姿でパトロールについて、もし、これが認められなかったら、どうするんだと。
しかし、今目の前で繰り広げられている彼らへの称賛を見た時、俺の方が間違っていたのかもしれないと思った。
一方、各駅前商店街の役員が感謝状を持参し本校を訪れていた。
そして、お昼休み前に体育館で感謝状の授与式が行われた。
これは、学園祭のパンフには記載はなかったが、午前中の二年の合唱が終わって『表彰式』とかパンフに書かれていたら、お客はさっさと席を立ってしまう可能性がある。
合唱からの引き続きでやってしまえば、必ず合唱を見た人の足は止まると考えたからである。
結果としては大成功、ほとんどの人が足を止めて、拍手を送っていた。
実はこれ、俺も例の滝川のチラシの一件を払拭したかったので、父に依頼していたものだった。
浦和の各駅周辺の商店会長が舞台に上がり、各地区のリーダーが表彰状を受け取っていた。
浦和駅前商店街についてはたけしが代表して表彰状を父から受け取った。
表彰状を渡す時、父はたけしに、
「うちの息子、和也がいつもお世話になっています。これからもよろしく」
とささやくと、たけしは、
「かずの父さんでしたか…… 初めまして! またこれもかずの策略ですか?」
と尋ねたが、父は軽く首を縦に振るだけで口は開かなかった。
あくまで俺は裏方だと夏村さんはたけしが舞台に上がるよう指示した。
夏村さんは各商店会長から感謝状を受け取るタイミングで拍手を全力で送っていた。
その姿を見ながら、実行委員の姿はしているけど、一番ほめるられるのは夏村さんだねと思い、俺は心の中で夏村さんにも拍手を送っていた。
初日ではあったが、各模擬店も好調で、多くの観覧者も体育館に詰め掛けていた。
夏村さんは終始、体育館での進行係を手伝っていた。
俺はというと、午前中にクラスの模擬店の手伝いを予定通りにこなし、総合棟の四階の空いた部屋をお借りし、予定されていた曲のギターの練習をしていた。
隣の教室で美術部の展示があるということで、なるべく静かにやってほしいとの要請があったため、歌は歌わず、ギターはアンプにヘッドフォンを付けて弾いていた。
こうなるとほとんど周りの状況をつかめないまま集中して練習をしていると、かすかにヘッドフォン越しにドアを開ける音がしたが、気にしていなかったため、そのまま練習をしていた。
「か~ずくん!」
と言い、誰かが俺に抱き着いたと思った。
俺は急いでヘッドフォンをとり、抱き着いた人の方を向こうとしたとき、向いた方向に抱き着いた人の顔があり、なにかがほほに接した感じがした。
よく見ると、抱き付いていたのは、井上さんだった。
ドアのそばには女子バレー部の他の部員数名もデレデレしながら見ていた。
「ど、ど、どうされたのでしょうか?」
全く自分でも何を言っているのか分からなかった。
「ことちゃん、大成功じゃない、大好きなかずくんにキスできたし!」
と冷やかす女子バレー部員たち。
「前々から思っていたのだよ。かずくんっていい匂いするね。フェロモンってやつかな?」
「えっ! 俺ってそんなに臭いの?」
「大丈夫。とろけるような匂いだから。それではこれで私、内縁の妻決定だね」
「意味がまったくわかりませんが!」
「かずくんには夏村さんという正妻がいるでしょ。だからは私は内縁の妻」
「てか、俺、井上さんを内縁の妻に選んだ覚えないんだけど」
「だいじょうぶ、正妻がいないとき、夫を助けてあげるのが内縁の妻の役目なのだよ」
というと、仲間のバレー部員はこう言った。
「もう完全に、ことちゃん、高松君に告っているし! 成就達成! ことちゃん、次行くよ」
「じゃあ、またかずくん一人になったら助けに来るからね。アディオス!」
完全に不意を突かれた。
てか、俺、井上さんに告られたの?!
それよりも俺って臭いのかと心配になってきた。
それから数時間後、ドアをノックする音が聞こえた。
これなら不意打ちは受けないと思い、ヘッドフォンをとり、ドアの方向に声をかけた。
すると、入ってきたのは多江ちゃんだった。
「あれ? ここでやっていたのよくわかったね」
「井上さんから聞いた」
とんでもないやつから聞いたのだなと俺は思った。
「井上さん、何か言ってた?」
「すごい、がんばっているって聞いたよ」
それなら良かった。
「一言、がんばってねと言いたかったから」
「ありがとう、やる気出てきたよ」
「じゃあ、明日応援しに行くね!」
「よろしく頼むね!」
そういうと多江ちゃんは静かに去っていった。
しかし、井上さんと多江ちゃんは両極端だなと思いながらも練習を続けた。
◇◇ 十一月四日 ◇◇
さて、学園祭開催中は天気も良かったので、各模擬店の売れ行きは好調だった。
うちのクラスは仕入れ値を低く、量も豊富に材料を購入していたので、二日間は十分かと思ったが、後できいたところ、二日目の十四時には品切れとなったそうだ。
完売したとき、その場にいた一組の生徒は全員万歳の声を上げたそうだ。
一致団結しての良い結果でみんな満足いくものであったのだろう。
そのころ、俺は和田さんとのセッションそしてメンバーとのバンド演奏で奮闘していた。
なにしろ、学園祭のパンフレットのハンドアウトには
『明日、大宮ソニックシティでコンサート予定の "Triangle Square"の名ギターリスト和田氏と一年一組高松君の夢のセッション』
と銘打ってあるし、裏には
『今ホットな都内で活躍するバンド "Notus" を聞き逃してはいけない』
となんだかよくわからないコピーでうちのバンド紹介がされていた。
実はこのハンドアウト、夏村さんが自分で作りたいと言い、上郷地先輩の指導のもと作成してくれたそうだった。
なにせ、和田さんのことも、うちのバンドのことも知っているのは夏村さんだけであり、学園祭でバンドをやれと言った立場上、責任をもって作成すると夏村さんは言ってくれたそうだ。
"Notus" の紹介のページは、以前、秋葉原で練習したときの動画の画像を写真にし、センス良く貼り合わせて作られてくれていた。
最初、ハンドアウトをメンバーに見せたとき、『このコピー、おもしれぇなあ!』と大笑いしていたが、作成者が夏村さんと聞き、『やっぱ、和也のファンは埼玉では最強だな!』と以前、メンバーと初回に会ったときに夏村さんが言った言葉を復唱していた。
「さて、最強のファンがいるんだ。手は抜かないで行こうぜ!」と畑中さんは言った。
第一部となる和田さんとのセッションは主にアコースティックギターでエリック・クラプトンの"unplugged"の曲、サイモンとガーファンクルの曲を中心に演奏した。
途中からやってきたバンドの一人加わり、二人加わり……
みんなが演奏を楽しんでいた。
会場の出入り口にはマネージャーさんらしき人が来ており、ちゃっかり"Triangle Square"のCDを和田さんのサイン色紙プレゼントで販売していた。
さすがプロ、営業熱心だ。いちよう事前に学校側には許可はもらっていますので……
やはりうまい人とのセッションは学ぶことが多かった。
弦の押さえ方、グリッサンドの指の動かし方、ピッキングの仕方…… すべてが勉強だった。
「和田さん、今日はありがとうございました。すべてが勉強になりました」
「俺もプロになってからいろいろ教わったことも多いから、今日得た勉強と畑中からの情報をミクスしていくとよりプロに近い音が出せるようになると思うよ」
「そうですね。参考にさせていただきます」
「そういえば、俺がバンド離れたのっていつだっけな…… あれから夏村さん、お前を見捨てずに見守ってくれたんだな」
「あとで夏村さんから聞きましたよ。和田さんが俺のことを夏村さんが見守ってほしいって言ったこと」
「やっぱ、お前にとって最高、ちがう『最強』のファンなんだな」
「はい、最強です」
和田さんからは来年はラリーカールトンやろうなと約束された。
思えば和田さんから最初に教わった曲はラリーカールトンの" Room 335"という名曲だった。
それから俺はロックの曲はフェンダーのストラトキャスター、ジャズ系はエピフォンのセミアコVintage635、そして今日はオヴェーションのフォークギターを使用するようになった。
すべての俺の音楽の原点は和田さんだった。
第二部はコンサート風でなく、わざとスタジオでの練習風景のような感じで演奏を行った。
たぶん、これからバンドをやろうと思った人、今やっているがまだ初心者の人にとってもは勉強になるような時間だった。
というのもお互い時間がなく、曲数をこなすのには無理があり、選曲をなるべく素人でも知っている曲に絞ったのがよかったようだ。
かなりの観衆もリズムに合わせて乗ってくれていた。
無事三時間演奏をしたが、演奏中、結構、観客席の様子は見えるもので……
まず、目の前に陣取った夏村さんの視線が熱かった。
いわゆる『熱視線』である……
さすが最強のファン、周りに赤のオーラをまといながら演奏に合わせて手を叩いていた。
それに負けず劣らず、俺から見て左側の方に井上さんとたぶん、昨日一緒に来ていた女子バレーボール部員が数十人がペンライトを振っていたのにはびっくりした。
それを見るなり夏村さんは井上さんたちに敵意丸出しで威嚇していた。
さすが井上さん、夏村さんの威嚇を受け流し、応援を続けてくれた。
ファンが多いに越したことはない。
で、その中央と左のオーラに押されてしまい、ほぼ、気づかなかったのだが右側に勉強仲間が見に来てくれていた。
相変わらず押しが弱いなあと思いながらも俺は彼らにも感謝した。
途中、俺がMCをしているとき、突然、夏村さんのオーラが消えた。
よく見ると夏村さんの斜め後ろに俺の両親と晏菜と三人の仲間たちが並んで座っており(夏村さんのオーラで見えなかっただろう)、一番夏村さんの近くに座っていた晏菜が夏村さんの肩を叩き、夏村さんが振りかえって状況把握をし、オーラが消えたのだろう。
コンサートを終え、袖に戻ると、そこには夏村さんがメンバー全員分のタオルを持って待っていてくれていた。
俺は
「ありがとう」
と言うと夏村さんはただ一言
「よかった…… 構成もよかったな。最高だったよ」
と答えた。
横からきょんさんが
「やっぱ、夏村さん、最強のファンだったね。客席で光ってたよ」
と声をかけた。
夏村さんは満面の笑顔で
「ありがとうございました!」
と答えると、メンバーを控え室に連れて行った。
袖の奥には上郷地先輩がおり、
「お疲れ様。助かったよ」
と言ってくれた。
俺は
「なんとか時間はつぶせましたね。お役に立ててよかったです。来年はもっとがんばりますので、もし必要でしたら声かけてください。よろしくお願いします」
と答えた。
すると、上郷地先輩はこう言った。
「学園祭は今年で卒業。来年は受験あるし! 来年は高松と夏村で頑張れ!」
そして、初めて笑顔を見せてくれた。
上郷地先輩、本当にお疲れ様でした……
てか、俺たち来年、実行委員決定ですか……
夏村さんから手渡されたタオルを持って、俺は体育館裏の水道場で汗を洗い流し、タオルで体をぬぐい、服を着て部室棟の入り口に行くと井上さんが俺を待っていた。
「かずくん、お疲れ! かっこよかったじゃん。 歌も良かったよ。 学校にファン出来ちゃうんじゃない?」
「あぁ、井上さん、今回はいろいろありがとう。本当に助かったよ」
「いや~、本当に今回の一件で私、かずくんと夏村さんに興味がすごい湧いたわ。それでさあ、お願いがあるんだけど……」
「なに?」
「私を夏村さんに紹介してくれない。それと彼女と友達になりたいんだ」
「えっ! いいよ。夏村さんには俺が言っておくよ」
「大丈夫、私もう夏村さんに話して了解とったから。よーし、ミッション成功! じゃあ、この前の『条件』、よろしくね!」
「ところで『条件』ってなに?」
「いっしょに付き合ってもらうって、デートに決まってるでしょう!」
「ちょちょっと、それは!!」
「だって、夏村さんに了解もらってるもん」
「もう一度、夏村さんに了解もらってね」
「もちろん。だって、私、かずくんの彼女になれないのはわかっている、夏村さんいるし。だから、もう一つ上のランクの友達になりたいんだ。二人の関係にすっごく興味あるから」
「だったらいいか。じゃあ、これからも頼むよ!」
俺は右手を差し出す。
「いいよ、何かあったら私にも相談してね。か~ずくん!」
といい、井上さんは右手で俺の手を握った。
「あっ、俺、演奏後で汗だらけの手で握手しちゃってごめんね」
「大丈夫、私ら体育系女子は汗かいてナンボだし。かずくんの汗味わっちゃおうかな?」
と言いながら、握手した手を井上さんは嗅いだ。
俺、そんなに臭いかと思いながらレスを待つ。
「おっと、好きな匂いだね。これからもエネルギー不足の時は嗅がせてもらうからね。じゃあね。バイバイ!」
弾けるような笑顔を輝かせながら井上さんは去っていった。
プロリーグのバレーボール選手の中にはアイドル顔負けのルックスやスタイルの持ち主がいる。
彼女も同じようなタイプの外観であり、周りを和ます力を持っていると俺は感じた。
あんな子が彼女だったら楽しいだろうなぁと思いながらも、浮いた話がまったくない。まさか本当に俺のこと好きじゃ…… いかんいかん、俺には夏村さんがいると言い聞かせながら、頭を掻いた。
あれ、俺ちょっと今、リア充? とか意識してみたが、ありえない話だと思いながら、教室に向かった。
ふと、何か忘れ物をしていないかと周りを確かめたが、何もなかったためそのまま教室に向かった。
そんなに長い話をしていなかったのだが、髪はすでに乾いていた。
(やばっ! かずくんのタオルもらっちゃったよ。なんかフェロモンあふれる匂いが残ってますよ。帰ってから姉さんに勘づかれないように堪能させていただきます)
部室に戻った井上さんは俺からゲットしたタオルをバックにしまい込んだ。
学園祭の終わった校舎。
十一月にもなると日が短くなったなあと感じる。
確か、学園祭の準備を始めた頃は帰り道に吹いている荒川からの風はじっとり湿気を帯びていたが、今はサラっとしているの域を越え、既に肌を切る冷たさが正直なところだ。
そろそろ冬の準備をしなくてはと思ったが、自転車で切る風はとても心地よかったため、まだ、我慢できると思った。
準備を始めるのは遅かったが、撤収するのは早い。
ゴミの集積所だけが学園祭の面影を残しており、教室はすでにもとの状態に戻っていた。
しかし、当分はチョコの甘い香りと焼きトウモロコシの醤油の焦げた匂いが残るのだろう。
それを嗅ぎながら、いろいろな出来事を思い出すのも良かろう。
俺は教室に置いてあった自分のバッグを持って下駄箱に向かう。
楽器関連の荷物は家が近くの達也さんの車で運んでもらったので帰りはバッグだけだった。
すると出口のところに夏村さんが待っていた。
「井上から話は聞いた。一日、井上に付き合ってもいいよ。彼女には世話になったからな」
「そうですか、わかりました」
「それと友人になる話もオーケーした。また、学校に別の世界が広がるかもしれないな」
「そうだね。いろいろ変えていかないとね。それと、学園祭を通じての夏村さんも頑張りもすごかったよ。お疲れ様でした」
「いや、滝川の一件があったとき、晏菜ちゃんが以前言った『大鳳をいい学校にしてよね』っていう言葉を思い出したんだ。それが俺の肩を押してくれたと思ったんだ」
「そうか、あの言葉、気にかけてくれたんだね。ありがとう。じゃあ、帰ろうか……」
出口を出て、俺は自転車置き場に向かうと、夏村さんもついてきた。
「俺も今日は自転車。一緒に帰ろう…… そして家に来ないか?」
その夏村さんの表情は何かを訴えたかったと思った俺は、こう尋ねた。
「どうしたの?」
「いや、学園祭準備でさまざまな人たちと出会ったけど、今日家に帰ると一人って考えると寂しいかなぁと思ったから……」
「オーケー。じゃあ、行こうか……」
といいかけたところでスマホにメールが届いた。
父からだった。
『家でお疲れさん会やるぞ。晏菜の友達も来てるけどいいな!』
俺は笑いながら夏村さんにメールを見せる。
「やっぱ俺んち、行こうか?」
と言うと、お互い笑った。
そして、夏村さんは一言こう言った。
「明日、休みだしね。『一緒』は明日に取っておこうか?!(笑)」
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編集記録
2022/09/18 3-11話を2分割し、校正、一部改稿




